ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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171 曇らせ⑧

「師匠、気分はどうだ?」

「悪くないよ。迷惑かけてすまない」

 

 ほっ。

 思ってたより顔色も悪くない。

 やっぱ疲労が溜まってたところに俺がショッキングな姿で帰還したから急にクラッと来たんだな。申し訳ない気持ちになる。

 

「アリシアも、肩代わりさせて悪いね」

「いいのよこれくらい。いつもやってもらってるんだし、こんな時くらい私がやんなきゃお母様に叱られるわ」

 

 えっ、お、お母様呼び?

 アリシアさんって母親のことお母様って呼んでるの?

 

 それは……なんだか、えっちじゃないか?

 

 だって王女様のお母様呼びだぜ。

 つまり俺もお母様、いやお義母様と呼ばなければならない。

 下賤な農民の俺が、ハイエルフの女王様を義母呼び……く、くくっ、おひっ、良くない快感が押し寄せてきてイクッ!

 

「え、ええっと……その、万事恙無くとはいかないけど、それなりになんとかなってるから、ゆっくり休んでちょうだいね」

「いつまでも師匠一人に頼るわけにもいかん。これを機に少しずつ政務も手伝うから、無理はしないでくれ」

「はは、無理なんてしてないさ。いつも皆に頼ってばかりだ」

「師匠は素直じゃないなぁ」

 

 えっ、あ、アリシアさんどうしました?

 なんでそんな目で俺を見るんですか?

 変なこと言ってないし考えてないんだが……。

 

「無理と言えば……フィン。私の方こそ君には感謝しなければならない。よく、聖女を止めてくれた。ありがとう。私達がなんとかしなければいけなかったのに、また君に一つ背負わせてしまった。……本当に、すまない」

 

 そう言って、師匠は目を伏せる。

 

 聖女を止めたというより実益と趣味を交えたこれ以上ない最高の手段だったのだが、師匠にそんなことを言えるわけもない。

 

「……いいんだ。俺の方こそ、見苦しい姿を見せた」

 

 男が犯されて帰って来た姿とかただでさえ見たくないのにそれが知り合いとかキツいよね。

 

「むしろ、あんな形でしか治められなかった未熟さを申し訳なく思う。師匠に教えを受けたと言うのに、俺は……あんな情けない姿を晒して、男として、恥ずかしくてしょうがない」

「フィ、ン…………」

 

 師匠はショックを受けた表情をしている。

 

 そりゃそうだろう。

 男がちん○んしゃぶって帰って来たのだ。

 あまりのショックに先程も倒れてしまったくらいだ。

 俺もアリアが俺を守る為に身体を差し出して知らない男に凌辱されて帰って来たらその場で憤死して魔に転じる覚悟がある。

 

 まあ俺はアリアじゃないのでただ気持ち悪いだけなんだが……

 

「とはいえ、俺のプライドなんてもんは二の次だ。盾役として仲間を守らなきゃいけない立場である以上、俺に出来ることなら何でもする。情けなくても、悍ましくても、無様でも、なんだっていい。仲間を守れるならそれで構わない。…………俺は、特別じゃないからな」

 

 結局のところ、そこに帰結する。

 

 俺は特別じゃない。

 闇マリに救われた今でさえそうだ。

 死なないだけでは役に立てないと闇マリは教えてくれた。五感を奪い四肢を奪い治癒を阻害すれば簡単に無力化出来るのだ。

 その状態で海や沼にでも捨てられればおしまい。

 なんて頼りない不死身なんだろうか。

 

 エヴァンジェリンとの決着を最大限穏便に抑えたのにはこういう理由がある。

 

 彼女は不死身歴が長い。

 話を聞いた分には首を斬り落とされて数年間身体を好き放題弄ばれたこともあるそうだ。お尻からの大量出血でパニックになってしまった時に色々聞いた結果教えてくれた。彼女ですら数年間、飽きられるまで堪えたと言っていたんだ。

 

 それじゃダメだ。

 封じられる程度の不死身なんざ意味がない。

 首から上だけになっても身体を動かすための訓練とかしたいんだが、流石に仲間に頼むのは忍びないしな。

 

 もちろんそんな目的があることは誰にも言うつもりはない。

 

 アストレアには何しても大丈夫になるんだぜと言ったが、今溶岩にブチこまれたらそのまま溶けておしまいだ。理想的なのは上半身と下半身が分かたれても下半身を操って上半身に合流させて問題なく戦闘継続することである。

 フフッ、皆ビックリするだろうな。

 肉体が弾けて治癒待ちの盾役が自分で何とか出来るようになれば戦いの幅が広がるぞ。

 

「それに、これでも嬉しく思ってるんだ」

「う、うれ、嬉しい……?」

「ああ。だって、俺が師匠の役に立てたってことだろ。師匠とアリアを出し抜いた相手を俺が抑えられた。これが嬉しくないわけないって」

「ひゅっ…………」

 

 前に〈深淵の森〉で師匠を庇った時もそうだったが、本当に嬉しいんだ。

 

 世間的に憚られることなく俺の趣味を満たしたうえで師匠とアリアを守ることが出来た。

 

 これは、俺が幼い頃に思い描いていた夢そのものだ。

 無駄死にするからと置いてかれたが、それでも、アリアと師匠を守るって夢が密かにあった。こんなんでも男だからさ。幼馴染と師匠を守れるようになりたいとずっと思ってた。

 

 なにせ、アリアは特別だったから。

 朗らかで、でもどこか泣き虫で、なのに勇者なんだ。

 あいつに過酷な道が待っていることはわかっていた。

 俺には何も出来なかった。

 俺は特別じゃなかったから。

 何もしてあげられなかった。

 師匠は俺がいてよかったと言ってくれたけど、バカながらに悟ってたよ。

 

 俺がいた意味なんてなかったことを。

 

 それでも師匠は優しくて、俺に愛情を注いでくれていた。

 

 俺が苦しむことなんてないように、俺が傷付かないようにって気を遣ってくれた。いや、もしかしたら、自惚れかもしれないけど、師匠は俺がいてくれてよかったと思っていたかもしれない。

 でも意味はなかった。

 アリアの旅路に俺は何も関わらなかった。

 

 俺が知らない所で、アリアと師匠は世界を救っていた。

 

 まあ、なんてことはない。

 それが現実で、それ以上でもそれ以下でもないんだ。

 けどさ、やっぱりどこまで行っても俺は男だから、どうしても自分で守ってやりたいんだよ。

 バカな男だから。

 

「だからさ、師匠。その……情けなくて無様なのはわかってる。でも、いつまでも好き放題される気はないんだ。それにエヴァンジェリンとの相性も悪くなかった。きっと今よりいい関係になれると思う。だから────」

「────……めだ……」

「ん、え、師匠?」

「……ダメだ。絶対に、ダメだ……」

 

 ダメだ、ダメだと呟きながら、師匠は身を乗り出して俺の肩を掴む。

 

「頼む、フィン。これ以上、自分を犠牲にしないでくれ……」

「…………」

「もう……もう、もう耐えられない。君を犠牲に生きていたくない。フィンの全てを吸い取って生きる、こんな醜悪な生き方は、もう……たくさんだ!!」

「……師匠…………」

 

 顔を挙げた師匠は、俺が見たことも無いようにぐしゃぐしゃに歪んでいて、涙で濡れていた。

 

「私が、私が悪いんだ! 君をそんな風に育ててしまった、私がっ! もっと大切に、もっと慈しんで、ずっと傍に置いておくべきだったのに……っ! すまない! フィンっ! すまなかった!!」

「…………」

「っ……!? フィンくん!? ちょっと!?」

 

 ──どうして今更そんなことを言うんだ?

 まるで今の俺が、まったくなってないような言い方だ。

 そんなに、今の俺はダメだろうか。

 褒められたことをしてないのはわかってる。

 男が女に身体を差し出して生き永らえた。

 どれほど醜いことかなんてわかってる。

 それでも俺にはそれしかなかった。

 そうすることでしか守れなかった。

 あの場でエヴァンジェリンと戦うことなんて出来なかった。

 彼女が戦いを選ばないほど高潔だったから収まったんだ。

 エヴァンジェリンが真の意味で女神の使徒だったら、今頃俺は首だけにされて仲間達を凌辱される様を見せつけられていただろう。

 それこそ闇のマリアンヌだって標的にされてたかもしれない。

 無力のままだ。

 ずっとずっと、一番大事な場所で俺は役に立っていない。

 だからせめて、ほんの少しだけでいいから役に立ちたいんだ。

 俺を育ててくれた師匠と、追い付きたい幼馴染のために。

 少しでも、ちょっとだけでいいんだ。

 胸を張って幼馴染だと、弟子だと言えるような何かが……。

 金等級?

 仲間に恵まれた。

 名誉もない。

 不名誉ばかりだ。

 それとも、死人には高望みか。

 そうかもな。

 だって俺はもう死んでるんだ。

 生きているのは闇のマリアンヌがいたからだ。

 今の状態だって生きていると言えるのかわからない。

 でも、でもさ師匠、今更もう、俺は変われないんだよ。

 今更そんなこと言われたって、俺は変われないんだ。

 師匠が置いて行ったことを恨んじゃいない。

 寧ろあれが優しさだったとわかってる。

 だから精一杯やったんだ。

 やったんだ。

 やったんだよ、必死に。

 泣き言なんて漏らさず、ずっと頑張ってきたんだ。

 結果が全てだけど、よりよい結果になるように懸命に生きてきたんだ。末路はあんなんだったけど、結果的に今ここにいるんだ。

 それとも、俺は何もしない方がいいのか?

 俺のよかれと思った行動は全てダメだったのか。

 だって、しょうがないじゃないか。

 俺にはそれが最善だったんだから。

 俺は────どこまで行っても、特別じゃないから。

 

「ふぃ、フィンくん……! ヴァシリごめん! フィンくん借りるわよっ!」

「え? ────…………ぁ……」

 

 俺を見上げた師匠の瞳が揺れた。

 真っ青な顔だ。

 そんな顔させたかったわけじゃないのに、俺は本当にダメなやつだ。

 こんなに苦しいのに、こんなに気持ちいいんだ。

 

 なあ、師匠。

 まともな人間ってこういう時、どんな顔するんだ?

 苦しくて、息も辛くて、でも気持ち良くて、どうしようもなくてさ。

 ずっと前にもこんな状態だったけど、あの時も、結局どうしてたっけ。

 

 そうだ、俺は隠すことしか知らないんだ。

 

 今はうまく隠せてるのかな。

 

 わからない。

 こんなことになるんだったら、もっといいやり方を聞いておけばよかった。

 師匠を悲しませたくなんか、なかったのに。

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