ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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189 浴場で欲情するなよ?②

(──どうして? なぜ? 二人で? 二人きりで? お風呂?)

 

 揺れる瞳で捉えた二人の男女。

 片やマリアンヌにとっての想い人、片や想い人の大切な師匠。

 普通であれば微笑ましい光景だと言えなくもないが、彼らの関係性はそうわかりやすく簡単なものではない。

 

 親であり子。

 男であり女。

 師であり弟子。

 双方が恩を感じ合っており、双方が尊重し合っている。

 数千歳離れているが、決して壊れない絆があるように見える。

 少なくともフィンがマゾヒストだと聞かされて現実を認められなくなったマリアンヌからすれば、「例えそうだったとしてもフィンが高潔であることには変わりないだろう?」と説得されてしまった以上、何を言われてもフィンを信じているんだなと思わざるを得なかった。

 

 何より、フィンに関するあれこれが仮に事実だったとすれば、自分よりよっぽど傷付いている相手に言われてしまった。

 

「もしフィンがそうだったとしても私は構わない」──嫌われることを恐れ認められなかったマリアンヌは、器の違いを思い知らされた。

 

 そんな相手が、フィンとお風呂に入っている。

 

 頭が真っ白になった。

 

「あー……んんっ。フィン、ここは私に任せてくれ」

「……わかった。頼む」

 

 立ち上がったヴァシリが泡を落とす事もせずにこちらへ足を向けたことにも気が付かず、マリアンヌは自問自答を繰り返す。

 

(フィンさんがついに? ヤった? お風呂で? どうしてお風呂で? それよりなんでヴァシリさんと? そんな素振りはなかった。だってカルラさんも言ってなかった。アリシアさん? 巻き込ませた? でもフィンさんはヴァシリさんに触れて欲しくないって……だから、身体の関係に発展して、なかったって……)

 

 自分と、アリアと、ヴァシリ。

 この三人がフィンにとっては大切な人。

 だからこそ手を出せないし出すつもりもなく、フィンはこの三人のことだけは巻き込みたくないと思っている──アリシアはそう語っていた。

 

(どうして? したくないんじゃなかったの? したの? なぜ? ヴァシリさんはいいの? アリアンロッドさんは? 私は? なんで私のことは無視するの? 私だって、フィンさんのことが好きなのに。他のみんなのようにならなきゃいけませんか? もしそうだと言うのなら、なります。フィンさんの好む女になります。身体は、貧相ですが、愛で負けるつもりはありません。一言、一言くれるだけで、私は…………)

 

『…………わ、我が巫女……』

 

(っ!? る、ルルクス様……!?)

 

 考え込み、悪い方向へと思考が進んでいったタイミングで彼女の脳内に声が響く。

 

『あの……もうお腹いっぱいだから、そろそろ勘弁してもらえないかしら……』

(お……お腹いっぱい? えっと、それはどういう……)

『テーブルどころか床一面に敷き詰められたフルコースを食べた後に、テーブルに乗ったフルコースを食べられる?』

(い、いえ。そもそも床一面のフルコースというのが食べきれませんが……)

『と、とにかくそういうことだから。まあ、そう悲観しなくていいわよ。我が使徒は我が巫女のことが大好きだもの』

(は、はぁ…………はぁ!!!?!?!?!?」

「!?」

「!?」

 

 突然大声を出したマリアンヌに驚く二人だったが、特にそのあと何かするわけでもなくその場で佇み続けたので、訝しみつつもヴァシリはじりじりとにじり寄っていく。

 なお、全裸で泡だらけである。

 

(フィッフィフィッフィンさんが私のことを大好き!? 月の女神ルルクス様! それは本当ですか!?)

『……初めて敬って呼ばれた気がするのだけれど……まあいいでしょう。本当ですよ。私が嘘を吐くはずがありませんから』

 

 フィンさんが────私のことを……

 好き────。

 

 しかし、マリアンヌも成長している。

 

 これまで幾度となくフィンに好意を仄めかされては『払暁のためだからな』と言われ上げて落とし期待を裏切られ続ける焦らしプレイで調教されつつあった彼女は、邪神の甘い誘惑に対し首を横に振った。

 

(い、いいえ。落ち着きなさいマリアンヌ。フィンさんの言う好きっていうのは、家族愛とかそういうもの……何度もそうやって振り回されて来たじゃないですか。いい加減、そういうものだと理解して、無駄な期待を抱くのをやめないと)

『いや、我が巫女が逃げるから毎度あんな風になってるんだけど……』

(に、逃げる!? 私が!?)

『そうよ。我が巫女、あなたは控えめに言ってヘタレよ』

「へ、ヘタレっ!!? 私がヘタレ!!?」

「!?」

「!?」

 

 突然誰かと会話してるように叫び出したことで、ヴァシリとフィンは今何が起こっているのかを察した。

 

『どう考えてもヘタレよ。我が使徒なんてさっさと押しちゃえば今みたいに拗れることなかったかもしれないのにうだうだ言い訳して確信を持てないからせめて嫌われないようにってセコセコポイント稼ぎし始めて……それでも我が巫女か!?』

「しっ知りませんよそんなのっ!! しょうがないじゃないですかっ! 勢いで好きだって言って『いや俺は全然そんなことないし……』って言われたらどうするんですかっ!」

『そうやって安全策取るからヘタレなのよっ! こっちがどんだけ我が巫女のために援護してきたかわかってないでしょ!? それだって言うのにいつもいつもチャンスをふいにしてぇ……!!』

「へ、ヘタレで何が悪いんですかっ! 好きな人に嫌われたくないのは当たり前じゃないですか! 私はフィンさんに嫌われたらもう後がないんですよ! そんな、博打に人生賭けられません!」

 

「おお、聞いたか師匠。マリアンヌは俺のことを好きだったらしいぞ」

「うん、いやまあ、わかりきったことだけどね。フィンは自己評価が低すぎるんだ」

「そう言われてもなぁ。ここ最近は女性関係で自信もついていい感じになってきてると思うんだが……」

「それは……よくない自信だね、うん。いや! 間違ってるとかでは無くて、フィンがそれを自覚すると甚大な被害が出るって言うか……」

「……師匠が言うなら、そうなんだろう……」

「あっ……ち、ちがっ、そ、そうじゃなくて……」

 

 ヴァシリもフィンも一旦マリアンヌのことを放置して泡を洗い流していた。

 

『なーにが博打よ! 心の中では「私の方がカルラさんやアストレアさんより好かれてるに決まっていますね……」なんて考えてたくせに!』

「あっ……そ、そ、それは、えっと、その……」

『ええ、認めてあげましょう。黒森人達が戻ってこなければ我が巫女が我が使徒に二番手か三番手くらいで気に入られていたのは間違いありません』

「えっ、に、二番か三番!?」

『我が使徒の命を救った受付嬢には勝てないわよ』

「受付嬢!!!!?!?!?!?!?」

 

 瞬間、マリアンヌの脳に浮かんだ一人の女。

 

 長い付き合いだ。

 パーティー結成当日からずっと担当している。

 元貴族令嬢ということもあり礼儀作法や常識に関しても中々見識が深く、マリアンヌも彼女の教えを受けたことがある。頼れる受付嬢の、セリナ。

 

『ええ。あの娘は我が使徒になる以前、何度も我が使徒のことを心配し自分の出来る範囲で手助けしているわ。そうね、ご飯を食べさせたり、服を脱がせて包帯の交換をしたり、傷口に消毒液を塗りたくったり……ああ、湯あみもさせてたわ』

「ぁ、ぁがっ……!! ヒュッ、ヒューッ……!」

 

 フィンの記憶を読んだルルクスによる口撃で、マリアンヌは過呼吸になる。

 

 自分が一番だと思っていた驕り。

 怖がっていたから、喪いたくなかったから、そう言い訳をして仲間に対する優越感を覚えていた事実を、マリアンヌは否定できない。更に醜い女らしさを持たない女性がいるんだと突きつけられ、己の醜悪さに耐えかねたのだ。

 

 青褪めた顔で胸をかき抱き、控えめな主張をする双丘がふにっと潰れた。

 

「ま、マリアンヌ?」

 

 そこに、フィンが近寄る。

 

 泡を洗い流したフィンの肉体が惜しげもなく晒されているが、マリアンヌは気が付かない。

 

『フフ……げっぷ……チッ、興が乗り過ぎたわ……うぷっ……』

「う、ぅあ、わ、私、そんな、そんなつもりじゃ、私は、はっ、はっ、はっ……!」

「マリアンヌ。どうした?」

「ぅ、あ、フィ、フィンさ、フィンさん、私、違う、違うの、そんなつもりじゃ、怖くて、嫌われたくなくて、そんな、見下してたとか、う、う、わた、私っ……ぃっ!!?」

 

 ギュッ!

 フィンが抱き締める。

 フィンの胸板に直接顔が触れる。

 鼻と唇がギュッと触れたことでマリアンヌは正気を取り戻した。

 

「んむっ!? んんむっ!!?」

「マリアンヌ……! いいんだ、そんなことはどうだって!」

 

 息をすればフローラルないい香りと薄いフィンの体臭が合わさって、クラクラしてくる。

 

 先程から叫びまくっていたことと過呼吸になっていたことが合わさり、酸素が足りずぼーっとし始めた。

 

「俺は、ずっとマリアンヌと一緒に歩いてきた。二人に追い付け追い越せって必死になってやってきた。だってのに、そんな相手に、俺みたいな男が女として好きだなんて……言えるわけがなかったんだ」

 

(フィ、フィンさんの……お、おっぱい!? こっ、こんなっ、え、えっち!? えっちだ!!)

 

「マリアンヌは聖女で、俺みたいなバカとは違って立場もあった。盾役の俺がそんなことを言えるわけもないし、アリシアさんと関係を持ってからは猶更言えなかったんだ。言える、わけがない……」

 

(かっ硬いっ……、力強くて、抱き締められて、抜け出せないっ……。あ、あわわ、ど、どうすればっ、ん、え、あ、あれっ、こ、これって…………)

 

 フィンの身体を堪能していたマリアンヌだが、ふと、違和感を抱く。

 

 具体的には自分の股間から胸元にかけて強引に昇ってこようとしているナニかの感触に。

 

「んっ!!!!?!?!?!?」

「ウッ!! ま、マリアンヌ……そんな情熱的にされたら、お、俺は……」

 

 驚き暴れそうになったマリアンヌだが、フィンにがっちり抱き締められているため抵抗できない。

 

 両手と胴体を丸ごと強引に抱きかかえられ、思えば、地面に足もついていない。

 

(あっ…………こ、これ、逃げられない……)

 

 これまでずっと頼りにしてきたフィンの身体。

 守られる時も、逃げる時も、立ち向かう時も──いつだってフィンが味方だった。

 盾役と治癒役。

 その法則が、初めて崩れた。

 ここに居るのは裸の男女。 

【払暁】も、聖女も盾役も、何一つ関与していない。

 

 興奮したのか汗をかき、体臭が濃くなっていく。

 

 男の匂い。

 それとなく嗅いでいたフィンの匂いに、マリアンヌは当てられていく。

 

「マリアンヌ……」

「ん、んんん…………」

 

 二人の視線は交差する。

 

 潤んだ瞳のマリアンヌ。

 獣欲の宿ったフィン。

 ぷはっと言いながら口が解放されたマリアンヌへと、フィンがゆっくりと顔を近づけて……

 

「あー…………若人二人、盛り上がっているところ悪いんだが……」

 

 ピクッとフィンの動きが止まる。

 んー、と口を伸ばしているマリアンヌは気にもしていないが、そんなフィンに対し、ヴァシリは苦笑しながら言った。

 

「浴場で欲情するなよ?」

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