アニカとの会談を終えたヴァシリは、早々に他メンバーを応接室へと呼び寄せた。
「──というわけで、これから協力してもらうことになった【超滅】の皆さんだ」
「金等級冒険者パーティー【超滅】のリーダーをやらせてもらってる、アニカだ。よろしくな!」
青髪の少女が朗らかに告げる。
それに続いて、橙色の長髪を持った女性が名乗った。
「アタシはドレイク。元トレジャーハンターで、その時にアニカに誘われて冒険者になった。よろしく頼むよ」
「へぇ……遺跡巡りしてたの?」
「そうは言っても、そっちには負けるよ。アタシは精々中規模遺跡程度で、アンタらの様に禁域にまで踏み込んだことはなかった。パーティーが揃ってやっと挑戦し始めたってレベルさね」
ドレイクは苦笑混じりに告げた。
【星天】はヴァシリ主導で各地の遺跡を攻略して回っていたことがある。
それはヨハンの残した〈知識〉に基づくものであり、彼女らが運命を乗り越えるための試練として世界に設置されたダンジョンだ。強くなる為に潜らない手はない。そう判断したからこそ、ヴァシリは積極的に世界各地を旅して巡った。
全ては生き残る為に。
当然、この世界に生きる者にとっては神々の遺した何かであり、踏み込めば命はないと畏れられている。そんな場所に軽々しく足を踏み入れて次から次へと踏破していった白金等級冒険者──ドレイクからすれば、命知らずの怪物達としか言いようがなかった。
「え~? 私からすると遺跡に一人で潜ってることの方が凄いと思うけど……」
「ああ……確かに、あんな場所に一人で入るとかあんまり考えたくないわね」
アリアの言葉にアリシアも同意する。
【星天】には何と言ってもヴァシリが居た。
アイテムボックス、つまりは無限ストレージがあるからこそ、彼女たちは禁域と畏れられる地に足を踏み入れることを可能とした。
食料には事欠かず、ポーションも切れる心配はない。
野営地の構築も容易であり、それらで消耗した品も街に戻ればすぐに補充できる。いつモンスターがやってくるかもわからない遺跡内で一人睡眠や食事をとり、消耗しながら宝を探し当てる。
手厚いサポートがあったからこそ、その難しさを彼女らは理解できる。
「な、なんだいまったく。おだてたって何も出ないよ」
やや照れた様子で下がるドレイクを微笑ましく見つつ、ヴァシリは次を促した。
「私はカトリーナ。魔女の里から出てきまして、今は冒険者の一人です。未熟者ですが、よろしくお願いします」
三角帽子に古風なローブ。
カトリーナの名乗りを聞いて疑問符を浮かべた者が殆どだが、ヴァシリが口を開く。
「魔女の里は、ま~……結構デリケートでね。マリアンヌくんはわかってるんじゃないか?」
「……ええ、まあ。セラフィーヌ様に比べれば未熟ですが、それなりの教育は受けてますので」
「聖女様、お気遣いありがたく。里の者はともかく、私個人に恨みはございません」
エスペランサ教は、女神エスペランサを唯一神としている。
故に他の神の存在を許容せず、全て邪教だと切り捨てた。
それはかつて聖法国が建国された時から一切変わらない、彼らの法である。
「それに、私は神への信仰よりもヒトの社会を信奉しております」
「それに関しちゃおれも保証する。なんてったって、軍資金全部食い潰す勢いで散在してるからな」
「……金等級冒険者パーティーの用意した軍資金を?」
「金等級冒険者パーティーの用意した軍資金を、だ」
ため息を吐くアニカに、マリアンヌはゾッとした。
パーティーの金勘定を任されている彼女は、金等級冒険者パーティーの金の動きというものをよく理解している。基本的に〈不浄領域〉に赴いてばかりでクエスト報酬による資金獲得が主な【払暁】は、一般的なパーティーよりも少ない方だと言える。
それでもなお、一等地の拠点を構えて税を支払い設備に投資しても余裕があるのだ。
金等級冒険者パーティーの資産とは途方もない価値がある。
それを食い潰すような散財──恐ろしかった。
「そんでもって、最後の一人。音楽家のミューズだ」
「……よろしく」
ペコリ、と黒髪の女が頭を下げる。
(……音楽家?)
(音楽家ってどういうこと?)
(音楽家? 冒険者に?)
(音楽家……)
複数人が再度頭に「?」を浮かべる。
魔女、という言葉も聞きなれないものだったが、今度はそれ以上に理解を拒む内容だった。
冒険者とは暴力に生きる者達のことを指す。
上位に行けば行くほど『個』としての強さを極め、下の者は規律や常識を知らぬ荒くれ者ばかり。そんな者達が集まる冒険者に、音楽家?
「それに関しては、いずれわかることさ。今は気にしなくていいよ」
言外に「今は言えない」と告げたヴァシリに、追及を止める。
(────システム上はこのパーティーが理論値。〈転生者〉特有の言葉だが、つまるところ、戦闘をする上で最も強力だったということだ。ヨハンがそういった発言をしなかったのは、この世界を『現実』だと受け入れたからなんだろうな)
更に言えば、物語までの刻がありすぎた。
自分の死後三千年後にようやく訪れるゲーム本編、そこにおける最適な戦い方。そんなものを頼りにするぐらいならば三千年を利用して腕を磨き世界に介入する方がよっぽど勝率がある──そう考えるのも、おかしなことではなかった。
(私を信じたと言えば聞こえはいいけれどねぇ……)
内心、苦笑しながら続ける。
「我々の目標は〈深淵の森〉の攻略。アニカくんは〈深淵の森〉に関するちょっとした知見を持っていて、それを匂わせる発言を先程漏らしていたんだ。だから、話を聞くことにした。そうしたら協力を快諾してくれたんだ。これから更に難しい局面を迎えるかもしれない。使える戦力は多ければ多い程いいからね」
(なにより、〈深淵の森〉には謎が多すぎる。あれほどのモンスターがなぜ現れるのか。祠とはなんなのか。聖剣と、神属性の違い。その聖女が存在するのならば協力を仰ぐ手もある)
ヴァシリがこれほどまでに慎重になるのは、一重に下見と称して行ったときの出来事が影響している。
襲い掛かる、高速の槍。
それを庇ったフィン。
即死級の一撃を堪え、反撃の一手へ繋げて見せた、正に世界最高峰の盾役としての働き。かつて己が育て置いて行った少年が瀕死になりながらでなければ進むことの出来ない恐ろしい環境だと理解させられて以降、彼女に慢心は一切ない。
一つボタンを掛け違えればフィンが死に、全滅に至る。
(折角運命を覆したのに、その先で油断して負けました……なんてのは、とてもではないが許せない。何が潜んでいるのかは知らないが、出来る手は全て打つ。誰も死なせる気はないよ)
「……あの、すみません」
そんなことを考えていたヴァシリの思考を断ち切る声。
目を向ければ、おずおずと片手を上げる三角帽子の魔女──カトリーナが居た。
「なんだい?」
「その……そこの、殿方は一体?」
視線の先に居たのは、フィン。
本人はいつもの表情だが、やや戸惑っているようにも見られた。
「……俺か?」
「は、はい」
「俺はフィン・デビュラ。【払暁】の盾役だ。女ばかりのパーティーに俺だけいると不審がられてもおかしくないが、誠実を売りにやらせてもらってる」
苦笑しながら言うフィン。
その言葉に対し様々な反応があるが、皆共通しているのは、何とも言えない表情ながらも頷いているところだった。
それを見て、アニカは思う。
(……え、いやぁ……この感じから察するに、鈍感主人公タイプか? 女だらけのパーティーで、男一人だけで、この空気だもんなぁ。こういうのって現実だと絶対男女関係出来てると思ってたけど……ラノベ主人公みたいな奴っているんだなぁ……)
「そ……そうなんですね。なるほど。……あの、不躾なことをお伺いしますが……」
「なんだ?」
「その……信仰されている神とか、いらっしゃいます?」
「…………? いや、いない。強いて言えば女神エスペランサだンフッ!」
「え?」
「すまない、急に咽せてしまった」
「あ、は、はい。そう、ですか……失礼なことを聞いてしまい、申し訳ありません」
「気にしなくていい。これからやってく仲間なんだ、少しずつ理解していこう」
(……何が聞きたかったんだ?)
要領を得ず、アニカも首を捻る。
カトリーナは一先ず納得できたのか、やや引き攣った表情であること以外におかしなところはない。
(……ま、あとで聞けばいいか)
この場で問いただすのもおかしなことだ──そう思い、アニカは一度思考を流した。
なおその際、顔を青褪めさせたハイエルフを見て何事かと思ったが、ピクピクと口元を痙攣させつつも笑顔だった為に追及することはしなかった。