ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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第四章
138 あの祠壊したんか


 

 ────ガッ!!!

 

 飛来した槍を盾で弾き飛ばす。

 正面ではなく遥か後ろへ。

 俺自身の性能がどれだけ強化されても装備品はそうではなく、無理矢理膂力で押そうとすれば間違いなく歪みが生まれる。

 装備の歪み、肉体へのダメージは戦闘に直結する。

 当然俺はそういった些細な調整も行えるように金が無かった頃とは違い職人に特注品を使用している。これによって初期の誤差を極限まで削っている反面、金欠になるデメリットがあるが、背に腹は代えられない。装備一つ拘ることで仲間を護れる可能性が増すのならそうするべきだ。

 

 ただまあやはりどれだけ完璧に受け流そうが、俺の力が強化されようが、相手の膂力が桁外れな以上は装備品の歪みは避けられない。

 だから最も被害の少ない受け流しを選ぶ。

 アリアみたいに壊れない聖剣ならぬ壊れない聖盾でもあればなぁ。

 

 一本目を弾いた後、続けざまに数本飛んでくる。

 一、二三四──五本。

 内二つが同時、一つが先行、二つが遅れ。

 

 前に出ている分俺が多く処理するべきだと判断し、盾で一つ、残った二本も同様に盾で逸らす。

 

 ──ゴガガッ!!

 

「アリアッ!」

「うん!」

 

 俺の前に飛び出したアリア。

 その手に握られた聖剣は光を纏っていた。

 

「──はああぁっ!!」

 

 そして、そのまま真っ直ぐに振り下ろし──極光が迸る。

 

 〈聖剣〉の代名詞でもある光の剣。

 〈不浄領域〉そのものを消し飛ばしてしまうというソレは木々を薙ぎ倒し投げ槍すら巻き込んで新路上にあるもの全てを蹂躙する。

 

 ほんの僅かな間の照射。

 だというのに、光が収まった時既にそこに森の姿はなく、ドロドロと溶岩の様に溶けた木や土の残骸ばかりが残っていた。

 

 これが人類を救った光。

 これが、俺が追い付くべき光だ。

 でもさ闇マリ、聞いて欲しいんだけどさ。

 

『やめておきなさい、死にますよ』

 

 まだ何も聞いてないじゃん!!!!!!

 

『どうせあの光に呑まれたらどうなるんだろうとか考えてるんでしょう?』

 

 はい。

 いや、だってあれ……こんな風にドロドロになるのって明らかにおかしいじゃん。師匠もどういう原理か知らないって言ってたけど闇マリはなんとなく知ってそうだし、もし仮に俺が飲み込まれたらどうなるか……ウウッ、気持ちいいのかな!?

 

『もし仮にフィンさんが〈聖剣〉で斬られた場合、負傷部位から侵入した神力によって骨が弾け肉が千切れ欠損に至るでしょう。また、あの光に呑まれた場合は皮膚と肉が焼け骨が消え体中の水分全てが沸騰し脳が物理的に破壊されますが、今のフィンさんは死にませんが己で復活する手段を持ち合わせていないのでただ生きているだけの肉塊に成り果てます』

 

 はい、わかりました!

 二度とそんなこと考えません、闇マリ!

 

『安心してください。私を誰だと思っているんですか?』

 

 !! …………

 

 偉大なる王都に輝く聖女にして聖母マリアンヌの闇の方……

 

 そっ、そうか!

 闇のマリアンヌは闇とはいえ元を辿ればマリアンヌ、つまり聖女に辿り着く。

 つまり闇のマリアンヌの『死にませんよ』発言はその類まれな聖女としての能力による確固とした自信によるもの! 俺が死なないように闇人格が癒してくれている、そういうことだな!?

 

『いえ、単純に物言わぬ肉塊になった後の方が調整しやすいだけです』

 

 ヒィッ闇のマリアンヌの闇の部分が出てる!

 

「ふー……後続はなさそうだね。みんな無事?」

「こちらは全員無傷です。フィンさん、腕は大丈夫ですか?」

「ああ、全く問題ない。二人の強化に助けられてるよ」

 

 そう言いながら、カトリーナとミューズに視線を向ける。

 

 カトリーナは特徴的な三角帽子で顔を隠していた。

 

 ミューズは弦楽器(と言うんだったか?)のようなものをポロロンと鳴らしながら無表情で頷いた。

 

 ……何度見ても見慣れねぇ……。

 いや、有用なのは間違いないんだ。

 音楽で仲間を強化して敵を弱体化、理屈は意味わかんないけどすごく有用だからさ。でも普通に〈不浄領域〉に楽器持ち込んでるのがおかしな光景過ぎて、慣れない。

 

「それにしても数が増えてきたな。一気に五体? 最多更新じゃないか」

「【払暁】としては最大でも二体まででしたので、既に以前とは違う領域に踏み込んでいるのは確かかと」

 

 マリアンヌが持ってきた地図を見ても一目瞭然。

 俺達【払暁】は浅い範囲までしか探索していないのにも関わらず日帰りでの退却を余儀なくされていたが、ここ一週間で既に森の中層辺りまで踏み込めている。

 あくまで踏み込めているというだけで調査なんて到底出来ていない。

 なにせ四体以上の巨豚人が次から次へと襲い掛かって来るのだ。

 こんな状況で調査なんて悠長なこと、出来るわけがない。

 

「……一度退くべきか?」

「良い頃合かと。これより先を調べるには、まだ力不足だと思います」

 

 マリアンヌの意見に頷く。

 正直なことを言えばこれ以上どうやって力を得るんだという感じだ。

 俺は既に限界まで絞り切っている自覚があるし、カトリーナとミューズの力があってようやくこれ。アリアはまだまだあるのかもしれんが……特別すぎて俺には推し量れない。

 

 単刀直入に言うと、手詰まりってことだ。

 

「んー……そだね。一回戻って方針変更でもいいかも?」

「同感だ。対応は出来るが、戦闘しながら調査や退路の確保を常にし続けることを考えるとこれ以上の負荷は危険だと思う」

「私達はついていくだけなので、そちらの決定に従います。至って真っ当な判断だと思いますし」

「ん」

 

 マリアンヌとミューズの承諾も取れた。

 ここは一度退却で良いな。

 

「そうしましょう。奥へ進めば進むほどリスクが上昇するのはわかっていましたが、これほど急速に戦闘の頻度や数が増えるとわかったのは幸いでした」

「実質的に戦える人三人だもんねぇ。被害ゼロでここまで来れたんだし、十分か」

 

 まあ進むだけなら可能なんだが、前述した通り死ぬリスクが急激に増す。

 俺も全力で仲間を守るけど手は二本しかないし身体は一つしかない。

 全方位囲まれて槍を投げられたら死ぬしかないんだ。

 アリアならそこら辺ゴリ押せそうだけど、俺は所詮魔法で強化されただけの盾役で特別な力なんてありはしない。

 

 ──と言うわけで、退却。

 来た道を戻るのは避け、拠点までは遠回りになるが、森を抜けるのには最短の道を行く。

 何度か巨豚人にも遭遇したものの、やはり外へ近付けば近付くほど数は減っていく。

 五体が四体に、四体が三体に、三体が二体に……

 

 そして最終的に一体の巨豚人をアリアが聖剣で切り払ったところで、アリアが何かに気が付いた。

 

「……ん? フィン、なんかあるんだけど……」

「……どこだ?」

 

 察知できず困惑していると、アリアが目を細めて指で示す。

 退却する方向とは少し外れるものの、森の奥に進むわけでもない。

 

「浅層の範囲内か?」

「たぶん。少なくともモンスターは一体も見えないよ」

「……マリアンヌ、どうする?」

 

 俺に問われたマリアンヌは眉を顰め難しい顔で悩んだ。

 

 撤退している最中に不要な行動は避けたい。

 だが少なくとも現在地点では問題なく脅威を排除できることがわかっている上に、森の出口までそう遠くない。今なら三十分もあれば出られる。寄り道のリスクは低い。

 

「……どれほどの距離ですか?」

「歩いて十分とかかな」

「…………行きましょう。戦力と退却までのリスクを考慮しても、木しかない〈深淵の森〉で唯一異常な点がある。それを発見することは大いに価値があります」

 

 そうして進路を変え、森の中を進んで数分──そこにあったのは、石造りの祠だった。

 

「……祠?」

「みたいですね……」

「へー。師匠のふるさと関係なのかな?」

 

 明らかに怪しい雰囲気。

 こんな邪悪な森の中にある祠とか絶対ロクでもないだろ。

 危うきに近寄らず、だっけ。

 そんな言葉を聞いたことがある。

 こんなの絶対いいことないのがわかりきってるから誰も近寄ろうとしない。

 

 マリアンヌは難しい顔で、アリアはいつも通りの表情で、ミューズは変わらぬ無表情で、カトリーナは青褪めた顔で。

 

 大体、あんな化け物が跋扈してる森の中に隠されたような祠ってなんだよ。

 邪神でも祀られてんのか?

 化け物の親玉なんだしさぞ醜悪な見た目をしているのだろう。

 あの時俺をボコボコに気持ち良くしてくれた尖兵同様、最悪な趣味をしているに違いない。

 

「……好き放題言ってくれるわね」

 

 エッ。

 や、闇のマリアンヌのことじゃないですよ?

 確かにこの森で待ってるとか明らかに怪しいこと言ってたけどまさか闇のマリアンヌが邪神の手先なわけないだろ。確かに三年くらい前に突然頭の中に出現したけど俺の頭がおかしくなっただけだろうしさ。

 

 闇のマリアンヌは神的に良い人ことマリアンヌの闇人格。

 聖女に決まってるだろ。

 

「ま、あながち間違いじゃないけど。それで? やる気?」

「ッッッ……!!?」

「フィンッ!? そいつから離れて!!」

 

 え?

 

 聖剣を抜刀したアリアと、こちらに光を向けるマリアンヌ。

 

 怯えた表情のカトリーナに、変わらず無表情のミューズ。

 

 そして、ふわふわと俺の周りを漂っている黒髪の美少女。

 いや……闇のマリアンヌ。

 

 これまで見慣れた彼女の姿。

 特に俺にとっては違和感のない光景だが、これだけ周りが警戒しているということは、つまり……。

 

 漂う黒髪の美少女、もとい闇のマリアンヌはそのままゆるりと俺の首に手を回して背後から抱き着いた。

 

「ようこそ、我が使徒と仲間達。私の胎内(なか)へ」

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