ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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117 〈転生者〉②

 

「…………王都、物件ありえねーくらい高くね?」

「そりゃ一等区なんて狙ったらそうさ。身の丈にあった場所にするべきだと何度も言ったじゃないか。アタシらは財布の紐ガチガチの方針なんだから当然さね」

 

 しょぼくれるアニカにドレイクが呆れた表情で告げる。

 

「でもよー、これからしばらくやってく拠点だぞ。これまでと違って腰を据えて活動してくんだから、それなり以上の住居選びたいじゃんか」

「ハァ……王都(ここ)に永住するならそれでいいけどね。そうじゃないだろ?」

「そうだけどさぁ……」

 

 唇を尖らせ不満そうな様子を見せるものの、正論だと思ったのか、それ以上は反論しなかった。

 

「でも、アニカの言うこともわかります。一等区はまだしも、二等区でもかなりの値段になります。私たちの目標を考慮すると、中途半端な拠点だとかえって効率が悪くなるかと。ここはいっそのこと資金を絞り出して最高級の設備を用意するべきです」

 

 酒場だと言うのに三角帽子を被ったままのカトリーナが言う。

 

 しかし片手に持ったエールが古風な魔女という印象を打ち消している。

 キリッとした表情でぐびぐび酒を飲む彼女の姿に呆れつつ、ドレイクがまたも答えた。

 

「あのねぇ。あんたの飲んでるそれだって安くないんだ。一杯銅貨五枚。毎日飲んだら一ヶ月で金貨一枚と銀貨五十枚だ」

「んぐっ……! しょ、しょうがないじゃないですか。美味しいんですから!」

「初めて文明に触れた田舎者かいあんたは!」

「そ、そうですよ! 悪いですか!」

 

(うあー……ま、まさか、カトリーナがここまでどハマりするとは……)

 

 〈転生者〉でありこの世界の秘密を知る一人であるアニカは、己の見立てが甘かったのだとここ数週間で思い知らされていた。

 

 これまで辺境や遺跡を巡り仲間と武器・アイテムなんかを収集してきた。

 旅自体はとても順調で、時折敗北一歩手前まで追い込まれ陵辱されかける時もあったが、仲間達と手を取り合いなんとかここまでやってきた。

 

 元々はなんでもない農家の出身であるアニカにとって、この世界を生き抜くには己の力と記憶だけが頼りだった。

 

 それは金等級冒険者となった今でも変わらない。

 〈知識〉と起きた出来事を考慮し、もう一人の転生者がいるであろう王都にやってきたのだが……

 

(あ、甘かった……そりゃ、田舎から出てきたらハマってもおかしくねぇ……!)

 

 トレジャーハンターとして活動していたドレイクはともかく、魔女の里で生まれ育ったカトリーナにとって人類文明は非常に輝かしいものだった。生まれて初めて里以外の地に足を踏み入れた喜び、未知を知ること……それが彼女にとってのモチベーションである。

 

 これまで立ち寄った街でも散財は目立ったが、その分稼いでいたので問題なかった。

 

 問題は──王都にやってきて、拠点も得られていないというのに豪遊していることだった。

 

「ンフフー……お酒っていいですねぇ。嫌なことも面倒なことも、全部パーって消えちゃいますから。知ってますかドレイクさん。この街、すごい綺麗で美味しいスイーツがたくさんあるんですよ。値段は張りますけど、あれにはそれだけの価値があります。人類の叡智、集合知。素晴らしいです。閉じこもってる辺鄙な田舎の里にも見習ってほしいです」

「ああ……アニカ、どうにかしておくれよ」

「無茶言うな……」

「あ、すみませんおかわりください」

 

 平然とおかわりを頼んだカトリーナを止めることかなわず、二人はため息を漏らす。

 

(……けど実際、いい加減決めねえとまずい。それなりの安全を買うって意味で高い宿選んでるけどこのままじゃ予算が尽きちまう。かといってカトリーヌの言ったことも丸々嘘じゃない。適当な物件選んで事故ることは避けてぇ……あーくそ。王都に伝手が一個もねえんだよなぁ)

 

 冒険者ギルドを通して物件の融通を願ってはいるが芳しくない。

 

 元々金等級冒険者の多い街だ。

 冒険者にとっての本山でもある王都。

 そこで好き放題拠点を手に入れられるのは余程強力な伝手があるか、ギルド側が特別扱いせねばならないような怪物だけ。

 

 彼女らも実力者であり、〈深淵の森〉を目指して白金等級の座を狙っているが、その実力を認められるにはまだ時間がかかる。フィンのようになんでも受けますというスタンスならまだしも、安全を確保しつつ将来のために資産作りますと言うのが彼女らの目的だ。

 

 ギルドからの無茶振りに応えることもない。

 必然的に優先はされなくなっていく。

 何より、【星天】が合流して以降冒険者ギルドの戦力は増し続けている。教団との提携に王族との密接なパイプ形成、魔王軍討伐の功績による大規模昇格。

 

 一言で言えば、時期が悪かった。

 

(くっそ〜……! 転生者がどこにいるのかは多分わかったけど接触の方法がねえし! 勇者が所属してる【星天】と金等級最強って言われてる【払暁】のどっちかだ。それはわかる。そこまでしかわかんねーんだよ、全員怪しいから)

 

 強いて言えば原作に出てきているやつは怪しくないと言えるが、半分くらいは登場していないため絞りきれない。

 

 なんなら勇者に転生してる可能性もある。

 この世界の勇者は原作開始前から活動しているからだ。

 

(あー……俺の生まれが貴族とかならなぁ。もう少し探りやすかったのに……)

 

「……おい。あれ」

「マジかよ、フルメンバーじゃねえか」

 

「……あん?」

 

 周囲のざわめきを耳にしたアニカは思考を打ち切った。

 

 他のパーティーメンバーも皆黙り込み、視線を酒場の入り口へと向けている。

 

 冒険者ギルドに併設された酒場であり、ギルドに用事のある者は大体がここを訪れる。

 

 日によっては白金等級冒険者などが足を踏み入れることがあり、そういった時は大抵奇妙な静けさが訪れるものだが──今日は、ざわめきが止まらなかった。

 

「…………あれが、白金等級冒険者ですか」

 

 酒に酔ったカトリーナが呟く。

 

 白金等級冒険者パーティー【星天】。

【天聖】、【勇者】、【魔弓の射手】に加え二人の金等級冒険者が所属する冒険者ギルドでも随一のパーティー。

 

 それに続くは金等級冒険者最強のパーティーと謳われる【払暁】。【聖女】、【剣聖】、【暴風】、そして、金等級冒険者唯一の盾役であるフィン・デビュラ。

 

 現在王都にて最も勢いのある一勢である。

 

 当然、冒険者ギルド内でもその噂は十分に出回っている。

 

「……噂をすればなんとやら、か」

「……へぇ。あいつらに〈転生者〉がいるのかい?」

「おれの見立てだとな。怪しいのは【天聖】あたりだと思ってるんだが、正直絞りきれてねえ。全員怪しい」

「……なんだいそりゃ」

「あそこだけ〈知識〉から離れすぎなんだよ」

 

 ガリガリと髪を掻いてアニカが吐き捨てる。

 

「起きるはずの出来事が起きてないし、起きるべき出来事で変化がある。だから誰がどうだって絞りきれねーんだよなぁ……」

「へぇ、面白い話だ」

「────。」

 

 テーブルの空気が凍りついた。

 

 目を見開いたアニカ。

 剣に手をかけるドレイク。

 ブフッとエールを吹き出したカトリーナ。

 無表情のまま食事に手をつける音楽家。

 

 目を見開いたまま固まったアニカの後ろで、褐色のダークエルフ──ヴァシリは話を続ける。

 

「いやなに、久しく聞いてない単語が聞こえてね。君は……金等級冒険者のアニカ、だったか」

「っ、知ってんのかよ……」

「有望な若者は覚えることにしてるのさ。権力ってのは使ってなんぼだしね。それよりアニカくん、面白い話をしていたな。〈転生者〉、だったかい?」

 

 そう言って、ヴァシリはニコリと微笑んだ。

 

「悪いようにはしない。ちょっと話さないか?」

 

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