いつの間にかアリアとマリアンヌが仲良しになってる……。
まさかあのアリアに、同い年の友人が出来るなんてな。
感慨深いぜ。
所詮は相手にされていない幼馴染の俺だが、ガキの頃〈聖剣〉を手にしてからのアリアがすっかり友達を失った姿を見てきたのだ。
あんまりにも寂しそうだったし、アリアの両親も心配してたし、轢かれた時の感覚が忘れられなくて着いて行ったが、俺くらいしかアリアと一緒にいる奴はいなかった。
それは流石に寂しいからな。
そうか、アリア、お前にも……友ができたんだ。
おめでとう、アリア。
お前はもう特別な〈勇者〉なんかじゃない。
特別で最高の〈勇者〉だ。
「い、行ってしまわれた……」
「……放っておこう。なに、悪いようにはならんよ」
ううっ、ガキの頃は『フィンフィン〜っ!』ってずっと俺の周りにいたのに……!
俺の幼馴染だったのに……!
あいつがどう思ってようが俺にとっては唯一の幼馴染で友人だったのに、そのポジションすら奪われた!
俺は知ってるんだ!
どうせこのまま女友達が沢山できたアリアは女子コミュニティに加わって『いい男いな〜い?』『金等級冒険者の〇〇が今フリーなんだって!』『え〜ほんと? 狙い目じゃん! そう思うよね、アリアちゃん?』なんて雑なフリに『え、あはは……』って曖昧な返事をしてたらズルズル引き摺られていってそのまま男との合コンをセッティングされて『へ〜君勇者ちゃん? 世界を救った子がこんなに可愛かったとか知らなかったな〜』とかイケメンのヤリチンに絆されて酒飲まされてお持ち帰りされるんだ!!
うわああああああああっ!!
アリアとは俺が先に出会ってたのにいいいい!!
テメェヤリチンこの野郎!! アリアの乳と汗を先に味わうのは俺だぞッ! どきやがれっ!!
『気持ち悪いので黙ってください』
まあ待て、闇のマリアンヌ。
アリアの乳と汗を吸うのは俺だと言ったが、これはアリアに限った話じゃない。すでにアリシアさんとカルラ、両名から吸うに至ったのだ。となれば、闇のマリアンヌ、君も例外じゃない。
『死ね』
うごごごごごごッ!!!??
しびびびび!!?
「!!!!?!? フィ、フィン殿!? どうしたっなぜ痙攣を……!?」
「ぐ、ぐうう……な、なんでもない。少し、そう、手足が痺れただけだ」
「手足が……!!? て、手足が痺れて身体全体が痙攣を引き起こすものなんて……卒中……」
フェンナはさぁっと顔を青くする。
「お、落ち着いてください。フィン殿、まず、手足は問題なく動きますか?」
「あ、ああ。問題ない」
「では、顔に痺れは?」
「ないな」
「呂律は……大丈夫そうですが、念のため確認させていただきます」
そう言って、彼女は俺の顔をペタペタと触り始めた。
「顔の筋肉は……動いてる。少し眩しいですよ。【光源】……瞳孔も問題なし。指は何本立っていますか?」
「二本だ」
「頭痛などはありますか? それと、今、痺れは残っていますか?」
「どちらもない」
「そうですか…………フィン殿は普通の人と比べて、脳にかかる負担が多い。盾役として身を粉にしていることからもそれは明らか。少しでも違和感を感じた時には、すぐに神殿を利用してください」
「……わかった」
闇のマリアンヌ、何かいうことあるか?
『ち、ちがっ……そ、そんなつもりでやったのではなく……ただ、そう、だって気持ち悪くて……』
気持ち悪いからって身体を痙攣させて、真面目な神官殿を心配させる……。
これは良くないことじゃないか、闇マリ。
俺は、良くないことだと思う。
光のマリアンヌがそんなことをするだろうか?
『し、しないかと……』
ああ、しないさ。
光のマリアンヌ、もとい先程出会ったマリアンヌがそんなことするわけがない。闇のマリアンヌ、君はそんな酷いこと、しないよな?
『は、はい。しません』
そうだよな。
今のは事故だったけど、これからはあんまりやらないでね。俺自身がどれだけ気持ち良くても見てる周りの人が心配するから。
『すみません、それだけは貴方に言われたくないです』
な、なにィッ……!?
待て、闇のマリアンヌ!
俺のこれは趣味だが、確かに趣味だが、そもそも俺自身未熟な所為で防ぎようがないのをなんとか身体で止めているに過ぎない! 俺がいなかったらあの森で戦うのはかなり厳しい! あと女の人が酷い目に遭ってるのは個人的に許せないからやめたくない!
『フィンさん。それでも私は心配なのです。貴方が傷つくのが……』
うっ……
ま、マリアンヌ……
『ですが、貴方が傷つくのは、私達を守るため……感謝こそすれど、それを否定することなんて、できやしない。わかっています。この心配が、傲慢だとも』
ううっ!!
ち、ちがっ、そ、そんなつもりじゃ……!
し、仕方ないんだ! 俺じゃあ、みんなを完璧に守ることができない。わかってるんだ。それでも、それでも俺がいいと言ってくれたんだ!
そんな期待を、裏切りたくない……!
俺には【
『フィンさん……(……うまく誤魔化せましたね)』
ん?
今なんか言った?
『いいえ、なにも言っていません。それよりフィンさん、尖ぺ……ではなく、神官が心配していますよ?』
「フィン殿? ……やはり、調子が良くないのでは?」
「──いや。問題ない。少し、考え事をしていたんだ」
「考え事、ですか……私でよければ、相談に乗りますが」
「大したことじゃないんだ。ただ、そういう死を考えてなかっただけで」
言われるまで考えもしなかったが、確かに脳がいきなりアボンと逝ったらどうなるんだろうか。
これまで脳を損傷するような怪我はしてこなかった。
一番重くても頭皮が剥がれて頭蓋骨が露出した程度だろう。
それもマリアンヌによる治癒でなんとでもなったから気にしていなかったが、もしかして、あの時のマリアンヌは相当焦ってたんじゃないか?
頭は護るように師匠に叩き込まれてきたから一度も致命傷に至ったことはない。
胴体ならなんとかなるが、頭だけはどうにもならんような気がする。
『ああ、今のフィンさんなら大丈夫ですよ』
え、どういうこと?
……ああ、周りに仲間がいるからってことか?
マリアンヌもいるしセラさんすら一緒に調査してるもんな。頭が半分吹き飛んでも死ぬ前に治してもらえそうだ。
『いえ、単純にフィンさんは頭が吹き飛んでも死なないというだけですね』
んなわけねーだろ!
闇のマリアンヌは俺のことをなんだと思ってる?
死んでも死なない不死身の化け物だと思われているのかもしれない。死んでないだけで死にかけてはいるんだよ毎回。死にかけで済んでる理由は事前ポーションと受け方が上手いからだろう、多分。
『…………ふふ』
怖ぇよ!
『ただ、流石に脳卒中や脳梗塞は想定してなかったので早めに森にある祠に行ってください』
森にある祠で卒中を防げるわけがないんだが……
闇マリはおかしなことを言うなぁ。
そんな闇マリも愛おしい。
実体化したらえっちしような。
『え、……あ、あー、そ、それはちょっと、遠慮しておきます』
遠慮すんなって。
行為中に脳内であわあわしてるのわかってるから。
闇のマリアンヌが俺を見ているように、俺も闇のマリアンヌを見ているのだ。ま〜、実体化することなんてないから叶わぬ約束なんだけどね。
「……実は、冒険者上がりには脳を原因とした突然死を迎える方が多いのです。理由はいろいろありますが、〈不浄領域〉での宿泊やフィールドでの野営時に塩分を多く摂る傾向があるので」
「ああ、それは知ってる。野菜、果物、肉、魚、穀物。食事は均等にとって、水も多めに飲むんだったな」
「その通りです。大昔にあるエルフが大陸に伝え残したとされる医学書にも載っている基本的な知識ですが、全ての人が知っているわけではない。特に、冒険者にならざるを得なかったような者は……」
あと寝不足も良くない。
師匠に育てられたからな、常識と言って刷り込まれたことがこちらにやってきて全然違くて驚いたことは記憶に新しい。
どう考えても傷口放置して馬糞まみれの馬小屋で泊まるとか自殺行為だ。
過去を思い出すほど、馴染みの受付嬢ことセリナには頭が上がらなくなっていくな。
「せめて死ぬなら、意味のある死に方を選びたいもんだ」
病で死ぬよりかは誰かのために死にたいよなぁ。
それこそ師匠とかさ。
俺の人生は師匠がいてくれたから、今こうしていい思いをできているわけだし。あの村で過ごしてたら、アリシアさんやカルラとえっちなことができるわけもなかった。それどころか寝取られていただろう。
アリアも、知らない男を見つけてさっさとくっついていたに違いない。
うごごご……胸が苦しくて切ない!
失恋の痛みだ、これは!
「いい死に方をしたい。盾役には贅沢な願いかな」
「…………はぁ……なんというか、セラフィーヌ様のお気持ちも良くわかります」
え、セラさんの気持ち?
「ええ。なんだか放って置けないんですよ、フィン殿は」
苦笑しながらフェンナは言う。
「それに、神官の前でいい死に方をしたい、だなんて……言っちゃいけませんよ?」
「む。……そうだな、悪かった」
「許してあげましょう。ただし、条件があります」
そのまま陳列されているポーションを一つ手に取って、俺に押し付けた。
「フィン殿は老衰で死ぬこと。病気や怪我で死んではいけませんからね」
「……死ぬな、とは言わないんだな」
「──人はいつか死ぬものだ。でもそれは、今日や明日じゃない。救われぬ者も今日を生き抜き明日を見たいのだから。……私の実力と立場ではフィン殿をお守りする、なんてことは言えない。でも、同業として、
差し出されたポーションには、胃腸用と書かれていた。
すっ……
好きになりそうだ……。
フェンナ、お前、いい女すぎるだろ……。
「…………そう言われちゃ、断れん」
「ええ、断らないでください。貴方が死んだら、何もかも滅茶苦茶になるので」
「それは言い過ぎだろ」
「…………いや、本心ですが……」
ウッ。
何を言ってるんだこいつは、的な目で見られている。
まあそりゃあ、【払暁】は俺がいないとダメかもしれんが、三人は別に俺がいなくても生きていけるし。
なんだかなぁ、みんな、俺のことを過大評価してるよ。
なんてことのない盾役なのにさ。
そして、フェンナは少し周囲を見渡したあと、そっと背伸びして俺の耳元に口を寄せた。
「…………心配なので、定期的に買い物に同行します。セラフィーヌ様を悲しませないためにも、協力してくださいね?」
……ま、セラさんの手を煩わせるわけにもいかんしな。
診察に行くのとは別に、フェンナの力を借りれるならこれからポーションに関しても勉強していける。
先ほどよりもほんの少し距離が近くなったフェンナに対して、俺は苦笑いと共に答えた。
「わかった、わかった。これからも世話になるよ、お医者様」