日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月13日午前 8 : 45 関東庁 即応科棟 屋上。
「.....」
(あの時、無理にでも引き留めて出国までセーフハウスに閉じ込めておけば)
ーーーー身寄りはない。けどあんまり寂しくない、お前らがいるからかな
(なんで俺は追われている針先を平気で一人にしたんだ...あいつが絶対に捕まるわけないとでも...いや、あれはあの時の最善だった時間差で別れて数時間以内に合流する。いつも、それで....はぁ...
いや、俺のせいだ。あいつの寄生型の力を過信し過ぎた。今まであいつの能力が見破られたことなんざ...あぁ、クソッ...絶対何ざ当てにならないなんて、何度も聞いて言って、理解してたはずなのに...俺は、俺は....)
潜伏行軍中に眠気醒ましに話していた数少ない彼の身の上話を思い出し、後悔と行き場のない責任が募る。
しかし、それでも陽は昇り続けて、即応科棟屋上から見える街の景色を燦々と照らす。
ーーーー立ち止まるのは、あいつらの手向にならない。
「.....あぁ、わかっ...いや、わかった。」
わかってると言いそうになった所で彼のからかい顔が浮かび、彼は言い直して再び前へと進む。
それこそが、生かされた者が示せる、道を全うした者たちへの敬意であり、礼であるから
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月13日午前 8 : 55 関東庁 即応科棟 内務室。
「・・え、また今日居ないんですか?」
「あぁ、昨日のが片付いてなくてな」
「はぁ...っ、まぁ最近は駐屯地内での召喚式が多くなったので、その辺も落ち着いてますし、こっちは全然大丈夫ですよ。」
『b!』
妙に整っている才亮が代えのジャケットを羽織り出かける様子を見せている時に、出勤してきた時雨がそう聞いてきたが、夜の駐勤明けの汐留とシゲモチさんは彼に気を使わせないようにフォローする。
「....そうか」
少し離れている間というか一日空けただけでも、彼女たちが見ない間に成長していたのだと実感する。そして、背からは武田とゴウキの恒例の組み手のぶつかり合いが聞こえ、心地の良い寂しさを帯びた相槌を呟く。
「!....まぁー、玄道さんもいますし、心配無用です!」
「っ...あぁ、じゃあ....行ってくる。」
「いってらっしゃーい!」
引き留めたような感じになっていたのに気づいた時雨は胸を張ってそう言うと、才亮はそれが妙に嬉しく思い無意識に重くしていた足が軽くなり、見送られながら即応科棟から出立した。
今生の別れみたいな感じになっていたが、切り替えてパトロールを装って街へと繰り出すと早速昨日二人に絞った追跡者からの尾行を感知した。
(昨日と同じやつか、東元会の方も同じ女)
「ん....あぁ、俺だ』
電話がかかってきたフリをして、路地裏の奥へと進み意識は電話先に向いているように見せかける。
すると、路地口から珍天堂ファルコンズの帽子とパーカーを被った中年の男が現れ、彼に相対する。
「「.....」」
男はイヤーカフ型の虫型召喚獣を耳につけており、無言で軍用ナイフを構える。そして、才亮は黒グローブをつけてゆっくりと男に歩む。
「....っ」
互いに間合いに入ったところで、男は左下から右上へと彼の喉元にナイフを切り裂く。
(...早ぇな)
ギリギリまで引きつけて、体を最小限に屈ませて避けながら寄生型ではない男の異様な速度に舌を巻く。
「....シッ...!」
「っ...」
男は空中でナイフを持ち替えて、少し屈んでいる状態の彼へとナイフを突き刺そうとするが、重心の低い彼から発勁を喰らい距離を稼がれる。
『....ァー』
「.....フッゥ」
虫型からわずかにソプラノ調の音が聞こえ、内部攻撃のダメージ分は回復されてしまう。
「おい、意識はあるんだろ?」
「....ゥ」
バフ系の虫型召喚獣からおそらく傀儡にされている彼に声をかけるが、首筋から咬筋あたりが強張っただけで応答は確認できない。
「そのパーカーはどこで手に入れた?」
「.....」
記憶に新しい匂いがする珍天堂ファルコンズのパーカーについて聞くが、やはり答えは得られない。
「....スゥ」
前のめりになりそうになったところで、小さく息を吐いて挑発的に手招きをした。
「....ッ!」
潜在意識は残っていそうで、男は路地裏の壁を縦横に足場にしながら加速して、両手に別れたナイフを逆手にして彼へと切り裂く。
「....あいつがお前に負けるわけないか」
冷たくそう言い切った彼は、男のナイフが右腕に吸着したままに右フックを男の顎に振り抜き、イッタンモンメンで捕縛した。
そして、ずっと認識阻害越しにちょこまかしているファンネルを糸で捕まえて、もう一方の方へと声をかける。
「話があるから、こっちに来い。」
「....何用」
ーーーー東元会・蒲原 クロコ。召喚獣:コクエン。ガス型召喚獣、黒煙をさまざまな形に変える。
路地の真っ黒い影から現れたのは、ウルフヘアーの確か英賀氏にちゃちゃ入れた時にいた、大鎌を持っていた女であり、黒煙のファンネルを彼の四方八方に囲わせる。
「手がかりを掴んだ。ついて来い。」
「っ....」
圧倒的に不利なはずの状況下でも、昼下がりのコーヒーブレイクのように自然な容態で淡々とそういう彼に、彼女は聞き入らざるおえなかった。