部屋を出て、騒がしい方へと歩いていく。
ったく、薄情だなぁみんな。
そりゃデビュラに気を付けろとか油断すんなよって言ってきたのはおれだけどさ、いくらなんでもちょっとは気を遣ってやらねーと、アイツ潰れちまうって。
デビュラはいいヤツだ。
紳士で男らしくてリョナエロゲ世界の竿役だとは思えないくらいの好青年。ガキの頃からリョナられてきて、周りの女がみんな綺麗で強くて地位のある奴らばっかりなのに捻じ曲がってないとんでもない男だ。
いや、普通にすげえよ。
おれだったら耐えられない。
前世で一緒に過ごした
……すげーわ。
よく理性保ってる。
おれもこないだ言われちまったしなぁ。
思い返せば確かに不注意だったから感謝してるけどさぁ、こう、さぁ……なんか複雑だよ。気の合う男友達が出来た感じだったけど、あんないい奴すら警戒しないといけないこの世界の罪深さはとんでもないわ。
でもまぁ、ああやって言ったってことは手を出すつもりはないってことだ。
冒険者でそんな風に注意して来る男とかいないしな。
まだ駆け出しだった頃に尻も乳も揉まれたことがある。
注意とかそんなん一切なし、ギルドの裏手で抑えつけられて強引にだぜ? ほんっと、この世界の男共は終わってる。そんときは偶然他の冒険者が来て助かったけど、あの出来事があったからこそ、おれはこの世界としっかり向き合えるようになった。
感謝はしねぇ。
だけど、甘ちゃんだったおれを変えたのも事実。
だってのに──デビュラ相手には、ゆるゆるになっちまった。
だって……仕方ないだろ。
あんなの放っておけるかよ。
日常的に美女美少女に囲まれて共同生活してる上に娼館の利用もしたことがないって聞いた時には、思わず正気かって聞いちまった。
あの年頃の男が性欲を抱えてない訳がない。
それをずっと我慢してんだろ?
その上邪神が憑りついてる。
DLCの推定ラスボスが、日常的に精神を圧迫してんだ。
なのにデビュラは至って普通に過ごしてる。
あの時首絞められたみてえに、ずっとあんなことされてんだ。
普通じゃねえ。
もうデビュラはイカれてるとしか思えねえ。
だけど、アイツはいいヤツだ。
こんな世界でも紳士で、前の世界でだって見ることができるかわからんレベルの男だ。
だから放っておけない。
男の苦痛はわかってる。
他の女達よりおれは男の苦しみってヤツがわかる。
なにせ、前世は男だからな。
男は見栄を張る生き物だ。
それが美人の前なら猶更そうさ。
デビュラだって我慢してるに決まってる。
(──だから、これは決しておれが女になっちまったとか、そういう話じゃねえんだ)
おれは別にデビュラに惚れてなんかないし、抱かれたいとも思ってない。
そもそも男とエロいことしたいとは思わねえ。
そりゃあ、身体は女だ。
でも前世の価値観がある。
この世界の男は不潔で汚ねえ。
現代日本の平均的な男の数万倍は汚ねえ。
風呂どころか濡れた布で身体を拭く事すらしねえようなゴロツキがたくさんいる。そんなの相手に発情しろってのが無理だ。臭えしどんな性病持ってるかもわかんねーしな。こんな世界で性病になったら一発アウトだ。
だから、冒険者の男を見て、こう、ムラついたことは一度もねえ。
上半身裸だとして、毛むくじゃらでギトギトな身体見せられても興奮もなにもねえよ。
ただ、デビュラはそうじゃないからな。
筋トレの時もそうだけど、アイツの身体はとんでもねえんだ。
腕とか足はもう筋肉でバキバキ、首も信じられない位太い。
腹と背中にはほんのり脂肪が乗ってるから、多少斬られても平気なんだろうな。実用的な肉の盾。何度か触らせてもらってるけど、あれはすげえよ。
そんでもって身体が綺麗でさぁ、毛も剃ってあるし傷が勲章みたいに全身にあるんだ。あんなの目にしたら勝ち目なんてないと思わされるような肉体。男の憧れの極みみたいなもんだ。あれになら抱きしめられても嫌じゃねーなって、あああああああ!!
頭をぶんぶん振って思考を振り払う。
そうじゃねえだろ……!!
変なこと考えんな!
でも、汗めっちゃ出てんのになんか汚く見えなくてさぁ……じゃなくて!!
ちゃんと毎日風呂に入って、食事もきちんと摂って、身体も鍛えてる。
髪型とかも整ってるんだよな、デビュラ。
だけど自分のことをただの凡人とか言うから、そんなわけねえだろって毎回思ってる。紳士で欠点のないように見えるデビュラの唯一の欠点は、自己肯定感が存在しないことだ。
──そりゃ、あんな状況で男として相手にされてなかったらそうもなる、んだが……。
どう見ても、男として意識されてるんだよなぁ……。
本人が全くそれを認識してないだけで、めちゃくちゃ性的な目で見られてる。女になったからわかる。めっちゃエロい目で見られまくってるぞ、デビュラ。
だから、おれがやることはそんなに多くない。
デビュラの周りの女に勝てるとは到底思えねえ。
強さでも美しさでも女としての器量も何もかもが足りてねえよ。そんくらい自覚してる。けどまぁ、デビュラはいい男なんだ。邪神に憑りつかれて周りに押しつぶされそうになってきたのに紳士で頼れる、この世界にゃもったいないくらいの。
そんな奴がさ、好きに性欲も発散できてないのは……切ないだろ。
まあ、その、なんつーかさ。
普段筋トレの時にも世話になってるしさ?
おれがデビュラにしてやれることなんてないし、そんくらいはしてあげてもいいかなって思うんだよ。別に恋人にして欲しいとかそういうんじゃなくて、辛いならちょっとくらい肩代わりしてあげたいっていうか……お、おれは何に言い訳してんだ?
べ、別に好きとかじゃねーんだよ!
勘違いなんかしてねーよ!
単純にそう、アレだ、友達だから!
こんな世界でもう二度と会えないような友達が、ちょっと困ってるから手を貸してやるだけだ! 胸を貸してやってもいい! ただそんだけだ!
──いや、そのおっぱいでそんな否定されても……
──その乳房で性的な目で見るなというのは、無理だ。
「っっ……」
……あ、やべ。
顔が熱い。
ち、ちくしょお……そういうのじゃ、ねえんだって。
おれはデビュラに惚れてなんかいないし、そんな、ワンチャンあるとか、思ってなんかないっての。単純に、アイツが男で、元男のおれは、他の女より理解があるから、ちょっとだけ手ェ貸してやりたいだけなんだ。
だから、そう。
決して邪な気持ちでいるんじゃ……ねえんだ。
気持ちに整理をしながら歩いてると、騒がしかった奴らが部屋の中に入って行った。
そしてその時、塚本が叫んだ言葉が、おれの脳の真っ白にした。
『たのもう! フィンとまぐわいに来た!』
「……………………へ?」
扉が閉まる。
まぐわい。
まぐわう、まぐわい、フィンとまぐわいに来た。
塚本が? いや、聖女もハイエルフもいただろ。
は? どういうことだ?
え、な、えっ、ん?
フィンって、デビュラのことだよな。
は?
い、いやいや。
ちょっと待て、おかしいだろ。
まぐわいって、は、そんな複数人で?
てかもうそんな…………だ、だめだ、意味わかんねぇ。
こんな場所で堂々とするってのか?
おれたちが気が付かないだけで、してたのか?
アイツが? デビュラが?
「っぁ…………」
ぇ、あ、な、なんだこれ。
なんか、喉が渇いた。
気が付いたら手を握り締めてた。
お、落ち着けおれ。
どう考えたって聞き間違いだろ。
デビュラだぞ、デビュラ。
あんなの、塚本の冗談に決まってんだろ。
聖女もいるのにそんな堂々と、乱交なんて、しねえよな……?
「……は、はは。悪い冗談だ。笑えねえよ……」
あのデビュラが、そんなことするわけないって。
あんな紳士がさ、そんな……するわけないって。
だってそんなことするなら、おれにあんな注意するわけないじゃんか。
そんなことを考えている内に、足は勝手に動く。
扉の向こう側から騒ぐ声が聞こえた。
艶めかしいもんじゃない。
ほっとした。
──なんで?
わからねえ。
わからねえけど、息苦しさなんてもんは、決して抱いてないはずだ。
だっておれは、男だったんだから。
耳を当てて息を潜める。
扉の向こう側で何が起きているのか、踏み込むつもりはねえ。
でも聞いておかなきゃいけないと思ったんだ。
だって、おれは、男で、でも身体は女で……この、胸の感覚は、きっと勘違いだから。