ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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125 王族

 

 アニカは、王都一等地に構える屋敷の門前で呆然としていた。

 

 それもそのはず。

 彼女ら【超滅】は王都における拠点を得ること叶わず、これまで滞在費と散財によって軍資金が目減りしていく日々を過ごしていた。それはもう、パーティーリーダーのアニカはとても焦燥していた。

 物価の高い王都。

 金等級冒険者のネームバリューも高くない。

 しかも生存優先でギルドの依頼を受けることも滅多にないから優先される訳もなく、このままいけば数ヵ月で軍資金が尽きる──そんな状況だったのだ。

 

 それが、〈転生者〉であると酒場で呟いただけで、僅か二日の日数で格安物件が回って来た。

 

「…………手回し早すぎんだろ……」

「……ま、これが政治さね。王族と伝手がある白金等級冒険者なんて、そこらの大貴族をも凌ぐ権力者だ」

 

 そんなアニカにドレイクが言う。

 

 ドレイクはこの中で最も貴族社会に近い。

 出自は全く交わらぬ彼女だが、トレジャーハンターという職業において名を馳せたのは伊達ではない。彼女が知見を持つブローカーの中には貴族と直接の伝手を持つ者も居たため、権力の強さというものには理解がある。

 

「国によっちゃあ、遺跡から発掘されたモノは全て土地を治める領主に権利があったりする。貴族ってのはその土地における王様なんだ。そんな貴族達の中で最も尊い王侯貴族に対し気兼ねない関係を持つってんなら、これくらいは出来て当たり前さ」

「……おれ、ちょっと貴族を舐めてたかも」

 

 アニカは真剣な表情で呟く。

 農民の娘に生まれた彼女は、さすがに前世の価値観だけで生きて行けるわけもなく、ある程度この世界に順応している。

 

 しかし、それでも貴族というものには中々理解が及ばない。

 

 現代日本に生きていた人間にリョナエロゲ世界に放り込まれて貴族社会であることを意識しろと言う方が難しいのかもしれないが、それでも、これからは貴族社会の中で生きて行くのだから学ばねばならなかった。

 

(アタシとしては、二等地からゆっくりやっていくのもアリだったんだけどねぇ……貴族社会、冒険者ギルド、どこにも伝手のないアタシらが急に良いポジションに付いちまったらいいことばかりでもない)

 

 一人は閉鎖的な村から出て来た魔女。

 一人は出自不明で放浪していた旅の音楽家。

 一人は田舎の村から出て冒険者になり色んなコミュニティに関わらずに成り上がってしまった娘。

 この三人を抱えた状態で社会に溶け込んでいくことはドレイクには出来なかった。

 

 なので控えめな拠点を得て、それからゆっくり社会を学んでいく。

 どんな社会でもそうだが、協力的でない者達に好意的に接するお人好しばかりではないのだ。

 故に、舐められないよう、そして敵にされないように適応していく。

 生存戦略としてはこれ以上ないものだったが──それら全て吹き飛ばしてゴール出来るとは思いもよらなかった。

 

「……まったく。ツイてるねぇ」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「…………。これは……」

 

 王太子──いや、最早次期国王となったレオンは、ギルド本部長マーカスから届けられた手紙を見て眉を顰めていた。

 

 いくら他勢力の手が伸び放題の王国と言っても、王都は彼ら王族の根拠地にしてお膝元。

 

 当然神殿内やギルド本部は難しいが、勢力下である以上は相応に目と耳が配置されている。

 

 それに加えて、ここ一年で神殿・冒険者ギルド・王国の三勢力は距離を縮めた。

 

 第二王女シャルロットの暗殺未遂事件にて金等級冒険者のフィン・デビュラが接触。そこから王女による過剰な擦り寄りを警戒した金等級冒険者パーティー【払暁】所属の【聖女】によって神殿最高権力者の枢機卿が第二王女を囲い込んだ。

 

 第二王女を派閥内に抱えるレオンは困惑しながらも枢機卿らと伝手を繋げることを許可し、頭越しの外交としないために冒険者ギルド本部長へのホットラインも新たに構築。そんなことをしている内に第二王子派が魔王軍幹部の傀儡と化している事実が発覚し、三勢力がいがみ合っている場合ではないと協力する事態に発展。

 

 ようやく処理が終わったかと思えば、今度は魔王との決戦で決定打を放った【勇者】の所属する白金等級冒険者パーティー【星天】が王都凱旋。冒険者ギルド初代本部長であり創設者の一人でもあるヴァシリが王都に拠点を構えたことに胃を痛め……

 

 そんなことをしている内に、もう一人の聖女も巻き込まれた枢機卿や『トップに立ったはずなのにいつまでも死なない最強格の女』が自分を監視するかのように拠点を作ってしまい日夜プレッシャーを感じている本部長などと連絡を取り合うようになり、自然と三者は『これもうどうしようもないよな……』という苦労を分かち合うようになった。

 

 つまり、王都においてこの三勢力は自分達の基盤全てを容易に破壊しうる存在が多すぎることで急接近したのだ。

 

 王族であるレオンは『どこどこの貴族がバカをやりそうだ』という情報を流したり、本部長のマーカスは『この貴族坊は秘密の会合してるぜ』とレオンに有利に使える材料を密告、枢機卿ことエクトルは『賄賂送ってきた貴族、冒険者達のリストだ』と快く提供。

 

 王位争いから僅か一年、王都近郊での治安は急速に回復し、王太子派にあった貴族で野心を持っていた者達の頭を抑えることにも成功。それらの功績をもってそろそろ生前退位からの戴冠まで秒読み、という段階であった。

 

 なお、これだけやっても人外の力を持つ者達には抵抗出来ないのだから、彼ら権力者の哀愁は留まる事を知らない。

 

 そうやって王国史でも類を見ないほどの結託を見せている三勢力、その中の王国側の長であるレオンの元に届けられた、マーカスからの手紙。

 

 嫌な予感を抱きつつも、彼は封蝋を解いた。

 

「……………………」

 

 内容を見て、レオンは絶句した。

 

『【払暁】のフィン・デビュラが複数人の女と関係を持った可能性がある。こいつらの規模で痴話喧嘩が起きたら、王都は終わりだな。こっちから出来ることはない。ほんとうにすまん。あと【超滅】って金等級パーティーが新たに【星天】勢力に加わった。こっちはエクトルの爺さんに話しとくが、出自がちょっと煙い奴がいるから注意してくれ。ちなみに、こいつらもフィン・デビュラと接触済みだ。ハーレム王が爆誕するか、王都が爆散するか、どっちが先だろうな?』

 

「……………………はぁ……」

 

 レオンは目頭を押さえてため息を吐いた。

 

 本人としては、各パーティーに対して敵意はない。

 

 魔王軍幹部が王国内で暗躍していたのに対し、ほころびなく事態を収拾させたのは他ならぬ彼女らである。更にそれを使って王国に対し過度な要求などもすることがなく、今後もよしなにと譲歩してもらった立場だ。

 感謝こそすれど、憎む理由などかけらもない。

 

 だが────その力の恐ろしさは、拭えない。

 

【聖女】が光を放てば、【剣聖】が剣を振るえば、【暴風】の指先一つで、王都は戦場となる。

 

 そうしないだけの社会性と地位はある。

 だが、そうだと言って、王都をまるごと踏み潰せるような巨獣が社会性を持っているからといって手放しに交友など出来る訳もない。

 

「そんなことを知らされてどうしろと言うんだ……」

 

 レオンは頭を抱える。

 マーカスがこれをわざわざ伝えてきたのは間違いなく嫌がらせだ。

 自分達の上で巨獣が番を奪い合っているのに、その事実に気が付いているのが自分と、ごく僅かな信用できる部下だけ。

 

『くそっ、こんなのどうすりゃ────あ、そうだ。あいつらにも共有してやるか。ついでに新しいパーティーのことも教えてやろっと。枢機卿なら悪いようにしねーだろ』

 

 自分達では抑えきれない暴力装置が常に手元にある──そんな状況に年単位で晒され続ければ、そりゃあおかしくもなる。社会性はあるし地位もある。だが、人の感情というのはそう言ったものを容易に吹き飛ばすことさえしてしまうのだ。

 

(幸いなのは、シャルロットがフィン・デビュラと繋がりを持ってることか……)

 

 そういう点では、レオンに情報共有するのは間違いではない。

 

 突然爆弾が爆発するより、それとなく備えて事故が起きないように干渉する手段もあった方がいい。

 

 なにより、貴重なホットラインである。

 各勢力のトップ同士他の介入を許さない直接の連絡網だ。

 どうしようもない爆弾の存在を共有するのにも最適だった。

 

(…………ふむ。最悪は滅びるが、最善ならばどうなる?)

 

 ここでレオンは考えた。

 どの道、ヴァシリを含む実力者達が暴れればその時点で王国はおしまいだ。残存勢力が纏めるか、他国が介入するか……どちらにせよロクな結末にはならない。

 

 だが、もしも、もしもフィン・デビュラが全ての女性を手中に収めたとしたら、どうなる?

 

(……【聖女】、【天聖】、【勇者】、更にハイエルフの王女たち……)

 

 世界に十人といない聖女。

 数千年前から世界で暗躍してきたダークエルフ。

 魔王を討伐する決定打を放った〈聖剣〉所有者に、エルフの王族たち。東方諸国に影響力を持つ【剣聖】に、エスペランサ教と何らかの関係がある女を抱えた【超滅】。

 

 これら全員、フィン・デビュラが過不足なく己の女としてみせた時。

 

(…………あまり、こういった手は使いたくないが)

 

 レオンは王族だ。

 次期国王として国を率いていく立場にある。

 個の戦力が突出する世界での専制政治のバランスは難しく、その中でも特殊な立場にある彼は、今後も複雑な情勢に対し的確な手を打ち続けなければならない。

 

(どの道、死ぬときは全て丸ごとだ。ならば……)

 

 マーカスより届いた紙を、ビリビリに破り裂き暖炉に放り込む。

 

 瞬く間に燃え尽きていくソレを見つつ、レオンは部屋の外に待つ部下へと声をかけた。

 

「誰かあるか」

「はっ」

「シャルロットを呼べ」

「承知しました」

 

 吉と出るか、凶と出るか。

 

 燃え、弾ける手紙をレオンはじっと見つめていた。

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