ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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105 〈幼馴染(?)同盟〉③

 

 ポーション屋の前で別れてホームへの帰路を辿る。

 

 胃腸用に上級ポーション。

 これを格安で入手できるのだから恐ろしい話だ。

 政治的な話はサッパリだが、フェンナが言葉の裏で伝えようとしていたことはわかる。教団は清廉潔白じゃないし、利権に塗れているってことだ。

 

 まあ、それくらいのことは俺も知ってる。

 マリアンヌと一緒にやってきたんだ。

 彼女が並外れて清い心の持ち主であること。

 そんな彼女が聖女として認められるまで教団が何もしてこなかったこと。力を付けて教団にとってプラスになると判断されてからようやく動き出した時点で、学がない俺でも理解できた。

 

 だからと言って教団を批判する権利は俺にはない。

 

 だからフェンナにしてやれることは、彼女の境遇を同情するでもなく、憐れむのでもなく、そんな過去がありながら今こうして立ち直った強さを称賛してやることだけ。

 

 なんてったって俺は冒険者だからな。

 強さ以外に何もないんだからしょうがない。

 

『直前にお掃除させていた男の発言とは思えませんが……』

 

 エッいやっそれはその……いや闇のマリアンヌが俺の尻穴ほじくったからだよね?

 

 不可抗力で放たれたものの責任を俺に問われても困る。

 フリでもなんでもなく今だけはやめてと言ったのに、そんな俺の敏感な部分を刺激したのは他ならぬ闇のマリアンヌだ。そりゃ、お掃除は闇マリにしてもらうでしょ。人前でやっちゃだめだよ普通に。

 

『……んんっ。まあ、一理あります。それよりもフィンさん、教団に対してどう感じました?』

 

 万理あるよ。

 それに、どう感じたって言われてもなぁ……

 述べた通りとしか。

 俺に教団を批判する権利も無ければ義務もない。

 マリアンヌやフェンナには強烈に批判する権利があるだろうけど、俺は教団のおかげで生きていられるんだ。食い物にされたわけでもなく、ただ純粋に自分の都合で大金を支払って治療を受けている。

 

 そんな俺が、教団に対してどうこう思うことはない。

 

 フェンナの話は重たかった。

 彼女の目の前でいつも通りの俺でいたことは申し訳なく思う。

 俺はドマゾで、何をされても悦べる異常者だからきっと彼女と同じ目に遭っても耐えられるし、なんなら悦んでしまうだろう。

 

 仲間が脅されたり巻き込まれているわけでもないなら猶更だ。

 

 異性に裏切られて犯された挙句モンスターの苗床にされても正気でいられる自信がある。

 

 だが、実際にそんな目に遭った女性を前に、いつも通り興奮したり、妄想できるほど図太い精神性は持ち合わせてないんだ。

 

 苗床になってみたい気持ちはあっても、実際にそうなった人の前で「いいな~」なんて思うのはただの下種だろ。俺は異常者で変態であっても下種外道にはなりたくない。そこが、師匠の教えを受けた人間が超えてはいけないラインだと思うから。

 

『…………そうですか……』

 

 やっぱりさ、救援依頼とかやってると色々見るんだよ。

 

 心を壊してしまった人ってのは、もう二度と元に戻ることはないんだ。

 

 救援して手遅れだった人で冒険者に復帰できるのは三割にも満たない。心を壊され、身も壊し、人として生きていけなくなる。そうなっても支えてくれる家族がいれば別だが、冒険者になるような奴はそんな家族がいるわけでもない。

 そうなったらさ。

 その人達がどうなってるのかってのは想像がつく。

 娼館、スラム、国外に労働力として売られて……それきりだ。

 

 助けられた人はいるけど、助けられなかった人の方が多い。

 

 俺が、アリアと同じくらい強ければなぁ。

 この手に〈聖剣〉があれば。

 どれだけそう思ったことか。

 

『……欲しいですか? 〈聖剣〉が』

 

 そりゃ欲しい。

 でも俺に聖剣は扱えないし、俺は特別じゃない。

 だからあるものを磨いてきたんだ。

 今更ないものねだりはしない。

 ま、股間に聖剣はあるからね。

 それも実績のある黄金の剣が。

 剣聖と魔弓の射手を打ち倒した聖剣がさ笑

 

『死ねバカ、消えろアホ、くたばれ間抜け』

 

 うほおおおおっっ!!??!?

 刺激しちゃらめええええっ!!!

 

「あ……フィンさん?」

「……き、奇遇だー。まさか、さっきも会ったフィンにまた会うなんてー」

 

 !!!?!?!?!?

 

 だ、大丈夫だ、まだ射てないから問題ない。

 闇のマリアンヌの奇襲で起立してしまったがポジションは大事ない。ズボンとベルトとジャケットで誤魔化せる。あ、危なかった……いつものシャツとズボンだけだったら間違いなく丸見えだった……!

 

 流石にこの二人に見られてドン引きされたら生きていけない。

 

 なんだかんだ、アリアとは俺が一番仲が良いと思ってるし、マリアンヌと一番距離が近い男は俺だとも思っている。ふらりと知らない男が現れたらその時点で脳が壊されること間違いなし。ふ、ふふっ、頼むぜ二人とも……。

 

『…………』

 

 オホッアアッオッ!!?!?

 

 闇マリ!?

 無言で!?

 

「フィン? なんかピクピクしてるけど……」

「……まさか二人が待ってるとは思わなくてビックリしたんだ」

「ま、待ってなんかないよ。ねーマリアンヌちゃん、偶然だもんね?」

「そ、そうですね。あわよくば会えないかと思っていましたが、偶然です」

 

 ハァッ、ハァッ、堪えろ俺……!

 二人の前で情けない姿を晒すのか? ダメに決まっている!

 アリアとマリアンヌの前でだけはダメだ! そういう姿はアリシアさんとカルラの前だけにしろ! 二人の前でならどんな無様な姿を晒しても大丈夫なんだ、時と場所を考えろッ! 

 闇のマリアンヌ、ステイッ! 

 今はマズイから!

 

『うるさいです、浮気者』

 

 ぐっ……ぐおおおおおっ!!!

 

 ────…………。

 

 空が、綺麗だ。

 

「…………? 今、なにか……」

「え、どうかした?」

「いえ……気のせい……?」

 

 ──……まずいまずいまずいまずい!!!

 マリアンヌに怪しまれてる!?

 うおい闇マリ!

 どうしてくれんだよっ!

 フェンナの時は気付かれなかったけど今バレそうなんだけど!?

 

『……? まさか……』

 

 まさかじゃねーよ!

 目の前でこんなことしたらそりゃ怪しまれるだろ!!

 

『いえ、そうではなく…………なるほど。そういうことでしたか』

 

 いや、うんうんじゃなくてね。

 わざわざイメージ見せなくていいから!

 黒髪のマリアンヌが可愛いのはわかってるからさ! どうにか誤魔化さないとマズいんだし頼むからどうにかしてくれっ!

 

『申し訳ありません。今は、出来ません。そのまま頑張ってください』

 

 闇マリ?

 …………。

 嘘だろ……。

 本当に返事しない……。

 

「どうかしたか? マリアンヌ」

「い、いえ。今、何か出たような気が……」

「はは。何言ってるのさマリアンヌちゃん、何もいないよ?」

「まあ、マリアンヌは聖女だからな。俺達に見えないものが見えていても不思議じゃない」

「……そう、ですね。気のせいでしょう」

 

 っっセーフ!!!

 

 セーフッッッ!!!

 

 ま、マジで危なかった……!

 妄想じゃすまない社会的な死が俺を待っていた……!

 闇マリ、現実に干渉出来るようになったからって好き放題しちゃダメだよほんと。風呂で桶吹き飛ばすくらいならいいけど、衆目のある所で浣腸とかほんとやめてね。

 あ、俺が一人の時は是非ともお願いします。

 もうほんと、病みつきになるくらい気持ちいいので。

 

『……きも……』

 

 おほっ♡

 

「それで、二人は買い物か? 女の子同士でデートとは、いつのまにそこまで仲良くなったのやら」

「ま、まあ、色々あってね。フィンは、さっきの人は?」

「用事は済んだから解散した。薬を安く仕入れて貰ったんだ」

 

 そう言って上級ポーションを手に取る。

 

「普段一人でクエストをこなす時、いつまでもパーティーの在庫から使うわけにもいかないからな。これで、これからは俺一人でも何とかやっていける」

 

 いやー、ほんとコネって大事だわ。

 後ろ盾なしのまま過ごして来た俺からすると、コネ万歳利権万歳と言いたくなってしまうくらいだ。フェンナのお陰だよ、ほんと。

 

「なんだ、それくらい私に言ってくれれば融通するのに」

「いやいや、アリアは別パーティーだろ。フェンナはあくまで教団関係者として気を利かせてくれたんだ。知り合いだから何でも頼み込むような男に見えるか?」

「んーん、見えない。フィンは自分でなんとかしようとするでしょ」

「流石は幼馴染、よくわかってる」

「んへへへ」

 

 にへらとアリアは笑う。

 

 かわいいなこいつ。

 こんなに可愛い俺の幼馴染にも、俺以外の仲の良い男が居る……そう思うだけで胸がドキドキ、不安と畏れと快楽で苦しくなってそれがまた心地いい。ハァッハァッ、興奮してきた……!

 

『あの……人前でやってはいけないとは、一体……?』

 

 そりゃ興奮してるだけだからな。

 肉体的に昂っているわけではないので問題ない。そうじゃなかったらとっくに俺の本性なんて露呈してるに決まっている。

 師匠の薫陶を受けたんだ。

 それくらいは出来て当然。

 たっちゃった時はもう、ね……。

 

「それにしても、ソロでクエスト受けるんだ?」

「金、稼がないといけないからな……」

「あ~……わ、私、養えちゃうかもな~、なんて……」

「自分で稼がなきゃ意味ないだろ」

「う。で、ですよね。うんうん。わかってた」

「…………ま、気持ちはありがたい。幼馴染のよしみだもんな」

「へ? あ、ああうん、もちろん! 幼馴染だもん! それくらいはするよ!」

 

 アリアに同情されて生きて行くわけにはいかん。

 

 そうなったらそうなったで楽しいんだろうが、今はまだそうなりたくないんでな。

 

 こうやって誘いを断ってる内に、アリアの周りに増えた男がどんどん好意を押して行っていずれは……あがががっ!! 脳が壊れるっ!! 俺のっ、俺の幼馴染に知らない男が!?

『もうフィンなんていらないや、ばいばい』そう言いながらアリアは知らない男に抱かれて振り返り……

 うわあああああっ!!

 悪夢っ悪夢だあああっ!!

 やはり寝取られは……悪!!

 断じて許せない!!

 こんなのっ許してはおけない♡

 

『…………(絶句)』

 

「さて、俺は一度家に帰るけど」

「私達はもう少し買い物してくかな。今度デートしようね!」

 

 ぶんぶん手を振るアリアに別れを告げ、改めて帰路につく。

 

 にしてもアレだな。

 途中からマリアンヌ静かだったけどどうしたんだろ。

 まさか闇のマリアンヌと繋がっていたりするのか……?

 い、いや。

 闇のマリアンヌは俺の頭の中に棲んでる脳内闇人格。

 マリアンヌと関係があるわけがない。

 

『……参考にはしましたが、あくまでオリジナルというだけで繋がりはない。……はずですよ』

 

 何その回答怖いんだけど……

 

 実際のマリアンヌは俺に死ねなんて言わないけど、俺が言って欲しいから言うだけだもんな。

 

 やはり脳内闇人格は知られる訳にはいかない。

 前に一度アリシアさんにポロッと溢したけどなんにも追及されなかったしセーフだが、これ以降はやめておこう。

 

『ふふ……そうですね』

 

 闇のマリアンヌが妖しく微笑んだ。

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