ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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101 〈幼馴染(?)同盟〉②

「ねぇ、フィン……誰なの?」

 

 アリア呟く。

 店内の空気が、ピンと張り詰めた。

 その威圧感はモンスターさながら、否、モンスターなど生易しいと思えるような威圧。

 

 法国所属の騎士として確かな実力を有するフェンナあっても、蛇に睨まれた蛙の如く硬直する。

 

(な……なぜ、ピンポイントで今ここに!?)

 

 フェンナは動揺を隠せない。

 言い訳はできると思っているが、まさかこんな場所でピンポイントで遭遇するとは夢にも思わない。想定していなかった出会いに反応が遅れたフェンナに変わり、フィンが口を開いた。

 

「あー……なんというか……仕事仲間?」

「仕事仲間……? 冒険者ってこと?」

「そうじゃないんだが……フェンナ、言っていいか?」

 

 名を呼ばれ、頷く。

 

 教団の勢力圏である店内ならばどれだけ大きな声で言われても問題ない。

 フィンが舵取りをしてくれるのならばそれに越したことはない──フェンナはそう判断した。

 

「彼女はフェンナ。聖女セラフィーヌの護衛騎士だ」

「ああ……なるほど、護衛ですか」

 

 マリアンヌは納得したと言わんばかりに頷く。

 

「そういうことだ。盾役としてそれなりにやってきたけど、プロと話したことは一度もない。他の盾役とも交友ないし、いい機会だと思ってな」

「叩き上げの技術と、プロの技術はまた別物ということですね。フェンナさん、フィンさんをよろしくお願いします」

「え、あ、ああ。こちらこそ、よろしくお願いします……?」

 

 かなり敵意マシマシだったアリアと比べて、あっさり話が解決したマリアンヌの態度に困惑しながらフェンナも頭を下げた。

 

「ふふ……これでデートなどと言われたらショックでしたが、そうではなくて何よりです」

 

(あ……いや、警戒されてるな。そういう目的じゃないから問題ありませんが)

 

 にっこり微笑んだマリアンヌの目は笑っていない。

 

 過去の自分がリスキーな行動をとらなかったことを褒め称えたいくらいだ。

 最悪は自分の身体で、なんてことをしていたら最悪自分は死んでいたかもしれない。聖女の権力行使すれば護衛騎士一人消すことくらいなんてことない行為なのだから。

 

「ふぅん……そっか。浮気じゃないんだね?」

「浮気も何も、俺に相手はいないぞ」

「うぅっ!! ……そ、そこは冗談でも、浮気じゃないっていうところじゃん!」

「はいはい、浮気じゃないさ」

「んもぉおおぉ!! 全然心こもってないじゃん!!」

 

 和やかな雰囲気で危ない会話をするアリアに、フェンナは冷や汗を流す。

 

【勇者】アリアンロッド・モーナ。

 世界を救った英雄にして最強の一人。

 ひとたび聖剣を振るえば、大地が割れ天が穿たれる。

 怪物の証明である白金等級冒険者の中でも、更に規格外の人物。フェンナがありとあらゆる手段を講じたとして、丸ごと一撃で捩じ伏せられるであろう相手。

 

 そんな人物が目の前で、まるで子供のように駄々をこねている。

 

 冗談だとわかっている。

 本気ではないとわかっている。

 それでも、彼女の勘気を貰えばその時点でフェンナの命運は尽きる。こんな相手が懸想しているフィンを色仕掛けでなんとかしようと思っていた過去の己の愚かさを呪い、実行に移さなかった理性を賞賛した。

 

「にしても、マリアンヌもこういう店を利用してたんだな」

「フィン殿。マリアンヌ様はご自身でポーションを作れますから、あまり利用することはないかと」

「流石は聖女付き、よくご存知ですね」

「私も作ろうと思えば作れますので。効果は、お察しの通りですが」

 

 フェンナも上級ポーションくらいなら自作できるが、治癒や騎士の自動治癒魔法を使った方が圧倒的に効率がいい。専門的な治療に関してはこうやって店舗を利用すればいいので、自分で作ることは滅多にない。

 

「ほう、普段はマリアンヌの手作りポーションだったのか……」

「ポーションを使うより治癒を使った方が早いので、宝の持ち腐れでもあります」

「それでも俺は助かってる。何度ポーションに命を救われたのかは数えきれないからな。いつも助かるよ」

「うふ、どういたしまして」

 

(……うまいことはぐらかした。流石に張本人に嗅がせるための香水を選んでいたとは言えませんからね) 

 

 修羅場にならなかったことに安堵しつつ、フェンナは口を開く。

 

「聞けば、フィン殿はあまりポーション類に関して詳しくない様子でしたのでよければお教えしようかと思っていたのですが……お二方も、よろしければご一緒にいかがですか?」

 

(これで二人が乗っかってくれれば疑惑は完全に晴れる。フィン殿の症状を悟らせないように詳しいポーションの説明をするのにも支障はない。後日、私の名前で使用できるカードを渡せば完璧でしょう……!)

 

 ぐっ、と後ろで拳を握りしめた。

 

「え、あ、うーんと…………マリアンヌちゃん、どうする?」

「…………お誘いは嬉しいのですが、護衛の話となると我々は専門外。余計な口を挟みかねませんので、ここはお断りさせて頂きます」

 

(!? なぜ断る? せっかくフィン殿のいいところを見せるチャンスなのに!?)

 

 フェンナとしては、ここでフィンが盾として優れていることを見せつけるいいチャンスだと思った。二人の目の前でフィンの優秀さを見せつつ、自分はそういう目で見ていませんよと証明する。そうすることで修羅場に巻き込まれるリスクを減らす腹積りだった。

 

 が、しかし聖女マリアンヌ、ここでまさかの別行動を固辞。

 

(護る立場としての話では、私達は蚊帳の外。フィンさんが優れていることは間違いありませんが、万が一にもフェンナさんがフィンさんを否定した時、冷静でいられる自信がない。プロフェッショナルとしての技術・心構えだとわかっていても、フィンさんを否定された時、私とアリアさんでは……)

 

 フィンを否定された際、フィンを否定した者に対する衝動を抑えられないかもしれない。

 

 つまり、フィンの目の前で醜い姿を晒す可能性を考慮し、マリアンヌは苦渋の選択をした。

 

 〈幼馴染同盟〉なんていう淑女協定を結んだ二人だが、決して手荒い行為に手を染めるつもりはない。そんなことをしてフィンに嫌われては元も子もないからだ。

 

 互いになんとかして好かれるようにしよう。

 抜け駆けはナシ、どっちかが好かれたら互いに愛してもらえるようにお願いしよう。

 

 言ってしまえばそれだけの関係であり、なんなら結んで数時間も経ってない。

 

 ここでチャンスだと思えるほど、マリアンヌは思い上がっていなかった。

 

 元より、フィンの迷惑になる行動はしたくない、嫌われたくないという想いが他と比べて強い二人。手を組んだところで積極的になれるわけでもなかった。

 

「そ、そうですか。いえ、無理強いをするつもりはございませんので……」

「あ……い、いえ。こちらこそ、お誘いして頂いたのに申し訳ありません」

 

 フェンナの想定外だと言わんばかりの態度で意図を察したマリアンヌが頭を下げる。

 

 聖女に頭を下げさせている構図を見た店員は白目を剥いたが、本人的には『わざわざ気を遣ってもらったのに普通に断ってしまった』事実に気が付き心底申し訳ないと思っているので問題なかった。

 

「ではフィン殿、こちらへ」

「ああ。また後でな」

「え、ええ。また……」

 

 ひらひらと手を振って、フェンナとフィンは離れていく。

 

 そんな姿を見送りながら、マリアンヌは考える。

 

(フェンナさん……ライバルになるかとも思いましたが、その気配は薄いですね)

 

 自分達を招き入れようとした辺り、他意のなさを証明しようとしたのだろう。

 

 マリアンヌが間違えた受け取り方をしてしまっただけで、彼女自身のフィンをどうこうする意思は薄いと感じた。

 

(セラフィーヌさんの紐付きなので警戒はした方がいいでしょうが、警戒しすぎもよくありませんね)

 

「……ねぇマリアンヌちゃん。よかったの? ついていかなくて」

「ええ。技術的な分野で私達は共感できませんから。いいですか、アリア。二人が護衛の話で盛り上がる中、置いてけぼりにされる私達……」

「う…………」

「口を挟もうとすれば素人丸出しの意見になり、プロの視点とフィンさんの視点両方から否定され……」

「ううっ……」

「結果的には、二人が仲良く意気投合して、私達は見当違いのことを話す愚か者だと思われてしまうでしょう」

「そ、そんなぁっ!!」

 

 アリアは涙目になった。

 

 そうなる未来がなんとなく見えたからだ。

 

「ですから、ここは退くべきです。私達が出しゃばるべきではないタイミングでした」

「う、うぐぐ……そうとしか思えない……」

「危ないところでした。欲に逆らっていなければ、私達の株を下げるだけだったかも」

 

 嘆息しつつ、マリアンヌは思考を切り替える。

 

「しかし、回避できた。加点はありませんでしたが、減点もない。私達の得意分野で攻めればいいのです」

「……そっか、そうだよね。うん、焦ってたかも」

「落ち着いていきましょう。私達は二人組、他の人より有利なのですから」

 

 マリアンヌとアリアは互いに頷きあう。

 

【聖女】と【勇者】、二人の共闘は始まったばかりなのだ。

 

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