ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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121 姦しい女達

「──由々しき事態よ……」

 

 深刻な表情でアリシアが呟く。

 

 集められたのは三人。

 ハイエルフの姉妹、アストレアとアリーシャにカルラ。

 ポリポリと豆菓子を摘まみながら、カルラが呆れたように言った。

 

「この面子にこの家。どうせフィンのことだろう?」

「間違いないわね。当の本人は【超滅】の連中と連携深めるためにお出かけ中よ」

「え、もう? 相変わらず手が早いな~、お兄さんは」

「まあそう言うな。フィンは職務には至って真面目な気の良い男なのだ」

「知ってる♡ 戦力外って言われたし♡」

「あんたたち! 今回ばかりは冗談じゃないの、真面目に聞きなさい」

「いつも冗談じゃないじゃんね」

 

 ため息交じりのアリーシャ。

 妹の態度にキッと目を吊り上げて、アリシアは告げた。

 

「いい? 本当にね、このままじゃフィンくんの性癖が露呈するわ」

「……そうか? 正直、知らなかったらわからぬと思うが」

「甘い、甘すぎるわカルラ。あの子、明らかに最近緩んでるのよ」

「それは姉さんがわかるだけなんじゃないの?」

「いいえ。カルラ、あんたなら覚えてるんじゃない? 昨日のアレよ」

「アレ……?」

 

 そう言われてカルラは目を細め思案する。

 

 昨夜、酒場で行われた【超滅】との親睦会。

 隣の席にフィンが居たが、それほどおかしなことがあっただろうか。急に噴き出したが、あれは咳き込んだだけでよくあること。会話に異常もなかった。少なくとも、行為中のフィンのような悍ましさすら感じる喘ぎ声を発することはない。

 

 それに、フィンが本性を漏らすこともほぼない。

 強いて言えば事情を知っている者だけになった時には情け容赦なく情けない言葉を言いまくるようになるが、それもまた愛嬌。

 

「ううむ……特におかしなことはなかったと思うが」

「ほら、あの、なんか痙攣してたじゃない」

「ああ、うん。確かに痙攣はしてたが」

「あれ、すごく興奮してたわよ」

「…………」

 

(……痙攣で興奮……? いや、興奮したから痙攣したのでは。そもそもなぜ興奮したんだ? 前後の会話で何か……いや、確か、アリシア殿の話をしてただけ……)

 

 今更アリシアが嘘を吐くことはないと思っているカルラは大真面目に考えたが、どうしても理屈が合わない。

 

『えっと……仲がいいんですね?』

『アリシアさんか? あの人は世話焼きだからな。妹のパーティーメンバーということで、気を遣われてるんだ』

 

(…………ふぅ。すまぬ、フィン。私はまだ、そなたのことを理解しきれんようだ)

 

「アリシア殿。直前、フィンはそなたの話をしていた」

「良い感じに誤魔化してくれたのは聞いてたわ。でもその後、急に痙攣するのと同時に興奮してたの」

「…………」

「あはっ♡ 意味わかんない……」

「……そんなの私達にどうにか出来ることじゃないわよ」

 

 姉妹二人は顔を逸らした。

 

「……おそらく、フィンくんのことだから『自分は仲良くしていると思っているが、自分の知らない所で知らない男とデキてて寝取られるのかも……』的な妄想をしていたんだと思うの」

「そなた……やはり、既に狂っているぞ……」

「ふ、ふふ……頭のおかしいドマゾの感情が伝わってくるんだから仕方ないでしょ! 染まっちゃったのよこっちは!」

「ね、姉さん……」

 

 据わった目付きで叫ぶアリシアに、アストレアは頬を引き攣らせて後退る。

 

「フーッ、フーッ……!! いい? これから先、フィンくんが今以上に漏らすようになったら……終わりよ」

「……いや、あのな、アリシア殿。そなたを疑っている訳ではなく、フィンの言動がどんどん怪しくなりつつある……という傾向なのはわかった。だがな? 冷静に考えて欲しいのだが、私達事情を知る者ですらよくわかってないことが、事情を知らぬ者に伝わるだろうか」

 

 アリシアはカルラの懸念に対し疑問を示す。

 

「確かに、フィンが痙攣してたのは正直おかしいなとは思う。快楽であんな痙攣をするのは……まぁ……あることにはあるから理解はできる。だが、そうだと思う者はおるまいて」

「それより先に健康を気にするわよ、普通は」

「あーあ♡ 姉さん、お兄さんに調教されちゃってる♡ かわいそ~♡ かわいそー……」

「な……なによ皆して! 私がおかしいって言うの!?」

「うむ」

「そうね」

「…………」

「う……ううぅっ!! うううっ! うわあああああんっ!!」

「泣いちゃった……」

 

 長女の絶叫号泣に、三女は同情の視線を送った。

 

「だ、だってぇ……しょうがないじゃないわかるんだから! 聞いたら嬉しそうに『なぜわかるんだ!?』とか言うし! これで私がわかってない振りしたらかわいそうじゃないの! それで暴発なんかされた日には止められない災禍が訪れるんだから、出来るだけガス抜きしてあげようって思って、悪い!?」

「そなたの面倒見の良さがなぁ……裏目になっておる……」

「う、ううっ……! 関係持った日から、アストレアに殺されないかずっと不安だったの……それがやっと解消されたかと思えば、どんどんおかしい行動取るようになってきてぇ……!!」

「…………ま、まあまあ、姉さん。私も悪かった。実の姉に向けるもの(殺意)じゃなかったわね。ごめんなさい」

「(自覚はあるのか……)」

 

 自分でも姉に対して殺意を向けていた自覚があるのかとカルラは内心呆れつつ、口を挟む。

 

「実際仕方ないのではないか? これまで十年近く抑圧されて来たものが、ここ最近になって認められるようになった。それも、自分で言うのもなんだが、見た目の整っている女たちばかりだ。あれだけ上手ければそうなっても仕方なかろう」

「童貞捨てたから調子に乗ってるよね~♡」

「そんな童貞卒業したての男に散々弄ばれたのだから、これほど情けない話はない」

 

 肩を竦める。

 

「フィンの言動が怪しくなっていく懸念は理解した。だが、それはあやつのマゾバレには繋がらん。我ら事情を知る者ですらそうだと思えないのだから、現状アリシア殿以外には伝わらんよ」

 

 非常に悲しいことだが、今でさえ前とさして変わらないのだ。

 

 アリシアがいなければフィンがマゾヒストだと気が付くことはなかっただろう。

 それこそ、カルラやアストレアはずっとそのままだった。

 フィンの本当の姿を誰もが見ることすらない。

 彼の理解者たる人が現れないまま、【払暁】は日々を過ごしていた。

 

 一体どうなっていたのだろうか。

 

(私やアストレアが選ばれることはない。おそらくマリアンヌと結ばれていたのだろう。そう考えると、我々はとんでもない横恋慕をしているな)

 

 だが、アリシアが現れた。

 そしてフィンの声なき言葉を聞いた。

 結果として、フィンはその本性を解放した。

 アリシアから始まり、自分、アリーシャにアストレア……いずれこれは更に広がるだろうなとカルラは思った。

 

(ま、現状いいとこどりしているのは否定できん。アリシア殿には恩もある。力になってやらねばな)

 

「か……カルラっ……あんた、良い奴ね……」

「……なるほど。フィンがそなたにハマってる理由がなんとなくわかるぞ」

「……えっ」

「何も言わずとも察してくれる上に、口に出した言葉と真逆のことを考えていても理解してくれる上に反応までしてくれる。サドの気配もあるフィンからすれば、これほど楽しい相手はいないだろうな」

「あー……そういうこと? 確かに、あの感じは……ありえなくはないわね」

「お兄さん、普通に鬼畜だもんね……」

「……えっ。じゃ、じゃあなに。私が普通にしてるだけで悦ばれてるってこと?」

「おそらくは。それに以前からそう(・・)だったのなら、これまで通りに過ごしてるだけなのに理解し、受け入れる女が現れてしまったのだ。こうもなろう」

 

(しかし、これはこれで……本命がマリアンヌからアリシア殿に変わっただけではないか? いや、相応しい方だとは思う。フィンのあの異常性癖に一人で向き合って調子に乗ることを良しとせず、必死に秘匿しようとしていた。更に研鑽も欠かさぬ。以前と比べ鞭捌きが異様にうまくなっていたところを見るに、尽くすタイプでもある。……くっ、勝てぬか……?)

 

「……そ、そんなの……どうすればいいのよっ……」

「あ、喜んだ」

「語るに落ちたか……」

「…………好きな男を姉に寝取られたし、流石に殺意向けていいわよね」

「ひっ!!? ふ、不可抗力だから! 私が誘ったわけじゃないから!!」

 

 頬に手を当ててクネクネし始めるアリシアに、青筋を浮かべたアストレア。

 

「この×××がっ!! 私の英雄寝取っといて嘆いてんじゃないわよッ!!」

「わ、私の英雄ってなによ! こっちだって命救われてんのよ!?」

「はああぁ!? クソ爺の預言ぶち抜いてもらったのは私だけでしょうが! そっちはヴァシリが何とかしたんじゃないの!?」

「フィンくんがいなかったら私も死ぬかもしれなかったんだし一緒でしょ!」

「屁理屈を……! 【勇者】がなんとかしてくれたでしょどうせ!」

 

「……男を共有しているにしては随分と仲の良い姉妹だ」

「ま、エルフ(私達)ってそういうトコロあるからね。ああやって互いに言い合える分にはいいんじゃない?」

「暗闘が始まらぬだけマシと思うしかないか……」

 

 醜い姉妹の罵り合いを肴に、カルラは思う。

 

(しかし、実際フィンのことを理解しきっているのがアリシア殿だけなのはなぁ。今はああして感情に現を抜かしていられるから良いが、慣れた後、反動がどうなるかとても読めん。我らの与えられる快楽で満足できなくなったフィンがどうなるか……)

 

 それこそアリシアの言う様に、素を露わにし始めるとまずい。

 

(流石に、ところ構わず暴れるフィンは見たくないな)

 

 あの痴態を白昼堂々見せるようになれば、さすがのカルラと言えども耐えられる気がしない。

 

(あれを常日頃から感じ取っていてなお愛が深まっているのだから、アリシア殿は流石だ)

 

 嫌ったりすることはないが、疲れてしまうのは間違いなかった。

 

「……カルラ? なにその、尊敬してますみたいなの。やめてよ。絶対ロクでもないでしょ」

「いや? そなたの愛は深いのだなと」

「~~っ……し、仕方なくだから。私が始めたんだし責任は取らないとかわいそう。だからよ。決して、誓って言うけど、私が乗り気なわけじゃないのよ!?」

「……い、卑しい女……私もこうなればフィンと……」

「やめておけ。アリシア殿だからこそだろう」

「ねぇなんなのその理解は? ねぇっカルラあんたちょっと愉しんでるでしょ! わかんのよこっちは!」

 

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