ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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12 【払暁】と王女殿下

 部屋の空気は冷え込んでいた。

 

 先程まで浮き足立っていた殿下は顔を青褪めさせたままぷるぷる震える手でティーを飲んでいる。

 

 それを白けた目で見るのは我が【払暁】自慢の三人。

 

 なぜか俺を挟み込むようにギュウギュウになりながらソファに座っているのだが、これはどういう意図で行われているんですか?

 雪山でキャンプする時のアレ?

 あれ最高なんだよな、女性特有の柔らかい体でギュウギュウに押し込まれる苦しさっていうのがさ。ただ痛みを得るのとは全く別次元の快楽が得られるんだよ。

 初めてやった時、カルラは何も気にしてない様子で、アストレアは馬鹿馬鹿しいって顔で、マリアンヌは恥ずかしそうにギュウギュウと押し付けてきてくれてな……本当に最高だった……。

 

「おっおはっお初にお目にかかる。シャルロット・バーンスタインだ」

「初めまして、シャルロット第二王女。私はマリアンヌ・ハイレンディーヌと申します。僭越ながら、序列第三位【聖撃の聖女】を賜っております」

(それがし)はカルラ・ツカモト。【紅蓮の剣聖】などと呼ばれているが、斬ることにしか能がないだけの女だ。そう畏まらずともよい、第二王女殿下」

「アストレアよ」

「は、ははっ! う、噂はかねがね聞いていた。お会いできて光栄だ!」

 

 ティーがカップから溢れているが、殿下はそれどころではないらしい。

 

 確かに三人ともネームバリューすごいもんな。

 緊張するのも無理はない。

 特に、俺を必死に繋ぎ止めなくちゃならない程度の戦力しか持ってない殿下からすればどうあがいても勝ち目のない戦力。この場で暴れられたら止める手段はないだろうし、そりゃあ怯えもする。

 

 巻き込まれないように助けてくれと言ったのは俺だが、流石にこのままでは殿下が可哀想だ。

 

「三人とも……やりすぎだ」

「……フィンさん。ですが」

「頼んだのは俺だ。虫のいいことを言ってるのはわかってる。でも……やりすぎだろう」

「フィ、フィン殿……」

 

 殿下は俺が想像しているより悪辣ではない。

 もしも彼女が本当に悪意を持っているのなら、そもそもこんな困窮した状況でもないだろうし、手札をたくさん持っているべきだ。

 

 でもそれがない。

 たかが金等級冒険者一人に〈生涯の友〉なんて言ってしまう時点でわかりきったことだ。

 そんな相手をいたぶるように威圧し続けるのは、大人気なく思う。

 

「……そう、ですね。仰る通りです」

「……フィンがそう言うのなら抑えよう。だが、フィン」

「殿下にだって下心があることくらいはわかってるさ」

「え゛っ」

 

 え?

 

 殿下の顔色はみるみるうちに真っ赤になっていった。

 

 いや流石に見抜けるだろ!

 俺をどんなバカだと思ってたんだ?

 

 いくら手駒がいないからって俺を友だと言ってくるんだぜ?

 たかが平民、それも田舎の農家の次男坊相手に。

 どう考えても下心満載だろ。 

 

 ハァ、ハァッ、ハァア……!

 殿下、俺のことを、そんなバカだと思ってたのか……!? 

 

『金等級冒険者とて所詮は農家の息子。こんな低俗で下劣な男に媚びるのは癪だが、それも私の野望のため……』

 

 くうぅっ、王女様の見下したまらん!

 もっと罵って! もっとバカにして! 出来れば汚らしい平民がって罵倒しながら鞭で叩いてくれ!

 

「あぅ……ぇっとその、フィン殿、えっと……それは違う、くて、そのう……」

「……フィンさん。流石にそれは、どうかと……いえ、その。あなたが悪いと言いたいわけではないのですが……」

「フィン……そなた……」

「あんた……わかっててやってるわけ……?」

 

 !!!!!!?!?!?!??!?!

 

 え!?

 なんか味方がいなくなったんだけど!!?

 さっきまでシャルロット殿下対【払暁】だったのに俺対殿下&【払暁(無能抜き)】になってる!

 

 い……いや待て俺! 

 考えろ、何か勘違いされている気がする!

 このままじゃパーティーが瓦解する! 主に俺が追放される形で!

 

 そして追放された俺に代わってシャルロット殿下が加入するんだ。あんな無能はさっさとお払い箱にすればよかったのよと笑うアストレア、私達が友になりますと笑うマリアンヌ、あなたの剣となろうと誓うカルラ、安堵と未来への希望に胸を膨らませるシャルロット殿下……

 そして追放され周りに指差されながら生きていくことが決まった俺……

 きっと彼女らが幸せになっていくのを見て「なんで俺じゃないんだ」と悔しがって生きていくんだ……惨めに……ウッ……こ、興奮、してしまう……! 

 悔しい……!

 俺は自分が悔しい!

 なんで俺はドマゾなんだ……! こんな、こんなにも哀れな自分の未来が、こんなにも待ち遠しいだなんてッ!!

 

 ──ふぅ……。

 

「シャルロットは俺を利用したいんじゃないのか? だから友になって欲しいと願った。友となれば上も下もない対等な関係となり、あくまでシャルロットは友人に協力してもらう形が取れる。なし崩し的に【払暁】ごと巻き込めると思ったんだろう? 違うのか?」

「……まあ、その考えがなかったわけではないが…………」

「他に何がある?」

「え、……えっと……」

「……」

「……」

「……」

 

 殿下は茹っていた顔が少し元の色に戻ったかと思えば、耳を赤くしたままチラチラとマリアンヌ達の様子を窺った。

 

 そして、なぜかさっきまで俺の敵だった三人は黙っている。

 

 し、失望されてないよな?

『こいつバカすぎ』とか思われてないよな?

 嘘だよな、マリアンヌ、カルラ、アストレア……お、俺たち、仲間だよな?

 

「ん゛ん゛っ!! まあ、下心云々はいいでしょう。シャルロット第二王女に思惑があったことはわかっています」

「そうだな! そこは我らも承知の上でこの会談を設けている。問題視しすぎるのは良くなかった」

「そ、そこは明言させなくていいでしょうね。フィン、そういう部分は曖昧にしといていいのよ」

「そうなのか……」

 

 あっ、もしかして皆それはわかってた上で言わねーんだよと言いたかったのか!?

 

 ぐっ……それは、確かに……言われるまでもないことだ。

 

 う、うわあああああ!!

 素で晒した無能恥ずかしすぎる!!

 いますぐ穴に入って蹲りたい!! そしてそのまま外から『使えない無能が』とか『役立たず』とか『お荷物肉壁』とか言われたいっ!

 羞恥系辱めマゾ……

 素敵だ、素敵すぎる……!

 

「……シャルロット」

「う、うむっ」

「すまなかった。俺は粗忽者で、貴女と会うには何もかもが足りてないんだ」

 

 立場も言動も何もかもがね。

 そういうのって長年の教育や経験で身につくものだから、俺が好きじゃない貴族だってそういう振る舞いを身につけていること自体は尊敬している。

 下に対する価値観とは別で。

 

 しかし、そこは流石殿下。 

 俺が粗相をしているにも関わらず、柔らかく微笑んで言った。

 

「……いいんだ。気にしないでくれフィン殿」

「しかし……」

「私は、それがいい。フィン殿にはありのままでいて欲しいから」

 

 ほんとっすか!

 じゃあ早速で申し訳ないんですが、SM店で貸し出し可能の鞭とか首輪があるんでまずそこから始めてもらっても大丈夫ですかね。

 もちろん設定は王女と臣下。

 いや、王女と物乞いにしよう。

 民を甚振る趣味を持つ悪逆王女に攫われた物乞いの俺が、泣いて叫ぶも許してもらえず……ぐふふ、最高だ。今日はこれでいいや。

 

「わかった。優しいな、シャルロットは」

「ははは、優しくなんてないさ」

 

「──では、話を戻しましょうか」

 

 緩んだ空気が引き締まる。

 マリアンヌの声に殿下は顔を引き締めた。

 先程までの過剰な緊張はない──なるほど、これを解くのがマリアンヌの狙いだったのか? あの時俺を非難するようなことを言ったのは…………

 

 ……これが、“政治”。

 

「シャルロット第二王女。枢機卿を通じて話は通っているかと思いますが」

「ああ。まさか、教団──それもエクトル枢機卿ほどの方が私と誼を通じたいと言ってくるとは思いもよらなかった。貴女が?」

「僭越ながら。バーンスタイン王国に対しては興味ありませんが、今後王都を根拠地とする場合大きな伝手はあった方がいいかと判断しました」

「私では、大したことはできない」

「それを判断するのは貴女ではありません」

 

 ……??

 

「枢機卿が良しと言った。それだけで済みます」

「……私は飾りか?」

「ええ。それでも力は力、違いますか?」

「違わない。今の私はなんの力もない、ただの小娘だ。甘んじて受け入れよう」

「すでにある程度調べはついています。第二王子派の侯爵派閥の仕業ですので、こちらに対して圧を……いえ、潰します」

「……もう、わかったのか?」

「はい。難しくありませんでしたので」

「そうか……」

 

 そう呟くと、殿下は目を瞑って大きく息を吐いた。

 

「どうすれば、私は強くなれる?」

「……がむしゃらに、ひたむきに、想うことです」

「祈りが大事だと?」

「違います。祈りではなく想いです」

「想い。想いか……」

 

 一瞬、向けられる視線。

 

 殿下と目が合った。

 

「盛るな」

「っ……」

 

 カルラがそれを声で遮る。

 

そなた(・・・)は今生まれたばかり。願ってもいい、望んでもいい、だが、盛ってはならん」

「……ツカモト殿」

「私も、まだ道半ば。辿り着けるかも定かではない。だが……それでも想い続けるのだ。そうして走り続けた先に、道はあると」

「そうね。諦めないってことは大切よ。たとえ世界が灰色に見えても、きっと……いずれ、光は差し込んで来る」

「アストレア姫……」

 

 敵意ガンガンだった三人は落ち着いた口調で、柔らかい声色で殿下へ言葉を投げる。

 

 それを受け、殿下は唇を噛み俯いた。

 

「私も……強く、なれるだろうか」

「なりますよ。だって貴女は、フィンさんに会えたでしょう?」

 

 えっそこで俺の名前が出てくんの?

 

 途中から会話が意味不明だったけど何がわかったんだろう。

 俺の耳が急に言語を受け付けなくなったのかと思ったがそれぞれの会話自体は聞き取れたのでおそらく本当に俺は政治センス×なんだなぁ。

 これじゃあ貴族に鞭打ちプレイされる時も分かんないんじゃねーか?

 それは……問題だ。

 学ばねば……!

 殿下と会話を交わせるようになるくらいには……!

 

「そう……か。そうなのか?」

「当たり前でしょ。フィンに会ったんなら、それはもう──あんたの運命だったってことね」

 

 え!!!!?!?!?

 

 アストレアさんそれどういう意味!?

 俺と殿下が出会って運命って、俺と殿下が出会うのが運命だったってことだよな?

 結ばれる運命だった?

 恵まれない第二王女と、何も知らない金等級冒険者の平民。

 二人のラブロマンスは、ここから始まるのだ……昼は王女が強気で、夜も王女が強気。盾を持った時はあんなに頼もしいのに、ベッドの上ではこんなに大人しいのね? お可愛い……♡ 冷酷な笑みを浮かべ虫を見るような目で見つめる先には、哀れな男が四つん這いで待機しており……

 

「置いていかれぬように必死になれ。足掻き続ける限り、そなたは遠ざかることはないだろう」

「ツカモト殿……ッ、ああ、ああっ、わかった! 私は足掻く! 足掻くぞ! 終わってたまるか!!」

 

 そんなに俺との運命嫌だったの!?

 立ち上がって宣言するほど!?

 俺そんな嫌われることしたか? 確かに心の中では殿下に不敬でギロチン刑不可避なことをしまくっているが、表には決して出ていない筈……ハッ!!

 

 む、昔、師匠に言われたことがある。

 お前は目でモノを見すぎる、と……

 ま、まさか……悟られた、見抜かれたのか!? 俺が心の中で殿下のおもちゃになっていることを!?

 

「手を貸して欲しい! 私を、助けてくれ!」

「──わかりました。私も、いえ。私達も、同じです。共に強くなりましょう。そして……」

 

 一瞬、マリアンヌは俺を見た。

 

「想い続けましょう。足掻きましょう──この世界に」

 

 なんで俺を見た?

 ねぇマリアンヌ?

 なんで俺を見たの!?

 もしかして俺追放秒読みなのか!? 結構まずいのか!?

 

 カルラもアストレアも満足そうな顔で頷いている。

 

 何が満足なんだ……!? 

 わからない……俺には何もわからない……!!

 

 最初は俺と仲良くしてくれた殿下も、センスもない俺は放ってわかる三人と仲良くなるのか。

 

 寂しいねぇ。

 所詮は平民の次男坊、そりゃ、しょうがないか……く、ククッ、興奮するッ!

 もっと酷い扱いしてもらえるのか……!?

 仲間としての信頼も置き去りに……!?

 

 そんな、そんなの……最高じゃあ、ないっすか……!

 

「頑張ろう。俺達は、仲間だ……!」

 

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