ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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114 四度目のわからせ(マゾバレ)

「うーん、うーん……ふぃん……あ、ああっ、うああっ……むにゃ……」

「……見事に魘されておるな」

「き、効きすぎたかしら……?」

 

 アストレアの気絶から、一時間──【暴風】と畏れられるハイエルフの次女は、未だ目を覚まさずにいた。

 

 魘されている女──二人にとっては姉妹で二人にとっては仲間──の寝込みを襲うのは流石にということでそういう雰囲気でもなくなり、全員服を着てお茶を持ち込み机も持ち込んでアストレアの寝顔を見守っていた。

 

「よほどショックだったのだろうな。愛する男の情けなく、信じ難い姿……それも四つん這いで馬の真似をして走り回っている姿を見せられて正気でいられると思った我らの落ち度だ」

「うっ……で、でも二人はフィンくんのマゾっ気を見せても何とかなったじゃない!」

「あのくらいなら可愛いものだ。……いや、別に可愛くはないが。狂気しか感じなかったが、まだ混乱する程度で済んだ。それがどうだ。あれを初見で見せられれば私でも引いていた」

「こっちの許容範囲がおかしくなってただけだもんね。私達のやり方、正しくないよ♡」

「うぐぐっ……」

 

 暗に『お前ちょっとおかしくなってるぞ』と言われたアリシアは涙目になった。

 

「だ、だってしょうがないでしょ! カルラも何とかなったしアリーシャも何とかなった! 一番リスクのある妹を懐柔するのに一番成功率の高い方法を選ぶのは当然じゃない……!」

「まぁ……それは、そうなのだが……」

「こっちだって真剣なのよ! ワンミスで妹が殺しに来るッ、そんな状況に追い込まれて、なにをしてでも回避しようして何が悪いのよぉっ! う、ううっ、ぐすっ……」

「泣いちゃった……」

 

 長姉の哀れな姿にアリーシャもなんとも言えない顔になる。

 

「ま、まあまあ……元を辿ればマゾの俺が悪いんだ。あまりアリシアを責めないでくれ」

「ふぃ、フィンくぅん……」

「あはっ♡ そういうところだぞ、お兄さん」

「そなたら……」

 

 抱き着いたアリシアの頭を撫でるフィンに呆れる二人だったが、いつまでもそうしてはいられないと意識を切り替え、今後の方針を懸念する。

 

「どうする? このまま夜まで待つわけにもいかん。かといって放置すれば正気に戻ったアストレアがアリシア殿を襲うかもしれん」

「そっ……それだけは、何としてでも……」

「……というか、襲う余裕なんてあるのか? 俺としてはこのままフラッとどこかに消えてしまいそうだからちゃんと話し合っておきたいんだが」

「……襲わぬと断言は出来んが、先の調子ならばなんとかなるやもしれん」

「思ったより理性あったもんね」

「うむ。私が居るからマズい出来事ではないと判断出来たのだ、問答無用でぶっ殺すとはならんだろう」

 

 アストレアに諸々の事情を伝える際に最も警戒されていたのは、何よりもその圧倒的なまでの暴力だ。

 

 指一本で首都を滅ぼせる力が個人に向けられればひとたまりもない。

 好きな男が実の姉に寝取られて(※そもそも寝ていない)正気でいるとは誰も思えなかったのだ。少なくとも暴れるだろうというのが大方の予想であり、連続で気絶するのならば話が変わってくる。

 

「攻撃的にならぬと言うのなら、フィン。そなたに任せたい気持ちはある」

「大丈夫? お兄さんに攻撃しない?」

「今更せぬよ。どちらかといえばそなたら姉妹を心配した方がよい」

「あ、やっぱりそうなんだ」

 

 怯えるアリシアとは違い、アリーシャはあっけらかんとしている。

 

 単に『一線超えちゃった以上はもうどうしようもないじゃんね』と言う諦観を抱いているだけなのだが、カルラからすれば『度胸があるな』と思える態度だった。

 

「じゃあお兄さんに任せて……でも一番大事なのはお兄さんがマゾだってことを理解させることだけど、大丈夫そ?」

「むう……そこよな。フィンがマゾである、これを飲み込んでくれぬことには……」

「やっぱり罵倒くらいから始めるべきだと思うけど、アストレア姉さんがそれを受け入れるかなぁ」

「……そのまま正気を失って【星天】ホームを襲撃するかもしれん……」

「そうなったら世界の終わりだね♡」

「笑えぬ」

 

 はあ、とカルラがため息を吐く。

 

「……フィン、そなたはどう思う?」

「ああ。やはりここは、正面からぶつかるしかないと思う。結局のところ俺はマゾで気持ち悪い性癖の持ち主だって事実は変わらない。ここを受け入れてもらえないことには、これから先同じようにやっていくことは出来ないだろ」

「オ〜……そう、ねぇ……」

 

 つい先程までフィンに縋り付いていたアリシアはこめかみをピクピクと痙攣させながら同意する。

 

「それに、アストレアが俺と……そういう関係になりたいと思わない可能性の方が高い。ついさっきの出来事も俺が気持ち悪すぎて意識を失ったとすれば、そんな男に抱かれたいと思うか?」

「……普通はそうよねぇ……」

「そなたでなければなぁ……」

「あはっ♡ 鈍いなぁ……」

 

 今度はフィンを除いた三人がため息を吐いた。

 

「いやいや。常識的に考えてくれ。複数の女性と男で強引に行為に引き込もうとして、縛ってすらいたんだ。こんなことしてきた奴はたとえパーティーメンバーだろうと嫌なんじゃないか?」

「まあ、常識的にはね。フィンくんがされたらどう思う?」

「そんなの最高に決まってる! カルラやアリシア、アリーシャが縛り上げて無力化された俺の目の前で知らん男と交わるんだろ? 最高の寝取られだ!! 見てるだけで興奮するし何度も絶頂できる! 勿論途中で『情けないお兄さん♡』とか『そなたはまこと情けないオスだな♡』とか『フィンくんよりずっとすごいのぉ!』とか言ってくれたらもう、もう俺はっ!!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 悲痛な沈黙があった。

 アリーシャは真顔で距離を取り、カルラはジト目で見つめ、アリシアはドン引き、大声で目を覚ましたアストレアは横になったままパクパクと口を開閉させる。

 

「それでいてパーティー乗っ取りとかしてくれたらもう文句など言えるはずもない。盾役としてボロ雑巾のように奴隷扱いを受ける俺を尻目に、強い男が後ろでみんなとイチャイチャして嘲笑いながら俺の苦戦していたモンスターを一撃で葬り『やっぱりあんな雑魚と違うわね、大好きよ』とか言って目の前で…………うほほほっ!! たっ、たまらん!!」

「……アリシア姉さん、よく一人でなんとかしようとしたね……」

「わ、……わかってくれる……?」

「…………フィン。何か、辛いことがあって耐えきれなくなった時、自棄を起こす前に相談するのだぞ」

「ん? ああ、まあ、辛いことも大概気持ちいいから心配しなくて大丈夫だ。ありがとな」

「フゥ〜……スゥー……──そうか……」

 

 身内に無敵の怪物がいたことを悟り、カルラは頭を抱えてへたり込んだ。

 

「か、カルラっ! 気を確かに、まだまだ序の口よ!」

「ふ、ふふ……トドメか?」

「え? いや、ただの事実だけど」

「そういうことだ。カルラ、俺のことが嫌いになったか?」

「……はぁ。驚きはするが、嫌いになどなったりせんよ。寧ろ、やっと本当のそなたを見せてもらえて、嬉しさすらある」

 

 とはいえ、限度はあるが。

 そう続けたい言葉を飲み込んだ。

 

「しかし、なぁ……これは由々しき問題かもしれん」

「問題……? ありすぎてわかんないけど」

「いや、なに。フィンに思い入れのある人間ほど、本当の姿を受け入れるのに時間を要する。マリアンヌやアリアンロッド殿が聞いた時、どうなるのか想像もつかん」

「…………少なくとも、こんなもんじゃないでしょうね……」

 

 しゃがれた声でアストレアが呟きながら、身を起こす。

 

「あ、アストレアッ!? こっ、これはそのっ、さっきのはえっと違くて! フィンくんがマゾだからそう、その欲望を満たしてあげるために仕方なくっ……」

「……はあぁ。姉さん、そんなに慌てなくてもちゃんと聞くから。なんとなく、なにがあったのか理解できたし」

 

(──フィンの秘密を知った姉さんが、誰にも言えないから少しくらい肩代わりしようとしたらなし崩し的にしちゃった。そんなところでしょうね)

 

「おお……アストレア、我らのことを殺そうとしたりはせぬか?」

「しないわよ。これでフィンを複数人で囲って好き放題してるとかならまだしも…………さっきの感じから察するに、フィンが好き放題してるわよね……」

「……うむ」

「うん♡」

「そうなのよ……」

「ははっ。暴いたアリシアが悪い」

「暴いてないし開き直んなこのマゾっ!!」

「おほほっ!」

 

 目の前で背中をつねられて悦ぶフィンを見て、アストレアは顔を両手で覆い隠す。

 

「うぁぁぁ…………夢じゃ、ないのね……」

「……ただのマゾなら、それでいいんだけど。それだけじゃないのよね」

「そうだよねぇ。だってお兄さん、マゾとかどうとか関係なしに良い人だし、自己肯定感全くないし、自己評価も終わってるもん」

「ただの事実だ。客観的に自分を評価出来ない奴が金等級冒険者になれるわけがないだろ」

「…………うぐ」

 

 そうなってしまった理由に心当たりのあるアストレアは小さく呻いた。

 

 これまで徹底的に周囲と比べられてきたフィン。

 歪んでしまったのは他でもない【払暁】の責任でもある。

 それを知れば、フィンがマゾだから嫌うだとか、そんなことは口が裂けても言えない。寧ろ、本人が悦べるから耐えられている。

 

 同様の事柄について数日前から悩んでいたアストレアはそのことに気がついてしまった。

 

(…………ああ。フィンは……だから、耐えられたのね……)

 

 それならば──自分に、フィンの性癖について口を出す権利はない。

 寧ろ、フィンがそうであったからこそ、今ここに至るまで【払暁】は成立していたのだ。

 

(私の言葉も、私の攻撃も……だから耐えられただけで……それは、つまり……)

 

 気を失う前の行為を思い出す。

 アレほど尊厳を失った行為で興奮できる。

 逆に言えば、自分のこれまでの言動は、それほどまでに一人の男の自尊心を貶めたのだ。それを考えると、ぎゅっと胸が苦しくなる。

 

「……ごめん、フィン……」

「い、いや。こっちこそ調子に乗ってすまん……」

「ごめん……ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい……」

「エッ……俺の方こそ、気持ち悪くてごめん。生きててすまん……」

「違っ、ちがうっ、私が、私たちがっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ、ごめんなさい! フィンっ!」

 

 膝を抱え泣き出してしまったアストレア。

 慌ててあやすフィンに対し、アリーシャは笑顔で言う。

 

「あーあ♡ お兄さん泣かせた〜、ひど〜い♡」

「はぁ……そなた、もっと自分を大事に見積もる癖をつけろ。でないと、我らの心身が持たぬ」

「……それで治るようなら、私は苦労してないのよねぇ……」

「ム、ムゥ。だが、事実だ」

「い、言い方ってもんがあるでしょ。フィンくんが苦しめられてたことに気がついた女の子に『生きててすまん』は酷いんじゃないかしら」

「そもそも苦しめられてないからなぁ……」

「ン、ン、ン、ン〜〜……! カルラ!」

「すまぬ、私にはどうすることもできん」

「きいいいぃぃぃぃっ! ヴァシリ! 恨むわよっ!」

 

 いずれマゾバレさせて復讐してやる──アリシアがそんなほの暗い復讐心を抱いたところで、再度アリーシャが口を挟んだ。

 

「それよりも、今日はここでお開きでいいんじゃない?」

「うん? ……そうだな。悪くないか」

「アストレア姉さんはお兄さんに任せて、二人で話し合ってもらお♡ どうせお兄さんとの会話でわけわかんない部分出てくるだろうし、それに関しては明日もう一回お茶会すれば擦り合わせできるじゃん。悪い記憶で終わるより、綺麗な思い出にしてあげたいからさ」

「……悪かったわね。信じてあげられなくて」

 

 アリシアはバツの悪い顔で呟く。

 もっと妹のことを信じてあげればよかった。

 確かに妹は実力者で、自分でも路傍の石のように片付けられるかも知れない。フィンと肉体関係を持ってしまったのは事故だけど、間違いなく寝取った(※寝ていない)のは自分の方だ。

 

 だから害されると思った。

 ただ──相手は妹で、血の繋がった姉妹。

 それを一方的に殺されるかもで巻き込もうとしたことへの罪悪感が、今のアリシアの胸中を占めている。

 

 そんな彼女の葛藤を横目に、アリーシャは平然と言い放った。

 

「え? いや、それはしょうがないと思うけど」

「……エッ」

「そうだな。アストレアのフィンに対する執着は悍ましさすら感じるものがあったがゆえ、最悪を想像するに越したことはないだろう」

「……あんた達、本人の前で好き放題言ってんじゃないわよ」

「ははは、好いた男の子孫を見守ることで最後には自分が勝つのだと宣言する女がまともなわけあるまい」

 

 カルラの暴露に場の空気が凍った。

 

 アリシアはゲンナリとした顔になり、アリーシャは真顔で更に距離をとった。

 

「…………姉さん、それは流石に……拗らせすぎじゃない?」

「あんた、それは……流石に、ねぇ?」

「どうせ我らの子孫でフィンに似た男が生まれたら幼い頃から親身になって性癖壊して己を刻んでやろうとでも思っていたのだろう? ん? どうだアストレア」

「な、ば、はあっ!? ……う、う、う、ううううぅうぅっ!! こっ、殺せっ! いっそ殺しなさいよおおぉっ!!」

 

 先程とは全く違う理由でベッドに横たわり丸まった。

 

「…………えっと、フィンくん。アストレアのこと任せてもいいかしら?」

「お、おう。いいのか?」

「お兄さん以外いないよね♡ うちの変態姉さん達のこと、よろしくお願いします♡」

「……今なんて言った? アリーシャ」

「マリアンヌには私から良い感じに誤魔化しておく。誤解なきように頼むぞ」

「アリーシャ、あんたちょっと待ちなさい。ちょっと。こらっ!」

 

 そそくさと三人が退散していく。

 寝室に五人も集まって騒いでいたがゆえの熱気があっという間に過ぎ去り、部屋には鍵と二人の男女だけが残された。

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