ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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203 曇りのち晴れ

 フィンとアリア、そしてヴァシリが三人と一柱と一振りで和気藹々としている頃、アリシアはまずカルラとアストレアにマリアンヌ──フィンを除いた【払暁】の面々の下へ足を運び集めていた。

 

 目元を赤く晴らしたマリアンヌにどうしたのかと二人が疑問を抱いたが、アリシアに知らされた情報により何があったのかを察する。更に言えば、目の前でフィンが救われていく様を見せつけられたマリアンヌに対しては同情的だった。

 

「マリアンヌ……そなたも運がない……」

「いえ……これでよかったんです。アリアンロッドさんがフィンさんを救って、私は何もできなかった。ただ、それだけですから」

 

 悲しげな、それでいて吹っ切れた表情のマリアンヌが言う。

 

 実際のところマリアンヌの『ずっと性的な目で見てきた』という発言や、行為中に見せた生々しいフェチなどのお陰でフィンが受け入れる土壌が出来ていたのだが、マリアンヌはその事実を知らない。

 

 そんなマリアンヌの痛ましい様子に、仲間の二人が声をかける。

 

「そ……そんなことないでしょ。少なくとも敵と思われても仕方がなかった私達とは違って、マリはフィンと一緒にいたじゃない。フィンの味方だったのは、誰が見ても明白よ」

「うむ。私なんかフィンの身体にどれだけ傷を与えてきたか。死ねと申されればすぐにでも腹を切る覚悟があるぞ。ハハハ、ハハ…………ハハ…………」

「えぇ…………」

 

 死んだ目で二人が言う。

 

 妹と友人の終わってる発言にアリシアはドン引きした。

 

 なんなら二人とも自覚があるので尚更タチが悪い。

 アストレアもカルラもアリシアが合流する前からフィンに対して重い愛情を捧げており、フィンが望むのならなんだってすると覚悟を決めていたほどだ。

 

 そういった背景もあってアリシアが取り込みやすかったこともある。

 

「……いや、事実、我らとマリアンヌの扱いが違うと言うのは、理解できる話だ。我らは敵として扱われても仕方がないことをしてきた。アストレアは多少温情の余地があるが、私は驕りから行ったこと。謝罪はしたし受け入れてもらったが、フィンが望むのならばどんな辱めも被る所存でいる」

「私もカルラと変わらない。フィンが一番大変だった時期に手を差し伸べることすらしなかったのは事実だもの。今更虫のいいことをって言われても不思議じゃないしね」

「ああ。だからこそ、マリアンヌ。そなたはこれを良い機会だと受け取るべきだ」

「いい、機会ですか……?」

 

 カルラの言葉にマリアンヌは首を傾げる。

 

 幼い頃から互いに想いを向けていた男女が結ばれた。

 幼馴染にして勇者。

 幼馴染にして英雄。

 聖剣を担い世界を救った勇者と、魔王軍の尖兵を相手に時間を稼ぎ邪神に魅入られながら必死に争った盾。

 世界最強の剣と盾が結ばれた。

 ありとあらゆる角度から見て、これほどまでに縁起のいいものはないとすらマリアンヌは思っている。

 

 良く言えば盤石な、悪く言えば付け入る隙のない関係性を前にマリアンヌは長年の想いを断ち切ろうとすらしていた。

 

 マリアンヌを良く知るカルラはその機敏を受け取った。

 そしてそれは早計であると待ったをかけたのだ。

 

「そなたとヴァシリ殿、そしてアリアンロッド殿しかフィンの中での特別な存在はおらぬと言う。この立場を投げ捨てるのか?」

「そ、れは…………」

「それにフィンはアリシア殿のことも手放さぬと申したそうだ。我らも含み周囲と関係を持ち続けている中で、一人身を引いたそなた……これでは、負け犬だ」

「ま、ま、負け犬っ!?」

 

 想像していたよりもずっと強い言葉が放たれたことにマリアンヌは驚愕。

 

 だがそんなマリアンヌの驚きすら無視してカルラは続けた。

 

「そうだ。そなたは我々より恵まれた立場にあると言うのに、それを捨てて好きな男と距離を取るなど愚かとしか言う他ない」

「い、言い過ぎでしょ……」

「言い過ぎなものか。我ら三人、同じ男に愛を向けて互いに牽制しあってきた。それでも共通していたのは、フィンを決して不幸にはしたくないという想いだ」

 

【払暁】の女達は不思議な絆で結ばれている。

 最悪の出会いから、数年の付き合いを経て、地獄を生還し、たった一人の男に救われた。それぞれが社会的地位と強さをもちながら、たった一人の男に愛を向けている。

 互いにアプローチは好きにやらせていた。

 その上で選ばれればいいと思っていた。

 フィンが望むのならばなんでもいいとすら思っていた。

 

「マリアンヌ。アリアンロッド殿に嫉妬する気持ちはわかるし、劣等感と己への不甲斐なさを覚えるのもわかる」

「うっ」

 

 自分の抱えている感情を言い当てられマリアンヌは呻く。

 

「だが、そなたはそなたでフィンに愛されているのだ。割り切って負けを認めるのではなく、そなたもアリアンロッド殿のように、フィンの心の叫びを拾い上げてはくれぬか」

「…………でも、それは……」

「……我らでは、無理なのだ」

 

 カルラは、歯を食いしばり、手をギュッと握りしめて呟く。

 

「我らでは、私では、フィンを救えぬ。フィンの心を癒せぬ。私のしてやれることなど、この無駄に肥えた身体を使い過去の鬱憤を晴らさせることのみ。心を壊した男に、心を壊す原因となった女がしてやれることなどない」

「カルラ……あなた……」

「黙って消えるのが一番良い。わかっている。それでも、出来ぬ。身勝手に愛してしまった。愛することで、己の心を保とうとした。わからぬ。何が本当の自分なのかもすでにわからん。だが、私はフィンを愛している。それだけは変わらない事実だ。フィンの望むことならばなんだってしよう。それでフィンの心が少しでも安らぐのなら良いのだ。だが、それすらも私には出来ぬとなれば、もう、どうすることも、できんではないか…………」

 

 アリシアの話は、カルラに更なる覚悟を迫っていた。

 

 自分の行いがフィンの心を追い詰めていたと悟った。

 すでに壊れ果ててしまったフィンは自分の悪感情にすら向き合えなくなっていたと聞いて、もう、自分が何かしてあげられることすらないのだと思ってしまった。

 

「わ、私は、私では、フィンの敵にしか、なれん。どれだけ謝ろうが、どれだけ身を差し出そうが、どれだけ心を委ねようが、フィンにとっては、特別な存在には、なれんのだ。わかっていた。なのに、すまん、泣きたいわけでは、ないのだが……」

 

 表情を変えず、口角を上げ無理に笑おうとしたカルラの両目から涙が溢れ出す。

 

 アリシアがフィンの心を暴き、カルラがその痕を見つけ、事態が目まぐるしく変わった。

 

 マリアンヌが勝つのだろうとなんとなく考えた彼女にとっても、その発見は青天の霹靂であったし、何より自分がフィンと肌を重ねることになるとは微塵も考えていなかった。

 

 何度裸を見せても欲情すらされない始末。

 もうそういう目で見られてすらいないのだと諦めていたのに、降ってわいた好機。

 フィンがドがつくほどのマゾヒストで想定とはかなり違ったが、それでも幸せだった。恵まれないと思っていた愛を恵んでもらえたのだ。いや、その実、恵まれてすらいなかったのかもしれない。それでもフィンは憎しみではなく愛を向けた。向けたとカルラは思えた。それだけで幸せだった。

 

(それが、良くなかったのだろう……)

 

 カルラは己のしてきたことがいつか返ってくると思っていた。

 

 あわよくば、それが自分にだけ降りかかるようにと願っていた。

 

 だったのに。

 フィンを中心に同じく傷を持つアストレアも合流し、身体を重ねていくほどに変化していった。いつしか自分はフィンに愛されていると思っていた。あんな過去があるのにも関わらず、フィンが受け入れてくれたと思っていた。

 

 フィンの傷跡は癒えることなく残り続けているのに……。

 

「か、カルラさん……そんなことは……」

「いいのだ。わかっている。過去は消えない。私の所業が、今まさに己に戻ってきているだけのこと。フィンも、そなたも、誰も悪くない。悪いのは私自身だ」

 

 わかっている──だと言うのに、胸の奥が締め付けられているような感覚がする。

 

 お前は特別じゃない。

 そう突きつけられることの痛みには、彼女は慣れていなかった。

 

 握りしめた拳からは、爪が食い込み血が流れている。

 

 その手をそっとアストレアが掴んだ。

 

「そこまでにしなさい、カルラ」

「…………すまん。落ち着いては、いられん」

「ええ、ええ。わかってる。でもね、きっとフィンはカルラが傷付いても喜ばないわ」

 

 アストレアの言葉に何より驚いたのは、姉のアリシアだった。

 

 友人を気遣う一言。

 慈愛に満ちたそれは、アリシアがあまり聞いたことのない類のものだった。

 

「この一年でフィンのいろんな面を知ったけど、結局、どれもフィンだってことが大事じゃないの? 私たちに恨みを抱くフィンもいれば、私たちを抱きたいと思うフィンもいる。一側面ばかり見て悩んでもいいことないわよ」

 

 正論に、誰も口を開かない。

 

「私もカルラも過去を忘れるわけにはいかないのはそうでしょう。でも、肝心のフィンに何も言われてないわ。私達が勝手にあれこれ考えて行動するように、さっさとフィンの場所に行ってどうして欲しいか聞いた方がマシに決まってる」

「それは……その通りね……」

「大体全部許されないなら姉さんがフィンのお尻にぶち込んで好き放題叩いてたのだって憎まれるべきでしょ」

「ひょおっ!!!!??!?!?」

 

 アリシアは叫んだ。

 

「お、お、お尻に!? えっ待ってくださ……え!? お尻!? エヴァンジェリン様だけではなく!? 生えてるの!?」

「生えてないわよ! えっとその、それはその、なんていうかね、話の流れでね? 私がしたかったわけじゃないのよ? ただ、フィンくんが私のお尻に挿入れたのだから俺にも挿入れて貰わねば無作法だなんていうから……おもちゃのおちん◯んで……こう、ズブっと……気持ち良くはないんだけど、フィンくんが気持ち良さそうだから私も興奮しちゃってね?」

 

(何を言ってるのかしら、姉さん)

(何を言っているのだ、アリシア殿)

(何を言ってるんですか、アリシアさん……)

 

 言い訳とは名ばかりの自爆をしていくアリシアに、三人の陰鬱とした気持ちは霧散していく。

 

 この女本当にやることやってるわね。

 流石はアリシア殿だが、私でもそこまではしておらんぞ。

 お尻って出すための器官で入れるものじゃないですよね。

 

 三人の視線に気がつき、うっと呻くアリシア。

 

「……なんかバカバカしくなってきた。フィンのところに行かない?」

「……そうするか。悩んであれこれするよりとっととフィンと話した方がいいと最初に見せつけたのは他ならぬアリシア殿だしな」

「……アリアンロッドさんがフィンさんの心を救ったのは事実です。でも、まだ、諦めるには早いというのもわかりました。みなさま、ありがとうございます」

 

 マリアンヌは深々と頭を下げる。

 

「良いのだ。【払暁】のよしみであるし、我ら三人、同じ男を想って生活した仲ではないか」

「そうよ。それにフィンのためだもの。特別に想ってる女が嘆いているよりかは、笑ってる方が嬉しいんじゃない?」

 

 カルラとアストレアは笑って答えた。

 カルラの涙も引っ込んでいた。

 

【払暁】の三人組はそのまま和気藹々とまでは行かないが、和やかな雰囲気で話しながら部屋を出ていった。

 

 一方、残されたアリシアは、達観した瞳で窓から外を眺めながら言った。

 

「…………流石にお尻は、やめましょうか……」

 

 ──部屋の掃除が大変だった。

 苦い(・・)思い出が蘇り、彼女はまだ顔も知らないエヴァンジェリンに任せることを決めた。

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