ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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190 【聖撃の聖女】マリアンヌ・ハイレンディーヌ③

「…………というわけで、流れでね。うん。しちゃったよ」

「な、な、な、な、ながっ流れっ……」

 

 師匠の説明を聞き終えたマリアンヌが、顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている。

 

 怒りに呑まれた彼女を見ながら、俺はただ目を伏せることしか出来なかった。

 

 ──遂に、マリアンヌに全てを知られてしまった。

 

 誰かにバレた時点で隠し通す事はできなくなる。

 わかっていたことだ。

 アリシアさんに露見して、そこからなし崩し的に俺が肉体関係に持ち込んだんだ。長年溜め込んだ俺の欲望を満たしてくれる人が現れてしまったから、甘えてしまった。

 

 その結果が、これだ。

 

 マリアンヌ。

 

 君には、知られたくなかった。

 師匠にもアリアにも知られたくなかった。

 誰にも知られたくなかったんだ。

 俺は自分がおかしいことを自覚してる。

 マゾヒストなんておかしいだろ。

 いや、ただのマゾヒストならまだいいんだ。

 俺は、俺のこの性癖がどう考えても異常だってわかってる。

 女性に責められるのが好きとかじゃないんだ。

 死に掛けることすら気持ちいいんだ。

 こんなの、おかしいだろう。

 わかってる。

 だからずっと隠して来た。

 師匠の弟子が異常者だって思われたくなかった。

【払暁】の盾役がイカれた変態だって思われたくなかった。

 

 思われたらおしまいだ。

 周囲の【払暁】を見る目は変わる。

 三人の俺を見る目も変わる。

 追い出されるくらいならまだいい。

 俺が何よりも許せないのは、俺みたいな奴のせいで皆の評価が落ちることだ。

 

 だけど……これで、良かったのかもしれない。

 

 ずっと隠していくなら、アリシアさんにだって勘違いだと言い張れば良かったんだ。

 

 でもそうしなかった。

 それは、俺自身の甘えだった。

 

「マリアンヌ。俺が悪いんだ」

 

 怒りに打ち震えて顔を真っ赤にしている彼女に釈明する。

 

「師匠からしても、子供みたいに見ていた俺との行為だ。嬉しくなかったと思う。でも、俺は……結局学のない男だ。育ててくれた師匠をそんな目で見てしまったんだ。美人で、スタイルもよくて、幼い頃から憧れだった人を。どうか、軽蔑するなら俺にしてくれ」

 

 そう言いながら頭を下げる。

 

「…………」

「…………」

 

 二人は無言だった。

 顔は見えないのだが、どことなく不思議な間があった。

 

「……ん、んんっ! ま、まぁ私はほら、エルフだから。ヒトとはちょっと、価値観が違うからね。フィンにそういう目で見られて、嬉しかったよ?」

「……師匠、いいんだ。そんな気を遣ってもらわなくて……」

「い、いや、気を遣ってるとかじゃなくて……くっ、こ、これがアリシアの言ってた一面なのか?」

 

 ……?

 

 なんのことだ?

 

「フィンさん。頭を上げてください」

「…………しかし……」

「いいから上げてください」

「わかった」

 

 いつもより険しい声色。

 頭を上げれば、そこには頬を膨らませて立腹ですと表現しているマリアンヌが。

 

「フィンさんのこと、色々聞きました。その、実はえっちだっていうこと、えっちの内容も凄いってこと、あと、えっと、痛いとか苦しいとかで気持ち良くなってしまうことも……」

「……事実だ。隠していてごめん」

 

 こんな変態がずっと近くにいたなんてイヤだろう。

 

 いくらマリアンヌが聖女の如く清らかな心を持っていたとしても、だ。

 

 娼館に遊びに行く、冒険者の伝統を見て蔑んだ目をしていた記憶が忘れられない。

 

 あんな目で見られたら……

 あんな目で見られちゃったら……

 きっと俺は正気を失ってしまう。

 ハァッハァッハァッハァッ、ど、動悸が苦しいっ! と、とてつもない息苦しさだっ! いつもの数倍すごい! すごいの来ちゃう! 浴場で寸止めされた分の欲情が出ちゃうっっっっ!!!

 

『……昼寝中に邪魔しないでちょうだい』

 

「ぐうっ……!!」

「!?」

「!?」

「す、すまない、女神様に怒られてしまった」

「お、怒られ……? なぜ……?」

「昼寝中に邪魔してしまったみたいで……」

 

 そう告げると、師匠が青褪めた表情になった。

 

「フィ、フィン。マリアンヌくんは怒ったりしていないし、フィンを嫌ったりもしていない。嫌いな異性の相手に女の子が裸で現れて、抱き締められて、そのまま受け入れると思うかい?」

「それは……確かに……」

 

 そうかな……そうかも……

 

「マリアンヌくんは……そう。他のみんな、それこそカルラやアストレアよりも恋に恋をしていただけなんだ。フィン、思い出してくれ。君はそもそもそう言ったことを何一つ見せていなかっただろう? あまりにもフィンが完璧な紳士だったから憧れも一緒に抱いてしまっただけなんだ」

「憧れ……? 俺のどこに?」

「……フィンさんは、修道院から追い出されて寂しかった私を……決して見捨てなかったんですよ。いつかどわかされてもおかしくない、弱かった私のことを、その身体で守ってくれたこともありました」

 

 確かに守ったことはある。

 だがあれも実際のところ、アストレアが注意していただろうし俺が出ていく必要はなかっただろう。あの頃のアストレアはアストレアばあばなんで呼ぼうものなら鋭い風で皮膚を切り裂いてくるような苛烈さがあったが、マリアンヌのことは大事に見ていた筈だ。

 

 それにあの時だって俺は気持ち良くなっていた。

 

 師匠の鍛錬を受けて成長していた俺にとって、あの程度のごろつきを相手にするのは苦じゃなかった。

 

 いや厳しかったけどね。

 普通にボコボコにされたしかなりひどい目に遭った。

 セリナにはギョッとされたし何があったのかと問われたが何もなかったと言わざるを得なかった。

 

 だせーじゃん、女の子庇ってボコボコにされちまったなんて言うのは。

 

「……そんな時も、俺は一人で気持ち良くなっていたんだ。男たちを殴って、殴られて、囲まれて暴力を振るわれながら気持ち良くなっていた。もちろんマリアンヌを助けるという目的が一番だったが、俺は、ついでに自分の性欲も満たしていたんだ。気持ち悪いことこの上ない」

 

 そう告げると、マリアンヌはほんのわずかに悲し気な目をしたが、すぐにはっと見開いた。

 

「…………あくまで、目的は違うんですよね?」

「ああ。信じてもらえないだろうが、師匠に誓ってそんなつもりはない」

 

 マゾっ気を満たすのはあくまで趣味。

 それはずっと変わらない俺の指針だ。

 プライベートはともかく仕事中にそんなことを優先するつもりはない。

 だが信じてはもらえないだろう。

 わかっている。

 だから隠して来たんだ。

 一度そうだと思われてしまえば、もう二度と真面目にやっていると思ってもらえないかもしれない。

 

 それが、怖くて、怖くて、仕方がない。

 

 マリアンヌは俺の言葉を聞いて目を閉じた。

 

 それから大体十五秒考えたあと、ゆっくりと目を拓く。

 

「…………フィンさん。私も、フィンさんに謝らなくちゃいけないことがあります」

「……マリアンヌが、俺に?」

「はい。私は、フィンさんを性的な目で見ていました」

「……………………ん? え? 俺を?」

「はい」

 

 何言ってんの?

 そう思ったが、マリアンヌの瞳はとても真剣だった。

 冗談だろうと茶化せない位に真面目な光が宿っていた。

 

「フィンさん。フィンさんは自分がどれだけえっちなのかわかってないんです」

「エッ……お、俺がえっち? どういうことだ?」

「いいですか! まず子供の頃から比べてフィンさんはドスケベな身体になっています!」

「!!!!?!?!?」

 

 おっ俺の身体がドスケベ!!!!?!??!

 どういうことだ!!?

 

「パツンパツンの服に膨張した筋肉。普段着がまずえっちです。私がどれだけフィンさんのことを盗み見てたと思ってるんですか?」

「おっ、お、おう……」

「さらに言えば依頼中も鎧脱いだりするじゃないですか。汗を吸ったインナーだけになって、それを脱いで、惜しげもなく裸体を晒してる時のフィンさんったらもう……フィンさんは鈍いから気が付かなかったかもしれませんが、私達三人はその背中を見てムラムラしていました」

「ムラムラ!!?!?」

 

 エッ、えっえっえっ……

 

 きゅ、急にありえない情報が連続して襲い掛かって来る!

 

 わ、わからん!

 何を言ってるんだ!? 夢!? 幻!?

 や、闇マリ!? 俺は今幸せな夢を見せられてるんじゃないか!?

 

「ま、待てマリアンヌ。まず、俺がえっちだという感覚が全く分からない。なぜそうなるんだ?」

「フィンさんはヴァルバロッサさんの裸を見てどう思いましたか?」

「とても興奮したが……」

「んっ……」

「…………そういうことですよ。男性が女体を見て興奮するのと一緒で、女性も男体を見て興奮するんです」

「そ、それはそうだろうが……いや、でも、俺の身体は綺麗じゃないぞ?」

「だからより一層興奮するんですよ! ムッキムキの筋肉、お腹や背中を守る為に付いたお肉、そして刻まれた沢山の傷! あー! えっちすぎます!!」

 

 ま、マリアンヌ…………。

 

「いいですかフィンさん!! 私だって女なんだから、一番身近にいる男の人をえっちな目で見るのは当たり前なの!」

「わ、わかった。そこまで言うなら……」

「信じてないでしょ!? じゃあこうすれば信じてくれますか!?」

 

 マリアンヌは立ち上がり、俺の手を取って、そのまま──胸へと押し付けた。

 

 ふ、ふおおおおっ!!?

 や、柔らかいッ!!

 マリアンヌの控えめな聖女っぱいが掌に!?

 巨乳とはまた違う抱き心地!

 

「ほら、こうされても私、嫌じゃないんですよ。もっと言えば、嬉しいし、興奮してるんです」

「マリアンヌ…………」

「だから…………私も、フィンさんに嫌われたくなかった。こんな浅ましい女だと思われたら、幻滅されると思ったから……」

 

 そう言って、彼女は赤らんだ顔で微笑んだ。

 

「……そう、なのか……」

 

 正直言って、まだ信じきれない。

 

 だけど、嘘だとは言えない。 

 

 マリアンヌがこんな風に俺の手を掴んで、自分の胸を触らせてるんだ。

 

 トクトクトクトク……

 鼓動が早い。

 マリアンヌが言っていることが嘘じゃないとわかってしまう。

 

「…………でもな、マリアンヌ。俺はもう、たくさんの女性と関係を持ってるんだ。清らかじゃない。マリアンヌだけを愛することも出来ない。そんな、不純な男だぞ」

「構いません。……いえ、ちょっとは構います。…………気になります。私だけを見ていて欲しいと思ってます。でも、いいんです。選ぶのはフィンさん、選ばれるのは私達、それに対して文句を言うのも受け入れるのも自由ですから。私は受け入れますし、受け入れて欲しいです」

「……わかった。俺も、マリアンヌのことが好きだ」

「はい。私も大好きです」

 

 マリアンヌを抱き寄せる。

 

 あー…………

 

 なんていうかさ。

 幸せってこういうことを言うんだよなぁ。

 これまでのとはまたちょっと違う感じがする。

 なんていうかこう、これまで行為に至る経緯が大体激しかったから……

 

「…………ふふ。それじゃ、私はここらで失礼するよ」

「あっ。ん、んんっ! わ、わかりました。その、ヴァルバロッサさん、色々と……」

「いいんだ。フィンのことをよろしく頼む」

「……! は、はい!」

 

 師匠は微笑んで部屋を出て行った。

 

 残された俺とマリアンヌ。

 抱き合ったまま、何とも言えない間があったが、互いに自然と顔を見合わせた。

 

「…………フィンさん。不束者ですが、よろしくお願いします」

「……ああ。俺の方こそ、これからもよろしくな」

 

 はにかんだマリアンヌは、これまでで一番と言っていいくらい可憐だった。

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