日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月12日午前 8 : 50 関東某所。
ーーーーピーンポーン
『....ご用件は?』
「関東庁召喚獣総合事案即応科、科長・才亮勝馬です。不破瀬駅近くの事案の件で参りました。」
荘厳で歴史を感じる門扉に沿わない、現代的なインターホン越しから聞こえる無機質な声を前に、彼はバッチを見せて短く用件を伝える。
『....お一人でしょうか?』
「はい。」
ーーーーギィィィ
彼が迷いなくそう答えると、分厚いケヤキの屋敷門はゆっくりと開く。
「失礼します。」
「ん」
そして、待ち構えていた門番に手に持つ検査をされ、電子機器、装備等を没収された上で建物の方へと案内される。
玄関口から合流した屈強な男女に四方を塞がれながら大広間へ到着すると、広間の奥にはデカい掛け軸に甲冑と生花が調律された位置で置かれており、それらを背にしてバーガンディの羽織を着た、深紅の口紅が暖色ライトに映えた、センター分け侍ヘアー女が金色の蛇型召喚獣に鎮座している前へと案内された。
「...スゥ...フゥゥゥ」
「.....」
呑気に座ってタバコ棒を堪能している女親分を前に、才亮はただ静かにそいつを見下ろす。
ーーーー特定指定暴力団 東元会・会長。英賀氏 瞳。
「....まぁ、座れ」
「....こいつは知ってるか?」
低くそれでいて良く通る芯のある声に、彼は無視して本題の似顔絵を見せて話を進めた。
「っ...」
「!...っ」
舐めた態度に側にいた目つきが悪過ぎる筋肉女が彼へと向かおうとするが、英賀氏は軽く手を掲げて静止し、もう一方の気だるそうにしている青年へと目配せする。
「失礼、ちょっとお借りしまーす」
「あぁ」
「.....んぅ...スゥ...フゥゥゥ.....知らん。」
紙をそいつに渡し、英賀氏がそれを受け取るとしばらく見て煙を吐き切ったところでそう言い切った。
「ダウト。」
「...もう我慢らなんっ...?!」
脊髄反射的にそう言った彼に、筋肉女は右半身を灰色の何かに変形させて金髪男へと向かおうとするが、拳を振り上げた状態でピタリと体が止まる。
「「「「......」」」」
その瞬間、どこからともなく現れた男女が才亮に、白髪のジジィに銃のポーズをした青白い静電気を帯びた異質な右手が突きつけられる。また後ろからは大鎌を持った若い女が才亮の首元に大鎌を添えて、頭上からは小さな雷雲から曇天の槍を持った手が現れて彼へと突き立てられる。また、足元には穢れに塗れたヘドロのようなものが彼の寸前で滞留していた。
「そんなんじゃ、殺せねぇよ」
しかし、彼は織り重なった絹が巻き戻るかのように、消えたと同時に英賀氏の後ろから彼が現れる。
「....ふっ、金髪坊主...私の首をとりに来たのか?」
彼女は糸でできた精巧な分身を見破れずして、蛇型の金色のオーラを纏って臨戦体制に入る。
「英賀氏さまっ!」
「っ...ツゥ....」
「.....スゥゥ」
白髪のジジィはデコイを掴まれたと構えていた銃を下げ、しくじったと英賀氏の隣にいた気だるけ青年は目を覆った。
「....良いか?これは一つ貸しだ。」
「ほぅ、何を?」
「東元会。中規模に抑え地深く根を張り、多角的に影響力を強めつつある。仕留めるなら、今が最適だろう。」
「.....」
彼女らの間の空気が黄金色に歪み、仰々しく絡み合ったイッタンモンメンと金色の蛇型が静かに一触即発へと向かう。
「...ふはははははっ」
「.....」
しかしそれは、彼女の豪快な笑いによって打破されてしまった。
「管理官にしとくのは勿体無い...私の婿養子にならんか?」
「あ?....っぅ」
そして、彼女の場を飲み込むような広骨盤に才亮は呆気に転じてしまい、その事にわずかに眉を顰めて、してやられたとイッタンモンメンを戻す。
「っ?!会長っ、それは私が許しませんぞ!!」
ついでに解かれていた筋肉女は金髪男を無視して、英賀氏に詰め寄る。
「....スゥ」
「たははは」
「....っ」
白髪の壮年の男は「またやってらぁ...」と無機質な砲身が融合した右人差し指をポケットにしまい、気だるけな青年は乾いた笑いを吐く。そして大鎌を持ったウルフヘアーの女は大鎌を腕時計に変えて仕舞った。
「....どういうつもりだ?」
「む、言った通りだ。」
物憂げな瞳で、彼女はその不敵な笑顔を崩さない。
「.....スゥ、冷たいな。英賀氏。」
あらゆる可能性が頭を巡り、先日のヒトガタとの一戦から過敏さに先端を鋭くした勘が走るが、今回の本筋とは異なると、一度息を吐いてそれを諌めて本筋へと戻る。
「はて、私はひたすらに合理的な選択を重ねているだけだ。お前もそうであろう、才亮 勝馬。」
「.....」
似たもの同士、そして似た立場にいるせいか、無防備に互いに分かり通じ合ってしまう。
誰の時計か、時計の針の秒針を繰る音だけが鳴り響く。
(てか、時間取られすぎたな、下手に相性がいいとこうなるのか....)
「....っ」
しばらく見つめあった後に、彼はゆっくりと瞬きをして、視線を向かう方向へと向けて歩みを進めた。
「!...どこへ行く。ボスの話はまだ終わってねぇ」
白髪の壮年男がポケットホルダーに右手を入れながら、無言で立ち去ろうとする才亮に立ちはだかる。
「用は済んだ。失礼する。」
一瞥してポケットに手を入れたまま彼を横切る。
「!...っ」
白髪ジジィは右手を抜こうとするが英賀氏に目配せをされて引き下がる。
「.....」
そして、彼は駄々っ広い勝手口から靴を引っ張ってきて履き、縁側から飛び降りてゆっくりと歩みを進めたところで、よく通る低い声が彼に通る。
「似顔絵の男は私の部下だ。そして他組織側のスパイとされる。要請があれば捜索に協力しよう。」
「....スゥ...ご協力感謝する。」
最後に一手積まれた彼は小さく息を吐いて、振り返ってそう言わざる終えなかった。
キングギドランが去った広間には、ようやく弛緩した空気が流れていた。
「.....ふっ...仁道、奴をどう見る?」
「....手強い。が、場を整えれば殺せる。」
右手は収めつつも標準を合わせていた彼にそう聞く。
「...強く出たな。....私はこの子を諌めるのに手一杯だったよ。」
彼女の巻き付いていた蛇型は先手を打つか否かでその金色のオーラを靡かせていた。
「ボスなら負けんでしょうが」仁道
「ふはははっ、まぁ勝負には勝つであろう。が...あの間合いではどちらもタダでは済まん。」
「なら、..ぅ..っ...全員で取り掛かればっ..どうですかぁ?」筋肉女に頭をぐりぐりされている気だるげ青年がそう聞くと
「....あいつは、そういう類じゃないな..」
(...あ、やば)
(うわぁ、南無阿弥)
(勘弁)
(可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い)
より深みを増した彼女の不敵な笑顔に、一人をのぞいて面倒な執着が生まれた事に頭を抱えていた。
「....それゆえ、何がなんでも欲しい。」
一度見たら忘れられないあの、全てを魅了する金色の残光が英賀氏の肚にズシンと落ちる。