ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

135 / 156
135 〈深淵の森〉攻略③

 三時間に渡る探索を終えた一行は、真っ直ぐに森の外へと向かった。

 

 あくまで目指したのは森の外であり拠点構築地点ではない。

 何度も逃走を繰り返したためここに至るまでの道のりが遠回りな上にモンスターと遭遇するリスクが以前よりも跳ね上がっているのだ。通るわけにいかない。

 無難に外へと脱出した五人は、それまで以上の速度で足早に外周を駆けていく。

 フィンがマリアンヌを抱え、アリアがカトリーナとミューズを抱えて走る。

 強化で身体能力が引き上げられたフィンは一時的とは言え、アリアと並行して移動することが可能だった。

 

 そして辿り着いた場所には──砦が出来ていた。

 

「…………あの。ここって、さっきまで何もなかったですよね……?」

 

 カトリーナが呆れた表情で呟く。

 

「そうだな。何もなかったが……」

「あ、そっか、知らなかったら混乱するよね。師匠、廃墟とか回収して修繕したりしてるからいつでもこういうの作れるんだよ」

「む、無法すぎる……」

 

 ヴァシリの無法っぷりにドン引きしながら呟く。

 

「まあ、師匠だしな」

「師匠だからねー」

 

 ヴァシリへの信頼度がマックスに到達してる二人は特に何事もなかったかのように呟くが、マリアンヌもそれを見て動揺していた。

 

(“あいてむぼっくす“……こ、こんなものまで……?)

 

 紙や武具、ちょっとした食材などを溜め込んでいることは知っていたが、砦丸ごとひとつとは思いもよらなかった。

 

(野営が必要ない。いや、それどころか、一人で街をたくさん作れるんじゃ……あ。そうか。そういうことですか)

 

 そこでマリアンヌは気が付いた。

 

 ヴァシリが世界各地で暗躍してきたのは彼女も知っている。

 仕事の話をしている最中にふと溢すこともあれば、マーカスや枢機卿と話している時に話題になることがある。大陸全土に農耕を広め狩猟が主体だった生活を一変させたことや、現代まで連綿と続く国家の大元を作るのに介入したこと。

 一体どうやって介入したんだと思っていたが……

 

(数千年前から今と変わらない知識を有しているのだとしたら簡単でしょうね)

 

 技術提供や武力での制圧だけに留まらないインフラの整備。

 それすらも単身で楽に行えるとなれば、それは最早『神』の領域ではないか。

 古代においてヴァシリ・ヴァルバロッサは、どう扱われていたのか。

 その一端を垣間見れた瞬間だった。

 

 そんな偉人に育てられた二人。

 アリアは〈聖剣〉を手に【勇者】となって、フィンは鍛え上げられた肉体で金等級冒険者になった。

 まだ幼かったフィンは守られる少年だった。

 今は違う。

 

「……門の前で何してるの?」

 

 そこへ、アリーシャが現れる。

 城壁を飛び越えてやってきた彼女の装いは戦闘衣。

 エルフらしい軽装だが関節や急所を守る防具を身につけたものだった。

 

「アリーシャか。いや、師匠は流石だと改めて感心してたんだ」

「流石っていうかやりすぎじゃない? こんなのなんでもありじゃんね♡ お風呂もあるんだよ♡」

「おお、風呂か。それはいいな」

「うんうん♡ お兄さん汗くさ〜い♡ 早く入ってきなよ♡」

「わかったわかった。抱きしめてやろうか?」

「や〜ん♡ ニオイも行動もけだもの♡ きもいよ♡」

「ははっ」

 

 アリーシャと同様、城壁を飛び越えてフィンは中へと入っていった。

 

 半ば呆れていたカトリーナは自力で浮遊し、ミューズは共に杖に乗って砦の内側へ入っていく。

 

「それじゃ、私も先に戻るね」

 

 アリアもまた、城壁を軽々飛び越えた。

 

 残ったのはマリアンヌとアリーシャだけ。

 マリアンヌもこの程度の壁を越えることなど造作もないことなのだが、一歩も動かないことを訝しんだアリーシャが声をかける。

 

「どしたの♡ お兄さんがまた何かした?」

「……いえ。なんでもありませんよ」

「そう? ならいいけど、変に考えるくらいだったらお兄さんにさっさと言っちゃった方がいいよ」

「……何かある風に見えますか?」

「うん♡ 悩んでるって顔に書いてる♡」

 

(そこまでわかりやすいですか……)

 

 腹芸はそれなりに出来るのにと苦笑する。

 

「……そうですね。どうしようもなかったらフィンさんに相談します」

「うんうん♡ お兄さんなら大体なんとかしてくれるよ、たぶん。無理難題だって喜んで引き受けちゃうんじゃない?」

「まあ、確かにそうですね。私としてはあまり無茶しないで欲しいんですが……」

「あはっ♡ 無理無理、それがお兄さんの趣味だもん。変態さんだよね〜♡」

「趣味…………」

 

 アリーシャの言葉が妙に引っかかった。

 

 確かに言う通り、フィンは無理難題だろうが何だろうが引き受けるし受け入れる。

 

 仕事上仲間を危険に晒す注文は断固として拒否するが、自分が負担することで何とかなると踏んだものに関しては一切の躊躇がないのだ。

 

 かといって、仲間を頼らないわけではない。

 何なら、積極的に仲間を頼っている。

 だがそれも仕事をする上での話だ。

 私生活で仲間を頼るようになったのは共に暮らし始めてからで、それだって大した頻度ではない。だと言うのに、自分達はフィンに色々と相談しているし迷惑をかけてばかりだ。

 

(…………そういえば、フィンさんから何か持ちかけられたことって、あまりないかも……)

 

 デート(と称した買い出し)に誘うのはいつもマリアンヌから。

 手が空いてる時はフィンも孤児院に同行すると言ってくれるが、それも最近は減ってきた。いや、そもそもマリアンヌが孤児院に行く頻度が減っているのだ。

 

【払暁】の運営、【星天】との連携、【聖撃の聖女】としての業務にセラフィーヌの穴を埋めるために神殿出張が加わり、マリアンヌは多忙な日々を送っている。

 

 それ自体に不満は一切ない。

 仲間に対して文句もない。

 多忙なのはいいことだと思う。

 仕事すらない、金もない、治癒の腕を磨くための魔力も尽きて腹を空かせて寝るしかなかった駆け出し冒険者の頃を思えば充実しているのだ。

 

(……ああ。やっぱり、寂しいんですね)

 

 何が寂しいのか。

 これまでずっと一緒だったのに、自分だけ違うような気がすることか。

 カルラやアストレアは以前と距離感が変わらない、いや、近づいたような気もする、二人とフィンは前よりフランクになったような気がしてならない。

 いや、気のせいだ。

 前からフィンはそうだった。

 愉快で、でも硬派で、紳士。

 かといって頭が硬いわけでもなく、だが男らしい部分で頑固だ。

 

(フィンさんが変わったんじゃない。環境が変わって、私だけ離れたんだ)

 

 フィンに近い人は増えた。

 幼馴染のアリア、師匠のヴァシリ、ハイエルフの姉妹は何だか相性が良いようにも見えるし、グリセルダとかいう付き人に関してはフィンをそういう目で見てる。シャルロットを筆頭に貴族令嬢達もそうだ。

 

 フィンの魅力を知る人が増えた。

 その結果、マリアンヌは一人だけ輪の中から外れつつある──そう感じている。

 

(疎外感を感じるようになったから、よくない思考もする。わかりやすい)

 

「逆にお兄さんの趣味ってあるの? 私から見たらいつも自分を苛めてるど変態さんなんだけど♡」

「求道者と言ってください。フィンさんはどう言われても怒らないかもしれませんが、私は許しませんよ」

「あはっ♡ 冗談冗談♡ 変態さんだけどね」

「……姿勢を変態と言うのなら否定はしません。ですが、言われもない誹りを受けるような方ではありませんから」

「うん。そうだね……」

 

 アリーシャは遠い目をした。

 

「……お話に付き合ってくださり、ありがとうございます。少し、何を考えていたのか理解できました」

「んーん。私もどうせ見張りの時間だし暇つぶしできてちょうどよかった。それに、あんまり聖女ちゃんと話できてないからさ♡ お兄さんの被害者筆頭って感じがする♡」

「ひ、被害者……」

「悪い人だよね♡ 女の子の心をズタズタにしてデロデロに溶かしてくるんだもん。本当に、さ……」

 

 そう呟いたアリーシャの瞳を見て、マリアンヌは悟る。

 

 彼女もまた、フィンに焦がれているのだと。

 

「……そう、ですね。ひどい人です……」

 

 フィンの役に立ちたい。

 フィンのために何かをしたい。

 そう思って立ち上がった聖女としての役目が、今の己の足を引っ張っている。ヴァシリが出てきた以上、たかが一人の聖女なんて大した役に立たないのだ。

 でも、それを後悔はしたくない。

 フィンのことが好きで好きでしょうがなくて、心を病んでしまうくらい好きだとしても、それと同じくらい自分と同じ境遇に遭う子供を増やしたくないと思うのだ。

 

 孤児院への支援は拡大している。

 聖女としての剛腕を振い始めてから神殿の費用も使うようにエクトルが差配したのだ。その結果として、王都近郊のみならず地方都市にある孤児院にも十分な支援が行き届いている。

 

 それは間違いなくマリアンヌの望みであり夢だったことだ。

 

 そんなマリアンヌの夢を聞いて、屈託のない笑顔でフィンは言った。

 

 俺に出来ることなら何でもするから、手伝わせてくれと。

 

「……そんなフィンさんだから、好きになったんですよ」

 

 役に立てないかもしれない。

 不必要になるかもしれない。

 それでも、それを後悔したくはない。

 誰かのせいにしたくはない。

 フィンの嫌がることはしたくない。

 好きな人には幸せでいて欲しいから。

 

 もしも、自分が必要ないと言われた時は──その時は、どうするべきだろう。

 

 大人しく身を引くか。

 やけになって思いの丈を吐露するか。

 そうなる前にもう一度、フィンとの仲を深めるべきか。

 でも強引な女は嫌われるかもしれない。

 なにせフィンは今まで女性遊びを全くしていないのだ。

 お淑やかな女が好みなら、誘えてデートくらいのもの。

 しかし、幼馴染のアリアは無垢な様子でフィンをデートに誘っていたし……。

 

 ぐるぐる悩み始めたマリアンヌに、このままいられてはたまらないとアリーシャが口を挟んだ。

 

「……ま、お兄さんのことだし、女の子の一人や二人簡単に抱えちゃうかもだしさ。そんな深刻に考えなくて良いんじゃない?」

「……ふ、不潔ですっ! 女性を取っ替え引っ替えなんて、フィンさんはそんなことしませんから!」

「あ〜〜……あはっ♡ ンフッ♡ そーかも♡ そうだね♡ そうかもね♡」

 

 会話の最中に開いていた城門にブツブツ言いながら足を向けるマリアンヌを見送りながら、アリーシャは内心思った。

 

(アリシア姉さん♡ 全部知った上で会話するの、めちゃくちゃ楽しいね♡)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。