正に、天にも昇る気持ちとはこのことだ。
ガキの頃からずっと見てきた。
尖った耳に不思議な肌色。
俺達とは明確に違うヒトで、村の大人たちも逆らえず、領主様すら口出しできない存在。とびきり凄い人だと子供ながらに理解した。
押しかけて弟子入りした。
アリアがどうなるかわからなかったのと、そんなアリアを放っておけなかったのと、大怪我したのになんだか気持ち良さもあって自分でも混乱していたから。そしてこんな目に遭うよと忠告にしてはやや過激な試験で痛みが気持ちいいということに確信を抱いて、でも、周りの誰しもがそんな様子を見せてなかったから隠して弟子入りした。
師匠。
特別な人だ。
俺にとって、何よりも大事な人だ。
師匠がいたから俺は真人間になれた。
きっと貴女に出会えなかったらこんな立派にはなれなかった。いやまあ今も決して俺一人で何かが出来るわけじゃないが、ここに至るまでのと取っ掛かりを作ってくれたのは他ならぬ師匠だ。
俺の人生を豊かにしてくれた。
尊敬しかない。
だからこそ俺は、貴女にだけは知られたくなかった。
俺の中身がこんなにも醜いことを。
俺の本性が獣同然だってことを。
師匠のことを尊敬してる。
大好きだ。
だから絶対に顔に泥を塗るわけにはいかなかった。
師匠とアリアの知り合いだということも知られたくなかった。
二人と比べれば俺なんてカスみたいなものだ。
そう比べられることはいい。
問題は、師匠に導かれたというのにこの体たらくだと思われることだ。
俺が弱い所為で師匠の目に狂いがあったなんて言われては死んでも死にきれない。
俺は、自分がおかしいことを自覚してる。
闇マリのおかげで生き延びたと理解してから猶更だ。
俺はおかしいんだと思う。
自分でおかしいと思っているところ以外もおかしいんだろう。
自覚出来ないおかしさがある筈だ。
自覚してるだけでマゾサドザコの汚点がある。
自覚してないところなんてわかるわけがない。
俺はどこがおかしくてどこが普通なんだ?
疑うまでもない。
師匠の教えは正しい。
俺の考えはおかしいところがある。
マリアンヌにお使いを頼まれなくなった。
自己流のトレーニングはうまくいかなかった。
俺が自分でどうにかしようって考えて実行したことの大半はうまくいかなかった。
だからやっぱり俺はおかしいんだ。
俺はおかしい。
俺はおかしいが、今の状況もおかしい。
目を疑っている。
先程までの光景は現実だったのか?
もしかして俺は今死ぬ寸前で夢でも見てるんじゃないか。
もしくは闇マリに幻でも魅せられているのか。
どう考えてもおかしいよな、師匠が裸で俺の隣で頭を抱えてるなんて。
『チッ……今ここで夢にしてあげてもいいのよ?』
フッ……やめておけ、闇マリ。
今の俺は鬱と幸福が同時に訪れて非常にリラックスしている。
陰鬱でどんよりとした頭の重さで苦痛を味わい、行為によって得た心地よさと混ざり合い、フフ、おほほおっ!!
「どうすればいいんだ……」
師匠の隣にはアリアがいる。
残念ながら彼女はしっかり服を着ている。
素っ裸の俺達とは違うのだ。
だがその表情はとても穏やかとは言えない。
ギリギリと歯軋りが鳴り額には皺が寄って汗を大量に流し、うーん、うーんと魘されている。時折「ほああっ」とか「ほげっ」とか言ってるから大丈夫そうなんだが、師匠としては軽視できないようで、あまりの惨状に頭を抱えてしまった。
「アリア……まさかこんなにエッチの耐性がなかったなんてな……」
無敵と思われていた幼馴染にも弱点はあった。
てっきり金髪巨乳美少女に成長したアリアは旅の中で数多の男を食い散らかし経験豊富になり俺の知らない所で俺の知らない男との蜜月を幾星霜と繰り広げたと思っていたのだが、全くそんなことはなかったそうだ。
幼馴染が俺の知らない所で女になってしまったという妄想に度々浸っていたことは申し訳なく思うが、こんな、なし崩しエッチすら出来ない程だとは思わなかった。
「前にアリアが浴場に押し入ろうとしたとき、脱衣所で気絶していたことがある」
「…………それは、フィンの裸を見て気絶したってことかい?」
「いや、その時はカルラと浴場で欲情エッチしていたんだが、その光景を見て記憶を失うほどショックを受けたみたいでな」
「そうか…………。…………なぜ皆が使うお風呂で性行為をしてるんだ?」
「うっ……は、反省はしてる」
し、しまった藪蛇だっ!
師匠のジト目を直視できない!
なぜならそのちょっと下にたわわで豊満で俺が夢焦がれた乳房がある! 見たらフィンフィンがギンギンになってしまうのだ!
「はぁ…………いいかい、フィン。確かに私は君を我慢させ過ぎたし、その影響で性癖が少々歪んでしまった責任は取るつもりだ。けれどね、流石に浴場はどうかと思うよ」
「はい、すいません。反省しています」
「……本当に反省してるかい?」
「はい、してます。師匠、俺を信じてくれ」
「信じてあげたいところだけど、信じられないよ」
「そ、そんなッ!! し、師匠の信頼すら失ったら、お、俺はッ!!」
「信じて欲しかったら
ピンッ。
指ではじく。
ベチッ。
おほおおっ♡
「お゛ぉ゛っ!?」
「……いや、女としてはそう悪くない気持ちなんだけど、真面目な話だからなぁ。確かに私も含めてハーレムだし、フィンが好き放題するのは止めないけど、所構わず風紀を乱すようになるのはいただけないよ」
その通りだと思うのだが、裸で説教されるとどうしてもフィンフィンへ力が集まってしまう。
しょうがないだろ師匠の裸なんだから!
俺が、俺がずっとずっとエッチな妄想をしてはそんな不敬なことをするなと必死に自分に言い聞かせて来た女性だぞ!! 絶対に手が届かない月のような人だ! 指が、手が、フィンフィンが、鼻が、ついさっきまで堪能していた女体の全てを鮮明に思い出してイクッ!
『きも』
やっぱこれだね。
ラブラブエッチのあとは闇マリからの手酷い扱い。
これがあるからこそ引き立つんだよねェ、エッチの良さって奴が……!
「ごおおぉおおぉおっ!!?」
「!!!?!?!?!??! な、なんだ!? どうした!?」
「懲罰だし気にしなくていいわよ」
「ちょ、懲罰っ!? い、一体フィンがなにをしたって言うんだ!?」
「…………アリシアに聞きなさい」
ごおおぉおぉっ頭がっ頭が割れそうだっ!
こんなっこんな痛みで気持ち良くなるなんて普通じゃない!
変わるべきなのにッ、俺はッ、俺はァッ♡
「くっ……フィ、フィン。平気か? 無理はするんじゃないぞ」
ぐいっ。
エッエエッ!!
目の前に師匠の師匠がたわわ!?
『クックック……吸い付いてしまえよ……』
や、闇のカルラ!?
な、なにを言うんだ!
この状況でそんなこと出来るわけがないだろっ!
説教されて、突然叫びだした奴を心配して抱き締めたら乳房を吸われた? 頭がおかしい奴じゃないか、そんなの……!!
『元々おかしいぞ』
ホゲッッッッッッピギュッッッッ
「闇のカルラはそっちの住人だから一人で解決してるのよね……」
「や、闇のカルラ……? そっちの住人とは……?」
「……闇森人。世界には知らなくていいことがたくさんあるのよ」
「……それでも私は、フィンの師だ。とても胸を張って言える立場ではないけれど、彼に見放されない限り、フィンの理解者でありたいと思ってる」
『考えてみるがいい。そなたは今やハーレムの主で女どもをヒイヒイ言わせている。いざとなれば自慢の魔羅で全て解決する腹積もりであろう』
そんなッ、そんなわけがあるか!
俺は師匠の弟子だ!
女性相手にそんな舐めたことするわけないだろ!
────舐める…………?
舐める、か……。
闇のカルラ、俺が間違っていた。
欲望に抗おうとすることが間違いだったんだな。
『えっ……そ、そうだな、うん。クックック……』
「ハァッ、ハァッ、ふっ、くうっ、ふっ……!」
口を伸ばす。
特に理由はないが唇も伸びている。
特に理由はないのだが、鼻息も荒くなっていった。
本当に特に理由はない。
なぜかやりたくなった。
「んっ……フィ、フィン。大丈夫かい?」
「エッッッッッ……! ……へ、平気だ。それよりアリアを……」
「アリア? アリアなら私の横で寝てるよ」
「がはぁっ!!」
「!?」
ね、寝取りだあああああッ!!
人生で一回は言われてみたい寝取り台詞こと俺の横で寝てるよ!?
し、師匠にアリアを寝取られた!?
お、俺もうおかしくなっちまうよ……!
う、ううっ、お、幼馴染と師匠二人で盛り上がって、俺のことなんて放置で……♡ 二人が絡み合うのを遠めに見てひとり悲しく慰めるんだ……♡
「な、え、えっと、なんだ!? 何かしてしまったか!?」
「……ほっときなさい。こうなった我が使徒は性欲収まるまで止まらないから」
「え、えぇっ!? それは困る!」
「ふふっ……精々気張りなさい、闇森人……」
──あいや待たれよ。
俺とアリアは寝ていないのだからそもそも寝取りではないのではないか?
ハッッッッッ……!!
し、師匠を寝取られる……!?
生えている!?
あ、ありうる!
考えてみればアリアの裸を見たのは今から数年前の話!
男性器が確認できなかったのは子供の頃の話だ!
旅の途中でエヴァほどではないが普通の男性器を手に入れている可能性は、ある……!!
『ねーよ』
チッチッチ、甘いな闇マリ。
聖剣は消えたり消えなかったりする。
それを同じでアリアのちん○んも消えたり消えなかったりする……そう考えれば、辻褄はあう。そうだろう?
う、ううっ、俺の大切な幼馴染がッ、旅の途中でち○ちん生やされてッ……!!
あばっ、あばばばばっ!!
脳が壊れるっ!
寝取られるよりキツいッッ♡
エヴァの苦痛を知ったから余計にキツい♡
『…………もうお腹いっぱいなんだけど、まだ来るの……?』
「く、くうっ……! ど、どうする……? 確かに鎮めてやらないと……でも、いくらなんでも、アリアを放ってもう一度なんて、そんなこと……」
「……あの、盛り上がってるところ悪いんだけど、そろそろ終わりにしない?」
ムッ、アリシアさんの声。
正気を取り戻し扉の方を見れば、苦笑いのアリシアさんと、ハイエルフの姉妹と、カルラが居た。
「アリアにはまた今度フィンくんと二人で、ね? 今日はヴァシリが進んだって事で、一旦お開きにしましょ。そっちの方が多分いいわ。なんか助けてって感情もフィンくんの方から伝わって来たし……」
「…………なあ、アリシア。念のため聞いておきたいんだが……視ていたな?」
師匠の質問に、アリシアさんは目を逸らした。
「……ね、念のためにね。ホラ、フィンくんったら、ヴァシリを特別に想ってるし、変な方向に燃え上がらないとは言えないじゃない? うん。念のためにね。安全上ね。必要だからちょっと、ね?」
「……ふー…………」
あ。
師匠これ怒ってるな。
ちなみに、俺は子供の頃に師匠に結構怒られた経験がある。
聖剣持って地面に叩きつけられたのに何度かアリアにお願いして叩き伏せられたり、火傷したり、川でおぼれたり……色んな事に興味を持って愉しんでたら落ち着きなさいと本気で説教されたことがあった。
その時の経験から言うが──師匠の説教は、ひたすら理詰めで淡々としてるので気持ち良いのだ。
いいなぁ、アリシアさん。
俺も一緒に怒ってくれねーかな師匠。
『不甲斐ないエロ弟子が、君みたいなやつはどこかへ行ってしまえ』そう言って師匠は俺を蔑んだ瞳で見下ろした。仰向けになった俺を見る目は、本物のゴミを見るが如き冷徹さを持っていた。これ以来俺はパーティーを追放され、うっ、ううっ、ダメだっ、哀しすぎて、苦しすぎて、興奮してしまって妄想が続かない……♡
『…………ふぅ、いいタイミングですね、アリシア……』
あ、闇マリだ。
なんか……なんかふっくらしてね?
どしたん闇マリ、幸せ太り?
俺と運動して痩せよっか笑
「お゛っおおっ、おおおっおごっ!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「…………」
や、闇マリ。
ちょっと……こうさ、師匠に本気で困惑されてるから、うん、やめてね。
『こっちの台詞よ……!』
「…………うん。こういう感じだから……」
「…………はぁ、わかったよ。ただ、流石に今の格好でいたくない。着替えるから出ていってくれ」
師匠は、大きな溜息を吐いた。