闇のマリアンヌが寝取られたような気持ちを味わいながら、カトリーナを除いた【超滅】、アリーシャとグリセルダに一度拠点へ戻ってもらった。
エヴァンジェリンがやってきたのは完全に独断であり、もう一人の聖女に王都での対応を任せて表面上の異教調査をさせる予定という事実が先ほど判明し、王都組と齟齬が発生することを危惧してのことだ。
残っているのは別の神の使徒であるカトリーナ、闇のマリアンヌの巫女であるマリアンヌ、エヴァンジェリン、俺の四人になる。
「それで……先ほど申していた妙案というものについてお伺いしても?」
抱擁を終えたエヴァンジェリンが若干前屈みになりながら言う。
見ないようにしているが、股間がとてもハッキリとしているのだ。
あれは闇のマリアンヌとの抱擁で元気になってしまったのだろう。敬愛する女神との抱擁ですら興奮してしまう己の浅ましさを恥じりながらも、抗えない。
なんて辛く、切ないんだ……。
俺にもその気持ちはよくわかる。
師匠やマリアンヌ、アリアでえっちなことを考えるなど言語道断。
だが考えてしまうし、身体が接触すれば興奮するのだ。
マリアンヌの抱擁……
アリアの背中越しのたわわ……
幼い頃の師匠と入ったお風呂での絶景……
俺は、俺は自分が恥ずかしい!
でも興奮してしまうのだ。
本当に、本当に俺は情けない。
エヴァンジェリン、俺にも君の気持ちはよくわかるよ。
「ああ。闇のマリアンヌの助力ありきだが、まずこの場で生活するようにしてはどうだろうか」
「…………フィンさん? すみません、今なんて言いました?」
「エッ。闇のマリアンヌの助力ありきだが、まずこの場で生活するようにしてはどうだろうか……?」
マリアンヌが目を見開いて聞いてきたので答えると、わなわな震え出した。
「や……や、闇のマリアンヌって、なんですか?」
「……アッ! ……い、いや、これはその、なんというか……女神様の見た目が黒髪のマリアンヌだったし、暫くマリアンヌの振りしてたからそう呼ぶ癖が出来たというか……」
ど、どどどどうしよう闇のマリアンヌ!?
このままじゃマリアンヌに脳内でお人形遊びしてたイカれ野郎だと露見してしまう! 頭の中で仲間の別人格作って遊んでるとか頭おかしすぎて流石に言い訳できない!
神のパワーでなんとかならないか!?
なんとかしてくれ!!
「それは、私の力を超えた願いです」
「ふふっ……!」
「なに笑ってるんですかぁ! フィンさんっ! 今日という今日は許しませんっ!」
「はい。すみません」
プリプリ怒るマリアンヌの前に座る。
東方諸国では腹を切る際にこのように座るらしい。
名付けて、正座。
正しく座るという意味だそうだが、若干フィンフィンの居心地が悪い。しかし、耐えねばならん。これが罰なのだ。
マリアンヌ、俺、全ての責任をとって腹を切るよ。
俺が死ぬとこ見ててッ!
はらわたぶちまけて死ぬからッ!
ま、死なないからのたうち回るだけなんだけどね。
「だいたいフィンさんは女の人に優しすぎます! フィンさんは紳士ですけど、そんな優しさにつけ込む女のいやらしさをわかってないんですよ!」
「お、女のいやらしさ……わかってるつもりではあるが……」
「いーやわかってません! アリアンロッドさんなんてフィンさんを性的な目で見てるんですよ! 背負ってる時のあの娘の顔なんて……んもうっ!! とにかく隙だらけなの!」
あのさ闇のマリアンヌ、笑い堪えてないでなんとかしてくれ。
マリアンヌは俺が女のいやらしさどころか飛び抜けたいやらしさで複数の女性と関係を持っているとは考えすらしていないのだろう。
「我が巫女、それくらいにしたらどう?」
「……なんで私にしたんですか」
「え、えーっと……それはその、なんというか……」
しょうがないわねと言わんばかりの態度で仲介に入った闇のマリアンヌは、なんとも言えない表情で何度か俺をチラチラと見た。
なんだ?
確かにマリアンヌの見た目になったのは気になるが、巫女として力を供給する上で都合が良かったからとかじゃないのか。流石に女神様が俺の姿になることは避けたいだろうし。
「……我が使徒の心に従ったまでよ」
「…………えっと……それって、つまり……」
「まぁ、俺はマリアンヌのことが好きだからな。無意識に読み取られたのかもしれん」
「え!!?!?!?!?!?」
うわっ声デカ!
急に声がデカくなるんだよなマリアンヌ。
可愛いからいいんだけどさ。
「フィ、フィフィフィフィンさんが私のことを……す、好き? 隙? 好きだらけ? わ、私も好きです! 大好きです!」
「おう。【払暁】は俺の居場所だ。嫌いになるわけがない」
「……………………」
──スン……
マリアンヌは無表情になってしまった。
闇のマリアンヌも額に手を当ててため息を吐いている。
な、なんだよ。
変なこと言ったか?
どう考えてもそれしかないだろ。
払暁は最早家族同然の付き合いだ。
それは前から変わらない。
あの頃から俺にとっちゃ【払暁】が全てだったからな、良くも悪くも。
「あらあら、まあまあ……難儀な方ですね、ルルクス様」
「……ええ。この子も私達と同じ。だからこそ選んだんだけれどね」
「ですが、わたくしなんぞより余程強く気高い殿方ですわ。良い人に出会えましたね」
「そう言ってもらえると有り難い。だが、俺の本性はそこらの男と何も変わらない。師匠に教えを受けられた。ただそれだけだ。褒めるならば俺に社会性を被せた師匠を褒めてくれ」
「【天聖】。聞いたことはあります。思えば、あのお方が活躍している頃もエスペランサ様は見向きもなさりませんでした。目標にしても何もおかしくないのに……」
へぇ、そうなのか。
確かに師匠、エヴァンジェリンと比較しても負けない美しさしてるもんな。
美しいものを穢す趣味のある邪神が手を出さないとは思わない。
「……すまない、脱線したな。話を元に戻そう」
ちなみに俺は今も正座したままだ。
「あ、はい。そうですね。ルルクス様のお力をお借りすると仰っていましたが……」
「簡単な話だ。現状、ここなら闇マリが顕現しても影響がないんだろう?」
「や、闇マリ…………」
涙目になりつつあるマリアンヌ。
うっ……ま、まずい。
俺の中のサド心がマリアンヌにいけない感情を持ち始めている。
これはよくない。
心頭滅却! 心頭滅却! 俺はマゾ、ドマゾ! しょうもないマゾ男!
「ここで暮らせば何をしても感知されないということになる。ならばここから出ない代わりにエスペランサの呪縛を消し去ってしまえばいい」
元々攻略するつもりで来ていたのだが、闇マリの正体がここの支配者であり、なおかつモンスターにすら干渉可能な事実が判明したため出来る策だ。
そもそもモンスターもそれぞれの個体が存在するとかさっき初めて聞いたよ。
確かに魔王軍は魔王を筆頭に他にないような知性を持つ強いモンスターが揃っていたらしいが、そんなところにヒントがあるとは思わないって。
モンスター、巨豚人を統制出来るならここは天然の要塞になる。
闇のマリアンヌが邪神に堕ちないまま世界を掌握出来るならそれはそれでなんとでも出来るはずだ。モンスターが生まれないようにして人類圏をキッチリ分けるとかさ。
それに、女神エスペランサンホッ女神呼びが気に入らないのね、わかった。
エスペランサを警戒しなくちゃいけないのはそうなんだが、ここに至るまでどう考えても一貫性のない行動を取り続けている以上、確実に安全な手はどこにもないんだ。
それならいつか現れることを前提に、討つための力を身につけるべきだろう。
俺の手が届かないことなんてわかっている。
神に勝てるなんて思い上がっちゃいない。
ただ、俺には闇のマリアンヌが憑いているんだ。
「あと俺にとっても利があるんだ。他の誰にもない、エヴァンジェリンだけが俺に与えられる利が」
「わ、わたくしだけが……?」
そう聞いて、彼女はゴクリと喉を鳴らし、身体の一部分がピクリと服越しで蠢いた。
残念ながらそっちではない。大変だろうな。
心底同情する。
同情したら、闇のマリアンヌに信じられないものを見たと言いたげな表情で見つめられた。
なんで?
「ああ。不死身であることを生かした戦い方に関して、俺は全くの素人と言っていい。苦痛には強くても治癒が使えず、両手足を千切られ目玉を潰され眼窩に土でも詰め込まれれば打つ手がなくなるだろう。不死身である以上、それらの弱点をどうにかしなければならない。死なないということは逆説的に言えば、いくら粗雑に扱っても死なない便利な人質にもなり得る」
それこそ全身バラバラにされて氷漬けにされるとか、首だけにされて仲間が陵辱される様を見せつけられるとか、平気でしてきそうだしな。
そうなった時抵抗できないなんてのは許せないんだ。
もうあの時のような無力感は味わいたくない。
そうだ。
あの時仲間を助けられたのは偶然だ。
俺の力じゃなく、闇のマリアンヌがいて、マリアンヌを巫女にしたからだ。
俺の力なんかじゃないんだ。
「もしもエヴァンジェリンの心が晴れなかった時は、俺に好きなだけ欲求をぶつけてくれればいい。君にとっては許し難い行いだろう。そうすることも嫌だとわかってる。もしも呪縛が解けたのならば、苦しいかもしれないが、助言だけでもしてくれると有り難い」
そんな俺の心も彼女はわかるのだろう。
最初に出会った時に見た、疲れた表情になった。
「…………長く、苦しい道のりですわ」
「わかっている。俺も耐え切れるなんて思っちゃいない。だが、やれるところまでやるべきだ」
「この会話だって聞いておられるかもしれません。全てを把握した上で弄んでいるのやもしれませんのよ」
「承知の上だ。世界を支配した神に逆らおうとしている。全知全能の唯一神などと崇められている存在が、何もしてこないとは思えない。それでも、俺は月の女神ルルクスの使徒だ。彼女のおかげで生き永らえた命、彼女のために費やすことに躊躇いはない」
エスペランサが興味本位で下界を蹂躙する可能性だってあるんだ。
知らなかったから対策なんてしてなかった。
知った以上は仲間を守るために備えなければならない。
俺は盾役だ。
使い捨ての盾役だが、ここまでやってきたんだ。
仲間を守るために出来ることはなんでもやる。
俺を弄ぶことで満足するなら喜んで身を捧げたっていい。
俺は、俺の大切な人達の尊厳を守りたいんだ。
──ふと、頭の中によぎる淫らな日々。
…………そ、尊厳を守りたいんだ。
確かにその、まあ、やりすぎなのは否定し出来ない。
でも今更あの日々を取り上げられたら、お、俺もうっ!!
「…………本当に、強いお方ですのね」
「そんなことはない。弱くて、悔しくて、不甲斐なくて……世界を恨んでばかりの未熟者だ。でも、そんな俺だから、周りに頼らなくちゃいけない。最近実感してるよ」
「うふふ。そうでしたか」
答えた俺に何がおかしいのか、エヴァンジェリンは笑った。
「……今や穢れ二度と元には戻れない身となってしまいました。死ぬことも許されず、これから先も苦痛に悶え、他者を陵辱せんと醜く昂るのでしょう。そんなわたくしで、本当によろしいので?」
「もちろん。頼りにしてるぞ」
「…………ふふ、うふふっ。本当に、難儀なお方ですこと」
彼女は座ったままの俺の前に足を運んできた。
そしてそのまま、俺の両頬を触る。
「…………はぁ、いけませんわ。ルルクス様、わたくし、このお方とまぐわいたいのですが。それはもうくんずほぐれつ、互いの穴という穴を慰めるような儀式をですね」
「まぐっ!!!!?!?!? ダメっ! ダメーっ! ダメです!!」
「あら、巫女様。あなたもご一緒にいかが?」
「ふ、不潔! 不潔ですっ!!」
「ふっ……是非もない。マリアンヌ、共に駆けあがろう」
「フィンさん!!!? ダメだから!! ねぇっ!!」
ガクガクと俺の首を抱きついてマリアンヌは怒る。
そんな俺たちの様子を見て、一人死んだをしているカトリーナには哀愁が漂っていた。