ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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02 ドマゾは常に興奮してるわけではない

 

 人生エンジョイドM肉壁の俺だが、そればかりやっているわけではない。

 

 例えば普通にソロでクエストもこなすし、そういう趣味を抜きにさっさと戦いを終えることが大半だ。

 

 俺はいつだって気持ちいい思いをしたいが別になくても困らない。

 

 ドMである前に冒険者なので依頼を終わらせることを優先するのは当たり前だし、依頼者の悩みをすぐに解決するのは当然。

 

 趣味を優先?

 そんなことは決してしない。

 仲間が居て、全滅しなさそうなタイミングで、しっかり俺が受けきれば勝てるタイミングでしかそういう行為はしないと決めているんでね。

 

 俺は見境なきドMではなく理性にて制御された金等級マゾなのさ。

 

 我がパーティー【払暁】では一週間の内半分を個人の時間に使うことにしている。

 

 仲間でかけがえのない間柄であっても一人になりたい時間はある。

 エルフのアストレアは森林浴をしたいが、カルラは鍛錬をしたい。

 マリアンヌは孤児院に行きたい。

 俺は身体を休ませたい。

 

 そういう要望が重なることが多かったので、それなら思い切って好きな事をしたい日を作ろうと決まって今の日数になった。

 

 元々出会った当初は連携もクソもなく週に一度集まって難しめのクエストに挑むくらいのことしかしてなかったしそれと比べれば協調するようになったもんだ。

 

 そんでもって、今日は溜まった個人クエストを消化に来ている。

 

 仲間頼りの戦闘スタイルとは言え俺も金等級。

 上から数えて二番目なので相応にギルドから頼られている。

 

 便利屋扱いされているとも言うが、俺は何の後ろ盾もないただの金等級冒険者だからな。

 東方の剣豪の弟子だったカルラとか、教団の後ろ盾があるマリアンヌ、ハイエルフのアストレアとは全く立場が違う。

 

 それに不満はないけど。

 クエストこなすの嫌いじゃないし、俺がやったことで誰かが幸せになりしかも金まで貰えるんだぞ。

 

 嫌がる理由がないね。

 

「っと、ここら辺か?」

 

 やってきたのは王都から馬車で二時間程の森。

 

 不朽の森と呼ばれるここにはツリーホーンという木のモンスターがいる。

 

 一体の強さは大したことはないが問題となるのはその数だ。

 

 一体見かければ二十体はいる。

 落ちた枝から増殖し続ける生殖のため非常に厄介で、放置しておけば森一つ丸ごと気が付いたらツリーホーンまみれに……なんてこともあるモンスターだ。

 

 と言っても自然界はそんなに簡単ではない。

 増え続けるのは天敵が多いからであり、普通は木をボリボリと食べる森林に棲む熊とか鳥獣とかが食べるからそうそう増えることはないんだが──今回は少し事情が違うらしい。

 

【王】。

 

 ツリーホーンにも王がいる。

 樹齢百年を超えた長寿個体が衰えなかった場合、周囲のツリーホーンを統率する王が誕生するらしい。大樹であり、まるで森の王のように鎮座する姿から大昔は王木と呼ばれていたとか。ちなみに戦闘力は割と厄介で、高速で飛び回る木を自在に操る能力があるんだとか。対面したことはない。

 

 今回はツリーホーンの王が居る可能性があるということで金等級の俺に白羽の矢が立ったわけなんだが────

 

「──……これは、どういうことだ……?」

 

 大体一時間程歩いてきたのだが、ツリーホーンが見つからない。

 

 いや、正確にはある(・・)

 生きてはいない、ツリーホーンの死体が。

 

 死んだツリーホーンは増殖することはないのでただの倒木と化すのだが、それがそこら中にある。量から察するに大量発生していることは間違いなさそうなんだが……

 

「誰がこんなことを……?」

 

 他に依頼を投げたとも聞いてない。

 これが人の手によるものではないとしたら面倒だ。

 大量発生が原因か、大量発生の原因か。

 もっと厄介な案件になってる可能性が高い。

 

 ここで一度退くか、偵察するか──偵察だな。

 

 偵察だけして退こう。

 歩いて一時間なら走って十五分程度だし、無理なく逃げ切れる。

 

 大盾を構え直し、右手のメイスを握り直す。

 

 そうして、歩き出した瞬間────森の奥から、何かが飛来する。

 

(弾く──いや人!? 止める!)

 

 それ(・・)が人だとわかった刹那、大盾を下げメイスを放す。

 

 放り投げたメイスが地面に落ちるより先に飛んできた人を受け止めた。

 

 衝撃は大したことない。

 先日喰らった槍に比べれば子供に押されたようなものだ。

 そして飛んできた人間をゆっくり地面に下したのだが、その姿に驚愕した。

 

「…………女?」

 

 腕がひしゃげているが、それ以外に大きな怪我は見られない。

 

 金色の髪にまだ幼さの抜けきっていない顔。

 装備は軽鎧に武器の簡素なスタイルだが、素人ではなさそうだ。

 苦し気な表情をして気を失っているので、一撃喰らったけどなんとか耐えたって感じか。

 

 ──ズシン。

 重厚な足音と共に大地が揺れる。

 彼女が飛んできた方向を見ると、木々の隙間から巨躯が垣間見える。

 

 毛皮に包まれた巨躯。

 両手足の爪は鋭く、木々を粉砕し獲物を切り裂くのに十分な凶悪さを持っている。そこらの竜種より大きな身体を揺らしながら歩いてくるそれは、ツリーホーンの天敵であり、森の生態系頂点の一体だった。

 

「フォレストベアの特異個体……特別な個体がそう簡単に出てくんなよ」

 

 全長8mほどはある巨体から醸し出される威圧感。

 普通の人間なら尻尾撒いて逃げる、てか、逃げることも出来ない。

 

 だがまあ──これでも金等級冒険者。

 

 肩書に相応しい実力くらいは持ってる。

 デカいだけの熊に勝てない程度のやつが、あのパーティーで壁役を長年務めることなんざ出来やしない。

 

 女の子を後ろに避けてメイスを拾う。

 巨大ツリーホーンを相手する気で来たので少々難しいが、多少の計画変更は日常茶飯事だ。そもそも敵が強すぎて受ける以外の選択肢全然選べない最近のパーティー討伐に比べればマシ。

 

 俺を矮小な存在だと思っているのか、フォレストベアはゆっくりと歩みを進めてくる。

 

「だ……め……」

「目が覚めたか? 運が良かったな、お嬢さん」

「かて、ない……あんな、の……」

 

 女の子は倒れたまま呟いてくる。

 

 大きな生物ってのは慣れてないと逆らう気にもならないから気持ちはわかる。俺の場合ちょっと性癖の関係でガンガン突っ込んでたけど、普通はそうじゃない。

 だからまあ──ここは先達として、頼れる姿を見せてやるとしますか。

 

 油断しきってるフォレストベアに対し、自然体で相対する。

 

 ──右足を踏み込み、左足を蹴りだす。

 一瞬で距離を詰めたがまだコイツは認識できていないようで、勢いそのまま全てを伝えるつもりで右手のメイスを振り下ろす。

 

 ────ドゴシャアッッ!!!!

 

 頭蓋を砕き肉を割り、頭部が大地に叩きつけられるのと同時に手首を捻り更に一撃。

 

 飛び散った血肉が頬に付着する。

 ピクピクッ! 死後硬直で筋肉が痙攣している熊の死体を尻目に、後ろに振り向く。

 

「…………ぇ……」

 

 呆然とする女の子を安心させるように笑みを浮かべながら、一言。

 

「まだ奥に敵が居たりするか?」

「ぇ、ぁ……い、ない、と思う」

「そうか。犠牲者は?」

「あ……そうだ。みんなは……」

「よし、見てくる。これだけ大きい奴が縄張りにしてたんなら暫くモンスターも寄ってこないだろうし、待っててくれ。人数は?」

「さ、三人。三人だ! お願い、助けて……!」

 

 熊が殺してなければ生きてると思うんだが、さて、どうなるか。

 

 女の子を木陰に移動させてから奥に進む。

 フォレストベアに踏み均された道はわかりやすく目的地まで迷うことはない。少し歩けばちょっとした広間に出て、地面にツリーホーンが倒れまくっている。

 奥には比較的大きなツリーホーンが鎮座している。

 動く気配はない──死んでる。

 

 敵は居なさそうだ。

 多少警戒しつつ倒木の間を探していくと、確かに人間が見つかった。

 

 一人目、女。

 鎧が砕けてるので中のインナーが見えてるが事故だと思って欲しい。

 

 二人目、女。

 目立った傷はないが肌に締め付けられたような跡がある。ツリーホーンの攻撃でやられたのか?

 

 そして三人目──また女。

 だが兜で顔が見えず、砕けた鎧の下が丸見えである。

 ラッキースケベではある。

 だが相手は負傷者でどう考えてもそんなことを言っている場合ではない。男である以前に冒険者なので、特になんの感想も抱かずせっせと回収していく。

 

 三人を運んで元の場所に戻れば、そこには木を支えに立ち上がっている女の子が。

 

「あっ……! みんなは!?」

「生きてるよ。あんまり人に見せられない姿だけどな」

「ああ、よかった……!!」

 

 自分も怪我をしているというのに、そんなことより全員無事だったことに安堵し涙を流している。

 

 いい子だな。

 そして、いいチームだ。

 俺達が同じくらいの頃はどうだったっけ。

 

 確か……カルラが攻撃しようとしたらアストレアの魔法が邪魔をして、言い争いをしてる二人を尻目にボコボコにされる俺(大悦び)と必死に治療するマリアンヌ、みたいな構図だった気がする。

 

 なんてことだ、最高のチームじゃないか。

 盾役の俺にとって隙がなさ過ぎる。

 なんだかんだ言って倒してくれる時点で文句のつけようもなく、回復してくれるマリアンヌに関しては昔から聖女だった。

 

 そんなことを考えていたからだろうか。

 

 さっさとこの娘を拾って帰路についていればよかったのに、俺は油断していた。

 

「ああっ……す、すまない。どれだけ感謝すればいいか……名前を聞かせてくれないか?」

「俺はフィン。これでも金等級冒険者でな」

「なっ、なんと! 金等級……!!」

 

 純粋な尊敬のまなざしにいい気分だ。

 年下からの純粋な尊敬!

 それを裏切る性癖!

 これを知られたら俺、尊敬されなくなるんだろうなぁ……そう思うと胸が高鳴ってしょうがない。

 最低だ、俺って……

 

「私はシャルロット。シャルロット・バーンスタインだ」

「そうか。シャルロット・バーンスタ……イン?」

「ああ」

 

 ──バーンスタイン。

 

 それは、この王国におけるもっとも尊い血族の名。

 

 その中でも直系しか名乗ることが出来ない、限られた者だけが名乗れる高貴なお名前である。

 

「……申し訳ありませんが、父君の名前は?」

「はは! 命の恩人にそんな言葉を使っては欲しくない。……その、なんだ。友人のような感じでやってくれると、嬉しいが」

 

 シャルロット王女殿下(・・・・)は耳を赤くして言った。

 

 俺は血の気が引いた。

 

 不朽の森。

 王都から馬車で二時間程度の近郊にて異常発生したツリーウッド。

 それを捕食するフォレストベアの特異個体。

 なぜか居る、王女(・・)含む女だけのパーティー。

 

 ──俺はマゾヒストで、大抵の苦痛は気持ち良くなれる。

 

 だけどな……

 

 いくらなんでも王家が絡む陰謀に関わって気持ち良くなるほど極まってないんだよ!!

 

「ン、ま、オ~~……無事デ、ヨカッタデス」

 

 引き攣ってないだろうか。

 多分、引き攣ってただろうな。

 なにせ、シャルロット王女殿下は苦笑してたし。

 

 ごめん、みんな────俺、貴族の陰謀に関わっちゃった……

 

 脳裏によぎる、皆の冷たい顔──。

 

『本当に余計なことしかせぬな、そなたは』

 

 か、カルラッ……

 

『人間のいざこざに巻き込まないで。権力争い? 身も心も醜いじゃない』

 

 ア、アストレアッ!!

 

『教団の者として、聖女の一人として、一国に肩入れすることは出来ません。なので、ここまでです。さようなら、変態』

 

 マリアンヌッッ!!

 

 やばい気持ちいいッ!

 王女様の前でする妄想死ぬほど気持ちいいッ不敬でッ興奮する!!!

 

「なんにせよ……本当にありがとう。フィン殿がいなければ全滅だった。必ず礼をする、バーンスタインの名に誓って」

「わかった。受け取ろう、でん……シャルロット」

 

 全然嬉しくないなぁ。

 ドマゾにだって被虐を選ぶ権利はある。

 俺は言葉にして言いたかったが、ドマゾバレしたら終わるので何も言えなかった。

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