ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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20 【星天】②

 突然現れた【勇者】がフィンを連れ去り数秒。

 “大好き”発言や意味深な会話に動揺し硬直していたが、流石に聖女として枢機卿配下として大陸規模でのグレートゲームに参加しているだけあって仮面を被ることに慣れているマリアンヌは数秒で復帰した。

 

「お邪魔するよ」

 

 そして意識を取り戻した彼女の視線に写ったのは、“異質”そのものだった。

 

 褐色の肌に整った美貌。

 銀の髪色はまるで神話における女神のようで、聖典に記されている戦女神の特徴とはこういうものかと思った。

 

 そして何より最も目立つのはその耳。

 細長く尖り、美麗さすら感じさせるそれは人の物とは違う。

 森人──エルフと呼ばれるようになった彼ら彼女らのものと同じだった。

 

 ダークエルフ。

 そして、突然現れた【勇者】。

 この二つの情報があって合致する人物はただ一人。

 

「……【天聖】……」

「おっ、私のことを知ってるんだ。【聖撃の聖女】にも知られているとは、私も捨てたもんじゃないなぁ」

 

 妖艶な笑みに背筋がゾワリと粟立つ。

 

 白金等級冒険者は、人間ではない。

 

 文字通りの意味ではなく、見た目と中身が乖離するという意味だ。

 

 金等級冒険者とて十分人間離れしてはいるが、白金等級冒険者ともなればその比ではない。単身で国と戦えるのが金等級冒険者ならば、単身で大陸を滅ぼせるような化け物が白金等級冒険者である。

 

 そうでなければ、単騎で戦争ができる無法モンスター相手に対抗などできやしない。

 

「私のことをご存知で?」

「当然さ。エクトル枢機卿の権力を押し上げた張本人にして対魔特化の殲滅型聖女。最も白金等級に近いパーティーなんて言われてるのに、私が知らないわけないだろう?」

 

【天聖】ヴァシリ・ヴァルバロイ。

 冒険者ギルド初代ギルド長(・・・・・・・・・・・・)にして、最強の冒険者。

 その強さは折り紙つき、白金等級冒険者の中で殺し合いをさせれば必ずヴァシリが勝つと言われているほど。

 

 そして何よりマリアンヌは聖女という立場の都合上、ヴァシリのことを知っている。

 

 ──歴史の影に彼女あり。

 この世界に存在するほぼ全ての国家・組織・偉大な人物、伝説や伝承。

 そう言ったもの全てに彼女が関わっているとされており、政治的な手腕を振り翳し大陸全土を間接的に支配していた時期すらあるとかないとか。

 世界各地にある遺跡や迷宮も実は彼女が全て踏破しただとか、魔王軍とやらとの戦争は茶番で彼女が人類を再び支配しようとしているだとか、まあ、メチャクチャな事を国の上層部が考えてしまうくらいに影響力を持っている。

 

 今では絶対的な力を有する教団でさえ「こいつのことは知っておけ、そして無礼はするな」と教育を厳命させるくらいには突出した個である。

 

「恐縮です。マリアンヌ・ハイレンディーヌと申します」

「うん。ヴァシリ・ヴァルバロイだ。よろしく」

 

 ガッチリ握手を交わした後、依頼に関しての話もあるため二人は席に着く。

 

 逃げ出そうとしたマーカスがヴァシリに無理やり座らされ、それに呆れながらアリシアも席に座った。

 

「さて、今回君の仲間に出した指名依頼について話をさせてもらうよ」

 

 そう言いながらヴァシリは胸元を弄り数枚の書類を取り出す。

 

 ついでに複数個の印。

 パーティーとして契約を締結した証明に使う印章であるが、マリアンヌはその光景に目を疑った。

 

 どう考えても胸元──それも豊満なバストの間──から出てくる量ではなく、また、保存されてる状態も物理的におかしなものだったからだ。

 

「……? ……??」

「ああ……そうなるわよね……」

 

 胸元から取り出したのは縦横比が白銀比で整えられており、流通している一般紙とは質そのものが違った。

 

 一体なにを素材にしているのか。

 そもそもどうやって保管していたのか、どうやって取り出したのか。

 聖女として政争の場に出ることもあるマリアンヌだが、理解できない現象が続き思わず顔に出してしまった。

 

 そんな彼女に苦笑したのは、ヴァシリの隣に座るアリシアである。

 

「この人、こういうことポンポンやるから気にしてたらキリ無いわよ」

「フフ、アイテムボックスは転生者の嗜みさ。四次元空間を作ることはできなかったけれど解釈は出来た。つまり、私の服の内側にはある意味宇宙があるってわけだね」

「? ……?? はあ……」

 

 何言ってんだろこの人という言葉が喉元まで出てきたが、相手は伝説扱いされるような一個人である。何言ってるのか分からなくても当然かと諦めのような納得が浮かんだ。

 

「私の四次元ポケットについてはともかく。さ、これが今回の依頼についてだよ」

「! は、拝見します」

 

 慌てて机の上に置かれた紙を手にとり内容を確認していく。

 

 書式はギルドで取り扱っているものと一致。

 詐欺のような文面もなく、先ほど勇者が言っていたものと合致する。

 期間は未定、日毎に報酬は加算されていくため王都観光をする要人警護と考えれば破格と言ってもいい内容だった。

 

「……なるほど、わかりました。ですが幾つか疑問があります」

「だろうね」

「なぜ、フィンさんに? 金等級冒険者を雇う条件としてはかなり優遇されているのでそちらは納得できますが、指名理由がわかりません」

 

 そう、結局は、そこなのだ。

 

 白金等級冒険者とは、文字通りの人間兵器である。

 金等級冒険者が恐れられているのとはまた別次元で恐れられる存在。普段は人類が関与できる場所に居らず、身近に居ないから伝説のような扱いを受けているが、金等級冒険者よりも明確に強いのだ。

 

 護衛など必要がない。

 ただ一人暴れるだけで容易く世界の秩序が乱れる。

 それこそが、彼女ら白金等級冒険者なのだ。

 

 だからわからない。

 知り合いだと言うのならば訪ねればいいし、呼べばいい。

 それくらいは容易のはずなのだ。

 

 なぜそうせず、わざわざ依頼という形で呼び出したのか?

 

 マリアンヌはその真意を知りたかった。

 たとえフィンに危険がないのだとしても、想っている人を大好きと発言する美少女が現れたことに危機感を抱かざるをえない。

 そういう考えもある。

 

 若干個人の感情を優先した問いは特に疑問に思われることもなくヴァシリに受け入れられた。

 

「そうだなぁ……色々あるけど、『流れ』を知りたかったんだ」

「流れ……?」

「そう。フィンを起点に始まった『流れ』は、最早【預言】を捻じ曲げ本来定められていた道筋を崩壊させている。本来の道筋を視る力が私にあれば良かったんだけど、知識でしかない。だから、本当に全てが変わっているのか。それを確認するために必要だったのさ」

 

(預言……?)

 

「魔王軍との戦いではかなり私の知識と乖離があった。でもそれは悪いことじゃなかった。寧ろいい結果に繋がった。私は死ぬ予定だったけどこの通りピンピンしてるからね」

「──え?」

 

 当たり前のように落とされた爆弾発言にマリアンヌの思考は固まる。

 

 人類で最も偉大で恐ろしく頼れる人物とされるヴァシリが死ぬ。

 サラッと言われたが、そんなことがあれば人類は滅んでいるだろう。

 

 一体なにがあったのか?

 それを問いただすよりも先に、ヴァシリが口を開いた。

 

「大事なのは、フィンとアリアが王都でデートすることだ」

「デッッ、…………デートが大事? どういう……」

「私にもわからない。『幼馴染とのデート中に王都でナンパされて発生するCG』だとか私の知識にはあるんだが……まあ、これまでの傾向的にロクなもんじゃあないよ」

 

 ただ、と続ける。

 

「フィンは【預言】を覆す。君たちの時のように、私の時のように。ならばきっと今回も、私の知識を否定してくれる筈さ」

 

 

 ────

 ──

 ────

 

 

 アリアに連れ出され街の繁華街にやってきた。

 連日屋台の並ぶストリートで観光客も多い場所なんだが、とりあえず王都に来たらここは体験しておかないと勿体ないと俺がオススメした結果二手に分かれて美味しそうなものを確保することに。

 

 東方から伝わる麺料理と串焼き肉を持って戻ってきたのだが……

 

「あ、おかえり! 何買ってきたの?」

「拉麺と串焼き肉。……んで、お前らは?」

「えーっとね、なんか初めて街に来たらしくて。案内所に行けばいいって言ってるのに離れてくれないんだよね」

 

 ふーん。

 つまりアレか、ナンパか。

 男は一瞬睨むような眼で俺を見たが、すぐにその表情を驚きに変えた。

 

「あ? ……アッ!! フィ、フィン・デビュラ!?」

「そうだが」

「…………何も、なかったことにしてくれるか。してくれないですか?」

「別に俺は何もされてない。アリアは?」

「え? うーん……まあ、いいよ!」

 

 ナンパ男(?)はペコペコ頭を下げて雑踏に消えていく。

 

 なんだったんだ?

 

「んふふ~~……フィンは頼りになるね!」

「いや、あれくらい自分でなんとでも出来るだろ……」

「できるけど守ってもらったのが嬉しいの!」

 

 そういうもんなのか?

 普段から守るとは名ばかりのリンチをモンスターにされているため全く気持ちがわからない。

 

 仲間には心配ばかりされています。

 

「はいこれ! フルーツジュースね」

「ありがとう。これ、串焼き肉」

「……女の子に渡すものじゃなくない?」

「嫌いか?」

「好きだけども」

 

 じゃあいいじゃねーか。

 まったく、俺は童貞なんだ。

 女心とか意味わからんものを掌握できると思わないで欲しい。そんなもんが出来てたら今頃払暁でヤリまくりモテまくりのリリーガーデンと合わせてハーレム形成しとるわ。

 そして娼館で性癖も満たしてる。

 出来てないんだッ!

 俺はッ!!

 童貞のままッ!!

 

「んもも……フィンは変わんないね」

 

 まあ、俺がドマゾ趣味になったのお前の所為だし。

 

 どんだけ師匠にボコられて鍛錬積んでもお前が一瞬で抜いてくからな。

 

 俺の一週間がお前の一時間で抜かれた時はもう本当に死にたくなった。

 

「アリアも変わんないな。昔のままだ」

「えぇ~? 成長してるでしょ、色々と」

 

 そう言いながらアリアは身体を見せつけるようにその場で動く。

 

 うおっ……

 …………。

 すまん、普段からもっと爆弾みたいな奴ら見てるから……

 でもエッッッッ

 めっちゃエッッッッ

 こんなん無料で見れていいのか!?

 そういうお店でも中々見れないぞ、お前ほどのスタイルは……!

 

 ハッ!!

 

 い、いかん。

 相手は幼馴染だ。

 そんな目で見てたら怒られる!

 師匠にも叱られる!

 

 それはそれでアリか?

 叱られ待ちでエロい目で見るのもアリか……

 

「……ふふ。ほんと、変わんないね」

 

 そう言いながら、アリアは目を細めて俺を見る。

 

「その傷。治してないんだ……」

「ん……ああ。これか」

 

 左頬の傷。

 昔刻まれたこの傷はもうすっかり皮膚に跡が出来てしまった。

 アリアを庇った時に出来たものだが、これも気持ち良かったんだよなぁ……

 

「治す暇がなくてな。でもまあ、勲章みたいなもんだ。気にすんな」

 

 

 

 

 

「治す暇がなくてな。でもまあ、勲章みたいなもんだ。気にすんな」

 

 フィンの頬には傷がある。

 それは、私にとって守れなかった罪の象徴だ。

 

 旅立つ前、私を狙って実行されたモンスターの襲撃。

 

【勇者】である私が、何も出来なかった、愚かで恥ずべき汚点。

 

 それと同時に、私がただの女の子で、守ってくれる幼馴染に恋をした────苦くも甘くもある、そんな出来事。

 

 アリアンロッド・モーナは恋をしている。

 

 子供の頃から才覚を発揮していたアリアを、ただ一人守ると吼えた幼馴染に。

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