うーん……。
なんか、ドレイクに警戒されてるな。
敵だと思われてるわけではないんだが、どうにも疑いの目がある感じがする。悪意には敏感だからね。それ即ち敵意にも敏感であるということ。そうでなければ盾役は務まらないのだ。
しかし、なんだろうな一体。
言動を思い返しても特別怪しいことは言ってないししてないつもりなんだが……ま、まさか、俺みたいな奴が思い上がって調子に乗ってるねぇと怒ってるのでは……!?
くっ、あ、ありえる……!
ドレイクは見た目からしてもうイケイケのお姉さんだ。
年齢的には恐らくカルラよりも上。
カルラが大体俺の五つ上くらいだから、三十歳なるかならないかくらい?
十歳も年下の俺なんてガキんちょにしか見えないんだろう。
『ガキが賢しいねぇ!』
そう言いながらドレイクは両手足の縛られた俺を罵り踏みつけた。その手に握られた鞭は強くしなり、音の速さを超えて俺の肌を打ち付け、裂く。肉が弾け血が溢れる度に悲鳴を上げる俺を見て、ドレイクは嗜虐的な笑みを深め何度も何度も鞭を振るう。空気の裂ける音、肉の裂ける音、バチンッ、バチンッと幾度となく暴力的な音が鳴る。泣いても叫んでも止まらぬ猛攻に、苦悶に打ち震えるしかなくなってしまうのだった……。
ううむ……アリだ……!
ハーレムを作ってしまった俺だが、未だに激しいSMプレイのSの部分を担当してくれる女性はアリシアさんしかいない。シャルロットなんかもかなりエッチなんだけどな。ただ、シャルロットはヒールで踏みつけたり鞭で叩いたりくらいが限界だ。
アリシアさんのように出血するまで強引に、とはしてくれん。
特に血を見るとカルラとかアストレアが震えて嫌がっちゃうからな……。
本気で血が出ても躊躇わない──そんな稀有な才能を、俺は募集している。
『ヤってあげましょうか?』
闇マリはなんか身体バラバラにしてきそうだからやだ。
そこまで行ったらエッチじゃなくてただの拷問じゃん。
俺は程よいマゾっ気を満たしたいのであって全身ぐちゃぐちゃにされるような快楽は、あ、味わいてぇ……!!
『節操ないわねぇ』
闇マリに調教されちまったからな。
特にあの尖兵にヤラれてからはもう俺は壊れてしまった。もう二度と過去には戻れない。そんな悲しみすらも興奮の材料になってしまうのだ。
──しかし。
俺のマゾ趣味はあくまで趣味。
これが全てではないので、当然イチャラブも大好きだ。俺みたいな奴が美人たちとくんずほぐれつ、ムフフ、これだけで十分なんだ。マゾ趣味は満たしてくれると出来ればいい。というわけでドレイクの姉御! 俺を縛って蹴とばして蝋燭垂らして虐めてくれぇっ!!
「あー……その、なんだ。アンタも知ってるだろうけど、アニカは変わってるからね。あんまり過激なことはしないでおくれよ?」
「過激ってなんだ、過激って。そんなことしないぞ」
「抱き締めたり、誑かすようなことはダメだよ?」
「いややらねえよ……」
そんな見た目の整った男みたいな行動、俺がするわけないだろ。
抱き締められたことはあるが抱き締めたことは殆どない。
女性の身体に触れるのは緊急事態や仕事中だけだ。
誑かしたようなこともないのに、酷い言われようだ。
「ドレイクは俺を何だと思ってるんだ」
「そりゃまあ……ハーレム作った成り上がり盾役さね」
「…………黙秘させてもらおう」
う、ううっ、ドレイクにじっと見られている。
嘘は吐けないが本当のことも言いにくい。
だ、だってハーレムみたいな状況なのは確かだし……だからと言ってねぇ、出会った女性すべてに粉かけることはしない。今は信用されないかもしれないが誓って本当なんだ!
「……アニカを泣かせるのはいいけど、弄ぶようなことはするんじゃないよ」
「そんなことをしたことはないが、気を付ける」
「そうしておくれ」
真剣な表情のドレイクに頷く。
アニカ、大切にされてるなぁ。
でも気持ちはわかる。
自分のことを「おれ」って言ったり、可愛い恰好してるくせに女として見られることに無頓着だったり、個性的だ。だけどそういうの全部ひっくるめて無邪気っていうか、愛嬌があるんだ。守りたくなるよね。
さて、ドレイクに釘を刺されてしまったが、やること自体は変わらない。
会話が止まって少し歩いて、アニカの部屋の前に到着した。
コンコンコン、と三度ノック。
「アニカ、居るか? 俺だ。ちょっといいか?」
『うへっ!? お、ちょ、ちょっとまって!』
ドタッゴトガタッ!
バサッモゾモゾッドゴッウギャッ!!
「……だ、大丈夫なのか?」
「あの娘は、ほんと……」
急に片付けでもしてるのか、変な音が部屋から鳴っている。
「その、なんだ。あんまり片付いてないのか?」
「……ちょっとガサツなところはあるけど、基本的には綺麗だよ」
そんなことを言いつつも、ドレイクは思い当たることがあるのか溜息を吐いていた。
それから少し待つと、扉がゆっくりと開く。
「お、お待たせ~……ってドレイク!?」
「……なにしてんだい、あんた」
「な、な、え、えっと……! それは、その……」
顔を赤くして、アニカは押し黙る。
服装はいつもと違って、なんというか、気合いの入ったおしゃれなものだ。
ホットパンツに白のシャツ、そしてジャケット。
これからお出かけかと言いたくなるような装いで顔を真っ赤にしているのだが、これは一体……?
と、とりあえず褒めるか。
「えっと、似合ってるな」
「っ!! お、おう、あ、ありがと……」
照れてるアニカを尻目にドレイクの顔を見る。
あっ険しい顔してる。
ダメだったか……?
口説いたわけじゃないんだけどな。
「…………デビュラ、ちょっと先にアニカと話してもいいかい?」
「ん? ああ、それはもちろん」
事前にドレイクが話をしてくれるってんならこっちとしても楽になる。
その段階で拒絶されちまったら師匠案件になるが、そうはならないようにドレイクも話してくれると思う。
よろしく頼むと目線で伝えると、彼女も頷いて返してくれた。
「てな訳だ。ちょっとおいで」
「えっ、わ、わかった……」
扉の向こうに二人が消えていく。
……ふむ。
盗み聞きするのはよろしくないし、ここは一つアニカとドレイクにボコボコにされる妄想でもして待ってるか。
◆
部屋の中は特に荒れた様子はない。
一体何をしてたのかは知らないけど、あんなみっともなくドタバタ音出しちゃってまぁ……絵本のヒロインか何かかい?
「な、なあドレイク。なんでデビュラと一緒に来たんだ?」
そんでもって、聞きたいのはそれかい。
この娘は、アタシの心配を他所に茹だっちゃってるよ。
アンタ、その服これまでに何回着たんだ?
少なくともアタシは見たことないよ。
王都で買わせたけど『おれには似合わねえよぉ……』なんて涙目になってたじゃあないか。それも好きな男によく見られるためなら着れてしまうんだねぇ。
いや、ね。
いいんだけれども。
ほんっと、相手が悪いんだよ。
「…………さて、どうしてだと思う?」
「……デビュラと、なんかあったのか?」
「アタシが? バカ言うんじゃないよ」
ハッキリ伝えると、露骨に安堵したような顔になる。
デビュラに惚れてるんだろう。
そんなのはわかりきったことさ。
問題はそこじゃないんだ。惚れたことはいい。問題は、初めて恋をした小娘なんてハーレム作ってるような男からすれば扱いやすい道具の一つに過ぎないってことだ。
「アニカ。言っておくけど、デビュラはアンタに惚れたりしないよ」
「…………な、なに言ってんだよ、急に。そんなこと、わかってるし。てか、急に、なんだよ。おれは別に、デビュラを……」
「隠してるつもりかい? 丸わかりさね」
アニカは押し黙る。
「アタシもカトリーナもわかってたよ。けどね、それはそれでいいんだ」
「えっ…………」
「今までどうにも、女らしくなかったアニカが恋を知った。いいことじゃないか。このまま行くと誰とも結ばれないかもしれないって心配してたんだよ?」
「う、うるせーな! 余計なお世話だ! 大体おれだってそんな、す、好きとか、そんな、まだそんなんじゃ……」
「いーや、好きだね。ベタ惚れさ。アタシとデビュラが二人でいたことすら理由を聞かなくちゃ耐えられなかったんだろう?」
「うっ…………」
抵抗しても無駄だってのに、この娘は。
「…………お、おれ、やっぱりそうなのか?」
「デビュラを目で追って、他の女といるのを見ると苦しくなるんだろ?」
「…………うん」
「そりゃあ恋さ。しちまったもんは仕方ない。アニカはようやく女として一歩踏み出したんだ」
そう告げると、苦い顔をする。
前から男だのなんだの言ってたからねぇ。
どこからどう見たって可愛らしい女の子なのに。
「は、はは…………おれ、やっぱりおかしくなっちまったんだな……」
「……おかしくなんてないよ。そういうもんさ」
「お、おかしいよ。だっておれ、男なのに、男だったのに、男を好きになるなんてありえねえのに……」
アニカはとうとう涙を流し始めちまった。
ああもう、世話が焼ける!
「シャキッとしな! デビュラが泣いてる女なんて見たら心配するだろう!?」
「し、心配……? そ、そうかな……もっと追い詰めるんじゃ……」
「アンタの中のデビュラはどうなってるんだい……?」
そんでもってなんでそんな鬼畜に惚れてんだ。
「……はぁ……おれ、もう、女なのかぁ……」
そう呟くアニカの表情は、何とも言えなかった。
「…………う。や、やっぱ無理。おれ女じゃない。男だって。ダメだろ、デビュラを好きになっちゃ。あの時だってそうだ、別にデビュラ見て興奮してたわけじゃねーし。組み伏せられてるヴァルバロッサとかがシコれただけで別に……ち、違う違う!! お、おれは女じゃ、う、うおおおおおっ!!!?」
「……もしデビュラがアニカを抱きたいって言ったらどうするんだい?」
「そ、それは……そんなの……こ、こと、ことわ……」
語るに落ちた。
……これじゃあ、一対一で話すのは許可できないね。
流れで抱かれちまいそうだ。
そうなったらデビュラはともかく、アニカは後悔する日がくるかもしれない。
そうなるくらいだったら、嫌がられるかもしれないけど、アタシが一緒に居てやるしかないね。
好きな男にいいように見られたいからって、外出用の服に着替える奴のどこが女じゃないって?
あの時の顔、見せてやりたいよ。
……デビュラが誠実であることを、祈るしかないねぇ。