ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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202 ヤンデレフィンとやけくそアリア

 

 どれだけ自分勝手なことを言っているのか、自覚してる。

 それでも、もう俺には耐えられなかった。

 アリシアも師匠も、俺から離れようとする。

 アリアを理由に消えようとする。

 そんなの許容できるわけがない。

 嫌いなら嫌いと最初から言ってくれれば良かったのに。

 俺が鈍いからいけないのか?

 好意すら受け取れないような男だからダメなのか?

 わかってる。

 俺がどれだけ醜いのかなんてわかってる。

 だけどそれは、俺が我慢する理由には、もうならない。

 それでいいと肯定しただろう。

 そんな俺でもいいと言ったんだ。

 責任は取らせる。

 俺は、こういう男なんだ。

 師匠の教えを守るって意識がなけりゃ、むき出しの欲望を周囲に振り撒く自制心のない男なんだ。それでも我慢してきた。嘲笑と罵声の中で生きてきた。心地いいさ。心地よくても苦しいんだ。被虐快楽はあくまで趣味でしかない。辛いさ、そりゃあ。

 なあ、師匠。

 どうして俺から離れようとしたんだ?

 なんで俺を遠ざけようとしたんだ?

 もう今更だろ。

 一回したんだ。これから何度したって一緒だろ。

 逃すわけがないじゃないか。

 

「っ……フィ、フィンっ、く、くるしっ……」

「……もう離れないか? 離れるなんて言わないか?」

「い、言わないっ。もう言わないっ!」

「本当か? 嘘じゃないか?」

「嘘じゃないっ!」

 

 力を緩めて、師匠の目をじっと見る。

 

 綺麗だ。

 あの頃焦がれた師匠の瞳。

 吸い込まれるような美しさ。

 昔はそういう目で見ていたわけじゃないが、それでも綺麗なものは綺麗だ。

 目元に指で触れる。

 ピクっと目元が動いた。

 だけど抵抗はしなかった。

 

 ……ああ、師匠。

 俺なんて今この瞬間にも簡単に吹き飛ばせるだろうに、何もしない。

 それは、俺への罪悪感か?

 それとも友好の証か?

 師弟の絆なのか?

 男女の愛か?

 わからないんだ。

 俺はそういうのがわからない。

 それでも全部信じたいんだ。

 だって、そうだってアリアが言ってくれたから。

 マリアンヌもそうだ。

 アリシアも、カルラも、アストレアも……アリーシャもそうだ。

 単なる優しさとかじゃない。

 互いに理解を深めて得た絆があると信じたいんだ。

 だから、離れるなんて耐えられない。

 俺から離れる必要なんてないじゃないか。

 ずっと一緒でいいのに。

 どうしてわざわざ離れようとするんだ?

 師匠のことは信じてる。

 だけど怖いんだ。

 この一歩目が全てを崩壊させないか、怖いんだ。

 怖くて怖くて、耐えられない。

 だから逃がさない。

 これからずっと一緒だ。

 そうすれば破綻することなんてない。

 俺達はずっと変わらず過ごしていられる。

 そうだろう、師匠。

 

「あっ、ごめん。空気ぶち壊しだけどアリアが戻って来るよ」

「エッ今!?」

「うおっ」

 

 師匠の声がデカい!

 しかもモゴモゴと動き始めたので身体がッ、ボンキュッボンのムチッとした部分が当たってむほほっ。

 

「ちょっ……フィ、フィンっ。離してくれっ! 流石にまずい!」

「なにがまずいんだ?」

「アリアの前じゃないか!」

 

 聖剣に視線を向けるが、彼女は苦笑している。

 

「いいんじゃない? 家族水入らずみたいなものでしょ」

「性行為は家族でするものじゃないだろ!!」

「ボク、剣だからよくわかんないや」

「おいっっっ!!」

 

 師匠……。

 そんなに嫌なのか?

 そこまで嫌がられると、俺もキツい。

 そう思ってじっと見つめていると、師匠が呻く。

 

「ぅっ……い、嫌とかじゃなくて! 常識的に考えて、互いの想いを伝えあった男女の目の前で、片方と性行為と及ぶことがあるか!?」

「もう何度もしてるが……」

「な、なんでそんなことばっかりしてるんだあああっ!!」

 

 そ、そこまで言われるとこっちも悪い気がしてきた。

 

 で、でもさァッ仕方ないじゃん!

 アリシアさんの後に見つかったカルラが「お相手に許可を頂きたい」とか言い出すから! その場の流れでエッチしようとしたのにアリシアさんも巻き込みたいって言うからァ!!

 

『クックック…………』

 

 なんか言えよ闇のカルラ。

 

「ま、とにかく仲良くしてね! 大丈夫、アリアはもうフィンの記憶を見て来たんだ。ちょっとした寝取られくらいならこの娘も興奮するし平気平気!」

「あ、アリアまで、変態に……!!」

「おほっ♡」

 

 オッついでに変態扱い効くッ!

 

「うーん、アリアに関しては元々素質があったとしか……それじゃ、またね」

「ああ。今度はちゃんとしような」

「…………そ、それはアリアに相談してね」

 

 そして〈聖剣〉がその瞳を閉じて、僅か数秒後。

 青く光る瞳のアリアが目を覚ました。

 

「……はっ。フィ、フィ~~ン~~……!」

 

 そしてそのまま、師匠を一方的に抱き締めてる俺の背中に抱き着いて来た。

 

「おっ……ど、どうした?」

「う、うううぅ~~……!!」

 

 な、泣いちゃった……。

 背中が涙と鼻水とよだれでびちゃびちゃになっていく。

 流石にこんな状況になって師匠に執着している訳にもいかないので、師匠と目を合わせて頷き合ってから離した。

 

「お、おいおい。どうしたんだアリア、いきなり泣いて」

「う、ううっ、うっ……! だ、だって、だってぇ~……!」

 

 泣きじゃくるばかりで何も言ってくれない。

 

 エッ、こ、これどうしよう。

 なんとなく懐かしさが込み上げてきた。

 見れば、師匠も困った顔をしている。

 多分、俺も困った顔をしていた。

 

 顔を見合わせた師匠は、苦笑しながらアリアへと声をかける。

 

「一体どうしたんだ、アリア」

 

 ぐすぐすいいながら、アリアはちょっとずつ喋り出す。

 

「フィンがぁ……」

「フィンが……?」

「フィ、フィンの、ううっ、ぐすっ、うううっ……ね、寝取られてぇ、うっ、ずびっ」

「…………」

 

 アッ師匠その目はやめて!

 ホラ見ろと言わんばかりの目で俺を見ないでくれ!

 

「ア、アリア。フィンはここにいるよ? 誰にも取られてないから大丈夫だ」

「う、ううう、でも、師匠だってフィンとエッチしてるじゃん……!」

「そ、それは……」

「アリアとはまだしてないんだし寝取られじゃないんじゃないか?」

「びええええぇぇっ!!」

「こ、こらフィンっ!」

 

 でもこれくらいずっと闇マリに言われ続けてたしなぁ。

 

 アリアも変態ならこれくらいは受け入れられないとこの先辛いぞ?

 

『誰の、何目線なのよ……』

 

 あ、闇マリ。

 おはよう、よく眠れたか?

 

『騒がしくてそれどころじゃなかったのだけれど、まあ、大体は把握したわ。我が使徒、それでいいのね?』

 

 なんの話だ、ってとぼけたいところだが……俺のことだろ。

 

 なんとなくわかってる。

 

『ええ。自覚出来ているのが奇跡というべきかしら。我が使徒は少し道を踏み間違えればあっという間にモンスターに成り果てる。今も半ばモンスター同然のようなもの。我が使徒が人の形を保てているのは私のおかげ……本当に、わかっているのかしら』

 

 そうか。

 俺はもうそこまで行ってたか。

 

『闇に堕ちる寸前で拾い上げてそのまま維持してるだけだから当然ね。我が使徒はこれ以上負荷に耐えきれない。どうする? モンスターに成り果てて、大切な人達をその手で殺してしまうかもしれないわよ?』

 

 そうはならんさ。

 例えモンスターになって襲ったとして、俺如きがみんなに勝てるわけがない。傷一つ付けられず死んで、闇マリは次の標的を探す。それだけだろ。

 

『いいえ、いいえ。我が使徒がモンスターになれば、この者達は誰一人として抵抗できずに死ぬ。なぜなら貴方を傷付けたくないから。凄惨な凌辱を行われても許し受け入れるでしょう』

 

 ……そんなわけはない。

 大体、意味がわからない。

 無抵抗で犯される?

 この気高い女達が?

 そんなわけが、あるか。

 

『我が使徒を愛しているからこそよ。もうそれでいいと思えてしまうでしょうね。深まった愛はただの祝福ではないのよ?』

 

 …………。

 

 なら……俺は、どうすればいいんだ?

 

『これまで通りでいいじゃない』

 

 これまで、通り…………。

 

『ええ。我が使徒が傷付き苦しんだ時、私が傍にいる。あなたの苦痛を全て引き取りましょう。あなたの苦痛は魔に至る大切な力。あなたを苦しめた世界を染め上げる我が力。さすれば、この世に平穏が齎されるでしょう』

 

「フィン?」

 

 師匠の声がする。

 だけどそれ以上に、女神様の声が響いた。

 

『前を向く。良いことよ。でもね、我が使徒。覚えていてちょうだい。あなたはもう、おかしいの』

「……ははっ」

 

 女神様のあまりにも直球な言い方に、思わず笑みが浮かぶ。

 

 でも、そうか。

 俺はもうダメなんだなぁ。

 神様にすら言われてしまうと、納得せざるを得ない。

 そうか…………。

 でも、前を向くな、とは言わないんだな。

 

『……当たり前でしょ。私は邪神だけれど女神なの。我が使徒に堕ちて欲しいと願うことと、我が使徒に人らしくあって欲しいと願うことは両立するわ』

 

 滅茶苦茶だなぁ。

 

『邪神ですもの。混沌としていなくてどうするの?』

 

「……ねぇ、フィン……」

 

 アリアが話しかけてくる。

 すっかり涙は収まったみたいで、目元を赤くはらした状態だった。

 だが瞳には強い意志がある。

 ついさっきの、俺を抱きしめた時のアリアと同じだ。

 

「私……頑張るよ」

「……なにを?」

「えっちもそうだけど、フィンと一緒にいるって決めたから。だから、なんでもするよ!」

 

 そして、アリアはガバッと飛びついて来た。

 

 ──唇が触れる。

 

 これまで何度もしてきた接吻。

 別に特別でもなんでもない行為に成り果てたそれで心臓が高鳴った。ほんの数秒の間だけ繋がる間に、鼻孔を通じてアリアの匂いが満ちていく。

 

「ん~~っ……ぷはっ。え、えへへ。しちゃった、へへっ、フィンとキス、しちゃった」

 

 はにかむアリア。

 

 あー……。

 ああ~……。

 

「師匠もホラ。一緒にしよ?」

「え゛!!? な、なにを言ってるんだ!?」

「なにって、も~。もうエッチしたんでしょ? 見たもん、わかるよ。私の目の前でフィンとしたんだもんね。うんうん。師匠のスケベ」

「あ、アリアッ!?」

「ふ、ふふっ……私は、寝取られですらないんだよ。私だけ置いていかれてる。ふ、ふふふっ、うふふっ! ねぇ師匠! 私もフィンとヤりたいなぁ! あーあ!」

「あ、アリアッ!!!!!」

 

 師匠の悲鳴が聞こえる。

 だけどそれが気になら無いくらい胸が高鳴り続けていた。

 

『……ふふっ。かわいいじゃないの、我が使徒』

 

 う、うるさいな。

 今本気で照れてんだよ。

 アリアだぞ、アリア。

 だって、アリアが俺にキスって、お前さ。

 

 あの、アリアが俺に……。

 

『……我が使徒、フィン・デビュラ。私は貴方の選択を尊重します。魔に堕ちる前に私が止めて上げましょう。ですから、好きに生きなさい。楽しい日々が待っていますよ』

 

 動揺する俺に、女神様はそう言った。

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