ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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164 光明と奮起 メスガキ

 拠点に誰も居ない。

 その事態の深刻さに愕然とした一行は、【破砕の聖女】フレデリカ・ブラッドフォージの対応を冒険者ギルドにて気を揉んでいたマーカスと王家から派遣されて来たシャルロット第二王女と【リリーガーデン】の三名、そしてセラフィーヌとフェンナに丸投げし即座に引き返した。

 

 王都に影響が出ない最低限の手加減のみで後は全身全霊で駆けだした結果、一時間足らずで拠点へ帰還するも、そこにはもぬけの殻となった砦だけが残されていた。

 

「…………そん、な……」

 

 アリアが膝を折る。

 飲みかけのティーカップが数個。

 これから食べるつもりだったのか、温めた菓子。

 生活感だけがその場には漂い、人の気配はどこにもない。

 

「…………ダメだ。私の探せる範囲にも、見当たらない……」

 

 アストレアも絶望した表情で呟く。

 彼女の支配範囲は本気でやれば大陸全土に及ぶ。

 その途中に掌握の出来ない場所は数か所あれど、ほぼ全てをカバーしていると言っていい。そんな彼女の齎した情報に、一同は愕然とした。

 

「……あ、アリシア殿。なにか……なにか、ないか……?」

「…………ごめんなさい。私もちょっと、冷静じゃないかも」

「ぁ…………そ、そうだな。すまぬ、そうだ……」

 

 カルラは縋る思いでアリシアへ声をかけた。

 他人の感情を読み取る能力を持っており誰よりも早くフィンの本性に気が付きガス抜きから早々に特別な関係に踏み込んだ女。それでいて独占するわけでもなく関係が破錠しないように力を注いでいた彼女をある意味特別な評価をしていたのだが、そんなアリシアであっても動揺を隠せていない。

 

 その事実に、本格的にどうにもならない事態が起きていると察して、カルラはますます顔を青褪める。

 

 心臓の辺りをギュッと握り締め服には皺が出来ている。

 気遣いを欠かさず相手の思考を読み取りあの手この手で場を取り持つ彼女だが、精神的に安定しているのはあくまで常人より多くのことが理解出来るからだ。相手の考えていることがわかるから冷静でいられるのであって、己の力が及ばない場所で、気が付かないまま事態が深刻化していた際は相応にショックを受ける。

 

 なんにでも動じず対応できる鉄の女ではない。

 

(────……ダメね、落ち着きなさい。私が取り乱してどうするの。最悪は今、全てが手遅れな状態。アストレアが探し切れないってことはこの大陸から姿がないってこと。後は、遺跡とか、それこそ……〈深淵の森〉よね)

 

 しかし、アリシアは周りの精神状態が自分より良くないことを察して心を落ち着かせた。

 

(状況的に、みんなが抵抗も出来ず突然別の大陸や世界に吹き飛ばされたと考えるのは後でいい。姿も見えずに消し飛ばされた可能性も後回し。それよりは、アストレアの力が及ばず、闇のマリアンヌちゃんが一番力を得られる〈深淵の森〉。ここに逃げ込んだ可能性が高い……!)

 

「──ふー…………。いい? ちょっと聞きなさい」

 

 絶望のあまり身動きすら取れなくなった一同に、アリシアは話す。

 

「フィンくんたちが姿を消した。考えられる理由は大きく分けて三つあるわ」

 

 まず一つ。

 指を立てた。

 

「単純に全員死んだ。争う形跡もなく、無抵抗で、気が付かないまま人だけ消し飛ばされた。これは一番可能性が低いでしょう」

「……そ、そうか。あれほどの力を持つ神がいるのに、無抵抗なままやられるとは考えにくい」

 

 直接圧を受けた経験があるからこそこの言説には納得しやすい。

 

 何より戦乱の世に生まれ武家の姫ではなく剣聖の娘として育てられたカルラだからこそわかる。争いとはどれだけ一方的な格差があっても証拠が残るものなのだ。一太刀で斬り伏せたとしても拡散する血は拭えない。

 マリアンヌの【聖撃】のようにモンスターを消し去る魔法もあるが、それならばもっと被害が出ている。

 

「そして二つ目。死んだのではなく、アストレアですら探し切れない遠方、または遺跡に飛ばされた。これも可能性は低いでしょうけど、皆殺しよりあり得ると思うわ」

「…………転移は、非常に難しい。私では再現できなかった。もしそれを実現できるとすれば、それは人智を超えた存在だろう。そして、その力もまた……」

「ええ。でもこの状況、不可解じゃない?」

 

 光の無い瞳で呟くヴァシリにアリシアは同意しながらも違う解を示さんとする。

 

「確かにや……じゃなくて、女神様すらも倒せてしまうような強大な存在ならそれくらいのことできても不思議ではないわ。けれど、それじゃあどうして私達は放置されてるのかしら」

「それは…………直接干渉しているわけではないからではないのか?」

「そうかもしれない。じゃあこの拠点は? 〈深淵の森〉は? 魔を生み出す邪神なのよ、あのお方は。そんなお方が生み出した〈不浄領域〉が現存しているのはなぜ?」

 

(──そもそも、女神エスペランサも結構怪しいわよねこれ。そんなすごい存在がいるならなんでこの世に悲劇が残っているの? 遺跡も〈不浄領域〉も神様が吹き飛ばしちゃえばいいのに。ヒトから信仰を集めて、世界を支配する。そうしない理由がわからない)

 

 ルルクスとも直接──あくまでフィンを介した中身ではあるが──意思疎通のやり取りが出来て、なんとなく感情も読み取っているアリシアは一歩踏み込んだ思考をしつつもそれは隠すことにした。

 

 一度に一気に踏み込みすぎるのは良くないと判断したからだ。

 

 そしてそんなアリシアの言葉にヴァシリは光明を見出す。

 

「確かに、いつでも処分できるのならとっととしておくべきだな。やらないのか、やれないのか……」

「やらないし、やれない。私はそう考えるわ」

 

 ヴァシリもまた人類を導いて来た存在だ。

 女神の恩恵なんか知るかと転生者ヨハンの齎した知識を使い文明に貢献してきたが一度たりとも女神に干渉されたことはなく、その存在を疑い始めるまでに至っている。

 ルルクスが現れたことで神は実在するとわかったが、なぜこの世界を放っておいたのか。

 どうして悲劇を止めなかったのか。

 魔王軍は、女神ルルクスが邪神となって世界を荒らすのならなぜ討たないのか。

 そう言った諸々の疑問が湧いてくる。

 

「おそらく女神様もここで徹底抗戦ではなく、自分の領域に引きずり込むことを選ぶでしょう。そちらの方が間違いなく勝率が上がる」

「つまり……〈深淵の森〉にいるのか?」

「私は、そう思ってる」

 

 結論にそれぞれが思案する。

 だが、誰よりも早く動いたのは、アリアだった。

 

「…………行く。私、行ってくる」

「アリア…………」

「今ならまだ、間に合うかもしれないんでしょ。なら、行ってくる」

 

 絶望しながらも、彼女は立ち上がることを選んだ。

 

 ルルクスに手も足も出なかった。

 もし神々の戦いが行われていれば自分も足手纏いになる。

 だがそれでも座して待つことは出来なかった。

 

「……そう、だな。動くしかないか」

 

 ヴァシリも覚悟を決めた表情で言う。

 

 どの道、死んだとしたら打つ手はない。

 ならば死んでないと考えて動くしかない。

 

「……フィンだったら、すぐにでも行動してたのかしら」

「あやつならそうだろうな。見習わねばならんところだ」

 

 アストレアの呟きにカルラもまた同意する。

 

 信じたくない、信じられない事実に直面し続けて来た。

 

 精神を大きく削られショックに陥ることも珍しくない。

 特にここ最近、あらゆる意味でとても信じたくない出来事ばかりだ。

 想い人がドマゾだとわかったり、妹の想い人と肉体関係を重ねた姉がいたり、そんな姉に誘われて身体の関係になってしまったり、ドマゾだからと言って苦しんでないわけではないとわかったり……特にカルラとアストレアは、自分の行いが全て帰ってきてる真っ最中だった。

 

 だからこそと言うべきか。

 二人は立ち直った。

 かつてのままであったら決して受け入れられなかっただろう。より深くフィンと関わることを選んだ、否、引きずり込まれざるを得なかったが故の順応性だ。

 

 死んだかもしれない。

 もう居ないかもしれない。

 これから自分達も殺されるかもしれない。

 それでも絶望しただ立ち止まることは選んではいけない。

 

「なんとも、難しきことだ」

 

 カルラの呟きに誰も答えない。

 だが内心は同じ事を思っていただろう。

 希望の無くなった世界でどう生きて行けばいいのか──そんな不安が、胸にあった。

 

 

 

 

 

 

「…………うわぁ……」

 

 〈深淵の森〉、ルルクスの封じられた祠、またの名を神域から拠点へ帰還する最中だったアリーシャはそんな拠点の様子を見てため息を吐いた。

 

(……いやまぁ、変なことにはなんないと思うけど。それにしたっておにーさんって、変な女の人ばっかり集めるなぁ。そういう運命なのかな?)

 

 大概数奇な人だとは思っていたが、まさか邪神に見初められ挙句の果てに敵対してるであろう向こうの使徒に殺してくださいとお願いされるとは。

 しかも合理的に考えて無理だと普通に断ってるし。

 妙案やらドマゾ趣味やらえっちな肉体関係やらそれら全部秘匿している相手がいることやら、とにかく複雑で色んな意味でヒヤヒヤさせられたアリーシャは安堵しつつも疲弊していた。

 

(やっぱりちょっと外れてる。邪神……じゃなくて、ルルクス様が言うように壊れてるってああいう意味なんだ)

 

 気の良い好青年。

 だが異常な執着を見せることもある。

 性癖は異常で一般的ではなく、精神性もまた常人のものではない。

 負の感情こそが力になるとルルクスの言った通り、フィン・デビュラの器と中身に関してアリーシャは想像がついた。

 

(えっちの最中に見せるあの姿も、おにーさんなんだろうね)

 

 ──なんで私を見捨てないの?

 

 かつてアリーシャは、フィンにそう問いかけた。

 井の中の蛙大海を知らず、エルフの里で努力していた彼女は世界の広さに追い付けなかった。偉大な姉と、普通の妹。才能のなさ、格の違い……そう言ったものを見せつけられ、心が圧し折れた。

 

 フィンは言った。

 

 ──なんでって言われてもな。気に入ったから?

 

 ──比べられて、陰口を叩かれて、時には暴力を振るわれて……俺はそうやって過ごしてきた。師匠、アリア、マリアンヌ、カルラ……全員そうだ。俺より強くて俺より頼れて、美しい女性。そんな女性達に一人混じる雑魚い盾役なんて、どんな風に見られるか……お前は知ってるだろ?

 

 ──それでもやっていくしかないんだ。俺たちは恵まれない側なのかもしれないが、それは不貞腐れる理由にはならん。

 

 あれはフィンの本心であり本音だった。

 

 身体を重ねるようになり理解が深まった今だからこそ確信できる。

 

 彼は決して聖人君子でもなければ、何もかもを受け入れる底なしの器なのではない。

 

 苦しみ、悶え、歯を食いしばって、それら全てを快楽と受け取りながら、心は傷付き続けている。心が強いのではない。多少傷付いた程度では揺らがない程器が打ち砕かれているのだ。

 

(…………あの女の人はおにーさんがどうにかしちゃうかも。でもそれじゃあ、おにーさんはどうする?)

 

 それこそ、己の敬愛する姉であっても、フィンを本当の意味で救えていない。

 

 なぜならフィンの奥底にあるものは無力な己への嫌悪と憤怒に憎悪なのだから。

 

(…………こればっかりは、ルルクス様に言わないとダメかなぁ)

 

 もしかしたら逆鱗に触れることになるかもしれない。

 フィンの憎悪こそが力の源になっているのならば、フィンが平穏な日々を送る事など望まないだろう。アリーシャも同じ目に遭うかもしれない。

 それでも放っておく気にはなれなかった。

 知ってしまった以上はどうにかしてあげたい。

【払暁】では近すぎる。

 ヴァシリやアリアはフィンが関与を拒んでいる。

 身体の関係どころか秘密の暴露も望ましいと思っていない辺り、あの二人には重い事情を知られたくなかったのだろうとアリーシャは思っている。

 

 アリシアは知り過ぎた。

 彼女はドマゾの本性に引っ張られ過ぎている。

 フィンが苦痛に悶えながらも快楽で喘いでしまうからこそ気が付けない。

【超滅】は、遠すぎる。

 グリセルダもそうだ。

 

(……それも悪くないかもね)

 

 おそらく、自分が歴史に名を残すようなことはないとアリーシャは思っている。

 

 うまく行ってもページの片隅に名前が載るくらいだ。

 姉が偉大過ぎるが故にそう思わざるをえない。

 

 なら、好きになった男のために命を使うのも悪くないじゃん。

 

(────あ、でもどうしよ。あの女の人もえっちに巻き込んだら……あるんだよね、アレ。ふふっ、本当の寝取られってやつ? おにーさん、耐えられるのかな♡)

 

 

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