ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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123 【超滅】④

 光り輝く盾を構えたフィンが前に出る。

 モンスターの攻撃が直撃し、当てた腕が消し飛ぶ。

 生まれた隙を逃さず、アニカとドレイクが追撃すると、ダガーで切り傷が生まれ、アニカの剣でモンスターの首を切り落とした。

 光り輝く盾を構えたフィンが小突く。

 モンスターが爆散する。

 無言になった五人(一人は元々ほぼ無言)は光を維持し、時折奏でられるミューズの歌を纏いながらズンズン進んでいく。

 

 適正レベルを大幅に超えた金等級冒険者達の侵略により哀れな〈不浄領域〉はあっという間の進撃を許し、わずか一時間で山一つ分の踏破を成し遂げた。

 

「……なんか、デビュラの強化幅おかしくね?」

 

 アニカはポツリと呟いた。

 それに同調するようにドレイクが口を開く。

 

「いやぁ……そりゃ、アタシみたいな女に施した強化ですら、ボスクラスとタイマンできるくらいにまで引き上げるんだ。ズルしたアニカだって白金等級レベルになってたのもそうだし、元々優れてる奴が強化されたらどうなるかってのは、気になってはいたけど…………ここまでとはねぇ」

 

(──ま、それも当然っちゃ当然。アタシら女と違って男、それも恐ろしいほどに鍛え上げられてる。こんな化け物の陰口を叩く王都の連中は随分と命知らずだよ……)

 

 ドレイクの畏敬混じりの視線に対し、肩を竦めてフィンが答える。

 

「まあ、足りないからこそずっと鍛え続けてる。最も食事が大切な時期も周りに恵まれて成長を阻害されることもなかったんだ。農民出身のアニカには悪いが……」

「ああいや、んなことはいいんだよ。さっき触った時も思ったけど、身体の分厚さが尋常じゃねえもんな。ただ食って鍛えてるだけじゃそうはなんねえ。多分、ぶっ壊しまくってここまで来たんだろ」

 

 アニカには前世の記憶がある。

 現代日本で過ごした一般人のものだが、格闘家やアスリート、それに軍人といった肉体の性能を高め続ける職種を知っている。肉体改造は生半な年月では実行できない。科学により分析され効率的なトレーニングを積み続けたとしても、必ずしも育つわけではないのだ。

 

「どんな鍛錬積んできたんだ?」

「そうだな……師匠に毎日気絶するまで痛めつけられていた。骨が折れても、肉が弾けてもお構いなし。折れた足で立ち上がって、折れた腕を叩きつける。そして俺が気絶したら終わって、治癒をした後に食事をたっぷり食べて寝る。そんな生活を五年ほど続けて、それからは自己流だ」

「…………さ、流石リョナエロゲ……ショタまでたっぷりかよ……」

「……りょなえろげ?」

「あー……気にしなさんな。アニカはたまにアタシらに理解できない言葉を言うんだ」

 

(──えっと、確かゲーム内における魔女のバフはステータスに対する掛け算だった筈。二段階まで積めて、一段階が二倍、二段階が四倍だった……筈だ。カトリーナは普段一段階の二倍までしか使ってねえ。理由はおれ達の身体が耐えきれないから。全力のバフに関しては、受けた途端自壊するっつってたな……あれ?)

 

「……なぁカトリーナ。一つ聞きてぇんだけど、どんくらいのバフかけたんだ?」

「馬車の中では八割ほどの強化で骨に影響が出たので、七割でかけ続けていましたよ」

 

(つまり、元の三倍近いバフがかかってる。ステータスの三倍の能力値……)

 

「はあ〜……おったまげた。アンタ、本当にイイ男だねぇ。身体に負荷は?」

「今はいつも通りだな。継戦も問題なしだ」

「えへへ、ここまで本気で魔法使って壊れない人を見たことなかったので、張り切っちゃいました!」

「……私の唄もあるから、多分、相当な負荷。本当に頑丈」

「それしか取り柄がないんだよ」

 

 苦笑するフィンと、取り囲む三人。

 

 それを見て、アニカの脳内に電撃奔る。

 

(…………やべぇ……お、おれの、完全上位互換……!?)

 

 アニカは冷や汗を流す。

 ヒヤリと背筋を流れる冷たい感覚。

 自分の足で集めた仲間達との絆は深く、そう簡単に奪われることなどないと思っている。これまでの旅路で相互理解も行い、同じ目的を持つ仲間としてやってきた。

 同性であるのも大きかった。

 野盗やモンスター、やはりそういう世界なのか、異常なほどに女を慰み者にしようとする男・オスが多い。そういった奴らに嫌悪感を示し、女として手を取り合ってきた。

 

(おれより強い男。紳士的で、女ばっかのハーレムパーティーにいるのに堅物で、男らしいのに清潔感もあって……や、やべえ。やべえんじゃねえか、これは!?)

 

 ツー……汗が流れる。

 

(どう考えてもおれ達、これから本性を露わにしたデビュラに喰われる役目じゃん!!)

 

「……アニカ? どうした、顔色が悪いぞ」

「なっ!? なな、なんでもねーよ?」

「……確かに、いつもより青い顔してるねぇ」

「でも、アニカも変なこと考えてる時が多いですよ」

 

(どっ、どーする!? こんだけデケェんだからそりゃそっちもデケーだろ!? やばいッ、そこらへんの野盗とか目じゃねえくらいやばい!!)

 

 思い返す、地獄のようなCG。

『いや流石にそれは無理があるでしょ』と突っ込みたくなるようなブツすらも強引に捩じ込むのが当たり前のこの世界。うまなみどころか馬型モンスターが竿役を務めることすらある。もちろん、モンスターがブラブラさせて突撃してくることもあるのだ。アニカとて見たことがあるため、それがゲームだけのことではないと理解している。

 

 ゆえに、わかってしまう。

 

(た、対策しねえと……これまでどうやって────あっ。そっか。おれ、自分より強い男と過ごしたことねえんだ……)

 

 チラリとフィンを見る。

 

 心配そうな表情。

 そこには獣欲を滾らせた男の姿はない。

 出会ってから見てきた、男らしくも紳士的で、どこか堅物っぽさが感じ取れるものだった。

 

「う…………」

「……う?」

「う、うおおおおおおっ!!」

「!!!?!?!???」

 

 突如叫んだアニカにフィンが動揺する。

 

「い、いいかデビュラ! 確かにおれは素の状態じゃ勝ち目ねーかもしれねーけど、フルスペックなら対抗出来るからな! 力づくでどうこうなんて、考えんなよ!?」

「……ああ、そういうことか。安心してくれ。俺は人生で一度も娼婦を買ったことがないくらいには自制心がある。確かに【超滅】のみんな魅力的な女性だが、不埒な真似はしないと誓おう」

「えっ……あ、アンタ、娼婦を買ったことがないってそれ、本当かい?」

「ああ。数少ない、俺の人生における誇れることだ」

「……なんで買わないんだい?」

「本音を言うと、俺も興味があったんだが……その、パーティーがな……」

 

 アニカ以外の三人は、ああ……と納得の声を漏らした。

 

【払暁】は言わずと知れた美女パーティー。

【聖女】に【剣聖】、【ハイエルフの王女】。

 こんな女性達が、仲間が女を買っていると知ればどのような反応をするか。

 考えるまでもないことだった。

 

「そりゃあ……さぞかし辛いだろうねぇ……」

「子供の頃からずっとそうだったからな。我慢には慣れてるんだ」

「…………アタシで良かったら相手してあげてもいいんだよ?」

 

 ドレイクが艶かしい表情で告げた言葉に、フィンは苦笑しながら答えた。

 

「申し出は嬉しいが、遠慮しておく。絡め取られそうだ」

「遠慮しなくていいのに。経験豊富な女は嫌いかい?」

「嫌いじゃないさ。ただ、抱いた女が原因で殺し合いが起きて欲しくないんだよ」

「おっと……それは仕方ない。ま、興味が湧いたらいっておくれよ。それくらいはサービスしてあげようじゃないか」

 

 ドレイクはトレジャーハンターとして活動している間に、行きずりの男とワンナイト……なんて過ごしたこともある。【超滅】の中では珍しく、性方面で経験豊富な女性だった。

 

「ただ、アニカの懸念は最もだ。これまで男を近寄らせてなかった女性パーティーに俺みたいな異物が近付けば警戒するのは当然のことと言える。パーティーリーダーの君が近寄るなと言うのなら、俺は従うが」

「えっ……ほ、本当に狙ってねーの?」

「少なくともその問いに馬鹿正直に答える奴はいないぞ」

「うっ。…………そ、うだな。それに、まだおれはデビュラのことも、【払暁】や【星天】のこともよく知らねー。……無礼なことを言って、ごめん」

「許す。女が男に気を許すには時間がかかることだ。これから少しずつ理解してくれればいいさ」

 

 アニカがやや警戒した顔つきで頷く。

 

(…………し、紳士的すぎる……。どうなんだ? 本当に違うのか? いやでも、もしかしたらすでに両パーティー抱え込んでる可能性も……ありえなくはねぇ……! エロゲ世界の◯役だったら可能だ……!)

 

「……とまあ、こんな感じで考え込んじゃうタイプなんだ。すまないね」

「いいリーダーだ。より一層信頼できるな」

「はは、そう言ってくれると助かるよ。……ところで、デビュラ」

「なんだ?」

「アンタ、本当はどうなんだい? やっぱり男らしく、取っ替え引っ替えしてんのかい?」

「残念ながら、毎日毎日打ちのめされてばかりだよ」

「あははっ! 女王様に尻に敷かれてるんだ?」

「その通りさ。どうにも、俺はそういう女性が好みらしい」

「うん、うん! いいねぇホント! アンタ、いい男すぎるよ!」

 

(──…………いや、もうこれ攻略され始めてね?)

 

 やっぱり、竿◯かも知れない。

 

 アニカはそう思った。

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