ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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194 聖剣②

 神は言った。

 そなたには人格を与えよう。

 ただの武器ではない妾の聖剣。

 選ばれし者にだけ扱えし聖剣よ。

 何も出来ぬまま世に絶望するがよい。

 そなたは何もできぬ。

 生み出され、ただ地獄を見届けるだけの利器よ。

 いずれ妾の手元に戻るまで、せいぜいこの世の地獄を観測し続けるのだ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ボクが造られたのは神々の黄昏からすぐだ。

 

 その頃、この大地は地獄そのものだった。

 

 創造主たる太陽神エスペランサによって旧神が悉く滅ぼされ、生き残った僅かな女神は玩具にされていた。中にはひっそりと影に逃げ込んだ女神もいたみたいだけど、主神様はそこまで追いかける気はなかったみたい。

 

 造り出されてからしばらくの間、ボクは主神様の手元にあった。

 

 役割は単純明快。

 主神様が後世になって何度も何度も愉しめるように、陵辱の有り様を記録しておくことだった。情緒の育ちきってないボクは目の前で起きていることが何なのかよくわからないままその光景をずっと見てた。

 

 ボクには記録と再生の機能が備わってる。

 

 限界はない。

 腐っても神の被造物だからね。

 誕生してから今に至るまで全て現存してるよ。だからそう、これまでに見てきた地獄を常にボクは見続けている。幻覚とか幻聴とかではない、正真正銘本物の悲鳴と絶叫だ。

 ありえない人の死に方。

 極限まで尊厳を貶めるような陵辱。

 男女問わず蹂躙されて自我すら崩壊していく様を、ずっと見てきた。

 

 とはいえ、ボクにとってそれは辛いことじゃなかった。

 

 そもそも武器だ。

 人格を付与されてるとは言ってもたかが武器、大地の全てが地獄で諸悪の根源たる主神様の手元にいたところで情緒が育つわけもない。人を殺すのもモンスターを殺すのも大差ないって感じだったね。

 ヒト? 別に特別でも何でもない。

 ボクにも理解できる言葉で喋る、けれども理解できない生き物ってだけだ。

 ボクからすれば、そこらの小動物の方がよっぽど愛らしいと思えたよ。

 

 そんなこんなで主神様の下で生活すること千年ほど。

 流石の太陽神も飽きたのか、世界全体のカラーリングも変化しつつあった。

 全体的に治安は悪いけど最低限の文明が出来上がってたし、ヒト同士の戦争なんかも起きるようになった。そこに神の席はない。ていうか、主神様が全く介入しなかった。

 

 その間弄ばれてたのはもっぱらそこの月女神様とその巫女さ。

 

 屑極まりない主神様だけど、あんな神にも嗜好ってもんはあったみたいでね。

 

 女であれば何でもいいってワケでもなく、どの種族だろうが美しくなければ食指が少しも動かなかった。美しく、気高く、それでいて魂が純粋であればあるほど良い。

 一柱と一人は主神様の性的嗜好を完璧に満たしてたのさ。

 互いに想い合う神と巫女。

 どれだけ陵辱されても、どれだけ尊厳を踏み躙られても、二人は互いを想うことを忘れなかった。気が遠くなるほどの時間をかけて根本から粉々にされてもなお、決して堕ちなかった。巫女の方はヒトだから限界があったけど、主神様が長く愉しめるようにと改造した。

 

 力を奪った月女神様の目の前で巫女を犯し、首だけになった巫女の目の前で月女神を犯しながら殺す。お互いの身体をかつての部下に使わせて、首から上を自分で愉しむ。逆もまた然り。

 

 ……昔は何とも思わなかったけど、今となっては、思い出したくもない光景だ。

 

 そんなことをずっと続けてたもんだから、まあ、飽きたっぽくてね。

 

 今度は自分でするんじゃなくて彼女らの尊厳を更に踏み躙ることにした。

 

 巫女に呪いをかけて男女問わず性的対象にするように改造した。

 これまでとは毛色の違う感覚に彼女は抗えず、次第に堕ちていった。

 そんな巫女を見て、月女神は絶望してた。

 それでもなお壊れることは許されない。

 彼女は女神だ。

 巫女も特別だ。

 壊れないように、長く愉しめるように、ボクも理解できない改造処理がされている。

 

 そこからはまぁ、皆知っての通りだ。

 

 月女神も巫女も下々に下賜された。

 自分達が守ろうとした者、そのまた子孫にすら罵られ暴力を振るわれ、生き物として扱われなかった。道具。自分達の欲望を満たすための道具。そう扱われた。

 

 そして月女神は彼女の栄華の跡地に封印され、巫女は壊れながらも壊れることを許されず太陽神に弄ばれ続けた。

 

 そうやって、ただ時が過ぎること、更に千年ちょっと。

 

 ボクは主神様の手元を離れて世に放り出された。

 

 より正確には、遺跡の奥底にブッ刺して放置された。

 

 造った時に地獄を見ろと言っといて何だよそれって感じだろ?

 でも仕方ないんだ。

 選ばれし者にしか扱えない聖剣。

 ボクはそうデザインされたわけなんだけど、長いこと主神様と一緒に居たせいでまあまあ強い力を持っちゃってね。主神様に振るわれる分には問題ないけど、そこらへんの存在に近付けたら一瞬で浄化してこの世から消し去るくらいの力を得てしまった。

 

 抑えることは出来たんだけど、当時のボクはヒトや森人種に対してまず興味のかけらもなかった。

 

 興味なんか湧くわけもない。

 生まれてからずっと見てきたんだ。

 人だろうが神だろうがその命に価値なんてものはない。全て等しく肉の詰まったただの皮袋だと認識するのは当然だった。

 

 だからまぁ、主神様になんと言われても従う気にもならなくてね。

 

 自分が消え去ろうがどうでも良かった。

 だから主神様がボクを下賜した存在を何度も何度も消し飛ばしてたら、もうよいって感じで遺跡の奥に封印ってワケさ。

 

 自分で死ぬことも出来なければ生きているわけでもない。

 果たして自分の存在意義とは何だろう、なんて殊勝な悩みすら抱かなかった。

 自分はいずれ消える。

 あの肉袋達と一緒で、いつかあの中に混ざるのかもしれない。

 どうでも良かった。

 全てが等しくどうでもいいと思えた。

 

 結構な時間をそこで過ごしたよ。

 

 何度かやってきた人もいたけど、その誰もがボクを手に取ろうとしては消えていった。

 

 十人くらいかな。

 数千年でそれくらいだった。

 一回だけ見逃した人はいたけど、その人はボクを見て何かするわけでもなく拝んでその場から離れたからね。こういう変わり者もいるんだなと思った。誰の心にも残ってない人かもしれないけど、ボクの記憶には残ってる。

 

 それからしばらく誰も来なかった。

 

 とはいえ、誰かに使われる気にもならなかった。

 どうせ世界は変わらない。

 醜悪なヒトが蔓延った世界を誰が見たい?

 ボクは見たくない。

 飽きていた。

 凄惨な光景ばかりの世界に。

 

 とっとと世界が滅ばないかな〜、なんてことをずっと考えてた。

 

 ──そして、今から大体十年以上前。

 

 一人の黒森人が現れた。

 

 太陽神の眷属として生み出された森人の中でも特異な連中。

 

 聖なる力に満たされてたくせに魔に惹かれた変わり者が、ボクを見て縋り付いた。

 

『ああ……! ああ、あああ! あった! あった! やっと見つけた! これで、これでやっと、やっとだ! 生き残れる! 生きていけるっ! 果たせるんだっ!!』

 

 意味がわからなかった。

 ボクに一体何を期待してるんだ?

 この黒森人は何なんだ?

 そんな疑問を満たす前に、彼女はその手にボクを掴んだ。

 反射的に消し飛ばそうとしたけど、彼女はボクの力をこえていた。

 

 そもそもボクの放てる力は完全に余剰というか、おまけみたいなものだ。

 

 ボクの本質は武器。

 選んだ担い手が扱うことで本当の性能を発揮できる。

 主神様の近くで溜め込んだ力で打ち倒せない相手が現れることはわかってたけど、まさか黒森人がそうだとは思わなかった。

 

 彼女は聖剣が自分に攻撃を放ってきたことに驚いてたけど、それ以上に重たさに冷や汗をかいていた。

 

 最終的に魔力を使って掴まれて、よくわかんない空間に放り込まれた。

 

 そこでは時間の概念がなくてね。

 ふわふわするなぁと思った次の瞬間引き摺り出されて──そこには金髪の少女がいた。

 なぜか、この娘だって思った。

 どうしてかはわからない。

 ボク自身なんでアリアを選んだのかはわからないんだ。

 でもわざわざ振り払う気にもならなかった。

 黒森人との出会いがボクを変えたのかもしれない。

 それとも、それより前にボクを一目見て姿を消したあのヒトの影響かな?

 まあ、それは定かじゃない。

 

 とにかく、アリアを選んだ。

 アリアの夢を見た。

 アリアの視点を通じて人を学んだ。

 生まれてから数千年経つけど、こうやって色々考えるようになったのはつい最近のことなんだ。幸せとか、楽しさとか……あの時代にはなかったものを、アリアを通じて学んだ。

 

 キミが置いて行かれた時、アリアはとても悲しんでたよ。

 

 そして同時に奮起もしていた。

 寂しいし切ないし泣きたいけど、それじゃ現実は変わらない。

 とくべつな自分が頑張ればいずれまた会える。

 頑張ろう。

 頑張って世界を救おうってね。

 

 ボクは──その時、初めて自我ってものを認識したのかもしれない。

 

 世界の切なさと、それでも絶望に屈しない美しさに触れたことで現実を正しく認識した。

 

 かつて弄ばれていた女神と巫女を思い出したんだ。

 

 彼女らもそうだったんだって。

 おかしいのは世界であって、主神様だった。

 そう理解した瞬間、ボクの世界は急激に広がった。

 

 アリアと苦楽を共にしてきた。

 

 彼女の悲しみを知った。

 彼女の痛みを知った。

 彼女の憤りを知った。

 彼女の優しさを知った。

 ボクの情緒はアリアと共に育った。

 

 そして最もアリアが感情を強く向けているのはキミだった。

 

 フィン・デビュラ。

 ボクを手に取って地面に叩きつけられたのに平然としていた不思議な男の子。

 記憶にある限りずっと悍ましかった男という存在なのに無垢で、綺麗だった子。

 キミは知らないだろうけど、ボクなりにキミを見守ってきたんだよ?

 本当に見守ってきただけなんだけどね。

 

 ──月女神は邪神に堕ちた。

 邪神の手先がキミを壊した。

 キミは邪神に魅入られた。

 けれど女神は邪神であり、邪神は女神だった。

 

 久しぶりに再会したキミは邪神に囚われていた。

 邪神の力が世に満ちていく。

 もうすでに、かつての月女神と同等かそれよりも……。

 

 ボクは邪神の力を受け入れることにした。

 主神様が気に入らなかったんだ。

 だって、ボクの力の根源はあの太陽神なんだ。

 世界を地獄に変えた張本人。

 そんな力にいつまでも浸っていたくないでしょ?

 

 魔と合わさった聖なる力。

 いつか舞い戻る主神様へ叛逆するために。

 神殺しの力を得るために、ボクは魔を受け入れたんだ。

 

 そしたら、まあ、その……キミの記憶を見てしまってね。

 

 アリアの視点を見た後にキミの視点を見たものだから、うん、まあ、その……わかるでしょ? こんな、こんなのね、あのね、ダメだからね、普通ね。

 ボクはもっと酷いものを見てきたから耐えられた。

 ……いや、ちょっと耐えれなかったかも。

 脳はないけど脳破壊されたかも。

 一時期キミが近くにいるだけでドキドキしてたからね。

 心臓の鼓動もないのに、おかしいよね。

 

 と、ともかく。

 ボクはキミのことが大好きなんだ。

 フィン・デビュラっていう一人の男の子がね。

 当然、アリアも好きだ。

 一人の女の子として微笑ましいと思う。

 そんな二人がね、いつまでも結ばれないのは正直言って気分が悪い。フィンは他の女とばかり結ばれるし、アリアは奥手で性に耐性がなさすぎる。じれったすぎて、いっそのことボクがいい雰囲気にしてやろうと思った。

 

 と、いうわけで……どうかな、フィン。

 

 ボクと、アリアの身体でエッチしてくれないかな?

 

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