ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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22 【勇者】アリアンロッド・モーナ②

 生死の境を彷徨った少年は、ヴァシリの治療によって事なきを得た。

 

 大人達は事前に白金等級冒険者という社会的地位と信用が保証されている人物に説明されていたが故に『これが【勇者】になることなのか』と戦慄した。

 

 そしてそれと同時に、そんな危険な状態である子供の起こした事件を一瞬で片付ける彼女の能力は更に信用され、アリアを気遣う大人が大半だった。

 

 だが、子供達は違う。

 目の前で人の部位が吹き飛び血肉が飛び散る様を見せつけられた子供はトラウマを抱えアリアを見るだけで怯えるようになり、肉を見ると吐くような子供まで現れた。

 

 事態を重く見た村長はモーナ夫妻とヴァシリを交えて話し合いを行い、一時的に村の外れに隔離することを決定。衣食住はヴァシリによって保証されているためそちらについては問題なく、モーナ夫妻が会いにいくことで精神的な部分でのケアも並行して行う。

 

 大人からすれば十分に配慮した結果。

 

 だが、アリアは塞ぎ込んだ。

 従来の活発さは鳴りを潜め食事量は減り夜中も魘されるようになった。唯一楽しんでいた座学においても積極性を見せることがなくなり、言われるがまま、教えられる通りに吸収していくだけ。

 

 アリアは、撥ね飛ばした少年の声が、目が、忘れられなかった。

 

『ギャッッッ!!!』

 

 短い悲鳴。

 だがその後に続いた、長くて、恐ろしく感情のこもった絶叫。

 

『あ、あ、あ、ああああああああああッッッ!!!!??』

『……ひ……ゃ、え、あ、なん、で……』

『わあああああああッッ!!! うううううううっ!!!?』 

 

 近くに佇むアリアから逃げるように、肘から先がない腕を使ってまで這いずる姿。

 べっとりと身体についた血。

 血に混ざるぷるぷるとした、何か。

 

 自分がどれだけ騒いでも非難するような目を向けてこなかった幼馴染が、怯えてアリアから逃げる。その手足は捻じ曲がり、左腕に関しては半ばからどこかへ飛んでいった。

 その時の血肉が頬に、服に、付着している。 

 

 それまでの全部が無くなった気がした。

 もう、今の自分は普通じゃないんだと理解した。

 

 ──わたしは、とくべつなんだ。

 

 わたしが、言うことを聞いてればあんなことは起きなかったのに。

 

 頬にいつまでも生暖かい感触が残ってる。

 肉を食べられなくなって、血の匂いがダメになった。

 

 わたしが言うことを聞かないから。

 わたしが勝手に遊びに行ったから。

 わたしが、わたしが──わたしのせいだ。

 

 わたしは、とくべつだから。

 

 そうして──アリアの心は折れた。

 未来で世界の命運を担う双肩は、今はまだ、か細い少女のものだったから。

 

 

 

 なのだが、話はここで終わらない。

 アリアがすっかり塞ぎ込んでしまってから一週間、ヴァシリは一人の少年を家に連れ込み堂々と告げる。

 

『えー……今日から一緒に頑張っていくことになりました。フィン・デビュラくんだ。はい、アリア。挨拶しようね』

『おす。げんきか、アリア』

『……?????????』

 

 そこにいたのはアリアが轢いた幼馴染ことフィン・デビュラだった。

 

 この世の人間の殆どが経験することがないであろう理不尽な一撃。

 全身が岩石よりも硬い自分と同じくらいのサイズを誇る何かが高速でぶつかって肉体が弾け喚き泣き叫ぶことしか出来なくなるような思いをしたのにも関わらず、なぜかフィンは突撃してきた張本人に会いにきた。

 

『えっ……し、師匠? これどういう……え?』

『いやあ……ちょっと色々あったというか……ね、フィンくん』

『はい。おれもああなりたいんで』

『難しいよとは伝えたんだけどね……フィンくんはアリアのように強くなりたいらしい』

『わたしみたいに……?』

『うん』

 

 わたしみたいに強くなりたい。

 

 何を言われたのか一瞬理解できなかった。

 

 だってアリアは普通じゃない。

 おかしな“とくべつ”なのだ。

 ただちょっと全力で動いただけで幼馴染を殺しかけてしまうような、とくべつ。

 

 ──こんな風になりたいわけじゃなかった。

 

 ヴァシリに言われるがまま聖剣に触れて、気がついたらこんなになってしまった。

 

 ご飯は家族で食べたい。

 自由に遊びたいし、寝る時も両親と一緒に寝たい。

 

 なんで?

 どうしてわたしは“とくべつ”なの?

 これの何が“とくべつ”なの?

 とくべつじゃなくて、“おかしい”じゃないの?

 それが、今のわたし。

 

 “おかしいわたし”に、なりたいの?

 

『……なってよ』

『ん?』

『じゃあ、わたしの代わりに……“とくべつ”になってよ!!』

 

 八つ当たりだった。

 決してフィンが悪いわけではない。

 ただ、アリアは現状に鬱憤が溜まっていて、トラウマも合わさり激情として発露された。ヴァシリとてケアを怠っていたわけではないが、相手は子供。

 大人の理屈なりに心を砕いても、それで全て解決するほど素直ではない。

 

『ねぇっ!! なんで! なんでわたしは勇者なの!!? なんで!? どうして普通じゃないの!?』

『……それは、君が……』

『なんでわたしなの!? わたしじゃなくてもいいでしょ! わたしは──“とくべつ”なんかに、なりたくなかったのに……!!』

 

 ぎゅうっと胸元を両手で掻きむしりながらアリアは叫ぶ。

 

 普通が良かった。

 大好きな両親と一緒に暮らしたい。

 朝は母が起こしに来て、畑を耕している父と昼食を食べて、夕方は友達と遊んで、寝る時は両親と一緒に寝る。

 

 そんな普通に、アリアは戻りたかった。

 

 こんな、こんな──友達を殺してしまうような力は、欲しくなかった。

 

 それは他でもない彼女の本心であり、ヴァシリも何も言うことはできなかった。

 

 ──だが、ここにはアリアが傷つけてしまったのにも関わらず自分から近寄ってきた奇特な少年がいる。

 

 泣き喚くアリアをキョトンとした顔で見ながらあっさり言った。

 

『え、おれは“とくべつ”になりたいんだけど……』

『…………うん、まあ、そうなんだけど……フィンくん、ちょっとこっち来ようか』

『???』

 

 首根っこ掴まれて家の外に連れ出されるフィンを呆然と見送り、アリアの流していた涙が引っ込んでいった。

 

 そして一人戻ってきたヴァシリは、アリアの前で膝をついて屈んで目を合わせて言う。

 

『アリア。何度も言うが、君が彼にしてしまったことは、私の責任だ。君のせいじゃない』

『……でも……』

『いや。私が〈知識〉に頼りすぎたのが原因だ。いい結果もあれば、悪い結果もある。わかっていた筈なのに、油断していた私の落ち度だ。すまなかった』

『…………なんで、私なの?』

『それは……わからない。私に君のことを教えた奴は、“神の性癖”なんてふざけたことを言っていたが……ただ一つ確かなことは、君がその運命から逃れることはできないということだけだ』

 

 理不尽極まりない言葉。

 ただ、〈聖剣〉なんてものを使えてしまうのはこの世界に彼女ただ一人だけ。

 それこそが彼女を【勇者】として扱うに足る、唯一無二の証拠だった。

 

『私もそうだ。アリア、私は今から十年後に死ぬんだよ』

『え……?』

『君が〈勇者〉であることから逃げられないように、私も待ち受ける運命から逃れることはできない。奴曰く、“胸糞CG”なんて言っていたが……つまり、君がフィンくんにやったことよりもずっと酷い目に遭って死ぬんだ』

 

 詳細は省くがね。

 そう呟くヴァシリの目は嘘をついているように見えず、むしろ、この現実を諦めて受け入れているようにも見えた。

 

『この世界には【預言者】がいる。未来で起きること、人の行く末がわかってしまう連中のことだ。私はそいつらの中でも特に信頼性の高い連中に具体的な破滅を宣告されていてね。そうなってたまるかと色々足掻いてはみたものの、このままだと間違いなくその末路を辿ることになる』

『……“とくべつ”なの?』

『そうとも。私もアリアと同じで“特別”なんだ』

 

 でも、と区切る。

 

『君は特別な中でも、更に特別なんだ。定められた運命はいくつもの未来で分かれ、破滅の道もあれば、栄光の道もある。君だけ、この世界で君だけは、いい未来を選んでいく力がある。それが【勇者】であり、この世界の主人公だ』

『…………決まってるの?』

『そうとも。今から五年後、この村はモンスターの襲撃に遭う。ほぼ全ての村人が死んで、君と一部の村人だけが助かる。そういう運命だ』

 

 ──ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。

 

 預言、運命、特別。

 まだ幼いアリアには難しい言葉だったが、なんとなく何を言いたいのかは理解できた。

 

『……お、お父さんは?』

『死ぬよ』

『お、お母さん! お母さんはっ!?』

『死ぬ。生き残れるのは、君と、君の敵になる人だけだ』

『やだ、やだやだぁっ!! なんで!?』

 

 脳裏に浮かぶのは、先日のフィンの姿。

 腕が弾けて、足も曲がって、血まみれの状態で地面を這いずって。

 あんな風になる。

 あれが、死ぬということ。

 あれよりも酷い目に遭う運命?

 

 わからない。

 わからないことばかりだけど、そんなのは嫌だと思った。

 

『その未来は決まっている。君の力でどうこう出来ることじゃない。これは、そういう決まりなんだ』

 

 言葉を失うアリア。

 だがヴァシリは、そこで言葉を止めなかった。

 

『────だから私はここに来た。君の未来に干渉するために』

 

 胸元から取り出したのは、無骨なロングソード。

 

 だがアリアは知っている。

 それが〈聖剣〉と呼ばれる、彼女を【勇者】にしてしまった一振りだと。

 

『五年後、村が壊滅し生き延びた君は王都で冒険者となる。一人で始めた冒険は一人、二人と仲間を増やし、やがて現れる魔王軍との熾烈な戦いへ身を投じることになるんだ。でも、わざわざそれを大人しく待つ理由はないだろう?』

 

 魔力で強引に剣を動かして、ヴァシリは柄をアリアへと向ける。

 

『村娘だった君は、クローゼットで怯えていることしか出来なかった。父が、母が、モンスターに殺される様を怯えながら見ることしか出来なかった。でも、今の君はどうだ? 人一人簡単に殺せてしまうような君なら、モンスターに対抗できると思わないか?』

 

 アリアは、恐る恐る頷く。

 

『もし君がモンスターの襲撃から両親を守れたのなら、それは──運命を覆したということに他ならない。私は、アリアならそれが出来ると思っている』

『……わたし、なら?』

『ああ。他でもない君なら──〈聖剣〉を起動したアリアだからこそ出来るんだ』

 

 じっと剣を見つめる。

 

 この剣に良い印象はない。

 アリアンロッドという一人の村娘が、人の形をした“ばけもの”になってしまった原因。

 これさえなければ、これに触れなければ、ヴァシリがアリアを見つけていなければ、きっと彼女は今でも変わらない生活をしていた。

 

 両親に愛されながら、友達と遊んで健康的に育つ──そんな、なんの変哲もない少女として。

 

 でも、そうはならない。

 

 近い未来で両親が死ぬ。

 村のみんなが殺される。

 自分が幼馴染にしてしまったことよりもずっと酷い目に遭う。

 

 アリアが何をしようがその運命は変わらず、いずれこの剣とは出会う運命だった。

 

 ────“とくべつ”。

 

 おかしな身体になってしまったこと。

 他の誰もまともに持ち上げることすらできない剣を振り回せてしまうこと。

 

 もう、“普通”には戻れない。

 

 戻っても、また“とくべつ”になる。

 いや、このまま普通になってしまったら、両親も、友達も、自分だって死んでしまう。あんな風になってしまう。

 

 それは────何よりも恐ろしいと思った。

 

『…………わたしは、お母さんを、お父さんを、守りたい。守れるように、なりますか?』

『ああ』

『わたしは、“とくべつ”でも、良いんですか?』

『同じ“特別”として歓迎するよ』

 

 柄を手に取る。

 

 光の粒子が集い、聖剣は姿を変えた。

 

『……じゃあ、なります』

 

 世界を救うとかは、正直どうでもいい。

 でも、そうなることで、大切な人を守れるなら。

 そして、死なずに済むのなら──アリアは剣を手に取った。

 

『わたしは、【勇者】に、なります』

 

 “特別”な【勇者】。

 この世で唯一預言を覆し者。

 いずれ世界に名を轟かせる勇者の産声は、今この瞬間あがった。

 

『ならば、私は君を導こう。いずれ訪れる破滅の日まで』

 

 ヴァシリは【勇者】の誕生を祝福した。

 

 二人は視線を交わし、見つめ合う。

 

 破滅を預言されたダークエルフと、未来を破壊された勇者。

 

 そしていつの間にか戻ってきて聖剣を見て目を輝かせている少年、フィン・デビュラ。

 

『なあ、その剣なに?』

『これは〈聖剣〉だ。アリアが勇者たる象徴だね』

『へぇ。ちょっと貸してくれよ』

『え? い、いいけど……』

 

 アリアが柄を手渡すと、フィンはそのままグンッと地面に吸い込まれた。

 

 ──バギャッ!!!

 

『あがあああああっっ!!?』

『──何やってんの!?』

 

 アリアが慌てて聖剣を回収し、ヴァシリが治癒をする。

 

 顔面が床に叩きつけられ重さで腕が潰れていたフィンは鼻も骨折し痛がっていたが、それでも楽しそうに言った。

 

『へぇえ、これが“とくべつ”?』

『え、あ、うん。そうみたい……』

『いいなぁ。おれも使ってみたいなぁ』

『……無理だよ。これは、アリアしか使えないんだ』

 

 だから、君は“特別”になれない。

 そう告げようとしたヴァシリより先に、フィンが続ける。

 

『ちぇっ。でも、“とくべつ”になろうとするのはいいんでしょ?』

『……えっ。フィンが?』

『うん。アリアだけだとたいへんだろ。おれもなってやるよ』

 

 目をパチクリとさせるアリア。

 

『……一緒に? “特別”になるの?』

『いやか?』

『うっうううん! うれしいよ!』

『ならいいじゃん』

『うん……うんっ!』

 

 “特別”になることは、寂しいこと。

 

 これまでの半年でこの生活が寂しくて切ないものだと思ったアリアは、人生を寂しく過ごす覚悟を決めていた。

 友人とは二度と遊べず、普通には戻ることはできない。

 でも、そうしなければ誰も守れないというのなら。

 この力を使いこなせるようになるのならば。

 

 幼いながらにその覚悟を決めて受け入れた──それだというのに、怪我をして怯えていた幼馴染は、当たり前のように言った。

 

 おれも一緒にやるよ。

 ただその一言だけで、アリアの心は軽くなった。

 遠い未来、フィンと、ヴァシリと肩を並べて一緒に過ごす日が来るのだと。

 

 無邪気にそう思った。

 

 

 ──だが、現実は非情だ。

 

 

 フィンを交えて始まった修行は、わずか一ヶ月で別々に行われるようになる。

 

 順調に進むアリアに対し、フィンは家に戻っては寝る生活。

 その日はどうだったという話をしても途中で居眠りしてしまい、フィンと会話する時間は少しずつ減っていった。

 

 ヴァシリに相談しても『大変だから、仕方ない』と言われるのみで、全く改善されず。

 

 フィンもそれに対し文句を言ったりしないのでしょうがないと受け入れていたが、アリアは自分と一緒になると言ってくれた幼馴染ともっと仲良くしたかった。

 

 ──フィンともっと喋ってたいのになぁ。

 

 特別な自分と唯一共にいる幼馴染。

 まあ、気にならないわけもなく、たまにフィンのベッドに潜り込んで一緒に寝たりもした。人肌恋しいというより、ヴァシリ以外で一緒にいてくれる友達を特別に想い始めていた。

 

 三人で暮らし始めて半年が過ぎた頃、言い渡されていた宿題を終えたアリアはヴァシリとフィンの様子を見に行くことにした。

 

 そこで──手足が折れて顔をパンパンに腫らし、血を吐きながらヴァシリと組み手を行っているフィンの姿を見る。

 

 叫びながら、苦しみながら、吐きながら、それでも立ち上がって戦おうとする、幼馴染の姿を。

 

 そんな幼馴染を、ダークエルフは容赦なく蹴り飛ばす。

 

『まだだッ! そんな程度か!? フィン・デビュラ! そんな程度じゃいつまで経っても追いつけやしないぞ!!』

 

 自分に指導する時とは全く違う気迫を見せるヴァシリ。

 情け容赦のない一撃が、折れた足に刺さる。

 

『ぎゃああああああああっっ!!!』

『叫ぶ暇があったら防げ!! 筋肉で動くんだ、教えただろうッ!』

『あがあああああッ!!? ごええええっ!!』

 

 びく、びく。

 不気味な痙攣を起こし倒れ込んだフィンに、ヴァシリは更に追撃。

 

『寝るな! 寝ている暇なんてない! アリアはこの程度じゃ倒れないッ!!』

『うげっ!!? ごえぇっ!!』

 

 倒れたフィンの腹部に叩きつけるような踵落とし。

 

 何も入っていない胃液が口から出た。

 

 意識を取り戻したフィンが、ヒュ、ヒュ、とか細い息を漏らしながら、折れた両足でゆっくりと立ち上がる。

 

『っ、ぐ、う、ふぐうう、ぐううっ、おごっ……!』

 

 痛みを堪え、悶えながら、それでもフィンは立ち上がる。

 

 そして、ヴァシリが再度殴りかかる。

 そこに躊躇いは一切ない。

 折れた腕を動かそうとして、痛みに耐えかねたフィンは身体をビクッと反応させるにとどまった。

 

 ──ボギっ!!

 

 フィンの頬に殴打が突き刺さる。

 

 ふらりと後ろに倒れ込んだフィンは、それでももう一度立ちあがろうとする。

 

『腕を動かせ! 骨じゃなく筋肉を意識するんだ! 出来るようにならないと死ぬぞ!』

 

 立ち上がり、折れた両手足で構えを作ったフィン。

 

 再度攻撃を加えようとして──寸前で、足が止まる。

 

 フィンの意識はすでになかった。

 立ち上がり、激痛に苛まれたまま気絶をした。

 

『…………今日はここまで。よく、頑張ったね……』

 

 先程までの勢いがなくなったヴァシリは、直立するフィンを抱きしめ、治癒を始める。 

 

 その光景を見ていたアリアは、言葉を失っていた。

 

 そのあまりの苛烈さに。

 そのあまりの残酷さに。

 

 その日、アリアは久しぶりに食事を拒み、早々に寝入った。

 

 それから一週間──アリアは、立ち上がることができなかった。

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