ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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「──というわけで、カトリーナとミューズの有用性は破格だった。俺では測りきれないくらいには優秀なので、師匠の方でしっかり研究してほしい。アニカとドレイクに関しては……正直、大したことはない。だが、フル装備になった時の強さは探れなかったから、これもまあ強者同士で測ってれると助かる」

「ふむ……そうか。具体的にはどう扱えばいいと思った?」

「アリア一択だな。あいつの身体なら全力強化にも耐えられるだろう。ただでさえ〈聖剣〉に選ばれたアリアが更に強化されるんだ、モンスターからすれば悪夢さ」

 

 苦笑しながらフィンが言う。

 

【超滅】との実地試験を終えて帰還したフィンは、その足でヴァシリの元へ報告に来ていた。

 

 もちろん資料に関しては帰りの馬車で纏めたものだ。

 己の所感に加えて各々から聞き取り確かめた事実の記載も行い、必要最低限の調査報告書としての体は成している。これに関しては学のないフィンが、冒険者としてギルドに使いっ走りにされている間に習得したものだ。

 

「なるほど……フィンに対する強化幅が大きかったと書いてあるが」

「複数の要因が絡んでる。まず、カトリーナ自身が俺への強化をいつもより強めに行ったこと。二つ目に、俺自身の能力値が高かったこと。三つ目、ミューズの歌が作用していたこと。帰りの馬車でも試したが、結果として、俺はあのパーティーでならば白金等級に匹敵する強さになれることがわかったよ」

「ははぁ……目移りしちゃったかな?」

「まさか。俺の居場所は依然として【払暁】だ。そりゃまあ、男としては喉から手が出るほど欲しいが……そんなことのためだけに仲間を裏切る気はない」

 

 フィンはそう言い切った。

 

「うん。やっぱりフィンに任せて正解だった」

「役に立てたなら嬉しい限りだ。ただなぁ……」

「……何かあったのかい?」

「いや……ホラ、俺は男だろ? 女しかいない二つのパーティーで唯一の男だ。師匠とアリアは元々知り合いで、【払暁】じゃ今更。だからこれと言って問題はなかったが、アニカに警戒されたんだ。だから、これからは出来るだけ他の誰かも一緒につけてくれるとありがたい」

「……ああ。そういえば、そうか……」

 

(アニカくんは〈転生者〉。ならば、男のフィンを警戒するのは当然だ。それにこの子は元々アリアを凌辱する役割だったそうだし……信じ難いが、そういう運命であったことは否定できない。いやあ、信じられないことだけども)

 

「わかった。次からは私も同行するよ」

「師匠が? それは助かるが、いいのか」

「彼女達にはそこまでする価値があると言うわけさ」

「……そこまでか」

「うん。いろんな意味でね」

 

 〈転生者〉であることと、貴重な戦力になること。

 これら二つを加味すれば、【超滅】は現状欠けていた両パーティーの欠点を補うポテンシャルがある。

 

(フィンへの強化幅がそれだけ高いのならば、上昇する能力というのは肉体に依存したものか? アリアへの効果は高いだろうが、あの子の身体能力は〈聖剣〉によって齎されたものでもある。そうなると、最悪効果が薄い可能性も出てくる。私達の中で最も肉体的に優れてるのは間違いなくフィンだ。素の状態でもあの森で即死を防げるフィンが強化されれば──連鎖的に解決出来る)

 

 元より、己の肉体だけを頼りに〈深淵の森〉の命綱として戦ってきたフィンだ。

 

 その強化があの森でも通用するのならば、正に彼女らの存在は切り札足り得る。

 

(フィンが傷付かなくなれば、こちらも攻撃が容易くなる。攻略は加速していく。本来の計画を大幅に短縮できるかも知れない……)

 

「とりあえずはそんなところか。師匠から何かあるか?」

「──いや、今はこれくらいだね。私の方でも【超滅】の力に関しては検証しておきたいから、〈深淵の森〉に足を踏み入れるにはもう少し後だね」

「わかった。マリアンヌにも伝えておく」

 

 そしてヴァシリは一度己で淹れた紅茶を口に含んだ。

 

「……時に、フィン。これから先、誰か、結ばれたい人はいるのかい?」

「……随分唐突だなぁ」

「なに、君ももう二十歳になるだろう? 金等級冒険者で、これから先もまだまだ活躍が見込まれる有望な成人男性だ。いい加減考え始めないといけない時期じゃないか」

 

 実際、フィンを狙う者は少なくない。

 最近になってギルドが流布し始めたフィンの実績に加え、【星天】や第二王女との繋がりがあることもそれに拍車をかけている。

 

 なんと言っても、それまで存在していなかった後ろ盾にヴァシリが突如出現したのだ。

 

 この事実を理解してなお欲しがる者は数知れず。

 今では、ギルドを通してそういった話が送られてくることもしばしば。

 

「実はフィンに対する婚約の打診なんかもたくさん来ていてね。今のところ全て保留にし、数ヶ月後に丁重にお断りをさせてもらっているんだ」

「それは……師匠に任せる。少なくとも、今、俺が誰かと結婚だとか、婚約なんかをする気は全くないぞ」

「そうだろうと思った。一応、理由を聞いても?」

「結婚なんてしてたら冒険者稼業に集中できなくなるだろ。仮に家庭を作ることになるとしたら、妻を放って見た目のいい女達に囲まれる自分が許せなくなる。だからそうなればソロに移行するつもりだ。逆に妻が見た目のいい男に囲まれた環境で『あなただけを愛してる』なんて言ってきても俺には信じ難いことだしな」

「真面目だねぇ……」

「子供の頃に、しっかり躾けられたんでね」

「……そうなると、今の所結ばれたい相手もいないのかな?」

「…………多少、気になってる相手はいるぞ」

「はは、まあ、これからゆっくり見つけていけば──…………え?」

「だから、気になってる相手はいるぞ」

 

 フィンの言葉に、ヴァシリは一瞬思考を失う。

 

「相手からは冗談やめて、なんて言われてるけどな。きっとあの人が俺をそういう目で見てくれることはないんだろうが、きっとこれが気になるって感情だと思う」

「…………えっと……それは、身内の誰かかな?」

「それは言わない。師匠、詮索はやめてくれ。師匠になら言ってもいいと思ったから言ってるんだ」

「っ、あ、ああ。そうだね、すまない。私としたことが、ずいぶん無礼なことを……」

 

 んんっと咳払いをして、深呼吸。

 

「……でも、そうか。フィンにも、そういう人がいたんだね」

「ああ。残念ながら受け取ってはくれなさそうだが」

「それは……本当に残念だ。フィンが選ぶ女性なら、どれだけ素敵なんだろうかと思わなくもないよ」

「そうだな……なんていうか、俺を引っ叩いて奮い勃たせてくれる人なんだ。強くて、芯があって、たくましい。そんな人だ」

 

(…………あー……確かにそれは、いないかもなぁ……)

 

 フィンの言葉に、ヴァシリは納得する。

 

【星天】も【払暁】も、どちらかと言えばフィンに対して甘えている者が多い。

 

 救われた、助けられた、支えになっている。

 だからこちらも支えてあげたい──そんな想いが中心にある。

 それは彼女にも理解できることだ。

 幼馴染のアリア、二人三脚でやってきたマリアンヌ、カルラ、アストレア……深い関係にいる女達ほど、フィンをそうやって扱うことをしないだろう。

 

 なにせ、いざという時に頼りになるのが誰なのか──それを味わってしまっているのだから。

 

「ま、残念なことに受け入れてもらえそうにないんだが。失恋の苦味ってやつも、その内味わうかもしれん。そうなったら師匠、慰めてくれよ」

「お、おいおい。私がか?」

「そりゃそうだ。誰にも言う気がないことを言ってるんだし、それくらいは癒してくれないと」

「むぅ……そういうのはもっと若い子に頼んだ方が……」

「何言ってんだ。師匠くらいにしかこんなこと言えないんだよ」

 

 その言葉に、ヴァシリは胸を詰まらせる。

 

 何を言えばいいか。

 嬉しい。

 どうして?

 頼られたことが?

 それとも……。

 

「……は、はは。そうか? 全く、巣立ったかと思えば、まだ甘える気があったとはね」

「そりゃまあ。俺にとっちゃ育ての親みたいなもんだ。親にしちゃあ、ちと美しすぎるが」

「…………おい、女誑し。育ての親を口説いてどうするんだ」

「おっと。師匠から見て俺は口説かれるに値する男になったか?」

 

 ニヤリと口角を上げていやらしく聞いてくるフィンに、ヴァシリは動揺を隠せない。

 

(な、なんだ? まさか、本気で……い、いやいや! いや! ありえない、私じゃあない

 ! 勘違いするなよ、ヴァシリ。こんなの、揶揄われてるだけだ。落ち着け、ゆっくりと……)

 

「……あ、あと十年……五年くらい早いかな、うん」

「…………師匠、顔真っ赤だぞ」

「──〜〜〜〜っ……!!」

 

 ヴァシリは両手で顔を覆い隠した。

 

 顔が熱い。

 火が噴き出ているようだ。

 恥ずかしい、嬉しい、なんで嬉しい? 失敗した、変なことを言った。フィンはどう思った、どう感じた? 気持ちの悪い女だと思われてないか。冗談に大真面目に返答した、バカな女だと……

 

 指の隙間から、覗き見る。

 

 フィンは嬉しそうに微笑んでいた。

 

「……さて、ごちそうさま。イイモン見れたし、今日はお暇するよ」

「こ、こらっ! フィン、待つんだ! まだ話は──」

「誰にも言わないでくれよ? 失恋しそうだってことはさ」

 

 そう言って、フィンは静止も聞かずに部屋から出ていった。

 

 残されたのは、顔を真っ赤にしたヴァシリと、空になったティーカップ。

 

「……お、落ち着け。あんなのは、ただの冗談だ。大方、私の動揺する姿でも見ようと思ったんだろう。失恋話を掘り起こされたから、その腹いせに…………」

 

 ヴァシリはカップを手に取り、喉を潤そうとする。

 

 しかし、すでに中身は空になっていた。

 

『そりゃまあ。俺にとっちゃ育ての親みたいなもんだ。親にしちゃあ、ちと美しすぎるが』

『…………おい、女誑し。育ての親を口説いてどうするんだ』

『おっと。師匠から見て俺は口説かれるに値する男になったか?』

 

『…………師匠、顔真っ赤だぞ』

 

「っ…………お、落ち着け……! こんなのは、こんな目であの子を、見ていいわけがないっ……!」

 

 まるで──自分が口説かれているようじゃないか。

 

 それに、失恋の相手の話をしてから口説いてくるなんて、まるで……

 

 ──パァンっ!!

 

 そこまで考えて、ヴァシリは己の頬を全力で引っ叩いた。

 

「ふー…………全く、フィンめ。随分な色男になりつつあるなぁ」

 

 赤みがかった肌のままヴァシリは呟く。

 

(気になる女性ができて、色気付いたのか……危うく私も、本気にしてしまいそうになった。これは、まずいなぁ……)

 

 これまでそういう素振りを見せてこなかったからこそ、余計動揺してしまった。

 

 あんな風に口説かれたらアリアなんて一発だ。

 少しばかりよくない傾向にあるのではないか。

 具体的には、風紀が乱れる……そんな予感がした。

 

「…………考えすぎだとは思うが……」

 

 フィンがそんなことするわけない──そう思いつつも、心のどこかで怪しんでいるヴァシリだった。

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