ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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16 未来視とイレギュラー

 合同クエストの内容は至ってシンプル。

 

 〈瓦礫の山脈〉定期調査を行うことだ。

 ギルドが定めている推奨難度はこの定期調査によって定められており、主に金から銅等級冒険者にクエストが発生する。

 

 〈瓦礫の山脈〉は銅等級向けだが深くまで行くと金等級向け。

【リリーガーデン】は翠玉等級で、銅等級へ昇格も望まれている有望株。

 経験を積ませるって意味でも金等級と合同クエストになるのは非常に合理的な判断だ。浅層の調査は主に彼女らが行い俺達は補佐、中層から先は俺達が主体となって行い彼女らに指導していく形となる。

 

 でもまあ〈瓦礫の山脈〉の注意点はそれほど多くないから、今日一日あれば十分終わるでしょう──というのがマリアンヌの意見だった。

 

 俺?

 俺はそういうの基本任せてるから。

 ソロで動く時は自分で考えなきゃいけないからやってるけどパーティーの時は仲間に任せてる。

 

 いや、俺は本当にただの平民出身だからまともな教育受けてないんだよ。

 師匠に学んだのは身体の使い方とか殴り合いの仕方とかで学院で学ぶようなことはなんにも教わってない。だから基本的な知識とか視野は圧倒的に狭いんだよね。

 

 これでも銅等級になったあたりから図書館通ったりしてマシになった方なんだぜ。

 

 手元にある調査項目表を見ながら思う。

 初めて調査クエスト受けた時はちんぷんかんぷんだったなぁ……

 訳わからんくて適当にチェック付けてたら見かねたカルラが助けてくれた。あいつ、普通に名家のお嬢様だから常識あるんだよな。

 

 異国のお嬢様より常識のない平民で申し訳ない。

 

 そんなことを考えていると、コンコン、と鎧がノックされた。

 

「フィンさーん。この崩落個所ってどう調査するんですか?」

「ん。これはな、山だとよくあるタイプの調査項目なんだが……」

 

 質問してきたのはヴィオレット。

 リリーガーデンの中で唯一俺と関係がない娘だが、男爵令嬢で元平民という点で俺と繋がりがある。う~んこの気安さ、親しみやすくていいね。

 でもちょっと距離が近くない?

 なんか……こう……目がガチじゃない? 気のせい?

 

『気のせいだぞ』

 

 カルラさんは俺に対していつも厳しいんだ。

 でもそれが癖になる。

 名家のお嬢様に尻に敷かれて生活するのもいいよな、夢がある。戦が終わって生きて帰れば感動の抱擁から夜はバック、蝋燭、むち打ち……被虐的なプレイはどれだけ重ねてもいい。メリハリなんて雑魚の言うことだ。

 愛情のある嗜虐はどれだけあってもいいんだよ。

 

 っと、それどころじゃない。

 せっかく質問してくれたんだし先達として応えねば。

 

「モンスターの湧く〈不浄領域〉は環境が不安定なのはわかるか?」

「はい。スタンピードが起きるのもそれが原因ですよね」

「そうだ。時折発生する特殊個体が引き起こす現象の一つに含まれている」

 

 大量発生とスタンピードの関係は切っても切れない。

 〈不浄領域〉は魔力や大気? の環境が変化しやすいらしく、大きく魔力を吸って生まれた個体だったり、蟲毒のようになった縄張り争いを生き残った強力な個体が生まれて引き起こされる現象だ。

 

 リリーガーデンの皆が遭遇したのもその一つだろうが、陰謀混じりだとしたらちょっと厄介。

 

 人の手でスタンピードを起こすのは、決して不可能(・・・・・・)ではないのだ。

 

 金等級ともなれば、ギルド内にある資料もそこそこ見れるようになる。

 昇格した後マリアンヌとかと勉強した時に、それはもう色々ございました。異常発生、スタンピード、被害を受けた街と事前に知っていたかのように防衛した街があったり……うん。

 大体犯人は貴族でした。

 こいつらほんとロクなことしな……げふん。

 貴族のお嬢様を前に考えることじゃない。

 

「環境の変化は目に見えた場所だけじゃなく、地下や洞窟でも起きる。例えば、俺達の足元でモンスターによる殺し合いがずっと行われていて、常軌を逸した存在が生存している可能性があるわけだ。当然感知は出来ないが、崩落が起きていた場合『何かが起こっている』ことが事前に察知できる」

 

 調査をしている俺達は不意打ちを喰らう可能性が減り、地上にヤバい個体が解き放たれていた場合は即座に難易度に応じた等級を持つ冒険者へクエストが飛ぶ。

 

 それでも確実ではない。

 

 〈不浄領域〉は、人の手で管理できる場所ではないのだから。

 

 影響を及ぼす事は出来ても、確実に抑制する手段などない。

 あったら冒険者はとっくに廃業になっている。

 

「……なんだか、ぞっとする話ですね」

「まあ、早々起きないけどな」

 

 結構なレアケースだが、何度か報告例もある。

 崩落と特殊個体の相関が結びついたのは少し前のことだから、まだまだ浸透してないのも無理はない。

 

「そういう訳で、崩落してる箇所があった場合は位置と規模を調査する必要がある。前回までの調査記録も持ってきてるからそこに記載のない箇所だけで問題ない」

「へえぇ、結構しっかりしてるんだ……」

「最近は自然発生のと人為的なもの、それに加えて魔王軍幹部とか伝説上のモンスターとかが普通に出てくるからな……ギルドも大変なんだ」

 

 いやほんとに。

 しかも王国にピンポイントで出てくるんだよね、なんで?

 前線で暴れろよ、なんで当たり前のように人類圏に出てくんだよ。王国ってかなり前線から離れてるんだが?

 白金等級とかが積極的に戦ってもなお倒せないのが魔王軍。

 そんな組織の幹部が気軽にきちゃダメだろ。

 

「他に注意した方がいい点ってありますか?」

「そうだな……モンスターの様子は探っといた方がいいぞ」

「モンスターの様子?」

「先日のツリーホーン大量発生の時、他のモンスターはどんな感じだった?」

「…………いつもより殺気立ってたと思います」

「それは餌のツリーホーンがたくさん湧いてたからだな」

 

 森に棲むモンスターは木を喰らう種類が多数いる。

 〈不朽の森〉は特にそういうモンスターが多く、それでもなお絶えることのない森林を指して〈不朽〉と呼ばれている。

 だから基本的にモンスター共は穏やかなのだ。

 餌の奪い合いに発展することが少ないからな。

 殺気立ってる時は大抵何かが起きてる時だ。

 

「たくさん餌が増えて、たくさん数が増えて、縄張り争いが起きる。正しく不安定な環境って奴だ」

「なるほど……」

 

 真剣な表情で調査項目を見るヴィオレットは、そのままチェックを進めていく。

 

 現在、俺達は最西の登山道を進んでいる。

 〈瓦礫の山脈〉には五つの登山道があり、四つに分かれて調査。

 最終地点で合流し最後の一本を全員で戻る予定だ。

 俺と組んだのがヴィオレットだったが、殿下たちもそれぞれ親睦を深めていることだろう。

 

 基本的にゴーレム系と鳥系しか出てこないんだよなぁ、ここ。

 遠距離攻撃はめんどいけど全部弾いて叩き返せばいいし、ゴーレムはぶん殴れば終わる。俺でも余裕で対処可能だ。

 ヴィオレットは片手剣と盾のスタイル。

 俺と似てるが、同じではない。

 少しは勉強になるといいんだが……

 

「……ん、あれ?」

 

 そんなことを考えていると、ヴィオレットが何かに気が付く。

 

「どうした?」

「いえ、その……モンスター、全然出てこないですけどこんなもんですか?」

 

 二時間進んで、遭遇したのは二体のゴーレムのみ。

 それも浅層で出てくるストーンゴーレムだけで、空を飛んでる鳥系モンスターも見当たらない。現在地点は中層、浅層とは変化が起きているのはおかしなことではないが……

 

「いや、もっと出くわすな」

 

 腰に携えていたメイスを握る。

 

 浅層ではまだ空を飛ぶ鳥系はいた。

 ゴーレムも遠いだけで活動しているのは見えたので、中層以降の変化だ。まだ全体に影響は出ていないが、中層まで影響を及ぼす何かがある。

 

「よく気付いた。偉いぞ」

「あはは、スラムが近かったので警戒心だけは自信あります」

「ああ……それは身に付くな。いい財産になったと思うしかない」

「はい。受け入れてます」

 

 いい娘だな。

 スラムに近い場所で暮らしてたのに男爵令嬢ってかなり大変だったと思うが、それを感じさせない明るさがある。

 こういう娘と付き合いたいよね。

 支えて上げたい……そして夜は俺が椅子になってあげるんだ。なに椅子が動いてるの? 動いちゃダメといいながら晒した尻をベチンと叩いて……燃える! 燃えるぞ!

 

「ちょうどいい。せっかく調査に来たんだしイレギュラーの様子を探──」

 

 音。

 破砕音。

 前方から姿無し。

 影あり。

 上空か!

 

 ヴィオレットを懐に引き入れ、大盾の内側で守る。

 

 ──ドゴガッッッ!!!

 

 刹那、伝わる衝撃。

 足がゴリゴリ地面に押し流されるが踏み堪え、グッと左腕に力を込めて跳ね返す。

 

 おお、中々いい感触だ。

 重くて大きい質量の何か、岩ではない。

 身体だな? 力の強い何かが飛んできたが、ゴーレムじゃあない。両足っぽいし、人型か……?

 

「──ガァッッ!!」

 

 獣の咆哮。

 再度正面からぶつかってくる衝撃。

 視界が遮られているため敵の姿は不明だが、情報はある程度回収出来た。

 ソロでやれるか?

 ヴィオレットがいる。

 いつもより難易度は高い。

 少なくとも、フォレストベアなんぞよりよほど強い。

 

 敵の攻撃を五度受け止めた後、思考を打ち切って一歩踏み込む。

 

 もちろんヴィオレットは抱えたままだ。

 片腕だけで押し出した大盾は、殴打をものともせずに前進する。

 

 ガツッ!! と盾を通して伝わる衝撃。

 骨にまで響く高い威力に、圧倒的な速さ。

 これは……少しばかり、面倒な相手を引いたかもしれない。

 

「やるな、人間」

 

 大盾をズラして見えたその姿は、人ではない。

 

 獅子の頭に人型の巨躯。

 赤い肌に、武人のような服装。

 喋ることが出来て、尚且つパワーとスピードが両立してる獣──どう見てもこりゃあ魔王軍案件だろ。

 

 あの時の記憶が蘇る。

 

 雪山。

 動きを阻害する豪雪。

 醜悪な姿に下卑た性根。

 三年前、あの雪山で遭遇した怪物。

 

 似ても似つかないその姿と、目の前の獅子頭が重なった。

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

「────ふむ。わざわざ目の前に出てくるとは、よほど自信があるのだな」

 

 ──キン。

 鍔が鞘と触れ合う音。

 カルラはその紅蓮の髪を寸分たりとも揺らすことなく一閃を放った。斬撃は深く刻まれ、瓦礫の一部に穴が生まれている。

 

「グ……グギギ、グギャギャ」

 

 斬撃を浴びた主はその肉体を両断され、瓦礫へと崩れ落ちる。

 

 だが、死んでいない。

 両断された肉体の断面がグジュグジュと沸き立ち、不快な音を立てながら肉が生まれていく。分かたれた肉体は、やがて二つの生命へと変化を遂げた。

 ツギハギの皮膚にバラバラの顔。

 幾人もの人間を組み合わせて作られたであろうソレは、不気味に嗤う。

 

「……ルシール。下がっておれ」

 

 一体が二体に。

 その仕組みを即座に看破したカルラは、腰を低く落とし──居合の構えを取った。

 

「分裂するならば、分裂できなくなるまで刻むまでよ」

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

「お前が【暴風】か?」

 

 アストレアとクロエの進路を塞ぐのは常軌を逸した嵐だった。

 瓦礫を巻き込み、天まで上る竜巻が渦巻いている。

 

 その中心から現れた姿は、東方諸国で語られる【嵐の神】に酷似していた。

 

「そーだけど。汚い使い方するわね」

「はっはっは! 繊細なエルフにはわからんか、この美しき風が!」

「どこが美しいのよ。力ずくで動かしてるだけでしょ」

「わかっているではないか。力こそが美だ! 嵐とは、自然をも凌駕する天の恵みである! なればこそ、最も美しき破壊の象徴なのだ!」

「暑苦し。クロエ、離れるんじゃないわよ」

「は、はいっ……」

 

 クロエを庇うように前に立ちながらアストレアは男を睨む。

 

 緑の肌に自信に満ちた表情。

 

(──他所でもやってるか。これは、早めに片付けた方がいいかしら……?)

 

 風を通じて伝わる仲間の様子。

 戦闘を開始しているが、誰もが相性最悪の相手と相対している。

 辛うじてマシなのは自分くらいだとアストレアは考えつつ、やることは一つだと手を動かす。

 

 ────ブワッッ!!

 

 たった一手。

 特に何かを込めたわけでもない一振りで、男の後ろで暴れ狂っていた嵐は霧散した。

 驚きのあまり目を見開く男に、アストレアは告げる。

 

「何のために来たのか知らないけど──私、これでも里じゃ負け知らずなの」

 

 風と共に生きるエルフ。

 その中でアストレアは、最も風に愛されている。

 

「かかってきなさい。風使いは内に秘めた熱がある程度がちょうどいいわよ」

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

「────【聖撃】」

 

 マリアンヌの杖から極光が放たれる。

 

 視界全てを埋めるような輝きに呑まれながら、〈叡智〉は静かに観測する。

 

【紅蓮の剣聖】──千日手。

【聖撃の聖女】──千日手。

【暴風】──同じく千日手。

 

 素体を人とする〈叡智〉の身に魔法は有効打となり得ない。

 

 対魔に特化したマリアンヌを抑え込むために肉体を改造した〈叡智〉はそれが決して己の幻想ではないことを確認した。

 

 となれば、残り二人も間違いなく観測したものと同じ結果を得られるだろう。

 

(あとは、〈変数〉だ)

 

 〈叡智〉には未来が見える。

 

 魔王に見初められ魔となってから得た力を使い、魔王軍の進撃に貢献してきた。

 

 戦力は十分。

 人類のイレギュラーへの対策も出来た。

【天聖】を筆頭に、やがて魔王軍と正面から対峙する冒険者達へ特攻能力を持ったモンスターのスカウト。唯一未来が不確定だったのは魔王と何度も刃を交える【勇者】だったが、高い確率で魔王が勝利することはわかっていた。

 

 故に、あとは適切なタイミングで適切な戦力を投入するだけ。

 

 それだけで魔王軍は大陸を支配できる──筈だった。

 

 フィン・デビュラ。

 眼中にも無かったただの冒険者が運命を塗り替え、【天聖】への対策として用意した幹部を打倒した。

 

 フィンの未来を見通せない。

 

【勇者】ですら不確定なだけだったのにこの男は見通すことが出来なかった。

 どう動くのか、何をするのか、何一つとして観測できない。

 

 そんな相手はこの世に一人もいない。

 

 唯一〈叡智〉に対抗しうるのは、エルフの里に在る(・・)【預言者】だけ。

 互いに観測し合って来た二人は、意志を持つ〈叡智〉が有利だった。

 

 だからこそ、【預言者】の身内であるアストレアを狙った。

 

 唯一里を出ていたハイエルフ。

 イレギュラーとはならなくとも放置しておけば戦力として邪魔をしてくるから殺す。

 それだけで、魔王軍はぐっと勝利に近付くはずだったのだ。

 

 前線にて暴れる【天聖】を筆頭としたイレギュラー達の目を掻い潜り王国に潜伏し数年。

 魔王軍は負けてはいないが勝ってもいない。

 〈変数〉の除去、その為だけに〈叡智〉は数年の歳月を費やした。

 

 それでも前線を維持するために最低限の戦力しか持ち出せず、パーティーを丸ごと消す事は叶わない。

 なれども、〈変数〉さえ消せば。

 イレギュラーは発生しないのだ。

 

(────ここで死ね、イレギュラー……)

 

 

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