ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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181 幼馴染同盟脳破壊③

 

 やっぱり、こうなったか。

 

 フィンの諸々の事情を全て真実だとした場合、もっとも説得が困難なのはアリアとマリアンヌだとわかっていた。

 

 私の考えだとこれと同じくらい苦労しそうなのがアストレアだと思っていたが、どんな手段を使ったのか、既に丸め込んであるそうだし……実質一番大変なのがこの二人だろうと。

 

 マリアンヌは典型的な神官だ。

 

 教えに忠実で清らかな善人。

 孤児院への援助をしていることからも明らかだ。

 もちろん悪いことじゃない。

 教団も大きな組織だ。

 理想と現実の間で均衡を保ち清濁併せ呑むような者もいれば、汚職に塗れ酒池肉林と火遊びが止められない司祭もいる。

 

 彼女は極めて善良な神官であり、今では聖女として活躍している。

 

 生育環境も大きい。

 戦争孤児で孤児院で育ち、自らの食事を子供たちに分け与えるようなシスターに育てられたと言っていた。そうして培われた価値観は冒険者のものでもなく、カルラのように良家の教育を受けたものでもないため教団の教えに忠実になるのは必然。一人が複数の異性を独占するような関係性を面白くは思わない。

 やり方を間違えればフィンの印象が著しく悪くなる。

 そうなればフィンの心にも深い傷が残る上にマリアンヌも辛くなるだろう。

 

 感情の読めるアリシアに任せた方が確実だと思ったが…………

 

「ぁ…………や、えっと、その、そんなつもりじゃなくて……」

 

 青白い顔でそう呟くアリシア。

 その様子を見れば彼女も想定外だったのは見て取れる。

 実際、そこまで変なことは言っていない。

 というか、どうしようもないと言うべきか……

 

 私に話した順番だとフィンの背負うものの重さに追い詰められ、苦心しながらようやく飲み込んだ後にマゾヒストだと聞かされる。

 

 正直、あれはないと思った。

 だったら先に言っておいてくれとすら考えた。

 だが、今の惨状を鑑みるに、それも間違いではなかった。今回はフィンをなぜ聖女に差し出すような真似を容認したのかと問い詰められており、それを説明するためにフィンのことを話さねばならなかった。

 逃げることは出来なかった。

 

 先にするか後にするか。

 どっちがマシだろうね。

 

「アリシア。私が変わろう」

「ぁ……ヴァ、ヴァシリ……」

「大丈夫。まだなんとかなるよ」

 

 泣きじゃくるマリアンヌの隣に座る。

 

 アリアは無反応だが、今は自分の頭の中で整理している頃合だろう。

 

 アリシアに目配せして任せて、マリアンヌに集中する。

 

「フィンがマゾヒストだとして……だからと言って、彼の行為が高潔で尊いものだという事実は変わらない。そう思わないかい?」

「…………」

「実は、私もつい先日フィンのことを教えられてね。正直、今でもフィンがマゾヒストだとは到底思えないんだ」

 

 マリアンヌくんが僅かに身を動かした。

 

「ただ、神が身体に宿るなんて不思議な現象が起きている以上、天変地異が起きたっておかしくはない。フィンがマゾヒストかどうかはともかく、まずは彼の精神状態について話をしよう」

「…………精神状態……ですか……?」

「ああ。まず、フィンは限界をとうに迎えている。既に壊れきっているんだ」

「…………ぇ……」

「……あ、壊れたからマゾヒストになったとかそういう話じゃないからな」

「ぇ、あ、それは違うんだ……?」

 

 涙で目を腫らしつつ、彼女は困惑する。

 

 まぁそうだよね。

 私もそうだったし困惑するよ。

 普通は壊れた結果倒錯的な性癖になってしまったのかと思うものだ。それが元々そうでしたと言われれば嘘だろうと言いたくもなる。

 

「フィン・デビュラという人物を言い表すのは一言ではとても難しい。たとえば、もし実際にフィンがマゾヒストだったとして、マリアンヌはどう思う?」

「…………正直、ショックです。幻滅したとか、そんなことではないんですが……」

「……思っていたのと違った?」

「…………言わないでください。私は、私の醜さに、耐えきれない……」

 

 そう言ってマリアンヌは顔を手で覆った。

 

 気持ちはわかる。

 

 これで彼女が盲信しているような娘だったら前もって注意の一つでも出来たんだが、これに関してマリアンヌに非は全くない。

 

 なぜなら、フィンが徹底的に隠していたからだ。

 

 知る由もないと言った方が良いだろうね。

 

 農民出身で。

 自分と同い年で。

 盾役として厳しい環境を生きてきて。

 何度も何度も自分を助けてくれて。

 それでいて紳士的で。

 顔立ちも整ってるし身体も男らしい。

 付き合いもよくて休日は一緒に遊びに行くし、昼寝を一緒にすることすらある。

 それでいて一度も娼館に遊びに行かないような潔白さもありつつ、仲間の女性陣に嫌悪感を抱かれる様なことを一回もしない。

 命懸けで自分達を守ってくれた。

 それを理由に何か言うわけでもなく、それまでの行いを謝罪したカルラを簡単に許しやり直すことも許容した。

 身嗜みも悪くないとくればお手上げ。

 

 苦痛に耐えながら現実の理不尽に対しひたすら己の力不足を嘆き、力を付けて必死に生きている男の子だ。心が高潔だと考えて何が悪い。憧れ、恋慕、愛情、それらが入り混じった複雑な想いを抱くのも仕方ないことだ。

 

 自分以外味方がおらず心細さで圧し潰されそうになっている年頃の娘がこんなのに出会ったら、そりゃあ、そうもなる。

 

 いやはや、我が弟子ながら魔性の男だ。

 

「…………私は……フィンさんのことを、なにもわかっていなかった、最低な女なんです……」

「それでもフィンは君にそう思っていて欲しかっただろうね。あの子にとって、君は特別な一人だから」

「……私が、特別…………?」

「ああ。アリシア曰く、私と、マリアンヌと、アリア。この三人にだけは触れて欲しくないとフィンが考えていたそうなんだ。だからずっと隠していた。けれど、それも限界なんだ」

 

 何が正解なのか、私にはわからない。

 

 どうするべきだったのかもわからない。

 

 仮にアリシアが察することもなくフィンがただの高潔な青年だと全員が考えていた場合、今どうなっていただろうか。

 

 それを考えるだけでゾッとする。

 きっと、今よりもっと悪いことになっていた。

 アリシアという理解者が、カルラやアストレアを巻き込みフィンの本当の心を知らしめた結果が、これだ。

 フィンは深く傷ついただろう。

 そうして生まれた悪感情すら、フィンは養分とされているんだ。

 邪神が憑りついたというのは、そういうことだ。

 

 それを私達は、ただ嘆くばかりで、彼になにもしてやれない状況が続いたとすれば……

 

 ……考えたくもない。

 

「フィンの心は限界を超えてしまった。その事すら知らずに、のうのうとあの子に全てを頼るようなことになっていたら……今度こそ、私は己を許せなくなる」

 

 だから、今が分水嶺だ。

 

「フィンがマゾヒストであるかどうかは重要じゃ……重要だけど……これよりもっと大切なことがある。フィンが壊れてしまった今、あの子ともう一度やり直さなきゃいけないんだ。私はあの子の望むことはなんだってしてやるつもりでいる。君は、どうだ?」

「わ、私、は…………」

 

 たとえフィンが望まなくて、私はフィンの為に動く。

 

 あの日、君を殺してしまった私の背負うべきことだ。

 

 アリシアへの憎悪も抱かせるつもりはない。

 もしも君が憤ることがあるのなら、その憎悪は全て私に向けてくれ。私は君の師だ。なにもかも気が付かなかった愚かな師だ。フィンの大切な人を傷つけさせるわけにはいかない。

 

「ありのままのフィンを、私は愛したい。君も、そうなってくれると嬉しく思う」

 

 それが師としてのけじめだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 フィンが、ま、まぞ、まぞひ、ま…………なに……?

 

 ま、マゾヒスト?

 それってあの、貴族に多い変態さんのことだよね。

 前に師匠に教えてもらった、注意するべき変態の中にあったから覚えてる。

 男の人なのに、女に虐げられたり鞭で叩かれたり蝋燭を垂らされたりして興奮するっていう……ど、度し難い変態。

 

 フィンが、そんな変態だって言うの?

 

 そんな、そんなわけないでしょ。

 だってフィンがそんな変態なわけない。

 これまで一度だってフィンはそんな素振り見せなかった! 確かに痛みにとても強いけど、あれは我慢してるだけだもん。フィンがマゾヒストだなんて、そんなわけない!

 

『本当にそうかなぁ?』

 

 そっ、それ以外に何があるっていうのさ!

 

『私が知らないだけで、フィンはずっと我慢してたんじゃないの?』

 

 ……我慢はしてたでしょ。

 

『……我慢はしてるね。そうじゃなくて、あんな硬派ですよって顔してて、本当はソロ依頼とかで女の人と……』

 

 お、女の人となに!?

 

『決まってるでしょ。えっち、してるんだよ。男の人の娼館行ってない宣言なんて真に受けちゃだめだよ?』

 

 あ、あばばばばばっ!!?

 

『ただえっちなことしてるだけじゃない。誰にも言えないその性癖を密かに解消するためにコッソリそういうお店に通ったり、知らない女の人と一夜を過ごしていたり……あーあ、幼馴染のしてほしいこともわかんないダメ勇者、取られちゃったね』

 

 ぼええええええっ!!?

 あががががっ!!

 頭がっ頭がこわれるっ!

 い、いやだぁっ!!

 フィンはわたしと、ずっと、一緒にぃ……!!

 

『アリア? ああ、あいつは幼馴染だけど、なんていうか……ガキっぽいし、身体だけはいいんだけどな。俺はそんなんより都会の色気のあるおねーさんがいいんだよ、なーんて……』

 

 ほげっっっっっ!!

 

 ふぃ、ふぃんは、そんな、そんなこと、いわ、言わな……

 

『安心しなよ、私。私には秘策があるもん!』

 

 ひっ秘策!?

 

 ていうか私ってなに!? 誰!?

 

『私は私だよ。それより私、フィンに色んな事情があったとして、一番大事なのは何だと思う?』

 

 えっ、えっえっと……フィンと結婚すること?

 

『わかってるじゃん。フィンがどんな男の人だろうがそれは変わんないんだしさ、マゾヒストだろうが何だろうが最終的に一番になっちゃえばいいんだよ!』

 

 そ、そうかな……

 そうかも……?

 

『うんうん。だからきっと、今もあの聖女のお○んちんで……』

 

 ひ、ひいいいいっ!?

 やめてっそれやめてっ!!

 フィンのそんな姿みたくないっ! 頭がおかしくなるっ! 見せないでぇっ!!

 

『いや勝手に妄想してるのは私じゃん……』

 

 あ、ああああばばばばっ!!

 ふぃ、フィンのお尻が女の子になっちゃってぇ、おフィンフィンがぁっ!! そッそんな奥まで!? ひ、ひいいっ!!? やめてっ! フィンがこわれちゃうっ!! 女の子になっちゃうよぉ!!

 

 い、いやだあぁっ!!

 

 フィンはそんな情けない声で喘いだりしないもんっ!!

 

『処○だからわからないもんね』

 

 お、おごっっっ…………

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「…………あの、ヴァシリ。なんかアリア、白目剥いて痙攣してるけど」

「…………感情はどうなってるんだい?」

「えっと……なんていうか、悲しみと絶望と興奮……?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

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