日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月12日午前 10 : 30 関東庁近辺。
『....今日は別件で一日空ける。あぁ、いや有給じゃない。よろしくな...」
寒気を感じながらゴツい携帯で玄道に連絡を入れた彼は、自宅マンションへと向かっていた所、焼きたてのパンの香りが彼を誘う。
「....ん、おばちゃん。ローストビーフサンド二つ。」
「あいよ、八百円ね。これ持ってきな」
両手いっぱいのサンドを二つ頼みウェアラブル端末で決済をして、受け取るとサービスで麦茶のボトルを貰った。
「ん...ありがとさん。」
「っ...またきてねー」
ウィンクをしながらそういった彼に、店主のおばちゃんはこそばゆそうにそう言って彼を見送った。
そこから近くの公園へと移り、ベンチに座ってブランチとしてローストビーフサンドを堪能していると、散歩中の犬型召喚獣が彼の前で止まる。
『....』
「.....ん、っと...あげても良いですか?」
「え、いえっ、全然大丈夫なので、ほら行きますよー」
パァッっと花開くような笑顔で見つめられ、彼は召喚主の女性に断りを入れるが、彼女は流石に悪いと断ろうとする。
「....お座り」
『ウッ!』
「お手」
『ウフゥ!』
「よし」
『ウフゥー!』
召喚獣が食べたそうにしていたため、一通りの段階を踏んでもう一個のサンドイッチを半分にしてあげると、目元が毛で隠れたもふもふ犬型さんは一口で平らげてしまった。
「あー...すみません。代金はお支払いしますので...」
「いえ、管理官なので元は市民からですし」
「えー...しかし....」
『ウフゥ!』
血税で活かし生かされている立場のため、やんわり断ろうとすると散歩分のカロリーを得れた犬型は散歩の続きへとリードを引っ張る。
「わあー、すみません。この近くでフラワーショップをしているので、そこで埋め合わせさせてくださいぃぃ」
『ウフゥー!』
「は...はぁ...」
犬型に引っ張られながら彼女は名刺を渡して、彼の相槌を待たずしてどこかへ言ってしまった。
「はははっ、こっちけ!」
『うなぁー』
「はぁ...トロントあったけぇ」
『トロぉ...』
「.....」
『ファー...っくぅ』
召喚獣と一緒に体を動かせる公園では、土曜日ということもあってか人と召喚獣で賑わっており、体長2m程のふくよかな猫型と追いかけっこしている子供、仰向けで寝ている熊型のお腹の上でお昼寝している学生、読書に耽っている召喚主の膝の上であくびをかいているツノの生えたもふもふ召喚獣などが昼前のちょうど良い気温の中、それぞれの時間を過ごしていた。
「.....」
じんわりと胸の内が暖かくなり、もらった名刺から香るほのかなアベリアの匂いも相まって、始まりに立ち返る。
(....今日くらいサボっ....)
平和な空気に呑まれそうになったところで、右腕のイッタンモンメンが彼を引き戻す。
「「......」」
(まぁ...そうもいかないか)
現場についてからずっと付けてきている二人の気配から、食べ終えたサンドイッチの袋をゴミ箱に投げて自宅マンションへと向かう。
(...一人は女、それも20歳そこらの...こっちは東元会からか。もう一人は中肉中背のおっさん、こいつはわからんな)
土曜日のお昼と人が賑わっている商店街へと入り、喧騒の中で地面に伝う異様に静かな足音を嗅ぎ分けて、二人の特徴を整理する。
「あんちゃん!公務中かい?持ってきなー」
「どうも」
「お仕事ご苦労さんね、これ良ければ」
「どうもー」
そんな中、管理官バッチが目立つのかメンチカツやら肉まんやらシュウマイやらを貰い受けて、商店街を通り抜ける辺りではお腹いっぱいになっていた。
「....貰いすぎた...!」
膨れた腹をさすっていると、若い女共が立ち並ぶクレープ屋が目に入り導かれるようにそこに立ち並ぶ。
「...っ...わぁ」
「....?」
「え、やばくない?」
「ハーフ?」
「金目って、本当にいるんだ...」
前に並んでいた若い女と目が合い怖がらせないように軽く微笑むと、そこから伝染して、彼の現実離れした風貌に彼女たちが煌めきに花咲かせていた。
(...ん、あいつ...)
「...っ!!」
「え...いぐちん?」
すると、最前列のクレープを受け取り終えた女子高生グループの中に、今朝の現場にいたJKが目に入り彼女の方へと向かうと、こっちに気づいたのかクレープを加えながら全速力で駆けた。
「野郎...っ」
人混みに紛れて全速力で逃げる彼女を追うが、看板やら着ぐるみを着たマスコットやらで視線を切られて見失う。
「....はぁ...はぁ....なんで、あいつが...」
「あいつがどうした?」
「ひっ?!」
はずもなく、路地裏に逃げた彼女の後ろには金髪の男が仁王立ちしていた。
「わぁーっ...ごめんなさいっ...ちょっと、デコっただけなんですぅ...」
すると、観念した?彼女はアクセサリーやリボンなどで装飾されたお腹がポヨンとしたネズミ型召喚獣を彼に見せて自供?した。
「....あ?」
「え...朝、それを見て追っかけてきたんじゃ...」
「あー...悪い、人違いだ。」
そういえば視界の端に肩にそんなの載せてたやついたな、と思い出したが、彼女は彼が目星をつけていた人ではなく視線を一旦外して、周りをちょこまかしている何かへと意識を移す。
「え、本当ですか?なんだぁ....はぁ....」
『ちゅぃ?』
「ただ、召喚獣にメイクやピアスなどはするなよ。場合によってはしょっぴくからな」
「!...は、はい...」
心当たりがあったのか、ギャルギャルしていたのが塩らしくなっていた。
「てか、朝一緒にいた黒ギャルはどうした?」
「え?あー....ん...誰のこと?」
「.....そうか」
とぼけた様子はなく、たまたま居合わせただけかと頭の片隅にそれを置いた。
その後、クレープを食べ終えて寄り道を終えた彼はようやく自宅マンションへと到着したが、ネクタイを緩める間もなくベランダへと向かう。
そして、ベランダの観葉植物の側、原生鳥の羽休め木箱から糸で湿気った紙を取り出して開けた。
「....ふっ、しぶとい奴め」
紙にはずぶ濡れになったウサギが毛繕いしている絵が書いており、次の行き先を決定した。
「「.....っ」」
自宅マンションから出てきた金髪の男を追って、裏道に入ると何やら電話を受けて走って関東庁の方へと向かったため、追尾型のファンネルを持った女と、スーツを着たおっさんは彼を急いで追う。
(....行ったか、後は任せた。シェイプ)
才亮に擬態したシェイプを見送った彼は、地下闘技場時の変装で築地へと向かった。