ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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134 〈深淵の森〉攻略②

 アリアを先頭に〈深淵の森〉へと足を踏み入れた五人は、フィンを中心に左右に一人ずつ、後ろに二人の魚鱗の陣もどきで進んでいた。

 

「ふんふん……うーん、流石にニオイじゃなんもわかんないや」

 

 すんすんと鼻をヒクヒクさせてアリアが言う。

【聖剣】の効果は身体能力を飛躍的に向上させるものだが、それは五感や反射神経にも作用する。そうでなければ高速戦闘下での状況判断など出来る訳がない。聴覚も同様に強化されているが、そんなアリアの五感をもってしても森の揺らぎは感じ取れなかった。

 

「巨豚人は図体がデカい癖に器用なんだよ。足音は出さないし木々も揺らさない。奇襲が好きで、視界の外から仕掛けてくるんだ」

「うへぇ……なにそれ、ズルじゃん!」

「ズルだが、殺し合いにルールなんてもんはないからな」

 

 ぷんすか怒るアリアにフィンは苦笑する。

 

 既に死地に居るというのに妙に軽い態度だが、アリアは〈聖剣〉の機能により森の中であっても十全の能力を発揮できる。以前身動きも取れずにフィンが瀕死になる姿を見たのは油断していたのと、精神的な動揺が激しかった為だ。

 

 あれ以降〈不浄領域〉に出るのが少し嫌になったアリアだったが、ここに至るまでにもっと凄惨な出来事に遭遇したことだってある。ヴァシリが死に掛け、フィンも死に掛けた。どれだけ苦しんで戦ってるのか見せつけられて精神的に荒れかけた。

 それでもアリアは乗り越えた。

 彼女は世界を救った【勇者】なのだ。

 フィンの姿を見てショックを受けて意識を失うくらい苦しんだ。

 だからといって、いつまでも歩み出せないようなか弱い少女ではないのだ。か弱い少女はずっと昔に、フィン・デビュラによって救われているのだから。

 

 既にアリアは他人の手を借りなければ起き上がれない少女ではない。

 

 そんなアリアは、話しながらも全力で警戒を続けている。

 

 それをわかっているからこそフィンも彼女の態度を咎めることはない。

 

「ちぇっ、やっぱり私じゃ感じ取れないかぁ」

「アリアなら何度か来れば慣れるさ」

「いや、無理だからね。私はフィンみたいに見えてない攻撃捌けないから」

 

 そんなアリアから見てもフィンの特化した分野には勝てないと思った。

 

 見えてない、威力もわからない初見攻撃をこれまでどれだけ防いできたのかは、マリアンヌから聞いた。やっぱり私の幼馴染は凄いなぁと感心したのは記憶に新しい。

 

「そうか? やろうと思えばできるだろ」

「フィンは私を何だと思ってるのかな。特別だからって何でも出来るわけじゃないんだよ?」

「俺に出来たことがアリアに出来ないと思わんが……」

 

 うぐっ。

 アリアは呻いた。

 フィンからの信頼は嬉しい。

 口元が思わずニヤけてしまう程度には、嬉しい。

 五年もの歳月離れていた幼馴染で、再会してからも四六時中一緒に居たわけではない。何なら同居も断られて距離を感じた。それでも、やはり自分達は幼馴染で特別なのだ。

 そんな風に受け取りニヤニヤ口をまごつかせるアリアに、マリアンヌはジト目で話しかける。

 

「アリアさん、お忘れでは、ないですよね……」

「ひっ! わ、わわ忘れてないよもちろん。私達、友達だもんね!」

「……何か約束してたのか?」

「ええ、まあ……ちょっとしたお付き合いを……」

「お付き合い……」

「ちょっ、マリアンヌちゃん! 変な言い方しないでよ! フィンっ、私達何もないからね? 私はフィンのこと大好きだからね?」

「ハハ、うん、わかってる、わかってる……俺は応援するからな」

「ねええええぇっ! 何もないってば!!」

 

 ────瞬間、フィンとアリアが同時に振り向く。

 

「アリア」

「フィンッ!」

 

 ────ヒュゴッッッ!!

 

 二人が一歩踏み出た刹那、槍が飛来する。

 モンスターお手製特有の荒さによって殺傷力を増した穂先が、音よりも早く接近。狙いは、ミューズとマリアンヌ。

 

 ミューズに向けられた槍をアリアが〈聖剣〉で叩き落す。

 マリアンヌに向けられた槍をフィンが盾で弾き飛ばす。

 それに伴い発生した衝撃、爆風、轟音────。

 

 ドオッッ!!

 

 槍が大地に叩きつけられ亀裂が奔る。

 風で土が巻き上がり木々が揺れ空気が軋む。

 弾き飛ばされた槍は轟音と共に空高く逸らされて彼方へと消えていった。

 

 だが、次の瞬間、既に巨豚人は姿を現している。

 

 木々を圧し折り大地を砕き、瞬く間に奔り込んで来た巨豚人がその巨体で突撃を敢行。

 狙いは当然、マリアンヌとミューズ。

 槍は止められても、自分達の突撃を止められるわけがない。

 庇いに来た男と女を戦闘不能にして、即座に制圧。

 そうすれば後は嬲り放題──巨豚人は下卑た想像()膨らませ、そして、光に断ち切られた。

 

 アリアの〈聖剣〉による一撃。

 真っ二つに頭部を叩き切り半分に肉体が分割された巨豚人を、邪魔にならないように横へとフィンが弾き飛ばす。血肉を撒き散らして吹き飛んだ死体にマリアンヌが杖をかざした。

 

「──【聖撃】……!」

 

 極光が瞬き、血肉諸共死体が消え去る。

 

 それから暫く、場所を移動しながらフィンとアリアの両者が警戒を解いていいと判断してから、五人は一息吐いた。

 

「ふー……何とかなりましたね。お怪我はありませんか?」

「私は大丈夫だよ! フィンも大丈夫だと思うけど……」

「盾が歪んだくらいで、俺自身は無傷だ」

 

 左腕に握った盾は確かにひしゃげている。

 

「私の強化はあくまで身体の強化なので、装備までは……ごめんなさい」

「これくらい気にするな。これまでの鎧修繕費とかに比べれば安いもんだ」

 

 腹部をぶち抜かれて胴部位丸ごと交換、なんてことは日常だった。

 金欠になるのも当然である。

 

「二人にはずっと強化をかけてもらってる訳だが……負担はないか?」

「これくらいでしたら全く。遺跡探索中は基本かけっぱなしなので」

「余裕」

 

 ぶい、とミューズが指を立てた。

 

「戦闘も問題なし。これで限界じゃないんだろ?」

「フィンさんに関してはもう一段階あげられます」

「無理すれば?」

「……一応、あと二段階ありますが……やるつもりはないですよ」

「俺がヤバいと判断した時は容赦なく引き上げて構わん。死ぬより怪我した方がマシだ」

 

 フィンの言葉に渋々と言った様子でカトリーナが頷く。

 

「私の方も問題なく処理できたけど、数が増えると厄介かな。一人だと対応できて三本くらいかも」

「俺の方は、守り一辺倒で良いならもう少し対応できる。七くらいだ」

「……なら、フィンが防いで私が斬る。もしくは、マリアンヌちゃんが消し飛ばす。これだね」

「賛成だ。【聖撃】は強力だが隙もある。アリアが斬って解決するならそうして、無理な時は二人で防衛だ」

「オッケー。マリアンヌちゃんもそれでいい?」

「…………」

「……マリアンヌ?」

 

 無言のまま俯くマリアンヌ。

 フィンの問いかけにも応じなかった彼女は、心の中で思考に耽っていた。

 

(──…………私のやることが、なかった……)

 

 今の攻防でマリアンヌがやったことは死体を消し飛ばしたことだけ。

 戦闘隠蔽の意味で行ったが、これまで〈深淵の森〉を幾度となく訪れて一度も死体に遭遇したことがない。マリアンヌの【聖撃】以外の手段で倒したことは決してゼロではなく、カルラやアストレアがトドメを刺したこともあるのだ。

 そうして残った死体を【払暁】が処理したことはない。

 だが、一度も見ていないのだ。

 つまり、巨豚人の死体は長期間遺るものではないということ。

【聖撃】を撃ってまで消す価値はない。

 

(……アリアンロッドさんと、フィンさん。二人のコンビネーションは完璧でした)

 

 近接戦には明るくないマリアンヌでもそれはわかる。

 

 幼馴染だからか、それとも単純に戦士としての技量の高さが成せる技か。

 

 少なくとも五体程度同時に相手するならば、フィンとアリアの二人だけでどうとでもなるだろう。

 

(私は必要なかった。少なくとも、この戦いでは)

 

 わかっていた筈だ。

 フィン・デビュラが戦う力を得たのなら、こうなることは明白だった。

 ダメージを負わなくなった完全無欠の盾役と、彼と同等かそれ以上の能力を発揮する勇者。そして支援役として欠かせない二人。マリアンヌが選ばれたのは治癒と攻撃の二つが出来るから。

 万が一に備えた支援役であり攻撃役。

 そういう役目だとわかっていた──筈だった。

 

(…………)

 

 胸が痛い。

 なぜかはわからない。

 ただ、自分が必要無かったのだと、フィン・デビュラの戦いに己が必要とされていなかったと気が付いて、胸に痛みが奔った。

 

(私は────また(・・)、要らなくなる……?)

 

「……ヌ、マリアンヌ?」

「っ、は、はい。なんですか?」

「……大丈夫か? やっぱり調子悪いんじゃ……」

「い、いえ。ちょっと、気になったことがあって。それも解決しましたから、問題ないです」

「…………そうか。無理はするなよ」

 

 フィンの心配した声を聞くと嬉しくなる。

 けれど、前とは違って、胸の痛みは消えなかった。

 

(…………気にしない、気にしない。悪いことを考えるのは、よくありませんから)

 

 マリアンヌは、そんな己の内に湧いた感情から目を逸らして蓋をした。

 

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