ふむ……。
トントン拍子で出来事が進んだから何が起きたかよくわからない。
やはり俺の頭はこんなものだ。
盾役として磨き上げられた肉体が脳にまで侵食しているのだ。
俺なんて、いくらでも替えのきく消耗品。
仕方ない部分はある。
──だが、今は違う。
三年前に頭の中に生えてきた闇人格がいる!
俺の頭の悪さ、そして異常性癖も満たしてくれる素晴らしき友人が!
さぁ!
闇のマリアンヌ、俺に啓示を与えたまえ!
『あの、それってつまり情報を纏めてわかりやすく説明してほしいってことですよね』
そうとも言う。
だってさァ仕方ないじゃん。
久しぶりに〈深淵の森〉に行くぞ、巨豚人の槍でお腹でヌキサシと洒落込むところだったんだ。それがなんだ、急に師匠が酒場でシュバって消えたかと思ったら美少女が四人増えた。
そこそこやれそうなアニカちゃんに俺を貶してくれそうなカトリーナちゃん、明らかに俺を罵りながら気持ち良くしてくれそうなドレイクさんに物静かな音楽家のミューズちゃん……
意味わからん……!
このメンバーがどう〈深淵の森〉の攻略に役立つのか、さっぱりわからん……!
『闇森人は意図的に情報を絞って説明していましたから、フィンさんがわからないのは仕方ないことですよ』
あ、ほんと?
よかった〜。
俺以外のみんな理解してるけど俺だけ理解できなくて置き去りにされてるのかと思った。
『それは抜きにしてあなたは愚かですけどね』
バウバウバウッ!!
マリアンヌはそんなこといわねぇッ!!
貴様、何者だッ!
『あなたの愛しの闇のマリアンヌですよ』
闇マリ……。
んも〜チュッチュンパッジュルルっポ!!
好き好き大好き闇マリ〜チュッ!
『死ね』
あひいいっ!!
闇マリの蹴りが頭頂部に!
「おぼふッ」
「!? ど、どうしたフィン、急に吹き出して」
「ン、ん゛ん゛っ! 風邪気味かもしれん。すまん、布巾を……」
「お、おう。すまぬ、そなた、そこにある布巾を……ありがとう。ほらフィン、そなたは服を吹け。テーブルは拭いてやる」
「なにからなにまですまん」
カルラから布巾を受け取って飛び散った酒を拭いていく。
んも〜闇のマリアンヌ、俺が飲んでたり喋ってる時はやめてくれって言ってるじゃん。
今もほら、誰にも見えてないけど当たり前のようにテーブルに腰掛けてるけど行儀悪いよ?
『私はいいんです。ほらほら、もっと呑みなさい』
え、闇のマリアンヌも俺の飲んだ酒で酔えるの?
『最近酔えるようになりました』
へえ〜……。
闇人格界隈にも変化はあるんだなぁ。
「フィンさんフィンさん、何食べますか?」
ムッ、本物のマリアンヌの気配。
相変わらず可愛らしいのだが、最近女を知ってしまったせいで、俺はこんな可憐なマリアンヌにすらそういった視線を向けてしまうことがしばしば。本当に反省している。マリアンヌはそういう目で身ちゃいけないんだよ。
だって聖女だもん。
純朴で清廉、そんな彼女におフィンフィン発射をするわけにはいかないのだ。
『だから、その童貞みたいな考えどうにかしないといけませんよ』
どどどど童貞ちゃうわエッ!!!??!
闇のマリアンヌを見ると、彼女は肘で頭を支えて横になり、片手にジョッキをプラプラさせていた。
なんか普通に飲んでね!?
なんで誰も気付いてねーの!?
流石におかしいって!
物理的に浮いてるだろそれじゃあ!
『これはあくまで私が生み出した物なので、実物ではないんですよ』
あ、そういうこと。
びっくりした、ついに俺の妄想が現実に干渉してるのかと思った。いやとっくの昔に干渉し始めてんだけど、そんなに気にすることでもないかなって。
それにさ、もし仮に闇のマリアンヌが現実に干渉していることすら俺の妄想だったら、流石にね。
自分がイカれてるのは分かってるけど、こう、他人に「あっ……こいつ壊れてるんだな」って思われると、今の生活ができなくなるかもしれない。
特に【払暁】のみんなにバレて「こんな壊れてる盾役不安でしょうがないわ、新しいの入れましょ」って言われたら──う、ううううぅぅぅっ!! 新しいイケメン入れてついでに挿入るんだ! ね、ね寝取られだあああああぁっ!! カルラぁっ! アストレアぁっ! 二人ともイケメンに寝取られたんだ!!
あひいいいぃぃいいっ!!
「……………………フィ、フィンくん、今、いいかしら」
オッ♡ アリシアさん♡ 結婚の申し込みかな?
『思い上がるな魂童貞』
ほひいいっ!!
「ひ、ヒィッ……! ……こ、こちら、【超滅】のカトリーナさん。フィンくんとお話ししたかったそうよ」
「先ほどは不躾な質問をしてしまい、申し訳ありません」
「さっきも言ったが、気にしなくていい。疑うのは当たり前だからな」
申し訳なさそうな表情でカトリーナが頭を下げた。
ほんと、気にしなくていいんだけどね。
そもそも冒険者として王都に来たら、そりゃまあ俺たちの噂を耳にするだろう。
師匠達【星天】は偉業を達成しているし、【払暁】のみんなも王国付近に現れた魔王軍討伐の功績がある。決して疑われることはない。
だが、そんな強くて美しい女達の中に混ざる、一人の男──。
怪しすぎる。
種馬で寄生虫との噂を耳にしていれば、直接聞きたくもなるものだ。
「俺がわかりやすい強さを持ってれば違ったんだが、生憎と地味で大したことないと来た。むしろ、わざわざ俺に興味を持ってくれるとは思わなかったよ」
「ご謙遜を。金等級最強と名高い【払暁】不動の盾。侮るような愚か者は【超滅】にはおりません」
「最強なのは仲間達だ。俺は所詮盾に過ぎん。だが、その言葉は素直に受け取っておこう」
そう言うと、カトリーナは微笑んだ。
隣のアリシアさんも胸を撫で下ろしている。
エッチだ……。
「……フィンくん、私まだヴァシリ達と話さなきゃいけないことあるから席に戻るけど、変なことしたらダメだからね?」
「するわけないだろ。俺をなんだと思ってるんだ」
「…………え、ええ、そうね。おほほ、ごめんなさいね、ええ……」
額に青筋を浮かべたアリシアさんが離れていった。
「えっと……仲がいいんですね?」
「アリシアさんか? あの人は世話焼きだからな。妹のパーティーメンバーということで、気を遣われてるんだ」
仲がいいどころか中のお突き合いもさせてもらってますよ。
どうだいお嬢さん! 俺とワンナイトデートしねえか?
もちろん穴は俺が提供させてもらおう。
悪いようにはしない。
悪いことをされるのは俺の方だから。
『フィンくん?』
闇のアリシア!!!?!??!
……ではないな。
闇のアリシアの真似をする闇のマリアンヌ、そうだな?
『……よく分かりましたね』
ま〜アリシアの声はたくさん聞いてるからな笑
「うびびびびびっ」
「!!!!??!?!?!?」
「うおっ!? フィ、フィン、急に変な揺れかたをするな!」
「す、すまん。身体が痙攣してしまったんだ」
「痙攣……? 大丈夫なのか、それは」
「……や、やっぱり……」
隣に座ってたカルラをビビらせてしまった。
ふぅ、こんな様ではいけないな。
今は別に仕事でもなんでもないからいいんだが、戦闘中に闇マリによる何かしらの干渉を受けた時誤魔化せない影響が出る。
闇マリ、しないと誓ってくれるか?
『邪魔をする気はありませんから、初めからする気はないですよ』
本当か?
割と最悪なタイミングで変な干渉受けてると思うんだが?
フェンナの目の前でトコロテン放出したり……綺麗にしたり……風呂場で桶吹き飛ばしたり……今みたいに電撃浴びせたり………………絶妙になんとも言えないなこれ……。
『まったくもう、酷いですね。そんなに信用できないですか?』
いや、いいや。
闇のマリアンヌを疑うわけがない。
ただこう、もう少し、手心を加えてもらえると……。
「……え、えぇ……? やっぱりこれ……でも……」
や、やばいっ!
ほらみろ闇マリっ、カトリーナが俺を見て訝しんでる!
俺の周りにいる奴は俺がイカれてると分かってるから奇行に走っても「まあフィンのことだし」と多少は受け流してくれるかもしれないが、彼女との関係性はゼロすなわち白紙!
女だらけのパーティーに一人所属する男が、いきなり痙攣したり吹き出したりする。
どう考えても何かしらおかしいと思われるに決まってる……!
『……あ、なるほど。ずいぶん懐かしいわね……』
懐かしい?
あと誰ですか。
『ん゛ん゛っ! いいですか、我が使……フィンさん。おそらく彼女も貴方と同じです』
え?
…………そういうこと?
『はい。貴方と同じ、選ばれた者です』
……そうか。
そういう、ことだったのか……。
なぜカトリーナがわざわざ俺に近付いてきたのか、分かった。
そうか──彼女は、俺と同じ、マゾヒストだったんだ……!!
『エッ……』
つまり彼女は俺のマゾをなんらかの方法で見抜き、密かに接触してきたんだな。感情を読むアリシアがいるように、彼女もまた、そういった目を有している。
そうだな?
『え、えぇ〜…ちが』
みなまで言うな闇マリ。
大丈夫、俺は今更こんなことで動揺したりはしない。
一人二人にマゾバレした。
それがどうした?
もはや俺は一人じゃない。
心に闇マリ身体にアリシア。
二人の結婚相手がいるんだ、マゾバレを恐れることがあるだろうか。
マリアンヌやアリアには知られたら死にたくなるから流石に嫌だが、同志にマゾバレしたところで、ともに高めあう相手が出来るだけ……ふ、ふふっ、そうか、そうなんだな!
『…………』
うひひひっ!!
そうなったら話は早いっ!
アリシアに話を通してマゾ仲間を引き入れる! 安心しろ、カトリーナ。世界にはマゾを許容してくれる天使みたいな人達が多いんだ。それに俺はサドとマゾ、両方の性質を併せ持つ。仲間がいるよ!
待っててくれ、カトリーナ。
俺がお前の本当の姿を、解き放ってやるからな……!
『…………森人、万事託しました』
ん?
なんて?
『なんでもありませんよ、フィンさん』
ニコリと、少し疲れたような、しかしマリアンヌらしい笑顔で闇マリは言った。