ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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118 〈転生者〉③

 冒険者ギルド本部にある応接室。

 防音の施されたここではよく秘密の会談が行われているが、本日もその例に漏れることなく、密談が行われていた。

 

「──改めて名乗ろう。私はヴァシリ・ヴァルバロッサ。白金等級冒険者パーティー【星天】のリーダーをやらせてもらっているよ」

「あー……おれは金等級冒険者パーティー【超滅(ちょうめつ)】のリーダー、アニカだ」

「アニカくんと呼ばせてもらうよ。遺跡巡りはもうやめたのかい?」

「あーあー、目的は達成したからな。今は王都で人探し中だ」

「そうかそうか。人探しって言うのは中々うまくいかないものでね。ギリギリになって急に見つかるものさ。君も気長にするといい」

「……ありがたく受け取っとく」

 

(…………これが、生粋の白金等級冒険者かよ)

 

 表面上は冷静に対応している様に振舞いながら、アニカは内心動揺していた。

 

 アニカ達【超滅】も高い実力を持っている。

 これまで収集してきたアイテムや武具を使えば白金等級冒険者に匹敵する力を発揮できるだろう。アニカは己の力不足を外付けの力で強引に解決する道を選び、その為に集められたのが【超滅】のメンバーだ。

 

 ゆえに。

 素の状態、ありのままの力で見るとアニカらは金等級冒険者上位が精々だ。

 

 そんな彼女だからこそ肌で伝わる圧。

 ある程度の実力が無ければ感じることすら出来ないような威圧感。

 気を抜けば潰される、そんな感覚すら抱いた。

 

「それにしても……随分愉快なメンバーだ」

 

 そう言いながらヴァシリは一枚の紙を手に取る。

 

 それは【超越】に関する情報が纏められた資料だった。

 

「カトリーナは魔女の里出身、トレジャーハンターのドレイクに音楽家のミューズ……そして、村娘のアニカ。面白い、実に面白いよ」

「……巡り合わせが良かったんだ」

「はは、巡り合わせか」

「……あーもう。悪かったって。意図的だよ」

 

 ブスッと頬を膨らませて敗北宣言。

 

 そもそも、初めから勝ち目など無い。

 こちらの会話の中で最も知られてはいけない単語を的確に聞かれ、応接室に連れ込まれているのだ。逃げることも出来なければ誤魔化すことも出来ない状況であり、あの単語を聞かれた時点で、あの単語を不用意に口にした時点でアニカの負けだった。

 

「〈転生者〉なのか?」

 

 単刀直入にアニカが問う。

 それに対しヴァシリはハッキリと答えた。

 

「いいや。私は(・・)〈転生者〉じゃない」

「……本当か? ぶっちゃけ一番怪しいと思ってたんだけど」

「そうやって動いてたのは否定しないが私ではないよ」

 

(……嘘? いや、嘘を吐く理由がねえ。それともあるのか、嘘で誤魔化す理由が。わからん。原作をここまで破壊しといて今更逃げる……? ……わかんねぇなぁ……)

 

「なに、単純な話さ。私には〈知識〉を授けてくれた友人が居てね」

「あ~……なるほど、そっちのパターンか」

「なんでも私は〈原作〉で死ぬらしいじゃないか。そうなってたまるかと数千年間色々やってきた結果、今ここに至るって訳だ」

「ほ~……あ? ん? じゃあなんだ、その転生者もダークエルフなのか」

「いや、彼は人だった。もうとっくの昔に死んだよ」

 

(……こんがらがって来たな。〈転生者〉はこの中にはいなくて、数千年前に居た誰かがヴァシリに知識を渡した。それから数千年運命を覆す為に色々やった結果、魔王軍の尖兵による地獄みたいなプロローグが起きなかった。あそこが転換点だとすると……)

 

 アニカは視線を横に向ける。

 

 応接室に着いて来たのは【星天】からアリア、アリシア。

 僅か二人に絞ったのは情報を絞る目的と、アウェーにし過ぎないように、という気遣いだった。

 

(疑問が残る。あのクソチート野郎をぶっ殺したのは【聖撃の聖女】マリアンヌだ。じゃあ、ヴァシリはここにも介入してたのか? そうじゃなきゃ無理があるだろ)

 

 この世界における悲劇の始まりでもある、魔王軍の尖兵による虐殺。

 

 それと同時に魔王軍が大陸を侵略し始め、やがて【勇者】ことアリアンロッドは苛烈な戦いに身を投じていく……それがこの、〈リョナエロ! ~強い女達が凌辱NTRされる世界~〉だった。

 

「……あー、まず前提として、おれからあんたらに対する敵意は一切ない。おれは〈転生者〉だけど、この知識を使ってやってきたことは全て生存確率を高めるためのことだ」

「うん。この世界のことを知っていればそうするだろうね」

「あ、そこまで知ってんだ」

「リョナエロゲだろ? わかるとも」

「わからないで欲しかったなぁ」

 

 ため息交じりのアニカに、ヴァシリは苦笑を溢す。

 

「私も最初に聞かされた時は『なにをバカなことを』と思ったが、〈知識〉は本物だった。エルフの里に聞かされていた通りの奴が生まれた時なんかは、絶望したものだよ」

「うわぁ……」

「とりあえず〈聖剣〉を確保して、【勇者】を探して……うまく行ったのは偶然さ。私が何かをしたというより、教え子が優秀だったに過ぎない」

「教え子? あんたが何とかしたわけじゃないのか?」

「ああ。アリアはもちろんだが、運命を超えたのはフィンのお陰だよ」

 

 誇らしげな表情で語るヴァシリ。

 それを見て、とても嘘を言っている様に見えなかったアニカは混乱する。

 

(いや、いや……そんな簡単に倒せる相手じゃないって。そこら辺の人間が頑張って倒せました、なんて相手じゃないんだぞ?)

 

 つ……と冷や汗が流れる。

 

 前世のゲームにおける尖兵は、終盤まで撃破不可能の強力なユニットだった。

 

 それこそ、〈聖剣〉を手にした勇者の攻撃しか届かなかった。

 強さという点で言えば魔王には劣るが、その異常なまでの防御力。

 魔法も剣も何一つ通らない、理が違うとすら思わされる特性により、人類側の強者は悉く討ち取られた。時間が経過すればするほど多くのキャラクターが敗北し、次から次へとCGが流れていく。

 仲間にしなかったキャラクターがどんどん減っていく。

 国が滅亡し、行けるエリアも制限されていく。

 プレイヤー視点でも「滅亡まで突き進んでいる」というのがひしひしと伝わり、絶望を与えて来るこのゲーム最強の敵だった。

 

「尖兵を倒したのは、【聖撃の聖女】だろ? ハイレンディーヌが〈転生者〉の可能性は?」

「ないね。どちらかと言えば、私は〈知識〉にない何かが関係してると睨んでる」

「……DLCか?」

「私に〈知識〉を与えた奴はこうも言っていた。『DLCとか新作が出てたら俺にはわからん』と」

「あー、ああー! そうか、そういうことね! じゃあなんだ、聖女関係は偶然だったのかよ!?」

「私からすると聖女関係というのがよくわからないんだが……」

 

(マジかよ、知らずに正解引いたのかよ……)

 

 そのあまりの豪運っぷりにあんぐりと口を開きっぱなしにする。

 

「……あの尖兵には〈聖剣〉しか効かない。ただ、DLCの聖女パッチで『神属性』ってのが増えたんだ」

「神属性……」

「DLC第一弾、滅びの神々と救世の聖女。七人(・・)の聖女と騎士が追加されて、勇者を中心に物語が展開される──筈なんだけどなぁ……」

「……もしかして、もう崩壊してるのか?」

「俺の知ってる限りだと、そもそも八人も聖女はいないんだよ」

 

 奇妙な沈黙が場に満ちる。

 

「……話を戻す。『神属性』の魔法は誰でも使えるわけじゃなくて、聖女の中でも一握りしか使えてなかった。てか、実質二人だけだ」

「二人……」

「治癒系の魔法に長けた聖女。あと、使う魔法の全てが神属性魔法になるチート聖女の二人だな」

「……随分大味なバランスだな」

「エロCGは増やしたかったけど調整するのめんどくさかったんだろ。実際この二人だけで全部片付いたからな」

「…………なるほど、なるほど。他には?」

「DLCで追加されたストーリーは魔王軍の残党が絡みつつ、〈深淵の森〉に焦点が当たってく。本編だとただ単純にエンドコンテンツとして実装されてたけど、DLCで拡張されたんだ。あ、そうだ。まだ祠は触ってないよな?」

「祠? 見たこともないが」

「あの祠を触ると森全体の難易度が上がる仕様でさ。尖兵の使い回し以外にも出てくるようになるから触んない方がいいぜ。地獄になる」

 

(俺たちじゃ勝ち目なんてないから初めから狙ってなかったしな。くそ、もうちょいちゃんと覚えておくべきだったか?)

 

 アニカが後悔を募らせている間、ヴァシリは目を瞑り思案する。

 

(神属性に、本来の聖女の数。祠? 聞いたこと見たこともない。私が居た頃からあったのか? 更に言えば、題目の滅びの神々というのも気になる。正に今、喉から手が出るほど欲しい情報だ)

 

 リョナエロゲやでぃーえるしーという謎単語での会話が通じた時点で、ヴァシリは彼女を〈転生者〉と認めた。

 

 更に言えば女の身であり恐怖に怯えつつもここまで生きてきたのも嘘ではないだろうと推測する。この世界の真実を知りながら生まれ落ちる絶望を抱えた男のことを知っているから、それを嘘だと切り捨てる気にはならなかった。

 

(ヨハン。君は、生まれるのが早すぎた……)

 

「……【星天】のリーダーとして、【超滅】に対してクエストを出そう。クエスト内容は、〈深淵の森〉に関する調査・攻略への協力。期間は無指定。報酬は私から出す。どうかな?」

「……マジで? 言っちゃなんだけど、俺ってかなり怪しくない?」

「〈転生者〉には気をつけろとは言われたけど、君、特別な力とかあるの?」

「……あったら苦労してねーよ」

「だろうねぇ。なんだっけ、魅了の魔眼とか? そういうの持ってる場合があるとは聞かされているから常に警戒はしてるよ」

「お、おお。そこら辺も聞いてんだ…………断る理由はないけど、どう思う?」

 

 アニカはそこで、黙っていた仲間へと問いかけた。

 

「アタシはあんたに従うよ。ここまでやってこれたのはアニカが居たからだ。今更疑わないよ」

「私も、アニカにお任せします。話の半分くらいは理解できませんでしたから」

「……いーよ。任せる」

「……つーわけだ。【超滅】は【星天】の要請を受ける。これからよろしく頼むぜ、【聖天】」

「こちらこそ、よろしく頼むよ。〈転生者〉」

 

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