ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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150 曇らせ⑥

 マリアンヌは眠りについている。

 その表情は険しく、時折呻き声をあげて魘されていた。

 俺にやれることなんて何もない。

 無理やり起こすようなことはできないし、休ませてやりたかった。

 だから手を握って、少しでも彼女の負担を軽減できればいいんだが……己の無能っぷりに腹が立つ。

 

 正直、どうしてみんなここまで衝撃を受けているのか、理解はできてる。

 

 要するに、俺の隠してた秘密が衝撃的すぎて正気を失ったってことだ。

 

 闇のマリアンヌの存在。

 彼女の齎した俺への恩恵に、四年前の襲撃の真実。

 そんでもって前の使徒があの尖兵だったこととか、俺の苦痛がそのまま力になってるとか……それら諸々が一度に暴露されて、一杯一杯になってしまった。

 そして受け入れられる量を超えたんだ。

 心が決壊して、マリアンヌもアストレアも現実を受け止めきれなくなった。

 

 理解はする。

 理解は、出来るんだが……

 

『納得はできないと?』

 

 ムッ、闇のマリアンヌ。

 ちょうどいい、こんなこと相談できるのアリシアさんと闇マリくらいしかいないんだ。

 

 聞いてくれるか?

 

『……それはもちろんいいけど……あの、一応言っておくけど、私ちゃんと闇に染まってるからね? 確かにあのクソ××××に犯されて民衆に×××××されるまでは人に寄り添ってたけど、今の私は悪い神よ?』

 

 犯され!?

 民衆に×××××!!?!?!?

 そ、そりゃ、大変だったな……。

 俺は同じ目に遭っても喜んでしまうが、闇のマリアンヌからすれば地獄だろう。俺がそれに対して何かしてやれることはないが、せめて、俺の身体と精神くらいは鬱憤晴らしに使って欲しい。

 

 我が神のためだ……惜しくない……♡

 

『…………本気で言ってるの? 周りの連中も全員破滅させるわよ?』

 

 させないし、しないでしょ。

 闇マリが本質的に悪い奴だなんてとっくに理解してるよ。

 普通に頭の中に現れて暫くは俺に対する悪意全開だったじゃん。今みたいにかわいいコミュニケーションじゃなく、もうガッツリマリアンヌの姿悪用して俺の精神ぶっ壊そうとしてたよね。

 

『い、いや、今もかわいいコミュニケーションを取ってるつもりはないんだけど……』

 

 嘘だぁ。

 昔は毎晩仲間達が陵辱されたり寝取られたり俺が死んだ後に残された仲間が酷い目に遭うような夢見せてきたじゃん。

 でも今はやってこない。

 俺の精神弄って強引に不安にさせたりとかしてこないだろ。

 夜寝る時に動悸と耳鳴りで眠れないとか、すごい死にたくなってくる感覚が込み上げてくるとか、そういうことは多々あった。

 だが少なくとも、一年程度でやらなくなった。

 これらは俺が頭おかしくなってしまった代償だと思っていたが、闇マリの正体がわかった今ならわかる。

 

 君がやっていたんだろ?

 

『…………? いや、それは単に我が使徒が不安定だっただけね』

 

 エッ……。

 ほ、ほーう。

 嘘ついてんだな?

 俺がバカだから誤魔化せると思ってるんだろ?

 言うねェ闇マリ、俺は悲しいよ。

 俺は君を信じているのに、君は俺を信じてくれない。

 これだって決して君を問い詰めようとしてるわけじゃなく、単に事実を確認したいだけなんだ。それも、君が悪に染まっていないことを証明するために。

 頼む、嘘はつかないでくれ。

 

『悪夢を見てたのは事実だけど、あれは我が使徒の欲望が噴出してただけに過ぎないわよ? あなたの本質は被虐じゃなく嗜虐、マゾじゃなくてサド。その仲間が陵辱される夢だって、本当はあなたがやりたいことでしょう?』

 

 ……………………。

 

 それは…………。

 

 …………そうかもしれない。

 

 少なくとも、俺に否定できる材料はない。

 アリシアさんに秘密を見抜かれて以降、俺の理性は緩み、自分でも抑えなくちゃと思うくらい昂ることが増えた。マゾの方面ならまだしも、サドの方面は止まることを知らない。

 幸い、今のところ敬遠されるようなことにはなってない。

 けれど、調子に乗っていると表現されればそれまでだ。

 

『私はそれを否定しない。あなたの感情が増幅すればするほど、私の力を取り戻せる。好きにやってしまえばいいのよ。あなたにはそれをするだけの権利と義務がある』

 

 ──いや、やらない。

 

 俺は獣じゃない。

 俺は師匠に育てられた弟子だ。

 たとえその力が不足していても、あの人の顔に泥を塗るようなことはしない。

 

『泥以外のものは塗りたい癖に』

 

 そりゃもうドロッドロに──テメェっこのクソ野郎が死に去らせ!!!!

 

 頬をぶん殴り、口の中が切れたのかじんわりと血の味が広がっていく。

 

 ハァッハァッ、さ、流石は邪神、言葉巧みに俺を誘導して師匠への劣情を抱かせるとは……!

 

 く、くそっ!

 俺じゃあ邪神に太刀打ちできない!

 アリシアさん! アリシアさんはどこか!? 今すぐここへ来れますか!? 邪神に誑かされています!

 

 こっ、このままじゃ俺、闇堕ちして皆を陥れるクソ野郎になっちまう……♡

 

『…………こんなの相手にどうやって闇堕ちさせるのよ……』

 

 頭を抱えながら宙に浮く闇マリが呟く。

 

 そういうところだよ、としか。

 だって闇マリやろうと思えばもっと悪辣な手段取れるでしょ。

 現実に干渉する力がある今、直接的に俺を絶望させるようなことはいくらでもできる。でもそうしてない。確かに闇マリの暴露で仲間たちの精神は追い込まれてるが、ただの事実だしな。

 

 ぶっちゃけ事実を出しただけでここまで被害が出るなんて思わんだろ。

 

『…………そ、そうね』

 

 だから闇マリとしてはおそらく、ここまで酷いことにするつもりはなかった。

 

 だが結果的に悪い方向に傾いたが、邪神なりに俺への愛着を持ってくれている。

 

 そうじゃなきゃさっきみたいな忠告するわけないじゃん。

 わざわざ、私は邪神ですよーって言う必要がない。

 それをしたってことは自分に聞くのはおかしいだろと思ったんだ。

 都合がいいと捉えるんじゃなく、自分に訊ねるのはおかしいと理解している。

 闇マリは払暁を、いや、マリアンヌやアストレア、カルラに対して愛着があるんだろ?

 

『…………否定はしません。でも、それは決して慈悲や情けではないわ。私は月の女神ルルクスでもあり、邪神ルルクスでもある。いいえ、それこそ、この名前を借りたっていい。邪神マリアンヌと名乗ったって構わない。どちらも私であり、どちらも私ではないの』

 

 ……。

 

 …………?

 

 マリアンヌが邪神なわけないだろ。

 

『…………』

 

 ぎええええっっ!!

 

 ちょ、ちょっと理解できなかっただけで暴力行為なんてぇ!

 あんまりだ、こんなの横暴だッ!

 邪神の支配を許すな!

 立ち上がれ、フィン!

 フィンフィンはすでに起立している!

 聖剣の準備は整った!

 神と我が聖剣、どちらが強いか鍔迫り合いで決めようッ! 鞘合わせでござる!

 

『死ねほんとっ! 死になさいッ!!』

 

 あ、あひいいぃぃいいぃぃッ!!

 死んじゃうううぅうぅうっ!!

 そこはっ!! フィンフィンはダメええぇぇえぇっ!!

 

 お、お、おほおおおぉぉっ────

 

 ────…………つまり今の君は、月の女神ルルクスとして失われた部分を取り戻しつつも、邪神のままである。 

 

 そう言うことか?

 

『うわきもっ……ま、まあそういう理解でいいわ』

 

 なるほどな……それは俺と同じだ。

 俺もマゾでありながらサドである。

 フッ、子は親に似るとはこのことだな。

 

『頭かち割ってあげますよ、フィンさん』

 

「ぐああああああああッ!!!!!」

「!!!!!?!?!? 敵!? フィンさん!?」

「マ゛ッ!? マリアンヌ!? 目を覚ましたのか!」

「あ…………フィ、フィンさん、今、大声が……」

「夢でも見てたんじゃないか? それよりマリアンヌ、ゆっくり深呼吸だ。まずは、落ち着いて話そう」

「え……? 夢……わ、わかりました。すーっ……ふーっ……」

 

 そうしてマリアンヌは何度か深呼吸をして、ふぅ、と一息。

 

「……落ち着いたか? マリアンヌは先程嘔吐を繰り返したのち、錯乱して頭を便器に打ち付け始めたとカルラが言っていた」

「え゛、…………そ、そのう、フィンさん、それは、えっと……」

「どうした? ……ああ、なんだ、そんなことか。気にするな。俺にも覚えがある」

「…………えっ」

「気が狂いそうになる経験は何度もしてきた。衝動的に身体をどこかに叩き付けたことも、数え切れないくらいにな」

 

 特に快楽を求めてだ。

 ちょうど王都に出てから一年くらいの頃合いか。

 なんていうか、性欲がめちゃくちゃ昂ってた時期があった。

 我ながら恥ずかしい話だが、本当に抑え切れず女性の香りを嗅いだだけで興奮してた時期がある。娼館にも行けないし馬小屋で性処理なんて出来ないということで、やむなくソロクエストでそれとなくマゾ欲を満たしてどうにかしてたんだ。

 

 あの頃の我慢が、今の大欲に繋がっているのだろうか?

 

『違います』

 

 違うの!?

 じゃ、じゃあなんだ。

 俺はあの性欲が通常状態だっていうのか……!?

 

『それも違くて……もういいや。森人に言っておくからそっちから聞いて』

 

 あ、わかりました。

 

 俺の言葉を聞いたマリアンヌは目を見開いた。

 

「え、……か、数え切れない……? そ、んな……」

「……本当に未熟だった。一人前の男として抑制しなければいけない感情を抑え切れず、仲間に抱きそうになることもあった。……軽蔑しただろう?」

「い、いえっ! 軽蔑なんて、そんな! ……私たちの、所為だからッ……!」

「違うんだ。皆の所為じゃない。俺が、俺の弱さが原因なんだ」

 

 俺が強ければ。

 俺がもっと逞しい男だったのならば、性欲を持て余すようなことはしなかった。

 理性で封じ込めるのに失敗したんだ。

 

「そんなことないッ! フィンさんは弱くなんてない!」

「マリアンヌ……」

「私たちはずっとフィンさんに助けられてきた! ずっとずっと、あの日から、フィンさんの犠牲も知らずに、のうのうと生きてきた! 全部、全部私たちが弱かった所為だ!」

 

 彼女は激しく叫んだ。

 

 ──ムッ。

 ドアの向こうに複数人の気配。

 入ってくる様子はないが、いざという時の増援か?

 

「あの日からずっと、フィンさんは、フィンさんは一人で苦しんでた! なのに私たちは何も知らないまま、あなたにずっと頼りきりで!! フィンさんは弱くなんてない! 弱いのは全部私たちの方なのに! あなたに助けられてばかりだった、私たちの……!!」

「…………ありがとう。そう言ってくれると、救われる」

「──ぁ…………」

「俺は……皆を助けられてたのか?」

「っっ……!! はいっ! はい、はいっ!!」

 

 そう言って泣きじゃくったマリアンヌが、俺に抱きついた。

 

 うほォッ柔らかくていい匂いする!

 

 しかし、俺は理性の男。

 マリアンヌに発情するなど許されない。

 

 でも、うーん、そうかぁ。

 考えようによっては俺が助けていたと、言えなくもない、のか……?

 助けたのは俺じゃなくて闇マリだし、その力を使ったのはマリアンヌなんだけどな。

 

 ただまぁ、俺が、俺如きが、みんなを守れていたと言えるなら、それはどうしようもないくらい嬉しいことだ。

 

「そうだ、マリアンヌ。一つ俺からも嬉しい報告があってな」

「ぐすっ、ふぐっ、う、嬉しい報告ですか?」

「ああ! なんと言っても今後の戦略に大きな進歩を見つけたことが闇のマ……女神様の言葉でわかってな! 実は、俺は今後どれだけ」

 

「────フィンくん! バカな真似はやめなさい!!」

 

 ドアを開いて数人流れ込んできた。

 その動きは非常に鮮やかで、マリアンヌを抱きしめている俺にできることは何もなかった。

 軽やかな動きで俺を後ろから拘束し、口を手で塞ぎ、カルラが俺を抱き締めて黙らせる。

 剥がされたマリアンヌはキョトンとしながら下手人であるアリシアさんを見つめている。

 

「お、おほほ、ごめんなさいねぇ〜……若者の邪魔をする気はなかったのよ、ええ」

「は、はぁ、そうですか……えっ……あ、あの、どこから、見てました……?」

「…………フィンくんが躊躇いがちにマリアンヌちゃんの手を握ろうとしてるところくらいから、かしら」

「もがっ!?」

「お゛お゛っ……フィ、フィン、静かにせんか!

 

 か、カルラの手が俺の口をッ!?

 す、すけべすぎるだろこんなのッ!

 ていうか普通に後ろから抱きつかれてるから胸がッ、あの胸がッ、たわわに実ったあの胸が我が背中に!? 揉んだ時の感触を知ってるし揺れる姿も見ているからこそ余計興奮する! 

 マズイっ、このままでは男の矜持が猛ってしまうッ!!

 

「あ、あは、あははは…………ふぅ、すみません。一人にしてくれますか? 今から神の元に召されるので」

「は、早まっちゃダメよマリアンヌちゃん! 大丈夫! お姉さんそういうの言わないから!」

「い、いやあぁーーっ!! いっそ殺してぇっ!!」

「あぁーっ! ダメダメダメ!」

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