ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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11 ドマゾと王女殿下

 シャルロット・バーンスタイン第二王女との初顔合わせ。

 冒険者ギルドで行う密会はマリアンヌが教団の上に掛け合ってなんかいい感じにしてくれたらしく、普通に会っていいそうだ。

 いいんだそれ。

 第二王女が密会とか怪しさ満点だけど。

 

『あの方に力はありませんから』──そうにこやかに言ったマリアンヌには恐ろしさを感じた。

 

 まさか……闇のマリアンヌは俺の心に棲む妄想ではなく現実だったのか?

 

 いや!

 マリアンヌは神的にいい人だから。

 そうじゃなきゃ女神様から加護をもらってなんかすげー魔法撃つことも出来ないだろ。女神様も気にいる聖女、それがマリアンヌだ。

 でもドエスマリアンヌはそれはそれで……非常に唆る。

 表では聖人のように振る舞うが、ホームに戻れば彼女の態度は一変!

 癒しの光を放っていた杖は血に塗れ弱者を甚振る凶器と化す! 

 やめてくださいと懇願する俺に対し聖女マリアンヌは言った、『穢らわしい魔はここで消してしまいませんと』。

 いやだ、助けてと泣き叫ぶ俺の背後から接近し、その輝かしい杖は穴へと吸い込まれ──

 

 くううぅぅっっ!!

 あが……あががが!!

 これはダメな気持ちよさだ!

 そもそも身内でそういう妄想する時点でダメなのに聖女を悪に仕立て上げる最悪の妄想!! こんなの、こんなっ、俺は俺が恥ずかしい! 

 

『うふふ。汚らしいですね……ここがいいんですか?』

 

 言わないだろうがマリアンヌはそんなことォッ!!

 

「あ……えっと、その。久しいな」

「──お久しぶりです、シャルロット殿下」

 

 王女様の目の前でトリップするのはたまんねぇな。

 緊張感と興奮で暴発&誤射しそうだが、俺は鋼の男。

 最近内面がゆるゆるでも外面は鉄壁が故に失敗することはない。俺さぁ、これでも盾役としてはありえないくらい長生きだし二つ名くれてもいいんじゃねーかと思うんだよな。仲間におんぶにだっことは言え五年も生存してるんだぞ?

 

 他に五年も生存してる盾役なんていないのに……

 

 ──ハッ!

 も、もしかして俺は……〈冷遇〉されているのか!?

 仲間はそんなことないけどギルドに冷遇されてるんじゃないか!?

 

 ……別によくね?

 冷遇されてる方が寧ろ嬉しいまである。

 どう考えても冷遇されてて見下されてるけど美人な仲間が心配してくれるドマゾとか最高じゃん。

 替わりたいと言われても絶対に譲りたくないね。

 

「う、む。あの時はあなたが居てくれなければ間違いなく死んでいた。改めて礼を言わせてくれ。金等級冒険者フィン・デビュラ殿。あなたのおかげで、私は、私達は生きている。助けてくれて……本当にありがとう」

「もったいなきお言葉。平民の私が高貴な殿下をお救い出来たことは、末代まで語り継ぐ名誉であります」

「ほわ……」

 

 ククク、庶民出身……いや庶民っていうかもう完全に田舎の次男坊だから王族どころか貴族への対応なんかもガバガバだが、昨日三人にみっちり教えてもらったから完璧だ。

 

 カルラはいいところのお嬢様だしアストレアは言わずもがな、マリアンヌは聖女なのでそういう方向でもバッチリ。

 いまだに芋臭いのは俺だけである。

 そりゃあ二つ名もつけてもらえない訳だぜ。

 

「フィン殿、と呼んでもよいか?」

「お気に召すままに。……あの時呼んでいたではありませんか。それに、殿下が望むのでしたらどんな呼び方でも喜びます」

 

 醜い豚とかボロ雑巾とかそれとかあれとか呼んでくれねえかな。

 

 ついでに鞭とか蝋燭とか持って全裸になった俺にベチンベチンやってほしい。

 SM系のお店に行けないから本物の王女様にやってもらう。

 な、なんて贅沢……!

 そして不敬!

 ハァッハァッ、許されない不敬!

 バレたら死刑!

 こ、興奮する……!

 

「で、では……フィン殿」

「は。殿下」

「フィン殿。私のことはシャルロットでよいぞ」

「え? しかし……」

「よい。あの時も言ったが、命の恩人とは対等でありたいのだ」

 

 そう告げるシャルロット殿下の顔はほんのりと赤みがかっていたが、まっすぐな物だった。

 

 ウッ……

 俺は、俺が恥ずかしい!

 こんないい娘を相手にSMプレイしたいとか罵倒して欲しいとか考えてるなんて最低だ! でも王女様だよ? 王女様がこんな下賤な身分の者を相手に『対等でありたい』とか冗談でも嬉しいじゃん。

 俺と対等になるってことは、そういう妄想の対象にされるってことだ。

 

『縁切るぞ』

 

 あっ待ってカルラ!!

 うそうそ冗談だから!

 

「では……シャルロット殿下、と」

「む、……殿下は要らない」

「……シャルロット」

「うん。フィン殿……」

 

 嬉しそうにはにかむ。

 

 くっ……これは新手のハニートラップか!?

 いや冷静に考えて欲しい。

 いくら金等級冒険者とはいえ俺は二つ名もないただの冒険者だ。そんな小物界の大物相手に第二王女様がこんな態度を取るだろうか?

 

 ありえない。

 絶対に裏がある。

 俺は貴族には明るくないが、貴族の権力の強さはよく知っている。

 

 村で暮らしてたころ、村一番の美少女がいた。 

 近隣の村で一番美少女で噂を聞きつけた豪商が三人目の嫁にしたいと言ってきていた。当然、見返りもある。村全体がはしゃいでたところに颯爽と現れたのは、領主の嫡男。

 

『この娘は私の側室にする』──その一声で全てが終わった。

 

 嫡男殿には側室がすでに五人いた。

 そして貴族からすれば農民など『俺達が守ってやるんだからいくら搾り取ってもいいだろう』って認識だ。その女の子は翌日には側室として引き取られ、豪商から受けられた筈の見返りはなくなり、村には何も残らなかった。

 

 領主の嫡男程度でも女を好きに奪うことが出来るんだ。

 

 王女様だぞ。

 確かに大きな派閥とかには属してなくても、彼女が願えば拒否出来る民なんてどこにもいない。それなのに俺に対してこんな勘違いさせるような行動をとってくる……

 

 くそっ、どう考えても罠だ!

 事前にマリアンヌとかにも『絶対言いくるめられるので簡単に頷いちゃダメですよ』と言われているし間違いない。

 

 俺は悪意に敏感なんだ。

 なぜなら、悪意も気持ちがいいから。

 嫉妬から裏路地での暴力とかもう最高だからね。

 パーティー組んで最初の方はよくあったんだよ、可愛い女とパーティー組んでる冴えない盾役が邪魔だからこいつひっぺがして俺達が参加しようぜって悪巧み。

 その時点で強いアストレアやカルラには手は出せず、マリアンヌも教団所属なのでまあ無理。

 狙われるのはいつも俺だった。

 容赦のない殴打、囲んで殴る蹴るの暴力、動けなくなることもあったな……

 

 思い出しただけで気持ちよくなってきた……

 

「シャルロット。無礼を承知でお願いがございます」

「なんだ? 私に出来ることならなんでも聞くぞ」

 

 え、なんでも?

 それじゃあ今すぐ殿下の正装になって全裸の俺を縛り付けて鞭打ちして蝋燭垂らしながら罵っていただけますか? 

 

 普段リスクのある死を体験しているが、美人が性的な意図を持って虐めてくれるのはまた違う快感を齎してくれる。それはきっと死に勝るとも劣らない極上の快楽だろう。

 本職王女様による女王様プレイ……

『フィ、フィン殿がそう仰るなら……』

 彼女はそう言って頬を赤らめ承諾した。

 心根の優しい彼女(何も知らないけど)のことだ、受けるのは苦渋の判断だった。しかし願った相手は命の恩人であり、金銭や繋がりによる要求をしてくることに比べればマシだと思ったのだ。そうしてシャルロット第二王女は鞭を持ち、蝋燭に火を灯した。全ては、鎖で縛り付けられ拘束されている醜い成人男性へ罰を与えるためである……

 

「…………」

「……ど、どうした? 本当に、なんでもよいぞ?」

 

 フゥッ、フッ、ハアァッ、耐えろ俺の理性! 

 俺は紳士俺は盾役俺は金等級冒険者俺は理性あるドマゾ!

 王女様にそんな願いを出すとかありえないだろ……!

 ……よし、落ち着いた。

 

「は。では、シャルロット──これからも、我が友であって欲しいのです」

「! ああ、もちろん! 私の生涯の友(・・・・)になってほしい!」

「畏れ多きお言葉、光栄です」

 

 あくまで〈友〉、これがマリアンヌに言われた条件である。

 

 上でも下でもなく、対等。

 そう宣言出来るだけの条件は整えてきたのでこうしてくださいと言われ、特に王女殿下に何も望んでない俺は従うことにした。

 

 が、そもそも殿下は俺のことを上とも下とも見る気がない。

 貴族らしく上から命令されるんだろうなぁと思っていたので正直拍子抜けだ。

 

 貴族に上から口を出されて耐え忍ぶ庶民ごっこしようと思っていたので先程までメンタルが暴走していたが、こうなってしまえばもういつもと変わらない。

 

 でもなんか今特殊な条件付かなかった?

 

 生涯の友って言われた気がするんだけど。

 

「正直なことを言えば、私からお願いしたいくらいだ。フィン殿とは、その、えっと……い、色んなことをしていきたいと思う」

 

 色んなこと!?

 

 それって……えっどういうこと!?

 貴族特有のいい回しだったりする!?

 俺にはエッチな意味にしか聞こえません! 助けてくださいマリアンヌ! 闇のマリアンヌでもいいから!

 

「でも、今の私は弱い。力がない。フィン殿と気軽に会うことすらできないほどに」

 

 ぎゅ、と拳を握り締める。

 

 シャルロットは大派閥の力もない〈お飾りの王女様〉だと聞いている。

 

 だからこれを機に俺を振り回そうとしてくる可能性が高く、警戒してくださいと言われている。

 

 俺もそれは警戒してた。

 貴族同士のドロドロとした政争とか絡みたくないもん。

 そうならないために恥を忍んで仲間達に助けてくださいと言ったからね。

 

 ただ……なんというか、こう。

 

 あんまり俺を巻き込もうって感じはしてこないんだよなぁ。

 

「実は先日、枢機卿にお会いした。フィン殿が掛け合ってくれたのか?」

「枢機卿……ああ、マリアンヌの」

 

 会ったことはない。

 そもそもマリアンヌはあんまり教団に俺達を近寄らせない。

 こちらも無理に触れたいところではないので気にしてないが、やっぱりそういうところに伝手があるんだな。

 マリアンヌを頼って正解だった。

 

「そうか……やはり、【聖撃の聖女】殿が動いてくれたんだな」

「……申し訳ありませんが、私は動いておりません。彼女が、パーティーを守るために動いたのです」

「……そうなのか?」

「ええ。彼女らとは違い、私はただの庶民ですから」

 

 後ろ盾もコネもないただの金等級冒険者だ。

 マリアンヌが枢機卿にコンタクトを取ったのはパーティーを守るためで、俺のためではないのだから。

 

「そのような力は私にもございません。期待を裏切るようで、申し訳ありませんが」

「っ……ち、違う! そんなものはどうでもいい!」

 

 えっ。

 

「私は……私は、フィン殿と出会えた。それだけで、本当に嬉しいんだ」

「殿下……」

「シャルロットでいい。今は……それだけで、よいだろうか?」

 

 ……そんなに人材不足なの?

 まあ、冒険者活動してるのに護衛が一人もいない時点で察せるけど……え、マジで? 俺との繋がりでそんなに喜んじゃうの?

 

 うわぁ。

 大変だなぁ、殿下……

 なんか親近感湧くわ。

 周りがすごい中自分だけ何もないと悲しいよね。

 

 めっちゃわかる。

 俺も幼馴染がすごい奴だから昔から比べられててさ……

 マゾだから罵倒されるだけで気持ちよかったんだけど幼馴染が気に病んじゃって……なんで言われてる側が平気で褒められてる方が病んでんだよ、おかしいだろ。

 

「ええ。あー……シャルロット。これからもよろしくな?」

「っ、ああっ、ああ! 是非とも! 末長く!」

 

 両手で手を握られてブンブンとなすがまま。

 

 かわい〜。

 やっぱり王女様ともなれば顔がいいんだな。

 俺の仲間三人は顔もスタイルもいいので傷だらけの俺がいるとなんかすごい犯罪臭がするんだよ。

 おそらく殿下と並んでもそう。

 しかし、俺はこの顔を気に入っている。

 勲章だ……

 みんなを守ってきた、な。

 たまに痛んで気持ちいいし。

 

 さて、無邪気な殿下を眺めていてもいいんだが、彼女には非常に申し訳ないことに罠を張っていることを告げなければならない。

 

 この場には俺しかいない。

 だが俺だけがここに来ているわけではないのだ。

 

「それでシャルロット。一つ隠し事があるんだ」

「うん? なんだ?」

「実は隣の部屋に俺の仲間が待機していてな……」

「…………えっ」

 

 バンッ!!!

 

 扉が開け放たれる。

 

 先頭マリアンヌ、二番手カルラ、最後尾にアストレア。

 

 アストレアが丁寧に扉を閉めた。

 

 心なしか冷え込んだ空気の中、マリアンヌがにこやかなまま口を開く。

 

「お話は伺わせていただきました、シャルロット殿下。私の(・・)フィンさんがお役に立てたこと、喜ばしく思います」

 

「まあ、私の(・・)フィンならばそれくらい出来て当然よね。というかどいつもこいつも見る目がなさすぎるんだけど。エルフの里だったら本になってるわよ?」

 

「ははは、私の(・・)フィンにはもっと相応しき場所があるのだ。東方での戦場とかな?」

 

 三人はお互い目配せをした。

 

 俺の手を握っているシャルロットは顔を青くして、赤くして、青褪めさせて手が震えだす。

 フッ、これが俺の誇る最高のパーティーメンバーだ。

 嬉しさのあまり震えているようだが、俺は彼女らを無理矢理引き込むつもりは一切ない。

 

 善意で力を貸してくれると言ってくれたんだ。

 

 俺が貴族に疎いことを知って、食い物にされるのは忍びないと助けてくれる……ああ、なんていい仲間達なんだ。

 

 なぜか緊張感と重圧が部屋の中に充満する中、シャルロットは震える声で呟いた。

 

「…………は、はは。頼もしい、なぁ……」

 

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