日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月14日 9 : 10 関東庁 即応科棟 内務室
「・・記念ライブをぶっ壊す?!」
一周年記念ライブの警護の経緯として、結論から聞くといきなり物騒な要件であった。
「....ぬ」
「...っ」
それを聞いた玄道は手首のダイヤモンドの起点をパキパキと鳴らすと、汐留がシゲモチさんのモチモチ手でペタペタして諌める。
「は..はい...その、ここ半年からずっと、ライブ毎にこんなメールが届いてまして...」
そして、才亮には繰り返しにはなるが、時雨らに発端となったメール文を見せた。
ーーーーやっほー(^_−)−沼娘(ぬまむすめ)のみんなっ、お疲れ様カナもう一周年経ったんだね〜、時の流れは早いなぁ(汗)僕たちの絆、毎日深まるばかりだよー、ナンチャッテ(๑>◡<๑)
初めの頃から、ず〜〜っと君たちの沼のような愛侵略されちゃってる最古参の僕(オジサン)からするとね、一周年はある種の【峠】だと思うんだよね、うん(しみじみ、峠っていいうと、なんだか頂きに届いたようで、安心して油断しちゃうカモしれないヨネ(>_<)
だからコソ、一度、挫折が必要だと思うんだ(キリッ)というわけで、今度の一周年記念ライブは、一度ぶっ壊す必要があるネ
おじさん、本気(マジ)だから期待しててネ、あんずちゃん、あずきちゃん、あめもちゃん(呼び捨てゴメンね)さらなる【高み】へと進歩(ステップアップ)するために、絶対、成功させようね(約束だよ)(^_-)-
「・・あーぁ、目が目がぁ....チカチカするぅ!」
全文読んだ時雨は動く絵文字の弾け具合に両手で目元を抑えて、頭痛を痛めていた。
「警察が動く要件は満たせていないな」
「はい、いつもメールくれる人ではあったんですけど、今回のは....なんか...怖くて」
曖昧な表現と継続的な脅迫は満たせていないため、警察が本腰を入れて捜査するには至らない。
当事者らである彼女らは熱狂的でもマナーを守っているファンが赤線を越えようとしているのに直面し、悪寒に凍える。
「警備を固めるにしても、誰がそのファンなのかが分からず、これ以上関わる人を増やしたくないという状況です。特に彼女たち周りだと特に...」
警備員や設営スタッフなど、どれも単発のバイト人員が多数を占めており、チケットの競争率などからそれ経由でなんとか見ようとするファンがいるため、事務所オーナー兼マネージャーの男も疑心暗鬼になっていた。
「そこで、我々ですか」
「はい、身体検査と召喚獣所持免許などの提示など行ってはいますが...おそらく、メール主は召喚獣を用いて...でしょうし」
(警備と調査....拘束日数は数日か)
最近色々手広くやりすぎているのは承知した上で、内容的にも最近の出動回数の少なさからも引き受けても良いライン内に収まっていた。
「それで、その....出来ればなんですが、サムライ管理官の方にも...」
「あー、申し訳ないが、彼は別件で長くて一週間は本庁には居ない。」
「え...ぁ、そうですか...すみません。」
即応科棟の内外が静寂に沈む中、彼女は独立系SNSにて有名な彼の協力もお願いするが、諸事情でそれは叶わない。
「即応科でなくとも、他の....」
彼女の落ち込み具合から彼のファンっぽい雰囲気を醸していたため、才亮は百地などの便利屋、探偵といった他に対応できそうな所を紹介しようとしてみる。
「いえっ!その、弟が一度即応科の方に助けられたので、是非ともお願いしたいです。」
「弟?....あ」
確かにメイクで軟化されていても涼しい目元やスッと通った鼻筋など、彼女から経験値稼ぎ場で根性見せて友達を守ったイケメン学生、向井くんとの面影を感じた。
「え、才亮さんとお知り合いだったんですか??」
ずっと彼の横であんずさんの真正面に居ようとじわじわと彼によっていた時雨は、めっちゃ至近距離で彼の顔に逼迫し、彼女の清く澄み切った茶色がかった瞳が鬱陶しそうにしている彼を映す。
「っ...あいつは元気してますか?」
「うっ...ぬぅ」
彼は無言で時雨のピッカピカなデコをグググと押し退ける。
「えぇ、なんか...その、吹っ切れた感じで、熱い子になってます!」
「....そうか」
一度しか関わってはなくとも、若者が切磋琢磨しているのは大人冥利に尽きて、才亮は彼の将来を楽しみに思いながら笑みをこぼす。
「!...その、如何でしょうか?」
「.....引き受けます。」
玄道の準備万端な様子や時雨の無言のアグレッションを浴びながら、彼は首肯した。
ーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月14日 16 : 10 セーフハウスB
犯行予告された一周年記念ライブから数日前に行われる前夜祭へ向けて、一度実地調査への準備を行なっていた。
「うわーお、それ生誕祭限定品じゃないですか!!」
「っ....あぁ、奇跡的にグッツ付きチケットが取れてな」
「めちゃ可愛いぃー」
「む、そうであろう。」
『んなぁー!』
「....才亮さん。ちょっと」
「ん」
時雨と玄道がどのサイリウムや装備品を着ていくかキャッキャしており、サイリウムを奪っておもちゃにしているクゥさんなどを他所に、汐留は彼に声を掛けて廊下へと連れ出す。
「...."あれ"って」
「いや、その線はない。普通に人気なんだろう」
「!...そう、ですか...確かに、玄道さんも...」
寄生型となった玄道があの調子になっていることからも、魅了や洗脳などの直接的な影響はないと既に調査済みであった。
「ただ....金の流れが」
「....ん」
ーーーーバタンっ
「っ...才亮さんたちはどれにしますかー?!」
彼はそれよりも事務所とその周辺への懸念点と、また管理官の領分を越えそうだと顔を顰めると、なんかピンクにネオンに光って弾けている格好の時雨が水を差す。
「「.....」」
「あれ、お取り込み中でした?」
「俺らは身辺警護に回る。時雨たちは....不審なやつを見つけたら報告するように」
「はーい!了解しました!」
「....」
まぁ、なんかファンに溶け込むならファンにやらせとけばいいかと、直観が鋭いと信じたい弾けた格好のまま敬礼する時雨に金髪の彼は仏の顔を送った。
ーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月14日 18 : 20 千葉県 幕張。シンセイマクハリハウス。
『・・じゃあー行くよーっ!せーのっ!!』
「「「うぅーー....」」」
記念ライブの前夜祭ライブが始まり、照明などが吊るされているステージ上の振動で揺れる足場から、才亮はライブの様子を見下げる。
(やるなら....転調してサビを歌う、観客席を寸断する中央ステージか、この時は360度どこからでも攻撃できる。)
沼娘の皆は360度に晒されている中央ステージへを繋ぐ道を歩みながら、歌ってズッキュンポーズや手を振ったりなどをしてファンサを行う。
「・・あずさちゃぁぁぁん!!がわいすぎる”る”ぅぅぅ」
そして、足場から見ても目立っている時雨はまさにズッキュンポーズに胸を撃ち抜かれて、ファン冥利に溺れていた。
「....うん...うん...」
またその隣にいる玄道も静かに泣きながらサイリウムを振るっていた。
「.....」
やはり洗脳か魅了でもされているんじゃないかと思うくらい、玄道の意外な一面に才亮は呆気に取られそうになったが、それはさっきしたからと音楽に然程興味のない彼は静かに無機質な足場を進んだ。
ライブ中盤、メインの曲ではないものが続く中、沼娘のメンバーたちは全方向に少なくとも100回以上は目線やポーズ、ビームポーズ、ウィンクを配っていた。
結局入場口に仕込んだ糸からここまで不審な点が見つからなかった、そんな所、彼は一つ気がかりな点を見つけた。
(ん、関係者席にはファンサが少ないな....贔屓にしてる程は見せなくないのか....)
勝手に納得していると、関係者席に白い装束のようなガウンを着た男が同じ格好の女二人を侍らせているのが目に入る。
(新生教....手広いな)
その正体はここ11年足らずで勢力を伸ばした新興宗教の幹部らしき者たちであった。
(....ん、演出か?)
『...才亮さん。そちらはいかがですか?』
『あぁ、大体は洗い出した。そっちは?』
『はい、ファンとの距離をもう数メートル設ければ何が来ても彼女たちに影響はないです。』
そして、彼らから2席離れた所から赤い線がステージ上の彼女らへと伸びているのが一瞬見えたが、演出のライトに混じって消え、総合演出スタッフに紛れている汐留からの頼もしい連絡に掃かれる。
とりあえずの前夜祭ライブは無事に終了した。
総括するとすれば、ライブのクオリティは素人目線ながらハイクオリティで納得の人気絶頂を裏付けていた。
それもそのはずでファンサービスは旺盛で、法律的にグレーなグッツを買うとついてくるお布施紙とそれを使ったリアル投げ銭イベント以外は彼女ら自体には問題は見当たらなかった。
また、終わった後の握手会がチケット代やファンクラブ代金に入っているのは良心的に思えた。
その握手会にて、ガードマンとして彼女たちの後ろに控えて入場口で記録したファン全員を確認したが、メール文の匂いに通じている人間は一人もいなかった。
それは安心させるものでは、決してなく。
じっとりと背中に伝う汗のように、静かに服に染み込んで背に癒着する不快な不安となって、前頭葉に張り付いていた。