ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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14 【リリーガーデン】と【払暁】①

「え゛。わ、わたくし達が、き、金等級冒険者様と合同クエストに……?」

 

 引き攣った表情で呟くのは、クロエ・クリアール伯爵令嬢。

 

「ああ。光栄なことだろう?」

「確かに光栄ですがっ! いや、えっ、金等級冒険者様ですか!? 本当に!?」

「あわ、あわわわ……」

 

 クロエ伯爵令嬢が混乱するのも無理はない。

 令嬢のみのパーティーにして翠玉等級冒険者となった彼女らは、並の貴族よりもその力関係を理解している。

 

 金等級冒険者は、人間ではない。

 

 ギルド内や冒険者達の間で共有されているそれは貴族間に共有されているものとは違い、あまりにも具体的で血の気の引く話を元に成り立っている。

 

 具体的には、肉体からありとあらゆる臓器を失い四肢も切断されたのに立ち上がる異常者がいるとか。

 

「……それってまさか、こないだ助けてくれた人?」

「あっ、そっか! じゃないと殿下に金等級冒険者と繋がりなんてできるわけ無いもんねぇ」

「ちょっと、不敬だよ」

「あはは、今更じゃん」

 

 ヴィオレット・オリエント男爵令嬢はカラカラ笑う。

 それに対し、ルシール・ファヴィエン伯爵令嬢は呆れたように言った。

 

「まあ確かに、ヴィオが普通に話してる時点で不敬もクソも無いけどさ」

「ルシールさん。“クソ”なんて言ってはいけません」

「う。いいじゃん別に、どうせあたしは貴族の婿なんて貰えないんだしさ。いい感じの冒険者見繕うから言葉使いなんて……」

「貴族である前に淑女でしょうに。それに、貴族子女というポイントを活かさないのはもったいないですわよ」

「それはまぁ……確かにそうだけど」

 

 彼女ら三人とも、貴族令嬢としては半ば終わっているに等しい。

 

 ルシール・ファヴィエン伯爵令嬢は北方平原に領地のある貴族子女だが、常に雪の降る豪雪地帯で夏のない場所で育ったために基本的に貧乏暮らしだった。伯爵自ら自分でその日の食事を取りに行かねばならなかったので、当然ルシールも同じように育った。

 結果、貴族令嬢らしくない筋肉質な肉体を手に入れ荒れ放題の手や肌となった。

 学院にきて婿探しを始めて相手にされず陰口を叩かれ絶望していたところをシャルロットに拾われ友人になった形である。

 

 ヴィオレット・オリエント男爵令嬢に関してはそもそも元平民だ。

 スラム街に近い場所で母親と二人暮らしていたところ、地方の男爵が迎えに来て男爵令嬢となった。平民出身でガッツのある彼女なりにまともに教育を受け、いざ学院で玉の輿と意気込んで初めて話しかけたのが第二王子閥所属の令息だったために彼女の貴族生活は終焉を迎えた。

「なんかおかしいな」と思い始めた時には既に遅く、国の政治状況を知った時は絶望のあまり泣き叫んでしまった。その際に見かねたシャルロットに拾われ、心の底から仲の良い友が出来たから良いかと今は思っている。

 

 クロエ・クリアール伯爵令嬢はそういったやらかしは一切ない真っ当な貴族子女だが、母が死に新たに迎えた後妻に酷く嫌われ学院卒業後家を出ていくことにしている。元々両親は政略結婚で特に愛があったわけでもなく、伯爵はクロエより連れ子の妹を可愛がっているため仕事の手伝いをしながら着々と出ていく準備をしているところだった。

 学院での成績が良く、それでいて他の貴族と仲良くする様子がないのでいじめを受けていたところをシャルロットが突撃。いくらシャルロットに実権がないと言っても王女であるため逆らえず、ズルズル関係を続けて行った結果友人になった。

 

 つまり、彼女ら三人とも、シャルロットと同じく〈力のない貴族〉なのだ。

 

 冒険者という道を密かに歩いていたシャルロットに唆され同じ道を歩くようになったが、そのおかげで終生の友を得たとそれぞれが思っている。

 

 自分のことを揶揄う仲間に苦笑しながら、シャルロットは口を開いた。

 

「察しの通り、協力してくれるのはあの時救ってくれた冒険者だ。昨日会った後、そういう話をもらってな」

「保護者同伴……ってわけではないんだよね」

「当然だ」

 

 貴族が冒険者と活動をする際、通常は金を支払い護衛をしてもらう形になる。

 伯爵クラスであれば私兵がいるし、男爵でも従士がいる。

 彼女らは護衛が一人もいない状態でずっとやっているため、今更増えても違和感があるだろう。

 

「と言っても実力差は歴然……護衛ではないが、子供扱いは免れん」

「しょうがないね、それは。あんなおっきいフォレストベアを一撃でやれる人に太刀打ちできるわけないし」

「そうですわね。正直、今でも森に行くのは、少し……恐ろしいですもの」

 

 その時のことを思い出したのか少しだけ体を震わせた後、クロエは話を続ける。

 

「それで、一体どんな方なんですか?」

「あ、確かに。それは気になる」

「金等級冒険者で、フォレストベアを殴り倒す人だよね。王都にいる人でそういう戦い方する人って誰だっけ?」

「【鈍槌】、【銀腕】、【王斧】とか?」

「メイスって殿下言ってたし【鈍槌】じゃないかな」

 

 ワクワクした表情で告げるルシールに対し、シャルロットは薄く笑みを浮かべたまま口を閉ざす。

 

「む……これは違うね。殴り倒したっていうのは合ってる?」

「うむ、間違いない」

「じゃあ【王斧】かなぁ」

「あの人がやるならモンスター丸ごとペチャンコでしょ。ここはズバリ、【銀腕】で!」

「…………もしかして、【払暁】の方ですか?」

 

 クロエの呟きにシャルロットは目を見開く。

 

 こう言ってはなんだが、【払暁】の中でフィンは有名ではない。

 むしろ無名に等しく、金等級冒険者であることは知られているが他三人と違って目立った戦績がないのだ。

 

 それは剣聖のような剣術も、聖女のような力も、暴風の如き力も確認されていないのが原因である。

 

 ひたすらその肉体のみで盾役をこなしているため評価されにくいのだ。

 冒険者ギルドでも銀等級に至った者ならばフィンの異常性を理解している者が多いが、銅等級に上がりたてのルーキーだとかには寄生していると思われがちである。

 

 シャルロットもフィンのことは詳しく知らなかったので枢機卿との接触で恥を忍び聞いたのだが、彼からの返答は「よく知らん」という旨だった。その後色眼鏡抜きで独自に調査して──とんでもない相手だと理解するに至った。

 ギルドも積極的に宣伝をしていないため、そもそも知る余地がない。

 有名人とは、誰かに噂され広まっていくから名が知れ渡るのだ。

 噂されるようなことをしていなければ、その名が広まることはない。

 

 なのでクロエがそれを知っていることに驚きを隠せない。

 伯爵の仕事を手伝っている分、同年代よりも視野は広いし、その視野の広さで【リリーガーデン】は順調に昇格しているから疑ってはいないが、まさかそこまで手広く調べているとは。

 

(流石はクロエだ。こんなに出来る娘を切り捨てるとは、よほど伯爵領は豊かなのだろうな)

 

「そうだ! よく知っていたな」

「あの方には……恩がありますので」

「そうなのか! フィン殿はな、二つ名持ちの三人にも実力を認められている──待て、クロエ」

「? どうかしました?」

 

 シャルロットは皮肉を浮かべつつクロエに共感を示そうとして、立ち止まった。

 

 どうにも、クロエの言う〈恩〉というものが何か気になったのだ。

 

「……知り合いなのか?」

「いえ、こちらが一方的に知っているだけですわ」

「ふむ。……失礼があると、なんだ。具体的でなくともよい、どんな縁だ?」

「ええっと、その……言いたくありませんわ」

 

(…………これは……)

 

 シャルロットは冷や汗を流した。

 

「そ……そうか。粗相のないようにな?」

「ええ、もちろん。そのようなことはいたしません」

 

 ほんのりと頬を赤く染めるクロエに、シャルロットは何も言わなかった。

 

 何か言ってしまえば、墓穴を掘る気がしたのだ。

 

 

 ───

 ──

 ───

 

 

 合同任務当日を迎え、シャルロット達はギルド本部に併設されている酒場に居た。

 

 しかし、いつもと違う雰囲気に戸惑いを隠せない。

 

 普段ならば自分達に注目されることなどないのに、今日は酒場中から目線が集まっているような気がするのだ。特に狩人であるルシールはそれを顕著に感じ取っており、居心地悪そうにしていた。

 

 その理由は、彼女らが誰一人として顔を隠していないことにある。

 

 シャルロットは言わずもがな、他の三人だって顔立ちが整っているのだ。貴族令嬢であることは速攻で見抜かれ、今はどこぞのお嬢さんかと荒くれ者どもが酒の肴にされていた。

 

 しかし、誰も近寄らない。

 彼女らを【リリーガーデン】だと知る者は「今まで顔を隠してたのになんで今更晒してんだよ」と訝しみ、そうだと知らずとも「絶対貴族だし目をつけられないようにしとくか」と様子見の姿勢だった。

 なんなら絡みに行こうとしていたチンピラは相手が翠玉等級パーティーだと言われ引き返している。

 

 そうだとは知らず、いつ絡まれるんだろうと身構えているルシールがシャルロットに涙目で言った。

 

「ねぇ、殿下。やっぱり姿は隠しておいた方が良かったんじゃ……」

「いや、これが条件の一つでな。堂々と顔を見せて私の派閥が出来たことを周知させたいそうだ」

「えぇ……」

「せ、【聖女】様は武闘派ですわね……」

「金等級冒険者だからな」

 

 そうではないと言いかけて堪えたルシールに、呑気に料理をパクパク食べているヴィオレットは言った。

 

「まあまあ、貴族も金等級冒険者も変わんないって」

「ヴィオは、よく喉を通るね……」

「私は元々平民だから、貴族と金等級冒険者の恐ろしさは似たようなものだと思ってるもん」

 

 どちらも力無い者からすれば理不尽の権化である。

 そう考えた時、あれこれ無駄に気負って準備するだけ無駄だ。理不尽とは、何をしても意味がないから理不尽なのだ。

 

「殿下が大丈夫っていうから私は信じてる。だから気にしない。殿下に救われてなかったら今頃泥舟に乗ってたし」

「はは、私も泥舟のようなものだがな」

「沈む船くらい自分で選びたいじゃん」

 

 死ぬなら殿下と一緒がいいと重めのことを言われつつ、シャルロットは入り口付近でどよめきが起きたことを確認する。

 

「……来たか」

 

 視線が入り口へと動く。

 それと同時に、酒場の空気も静まり返った。

 

 ガチャガチャと金属鎧の軋む音。

 自然と席をずらし彼らの歩く道が出来上がり、それは、真っ直ぐにリリーガーデンの元へと続いた。

 

 威圧。

 場を全て押し潰すようなプレッシャーを感じる。

 ルシールは自然と弓に手を動かし、ヴィオは逃げ出そうとしてその場になんとか踏みとどまった。動じていないのはシャルロットだけで、クロエも冷や汗を流している。

 

 やがて、その四人はリリーガーデンの目の前までやってきて、代表するように男が口を開いた。

 

「待たせたな、シャルロット」

「……ああ。問題ない、小腹を満たしていたところだ」

 

 やや緊張した様子でシャルロットが返答する。

 

 ──ザワめく。

 シャルロット殿下。

 第二王女。

 本物か?

 なぜ【払暁】が。

 様々な疑念が渦巻く中心で、男──フィンは言葉を続ける。

 

「今日の合同任務に参加する、金等級冒険者パーティー【払暁】だ。【リリーガーデン】の諸君、よろしく頼…………」

 

 シャルロット、ルシール、ヴィオレット。

 順番に顔を見たフィンがクロエを前に言葉を止める。

 一度眉を顰め考えるような仕草をしてから、何度か顎を摩って言った。

 

「……クロエ? 君、【リリーガーデン】だったのか」

「は、はい。あの時はお助けいただき、感謝しています。ロクなお礼もできずご無礼だったこと、お許しください」

「いや、いいんだ。貴族だと思って逃げた俺が悪い」

「今度は、逃げないでくださると嬉しいですの」

「はは、逃げるわけもない。むしろ俺の方こそ逃げられないか心配だな」

「まあ……! 逃げたりなんて、しませんわ」

 

 二人の間で交わされる会話。

 シャルロットはおそらく一人で行動してる時に助けられたことがあるんだろうなとぼんやり考えていたが、フィンの後ろ側から放たれる圧が強まったことを理解し頬を引き攣らせた。

 

「フィンさん。ここで立ち話もなんですし、移動しませんか?」

「ン、ああ、ごめん。そうしよう」

 

 そう言って歩いていくフィン。

 その後ろに剣士と魔術士が続いたが、一人、修道女のような服装の神官がクロエを見たまま立ち止まっていた。

 

「クロエ・クリアールさんですね? 私はマリアンヌ・ハイレンディーヌと申します」

「はひっ。く、クロエ・クリアールです……」

 

(あー、あんな感じなのか……)

 

 三人の威圧をまとめて受け止めていたシャルロットはその時のことを思い出し遠い目になった。

 

【聖撃の聖女】、【紅蓮の剣聖】、【暴風】。

 それぞれが伝説的な実績を残しているのに、三人に執着とも言えるような感情を抱かれているであろうことはシャルロットも理解している。

 

 自分があまりにも哀れだったから前回は許されたが、果たしてクロエはどうなるのだろうか。

 

 いや、ちゃんと助け舟は出す。

 

 だが、シャルロットにとってもフィンは想い人だ。

 

 長年の友情と恋愛感情を天秤にかけどちらを優先するべきか逡巡するシャルロットだった。 

 

 

 

 一方、マリアンヌは動揺していた。

 

 クロエ・クリアールとフィンが接触したとは聞いていない。

 教団の伝手を使っても探りきれないところがあるのは仕方ないが、まさかこんなところに伏兵がいるとは思ってもいなかったのだ。

 

(フィンさんの良さをわかる人が増えるのは嬉しいですが! なんでこう、美人ばっかりなんですか!!)

 

 フィン・デビュラ十九歳。

 ソロクエストにて色んな出会いをしてるくせに、その話をほとんど仲間に共有していない。

 

 その理由は単に『こんな話聞いても面白くないんだろうな』程度のものなのだから救えない。この男は根本的に受け身なのだ。

 攻めか受けかで言えば圧倒的に受けなのだからそれも道理だった(?)。

 

 聖女マリアンヌは誓った。

 今度から根こそぎ聞いてやらねばと。

 誰と結ばれようが勝手だが、共に過ごして愛を(勝手に)誓っている男がぽっと出の女に奪われることなど断じて許せない。

 

 せめて自分たち三人から選べ。

 怒りを込めて作られた笑顔から放たれた威圧にクロエは白目を剥いた。

 

「お話、楽しみにしてますね?」

「ひゃ、ひゃい……」

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