ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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113 アストレア、無惨

『アストレアはどうして里の外に出たんだ?』

 

 金等級に昇格して【払暁】として名を知られ始めて少しした頃、アストレアとフィンは夜番の最中にこんな会話をしたことがある。

 

『どうしてって……まあ、色々あんのよ。そっちこそ、どうして出てきたわけ? 地方でゆっくりやってく道もあったでしょ』

『そうだなぁ……一番はやっぱり、師匠に追い付きたかったからかな』

 

 パチッと焚き火が弾ける。

 

『俺の師匠は凄い人で、俺じゃ逆立ちしたって勝てない人だ。勝負にすらならないと思う。あの人にとって、俺はついでに取った弟子で出来損ないだった。それでも師匠は俺のことを愛弟子だと言ってくれて、五年も世話してくれた。そんな偉大な人に少しでも近付きたくて、より良い環境で自分を磨くために王都に来たんだ。未熟なのはわかってたけど、周りのレベルが高い方が引き上げられるってわかってたから』

『そ、そう…………そうなの……』

『みんなには迷惑かけちまったけど、お陰で金等級冒険者になれた。あの人の弟子を名乗るにはまだまだ未熟でも、顔に泥を塗らない程度にはなれたと思う。ま、それでもお荷物なんだけどさ』

 

 苦笑するフィンに、アストレアはなにも言えなかった。

 

 それはこれまでの態度に起因する。

 アストレアはフィンに対し田舎に帰れと言ったことがある。

 あんたみたいなやつはいくらでも替えがきくんだから、死ぬ前に帰りなさい、と。事情があるとはわかっていても、いずれ死ぬとわかっていて放置できるほどアストレアは擦れていなかった。

 

 死なない程度に脅したこともある。

 自分が最低なことをしている自覚もあった。

 それでも、フィン・デビュラ程度(・・)が通用するような優しい世界ではないのだ。

 

 ここに至るまでフィンが死ななかったのは奇跡としか言いようがない。

 

 何なら魔王軍を名乗るモンスターによってフィンは死んでいただろう。あれで死ななかったのは偶然(・・)パーティーに聖女号を賜る神官が居たからで、それだって、死体に治癒魔法を掛けるような状態だった。マリアンヌもフィンが生きていると思っていなかった。悲痛な表情で、叫びながら治癒を施す彼女の痛ましさは、忘れられない。

 

 だが、生きていた。

 

 後にやってきた治癒のスペシャリストである聖女がフィンを見て言葉を失うような重傷を負いながら。

 

 アストレアは思う。

 果たして、そんな悲惨な目に遭っているのに、フィンは幸せなのか。

 今も田舎で危険の少ない環境でのんびりしている方が良かったのではないか。

 自分達に付き合っていたせいで傷ついて、あることないことを噂され陰口を叩かれる。名誉は仲間に奪われ名声をあげることも叶わず、ギルドからはいいように扱われ……

 

 本当に、フィンはこれで幸せなのか。

 

 英雄。

 自分の運命を覆した人の英雄。

 他の誰もが知らない、勇者をも超える、本物の……

 

『だから──俺を見捨てないでくれて、ありがとう』

『っ……見捨てるわけ、ないでしょ。無駄死にして欲しくないだけだったのよ』

『そっか。アストレアは優しいな』

『…………優しく、なんて……』

 

 それきり二人の会話は途絶えた。

 だが、決して悪くない、焚き火のごとき緩やかで穏やかな空気に浸っていた。

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

 ──ひひいいぃぃいいぃんっ!!

 

 叫び声で目を覚ます。

 昔懐かしい記憶を見ていたアストレアは、静かに意識を覚醒させた。

 

「……な、に? どこ、ここ」

 

 まず、最初に感じたのは匂い。

 生臭く、刺激的で、されど嗅いだことがあるようでない不思議な匂い。どことなく胸が疼く、そんな匂いだった。

 

 次いで、飛び込んできたのは音。

 空気を裂く何かと、肌に叩きつけるような炸裂音。更に男の苦悶の声が混じり絶叫と化したそれは、まるで拷問でも行われているような恐ろしさだった。

 

 うたた寝から醒めたアストレアは、状況を確認しようとして──身体が拘束されていることに気がつく。

 

「っ!? う、ごけな──」

「──む。目が覚めたか」

 

 両手足を縛られ、椅子に括り付けられているアストレアにカルラが語りかける。

 

 慌てて視線を向ければ戦闘装束を身に纏ったカルラがいた。

 

「……どこよここ。あんたが居るなら悪いとこじゃないんでしょうけど」

「……思っていたより落ち着いているな。そなたのことだから、問答無用かと思ったが」

「問答無用って、なにが? そもそもこれ、どうい…………う……」

 

 カルラが黙って指差すので、そちらに視線を向ける。

 

 そこにいたのは──

 

「ほらほらッ! キビキビ歩きなさいっ! 出すもん出せなくしてやってもいいのよこっちはッ!! とっとと歩くっ、駆け足でぇっ!!」

「う、う゛も゛も゛も゛っ!!」

「あはっ♡ お馬さんみたい♡ ぶらぶらしててかわい〜♡ 姉さん姉さん、鞭入れてよ。早くしちゃおっ♡」

「え〜? しょうがないわねぇ……ふんっ!」

 

 バチィッ!!!

 カサカサカサッ!!

 

「ひ、ひひいいいぃんっ!!」

「ちょっフィンくん早過ぎっおちるおちる!! て、手足早っきもっ……虫みたい……」 

「ふ、ふはふ(すまん)……ふひ……」

「あははっ♡ お馬さんの才能あるね、お兄さん♡ えいえいっ♡」

「ひひんっ!」

「す、すっかり馬になりきってる……設定はどこに行ったのよ……」

「どっちでもいいんじゃない? なんかピクピクしてるし」

「ひひんっ! ひんひんっ!」

「黙りなさい駄馬がっ! 初心忘れべからずでしょッ! 馬なのか豚人なのかハッキリしなさい!」

「ひひいいいぃぃいいんっ!?」

「うーん、姉さんやっぱり愉しんでるよね?」

「た、楽しんでるわけないでしょ! 仕方なくよ、仕方なくっ」

「ほんとかなぁ……お兄さんどう思う?」

はほひふへふほほほふ(楽しんでると思う)

「だよね〜♡」

「ええいっ黙りなさいっ!」

「ひひんっ!」

 

「……………………」

 

「ふふっ、フィンが楽しそうでなによりだ。初めは無理しているのではないかと思ったが、まさか本当に、これほど鬱屈した欲望を抱えていたとは……。見たか、アストレア。これがフィンの秘密だ。フィンは、ドマゾでずっとああやって遊びたかったらしい。それなのに我らが女であったことであやつに我慢を強いてしまったのだ。それを見抜いたアリシア殿がフィンと関係を持ち、私も巻き込み、次はそなたら姉妹も共に足を踏み入れるのだ。ようやく、フィンに報いることが…………アストレア?」

 

「……………………」

 

「…………おお」

 

 アストレアは旅立った。

 目の前の光景に耐えきれず、あまりの出来事にキャパオーバーして、再度夢に落ちてしまった。

 

 それはもう、見事な白目であった。

 

「おおい、そなたら。アストレアがまた気を失ったぞ」

「え? あっ……ん、んんっ。そうなの。どうしましょっか」

「あはっ♡ 絶対忘れてたでしょ♡」

「ま、まぁ、熱が入ってたことは否定しないわ。フィンくんのためだもの、手は抜けないし……」

「う〜ん……まあそういうことにしておこっか。それでどうするの? このままじゃ埒が開かないよ?」

「ふむ……ここは一度、こやつ自身に少しずつ刺激を与えるのはどうだ? その姿はあまりにも刺激が強すぎるのだろう」

「しかしなぁ……意識のない女性を強引にというのは、ちょっと」

 

 猿轡を外したフィンが渋る。

 

「だが、今の状況はあまりにも酷い。冷静に考えて、こんなものを見せつけられて正気でいられる女はいないゆえ」

「普通に怖いもんね」

 

 アリーシャが真顔で同意する。

 四つん這いの男、鞭を手にしたエルフ、男に跨るロリエルフ、お馬さんごっこ……こんな光景を見せられて正気でいられる女性はいない。まず先に恐怖を感じ冷静さを失うのは間違いなかった。

 

「そもそも、フィンがマゾヒストだと聞いただけで気絶していたのだ。もっと緩やかな刺激から慣らしていくべきでは?」

「確かに……でもアリーシャは耐えられたわよ?」

「我々が思っているより繊細ということではないか。少なくとも想い人のこんな姿を見て正気でいられるほど図太くないのだろうて」

 

 カルラがペチペチと叩く。

 

「おひっ! ……ううむ、それでいいのか? 姉妹的にはどうなんだ。流石に、寝てる間にってのは……」

「……アストレアに慣れてもらわないと困るのよねぇ……」

「……(……当たり前のように会話してるけど、お兄さんの切り替え方イカれてるなぁ。よく姉さんは対応できるよね)」

 

 実の姉が感情を読み取る能力があるとカミングアウトして以降、アリーシャの姉に対する尊敬は高まっていくばかりだ。ただの会話ですらおかしいのに、内心まで含めてその異常さから目を逸さなかったアリシアには畏敬の念を抱かざるを得ない。

 

「ん? どしたのアリーシャ」

「んーん、なんでもない。それよりさ、見せつけがダメならやっぱり女の悦びを教えてあげるしかないんじゃない? ぐちゃぐちゃにしてからゆっくりお兄さんのことを刻むのがいいと思うな♡」

「そうねぇ……そうするしかないか。攻撃してこなかったんだし、そうする暇も与えず攻めればいけるかしら」

「(……ううむ、酷すぎる会話だ。私は一体なにをしているのだろう。父上、これで良いのでしょうか。致命的に間違えている気がします……正室や側室のやり方、聞いておけばよかったかな……)」

 

 地元に帰ったら聞いておこう──そんなことを考えつつ、カルラはアストレアの拘束を外し始める。

 

「それじゃちょっと片付けましょっか。シーツも替えて掃除も……あ、フィンくんシャワーと歯磨きしてきて。私も後から行くから」

「わかった。手伝わなくて大丈夫か?」

「カルラとするから大丈夫。アリーシャ、フィンくんと一緒にバケツ用意してきて」

「は〜い♡」

 

 先程までの狂騒は一体どこへ行ったのか、それぞれがスッと立ち上がりキビキビ行動していく。

 

 そんな光景もまた、アストレアがみれば正気を失うに相応しいものであるのだが、強引に慣れてしまった三人はなんの感慨も抱かず行動するのだった。

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