ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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107 王都にて、エルフは揺蕩う①

 人類圏に足を踏み入れたエルフはそう多くない。

 

 エルフの大半が里の中だけで己が生を完結させ、ごく僅かな個体のみが外へと出ていく。特に年代が古くなればなるほどその傾向は強く、千年を生きるエルフなんかは外そのものにすら忌避感や嫌悪を抱くこともしばしば。

 

 そんな排他的で引き篭もり気質なエルフの中での変わり者たちは、一ヶ月に一度顔を合わせて近況報告を兼ねたお茶会を開いていた。

 

「相変わらず変わり映えしない面子ねぇ……」

「そりゃ増えないよ。里のおじいちゃん達が自由にさせると思う?」

 

 ハイエルフの王女達が緩やかな空気の中ハーブティーを飲む。

 

 ヴァシリの思惑によりヒトの亜人に対する見方は多少変われど、エルフ側からの急激な変化は難しい。

 

 以前王族主催のパーティーに国賓として招かれた三姉妹だが、長女は身体の不調により辞退。次女はめんどくさがって辞退し、結果的に三女のアリーシャに白羽の矢が立ちグリセルダを矢面に立たせることでなんとか面目を保つことに成功した。

 

 王国内でのエルフの地位は確立されたと言っていい。

 次期国王の王太子に、王太子に次ぐ権威を保持する第二王女と誼を結び良好な関係を示したからだ。だが、そんな状況になってもエルフは里から出てこない。

 出ていきたいと思っているエルフは数多くいれど、老人達が許可をださず出られない。

 

 それが今のエルフの状況であった。

 

「もうとっくにエルフが一番強い時代は終わってるのに、縋り付いててみっともないよね〜♡」

「まァ……世界で一番強いエルフもいるけどね……」

「いや、アストレア姉さんと私達を一緒にしないで」

 

 スン、とアリーシャの表情が抜け落ちる。

 

 過去現在未来に至るまで、おそらく最強のエルフは誰なのかと問われれば間違いなく候補に挙げられるのがアストレアだ。彼女は世界でも最強格に入るだろうが、だからといってエルフ全てが強いなどと思われてはたまったものではない。

 

 特に、里での環境と外の魔境っぷりに打ちのめされたアリーシャにとっては笑い事ではなかった。

 

「アストレア姉さんを基準にしたらダメ。姉さんは外れ値だから」

「アリーシャ……立派になったわねぇ……」

「……当人としてはどう思うんですか?」

 

 現実を見据えるようになった妹に感涙するアリシアは放り、グリセルダがアストレアへと声をかける。

 

「…………」

「…………アストレア様?」

 

 しかし、アストレアは無言だった。

 

 ハーブティーを手にしたまま、じっと遠くを見つめている。

 

「あれ。姉さん? おーい、大丈夫?」

「…………あ。なに?」

「んも〜、またお兄さんのこと考えてたの? ダメなんだぁ♡ エッチなんだから〜♡」

 

 アリーシャの言葉に、ピクっと反応する。

 

 黙りなさいくらいのことは言われると思っていたアリーシャは、そのままなんのアクションもなく、ぼんやりとしているアストレアを訝しむ。

 

「……姉さん? どうしたの?」

「…………別に、なんでもない」

 

 ハーブティーを飲む。

 そしてまた視線を遠くへ向けて、じっと黙ってしまった。

 

「(……アリシア姉さん、お兄さんなんかやった?)」

「(なんで私に聞くの? 知らないわよ)」

「(え〜? でもお兄さんとエッチなことしてるんでしょ?)」

「(してないから! アストレアの前で冗談でも言うのやめてよ! 殺されるでしょ!)」

「(流石の姉さんもそれはないんじゃない……かな……?)」

 

「…………ごめん、今日は帰るわ」

「え、あ、ああ、うん。どうしたの、本当に大丈夫?」

「うん。少し……眠いだけだから」

「気を付けてね〜」

 

 そのまま席を立ったアストレアを見送ってから、アリシアはため息を吐く。

 

「ハァ〜……あの子があんな風になるの、随分と久しぶりねぇ……」

「そうなの? アストレア姉さんって、いつも全然何も気にしてないイメージあるけど」

「いやぁ、結構……感情豊かで直情的でしょ? 爺様に預言された後なんかは見てられなかったわよ」

 

 アリシアが80歳になる頃、アストレアが生まれた。

 幼い頃から英雄譚や物語に憧れて書物を読み漁っていた彼女は、アストロガノフの預言で絶望してからは無気力で怠惰な日々を過ごしていた。

 

 預言でアストレアがどう生きていようが世界に影響はないと言われてしまったことで彼女を心配する者もほぼおらず、彼女の周りに居続けたのは側仕えのエルフ達や家族だけだった。

 

 結局、やる気になったアストレアは今となっては世界最強の一角になっているのだが……。

 

(…………十中八九、フィンくんが関わってるんでしょうね)

 

 今のアストレアの精神を揺るがすことなど殆どない。

 己の死の運命すら覆した男が身近にいる。

 元より期待されていなかったアストレアにとって、それは正に青天の霹靂だっただろう。そんな男が、自分のいる【払暁】こそが居場所なんだと言っているのだから。

 

 ──そんな妹の想い人と真っ先に繋がった姉としては、非常に気まずい。

 

(ち、ちがっ、そんなつもりじゃ……だ、だって普通思うわけないでしょ! 自己犠牲で悦に浸ってて死んでも構わないって思ってる重い男の子かと思ったら、それだけじゃなくマゾヒストですんごい愉快な子だったなんてぇ!! 脅されたのよこっちは! 成り行きどころか、世界の終わりを天秤に脅されたのっ! どうしろってのよ!!)

 

「う~ん、こっちの姉さんも問題ありそう♡」

「アリーシャ様、笑い事ではないですよ」

 

 頭を抱えるアリシアを見て笑うアリーシャ。

 

「でもさグリセルダ、言ってないだけでアリシア姉さんは色々やらかしてるんだよ?」

「ほう。どんな内容なんだい?」

「えーっとね、お兄さんと──」

「アリーシャ? わかるでしょ?」

「あはっ♡ 怒られちゃった♡」

 

(……でも実際、お兄さん関連で何かあったとしか思えないなぁ)

 

 アリーシャがこちらにやってきて暫く。

 金等級冒険者にもなり【星天】としてクエストをこなす事も増えて来たが、過ごせば過ごす程姉二人がどれだけ異質なことをやっているのかを実感する。

 

 アリシアは己の実力で白金等級冒険者にも選ばれており、仮に【星天】を抜けたとしても単独で活動していけるだろう。

 

 アストレアに関しては意味不明。

 実力という観点ではとても測ることすらできない。

 アリシアが一般的なエルフの天才が至れる頂点だとすれば、アストレアはイレギュラーであり特異点。

 

 アリーシャは姉妹だから二人を色眼鏡抜きで見れるが、他人から見れば「こんな化け物に悩むことがあるのか?」と思われてもおかしくはない。

 

 なお、姉妹の目から見てもこの二人が悩むことなど殆どないだろうと言うのが本音。

 

 ぶっちゃけ、フィン以外のことで何か悩むことがあるのかなと思っている。

 

「ね、アリシア姉さん。心当たりは?」

「…………ないけど……」

「けど~?」

「……………………ある、かも……」

「あはっ♡ お願いだから姉妹で殺し合いはやめてね」

「しないわよ! ……そうなったら私がぶっ殺されて終わりだから」

「そうならないようにして欲しいんだけどな~」

 

(お兄さんと二人でコソコソ何かしてたけど、それがアストレア姉さんに見つかったのかな? うーん、でもそうなったら黙って引き下がるとは思えないし……そうなると、アリシア姉さんとお兄さんの秘め事が見つかったわけじゃなく、単純にお兄さんとなにかあった……?)

 

 チラリと姉の様子を見るが、はあぁ、とため息を吐くばかり。

 

(ま、そもそもお兄さんとの一件が本当に誰にも漏らせないような問題だって可能性もあるし♡ アリシア姉さんも動けないなら、私が何とかするしかないか~)

 

 腐っても王女の一人である。

 閉じられた環境で歪み成長を止めていたが、現実を改めて認識したことで急成長を遂げている。なお、変わらなくていいよと言われてしまったために人を煽る癖はなくなっていない。

 

「うんうん。じゃ、アリシア姉さん。私がなんとかしてあげる♡」

「えぇ……えぇえ……?」

「あはっ♡ 心外♡ お兄さんと秘密抱えてるアリシア姉さんがやらかしたらもっと酷いことになりかねないじゃん♡」

「それは……そうなのよねぇ……」

「(秘密を抱えてるのは事実なのか……)」

 

 知るべきではないことを着々と暴露され、知らなくていい何かに巻き込まれそうになっていることに呆れつつ、グリセルダは口を開く。

 

「アリーシャ様、お二方のために協力したいお気持ちはわかりますが……藪蛇を突けば冗談ではすまない。それでもやるんだね?」

「……うん。里から出てきて、腐らなかったのは間違いなくみんなのお陰だから。私も役に立ちたいよ」

 

 真剣な表情でアリーシャは言う。

 

 そんな妹の成長した姿を見て、アリシアは内心思う。

 

(────〈知識〉もバカにならないわね、やっぱり)

 

 ヴァシリの齎した〈知識〉において、勇者の活躍の度合いによっては世界滅亡を避けられないパターンがある。

 

 アリーシャは勇者一行が全滅しエルフの里が侵略される段階になって、防人代表として奮闘すると預言されていた。【勇者】と【聖剣】を抜きに数ヵ月の間延命に成功し、最終的に滅びは免れないが、かの尖兵が訪れるまで魔王軍を退け続けるのだ。

 

 ポテンシャルは十分にある。

 それもまた、ヴァシリがアリーシャの滞留を許可し【星天】に受け入れる理由の一つでもあった。

 

「……ま、そうね。今回ばかりは私が出しゃばらない方がいい。頼ってもいいかしら」

「もちろん。あっ、でもでも~……成果によってはお兄さんとの秘密、教えてもらおっかな~?」

「…………その時が来たらね」

「ぶー、ケチ。いいじゃん。私だってお兄さんの役に立ちたいのに」

「ア~……役には、立つかもだけど…………」

「えっそうなの?」

「あ。……今のナシ」

「……へぇ♡ そっか♡」

 

 ますますやる気を漲らせ生意気な笑みを浮かべたアリーシャ。

 

(私でも役に立てるんだ。なら、一層頑張らなきゃね♡)

 

(…………ま、まずい。フィンくんに言っていい具合に誤魔化してもらわないと……い、いや、どうする? もういっそのことアストレアもアリーシャもグリセルダも巻き込んで……世界が終わる未来しか見えない! ど、どうすれば……アストレアさえ怒らなければ……怒るに決まってるわね……終わった……? 終わり……?)

 

(真っ青な顔をしてる辺り、アストレア様の逆鱗に触れそうなことしてそうだね。ただ、あのフィンだぞ。私の誘いも簡単に断った男だよ。そう易々とアリシア様に手を出したりするかと言われると疑問が残る。……重大な病気とかじゃなければいいんだけれど……)

 

 かつて、堂々とフィンに抱かれてもいい宣言をしたグリセルダはその方向性を絞った。

 

 役に立てると言われたアリーシャは、奮起した。

 

 完全に関係のない所でやらかしたアリシアは、顔面蒼白になった。

 

 三者三様、エルフ達がそれぞれの行動を開始した。

 

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