ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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178 ヴァシリの悲哀/幼馴染同盟(笑)

「それじゃあ、今日も行って来る」

「ああ。聖女とルルクス様によろしく伝えておいてくれ」

「闇のマリアンヌはいつでもここにいるぞ?」

「はは……まあ色々あるんだ。うん、そう、色々と」

「……? まあわかった」

 

 あまり納得してない様子、というより、真意を測り損ねた様子でフィンは〈深淵の森〉へと歩いて行った。

 

 察しのいい子だ。

 アリシアのような特別な力があるわけではなく、ただ単純に察するのがうまい。自分の評価が絡んだ途端ダメダメになるんだけど、それはもう仕方がないことだ。

 

 そうさせてしまったのは私だ。

 それに関して口を出せる訳もない。

 

 ただ、今回ばかりは感謝しなければならないかもしれないね。

 

 これから何をするかあの子が察したら、更なる厄介事を招いていただろうから。

 

「ヴァシリ。フィンくん行った?」

「ああ。……まったく…………向こうで何が起きてるのかわかっているのに、弟子を差し出さねばならないのは、心に来るよ」

 

 私だってフィンを送りたくなんてない。

 けど送りださなきゃいけないんだ。

 聖女エヴァンジェリンの監視のために、聖女エヴァンジェリンの暴走を事前に阻止するために、そして──今日この日、日中、フィンが居ない時間を作る為に。

 

 自分が嫌になる。

 こんな気持ちをここ数日でどれだけ味わった?

 死が迫ってきて焦燥していたあの日々とは全く違う苦しみだ。

 逃げることなど最初からできない。

 私が受け入れ、背負わなければいけない重みがひたすら胸を圧迫している。

 

 だが、フィンが受け入れて来たモノに比べれば、こんなもの……なんとでもなるはずだ。

 

 どれだけ正当性のある理由があったとしても、私の行いが非道なことに変わりはない。

 

 これまでの罪と、これから積み上げていく罪。

 

「…………こんなはずじゃ、なかったんだ……」

 

 フィンに救われた。

 魔王を倒した。

 王都に戻って来た。

 これからやっと、取り戻せると思った。

 思っていたんだ。

 こんなはずじゃ……

 

 こんな…………

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ……ヴァシリも相当参ってるわね。

 

 フィンくんがドマゾ云々は実際に目にしてないから信じきれないでしょうし、信じたところで、それに寄りかかって甘えている事実は変わらない。

 

 負い目ばかりが増えていく状態で、更にアリアとマリアンヌちゃんへの説得もしなきゃいけない。ヴァシリの負担は増える一方よ。

 

 どうにかしてあげたいけど……

 

「……それを考えることが傲慢、か」

 

 これまでのことを改めて振り返ると、私はフィンくんの踏み込んで欲しくない領域に何度も何度も突っ込んで踏みにじって来ている。

 

 フィンくんに悪感情というものがきっちり存在すると分かった以上、過去の罪も自覚しなくちゃいけない。

 

 フィンくんはマゾだからってなんとも思わない訳じゃない。

 ただ、何か思うより先に、ルルクス様の養分になってた。

 ただそれだけ。

 

 でも私はルルクス様に感謝こそすれど恨むことはできない。

 

 あのお方がフィンくんに憑りついていなければ、こうして会うことすらできなかった。ええ。恨むことなんて、出来るわけがない。

 

 ヴァシリもそれを理解している。

 だからこそ余計に思い詰めてるんだと思うわ。

 

「…………あの子は本当に、私を求めてくれるのか……?」

「それは間違いなく……」

「お、おう。そこは即答なんだ……」

「言っておくけど、ヴァシリとヤることになったらフィンくんは絶対とんでもないサディストになるからね」

「なぜ!? そっ、そこまで恨まれてるのかっ……!?」

 

 顔面蒼白になるヴァシリ。

 常識的に考えれば幼い頃から虐待同然の修行を課してきたくせに弱いからと言って置き去りにした師匠を恨んでてもおかしくないけど、そうじゃない。

 

「フィンくんとかの色眼鏡抜いて考えなさい」

「フィンを抜きに……わ、わかった。頼む」

「大前提として、ヴァシリの見た目から説明するわ。まずスタイルがいいわよね」

「……綺麗な身体だとは思うね」

「そして顔がいいわ。一応お姫様だし」

「……これだけ長生きして姫扱いは苦しい。顔も、まぁ、変ではないけど」

「そんな異性が子供の頃から弟子として修行をつけてきて、お風呂に入ったり、手料理を食べさせて愛情注いだりしてるわけ。それも、性を覚えるくらいの年齢までね」

 

 あ、顔逸らした。

 …………自覚はあったのね……。

 

「その上、毎日休みなくボコボコにされ続けてマゾ欲求を満たしてくれて、さらに肝心なところで弱いから置いて行かれて心までズタズタにされて、それでも悦んじゃう男の子がエッチの時にサディストになるのよ? エッチの時くらいしかフィンくんのマゾ欲求満たしてない私でもヒイヒイ言わされてるのよ? 逆に聞きたいんだけど、どうしてヤられないと思ってるの?」

「……………………」

「もうすっごいんだから。まず押し倒されて、そのまま唇奪われて、とろけてる間に腕を縛られて服も脱がされて……」

「も、もういいわかった! 私が悪かった!」

 

 これからがいいところなのに……。

 

 でもやっぱりこう、フィンくんの気持ちも理解できるのよね。

 

 ヴァシリっていつも余裕あるし、何にでも対応できるように準備も下積みも欠かさないし、数年単位での計画とか平気で練るのよ。文字通り人と尺度が違う。なんならエルフの私から見ても特別だしね。

 

 そんな偉大なエルフが、こう、初心だってわかったら……フィンくんにエッチで殺されちゃうんじゃないかしら。

 

 私ですらちょっとクるものあるし、二人きりには出来ないわね。

 

「大丈夫、安心して。逝く時は一緒だから」

「何も嬉しくないけど!? は、初めてがそんな多数とか嫌なんだが!」

「えっ……二人きりになったらヴァシリ殺されちゃうかもしれないけど……」

「殺!? やっぱり恨まれてるじゃないか!!」

「ほ、ほら、憎さ余って可愛さ百倍なんて言葉もあるから……」

「憎まれてるじゃないかぁっ!!」

「あ、愛憎混ざってる方が燃え上がるかもしれないわよ?」

「う、うぐぐ……!!」

 

 この後、アリアとマリアンヌちゃんに説明しないといけないんだけど……まぁ緊張でガチガチよりかは、ほどよく解れてた方がマシかしら。

 

 ほんと、できれば平和に終わって欲しいけど……

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……マリアンヌちゃん。何かがおかしくない?」

「……アリアンロッドさんもお気付きでしたか」

 

 二人の女が深刻な表情で顔を突き合わせていた。

 

 勇者と聖女。

 世が世ならば世界を救う一行として旅をするであろう二人が、世界の終わりでも迎えたかのような雰囲気を醸し出していた。

 

「…………フィンがえっちしに行ってるのに、誰も反対してない……! これはおかしいことだよマリアンヌちゃん! どう考えてもおかしいっ! ありえないっ! しかも相手の女にはちん◯んついてるんだよ!? こんなのおかしいよっ!!」

「あ、アリアンロッドさん、その、大きな声で言わないでください……」

「フィンが居ないから聞かれてもノーダメだからいいのっ!」

 

 男性器の名前を大声で叫ぶアリアにマリアンヌは恥ずかしそうに頬を染めたが、気を取り直して話を続けた。

 

「お、落ち着いてください。おかしな点はそれだけではないのです。確かにフィンさんが、その、聖女さまと淫らな行為に及んでいるのにカルラさんやアストレアさんが反対しなかったことが問題です。あの二人は私と同じく、フィンさんに想いを寄せているはず……だというのに、賛成に回った。何かが、何かがおかしい……!」

「そ、そっか。あの二人は私達と同じでフィンのことが好き……じゃあどうして反対しないの!? フィンのお尻が女の子になっちゃうかもしれないんだよ!?」

「すみません、あの、本当にもう少し声を小さくするか、表現を変えるかしていただけませんか……?」

「清楚でフィンとヤれますかぁっ!!」

 

 幼馴染(十年近く好き)がどんどん遠く離れ、自分が置き去りにされているかもしれないと思い始めたアリアは理性が失われかけている。

 

 上品さのかけらもない言葉だが、一部は共感できるところもあり、マリアンヌは諦めた。

 

「し、しかし、フィンさんは邪神ルルクスさまを宿している身分。そんな淫らな行為を神が許すと思いますか?」

「マリアンヌちゃん! マリアンヌちゃんの方が追い詰められてることに気が付いてないの!?」

「えっ……わ、私ですか?」

「そうだよ! あの邪神はマリアンヌちゃんの姿してたよね」

「そう、ですね…………」

「あの森の中にはフィンと、マリアンヌちゃんの姿をした邪神と、ちん◯ん生えた聖女しかいないんだよ!? 邪神も一緒にまぐわってるに決まってるじゃん!」

「!!!!!!?!?!?!?!?!」 

 

 瞬間、マリアンヌの脳に電撃奔る。

 

 フィンを弄ぶ、自分の姿をした邪神。

 そんな邪神になんだかんだ敬意を示す自分の想い人。

 邪神であることから性にも奔放であっても違和感はなく、自分は置いてけぼりなのに、自分の姿をした邪神に、フィンの愛情を奪われ…………それどころか、身体を重ねることすら…………

 

「あっ……あっあっ……ああっ……!」

「フィンが逆らえないのを良いことに、好き放題してるんだよ!? それなのに誰も反対しないッ! 私、こんなのもう許せない!」

 

 憤るアリア。

 頭を抱えたマリアンヌも、少し呼吸を整えてから彼女の意見に同意した。

 

「はっ……はっ……ハァッ、そ、そうですね。私も、同じく思います……!」

「だよね! こうなったら師匠に直訴だ! そもそも師匠だって変だよ! フィンを送り出すなんて、師匠がやるわけないのに!」

「はい……! 最早私達幼馴染同盟で、止めるしかありません……!」

 

 他の誰も信じられない。

 同じ男を想う、その絆が二人にはあった。

 

 全ては、好きな男を救うため────。

 

 聖女と勇者が立ち上がった。

 

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