「ふいー……まったく、酷い目に遭ったのじゃ……」
ぷか~、とお湯から双丘と顔だけ出した状態で浮かんでいるテイア様が呟く。
つい先程部屋の片づけをしている途中に目を覚ました彼女は、その場でピカッと光ったかと思えば次の瞬間には今の素晴らしいボディに変身していた。元々そこまで幼いわけでもなくマリアンヌくらいだったのだが、カルラに匹敵するほどだ。
これが女神の力……。
大地の神の真の姿とでもいうのか!?
くっ、フィンフィンの規律を守りビュルビュルしないようにしなければ!
「あら、何か不満?」
「不満もクソもあるか! 溢れすぎて消化するだけで死ぬかと思ったわ!」
「我が使徒にたくさん注いでもらってよかったじゃない。おかげで本来の姿を取り戻せたんでしょ?」
「それは……そうじゃが……」
不満気なテイア様。
「数千年ずっと魔に染まってただけあって、おぬしのやり方は非常に……ひっじょ~に、ほんに不愉快じゃが、極めて適切だった。とにかく濃いが、妾を染め堕とそうとする性質ではなかった。魔を基に妾の本来の力の一部となっておるのが、腹立たしいのう」
スイーと湯舟を移動して、天井へと伸びた手に光が宿る。
そしてその手から、パキキ……と音を立てて木の根のようなものが伸びてくる。大地の女神、地母神と呼ばれた彼女の力の一端。
ギュッと手を握れば、ボロボロと崩れて湯に沈み、消失する。
「何千年と魔に浸かった成果がこれか、ルルクス」
「ええ。といっても、このアイデアは私のものじゃないわ。アニカが面白いことを言ったから、それを参考にしたのよ」
「魔と神を混ぜ、新たな存在へと至る。ククッ、邪神の戯言かと思うたが、よもやこのような力を作り出すとは……」
闇マリ曰く、魔とやらのことは彼女まだ理解しきれていないそうだ。
だがそれでも何千年と魔に染まりながらも抵抗しつづけ、俺と出会い悪感情をたっぷりと吸うようになってからは自分の力も増して魔そのものへ対抗できる量が増加。女神としての己と魔に染まった己で拮抗していたところに、アニカの言葉。
聖と魔を合わせれば最強じゃね、というシンプルなアドバイスにより彼女は魔との融合を果たした。無論、邪神は邪神。闇マリの闇の部分は健在だが、魔一辺倒ではなく女神としての力も自分で生み出せるようになった……らしい。
俺にはよくわからん。
魔の力も聖の力も変わんなくない?
ていうかそういう漠然とした力を全く感知できないんだよね。ほら、俺って根本的に凡人だから。
「…………しかし、納得できぬ」
神様の会話をぼんやりと聞いていたら、ぬるりと隣に流れてきたテイア様が姿勢を正し、隣に座り込んだ。豊満な大地の如き双丘を惜しげもなく晒し、しかしジト目で俺を見ながら言う。
「おぬし、なぜこれほど濃い魔を使徒に注いでおるのだ。人の形をしただけの魔ではないか、これでは。女神に見せていいものではないな」
「そりゃあ我が使徒だもの。特別性にしないと」
「いや、そのせいで女神特攻になりつつあるんじゃが……妾はおぬしに強引に降ろされたから見せつけられるまで正気でいられたが、ありのままの姿を見た弱神は狂ってしまうぞ」
「狂う程度で済ませると思う?」
にっこりと笑みを浮かべながら言い放った闇マリに、テイア様は何も言えずに押し黙り、俺の方を見た。
「……おう、おぬし。妾が言うのもなんじゃが、あやつやっぱり邪神ぞ」
「その邪神に隷属しちゃった哀れな女神は誰かしらねぇ……」
「あ、あぎぃっ!! や、やめるのじゃっ♡」
ムムッ!!!!!!!!!!!
闇マリに乳を握られあひんと鳴いている姿はまるで女神には見えない。
くっ……!
セラさんが来ていなければ、ここが浴場じゃなければ欲情していたのに……!
「ひ、ひぃいっ! おぬし、助けよ!」
「我が使徒、その駄女神をこっちに寄越しなさい。誰が主神かわからせてやらないと……」
「……ん? テイア様はテイア様だろ?」
主神もなにも、二人ともそれぞれ違う神様じゃん。
力の差はあっても主従とかはないんじゃないかと思ったのだが、闇マリは首を振った。
「いいえ? 既にテイアは私の眷属扱いね」
「えっ……眷属って、俺と似たようなものってことか?」
「正確には私が産み出した子供たちと同じ分類ね。太古の森人と似た感じかしら」
「ええと……神様ではあるんだよな?」
「そうよ」
……??????
わからんわからん。
バカにもわかるように説明してくれないと。
「……神だけど、力がなかった。私が身体を作って降ろして我が使徒が注ぎ込んだ結果、定着した。結果的に魔に染まらず神としての純粋な力が復活した状態で顕現したけど、肉体は私が作ったものだから私の眷属になった。どう?」
「わかるような、わからないような……」
「…………我が使徒と同じよ」
アッ、これ絶対説明するのめんどくさくなったな。
う、ううっ、バカでごめんなさい……
簡単なことも理解できない頭でごめんなさい……
いや~、俺の頭は昔闇マリの使徒に削られちゃってるからな笑
バカな理由の一つは闇マリだから許してよ笑
「…………」
「お、おぬし、よくもまあルルクスに歯向かえるの……」
「歯向かってなんかないさ。俺と闇マリの愛情表現だよオォッ!?」
が、があああッ!!
頭にッ指がッ脳味噌かき回さ、お、び、び、ウ、…………。
「や、やりすぎじゃろ! 死んでしまうぞ!?」
「死なないわよ。私が不死にしてあげたもの」
「ひ、ひぃっ……!! お、おぬし! 治してやるからとっとと戻ってくるのじゃ! ルルクスと二人で居とうない!」
「オ、オ、ゥ? お……」
ハッ……な、なんか頭の中ほじくられて気持ちいいような戻れなくなってしまうような……なんだったんだ、今のは……。
闇マリは流石だな。
俺もこの世のありとあらゆる苦痛を味わってきたと思っていたが、そんな俺でも感じたことのないようなマゾ快楽を当たり前のように与えて来る。俺の主神に相応しい。いや、彼女こそが俺の女神だ。
「…………妾を屈服させた雄がこの有様か……」
「安心しなさい。誰もが通る道よ……」
神様二人が遠い目をしている。
「ハァ。とにかく、そういうわけじゃ。妾は地母神テイアであるが、ルルクスめに隷属させられた哀れな存在でもある。わかりやすく言えば、使徒にされたことで死から蘇生されたおぬしと、死の定めしかない状態でルルクスに拾い上げられたのが妾じゃ。一緒じゃろ?」
「おお、そう聞くと確かに……ところで、さっき言ってた俺が魔そのもので女神特攻ってのは?」
俺が知らないところで俺の属性がまた増えてるんだよね。
いい加減自分のことくらい知っておきたいので隠し事せずにしゃべってもらおうとしたのだが、彼女は口を尖らせて目を顰めそっぽを向いた。
「……言いとうない」
いや、そこが一番大事なところだろ。
俺が魔で女神特攻ってなにさ。
神様特有の視点で見てるのはわかるんだけど、そういう情報も出来るだけ知っておきたいの。盾役だし、もしかしたらそれが活きる瞬間もあるかもしれないだろ。
「闇マリ、どういうことだ?」
「…………」
「う、お、妾を無理やり喋らせようとしておるなっ!? そうはいかぬっ! 地母神の名にかけて口を閉ざすのじゃ!」
「『言いなさい』」
「おぬしの魔羅は女殺しの権能が付与されておる上に魔がこびりついておるから、強力な女神でもなければ雌の本能に屈服させられてしまうのじゃ」
「女殺し……」
アリシアさんとかに言われてきたけど俺ってそういう段階なの?
ていうかなんでおちんちんにそんなもんが宿ってんだよ。
あのさぁ、俺はそんな摩訶不思議魔羅が欲しかったんじゃないんだよ。男らしい盾役として社会的に十分な立場と収入が得たかったんだよ。見せるだけで女神を魅了するちんちんなんて別に欲しくないよ。
もうちょいあるだろ……!
「あんなに騒いでた割にノリノリだったのはそれか……」
どう考えてもおかしいと思っていたが、謎が解けた。
てっきりめちゃくちゃえっちが好きなのかと思ってたよ。カトリーナの前であんだけ騒いでたのに闇マリが俺を脱がした瞬間自分から擦り寄ってきたもんな。
「へふぅ…………」
テイア様はぶくぶくと泡を吐き出しながら湯船の中に沈んでいく。
「ていうか、それ大丈夫なのか? エッチしない方がいいよな」
「そこら辺は心配しなくていいわ。私だって我が使徒を見てきたのと同時に我が巫女やカルラたちを見てきたもの。色狂いの廃人になって欲しくないから普段の出力は制御してるのよ。さっきは八割くらい本気の権能だったわ」
「……そうか……。そのついでに俺の性欲も制御してくれないか」
「それは不可能よ。わたしの力を大きく超えているわ」
「うそだろ……」
邪神の力を大きく超えてる性欲ってなに?
やっぱり俺は存在するべきではないんじゃなかろうか。
「心配することはないわ、我が使徒」
そう言いながら、闇マリは俺の頭を抱きしめる。
「あなたは私の愛しい子。平気よ。私が魔に飲み込まれない限り、あなたも道を踏み外すことはない。子は親に似る。なら、私が私である限り、あなたもあなた。女神ルルクスが保証するわ」
アッ、闇マリママ〜。
バブっ、バブバブっ! オギャア!
ママの聖なるオーラ、暖かいよぉ……!
ほら、全身包まれて……あれ、なんか光ってるな……ん?
身体が軽い。
浮いてる感じがする。
ていうかここはどこだ?
風呂は?
なんで川?
向こう側に立ってるのは……えっ、お前、ティム!?
死んだんじゃ!?
あの日馬小屋で冷たくなってただろ!?
金無かったからって外に埋めたのはごめん!
でもちゃんと弔ったから化けて出てこないでくれ!
え? コンティニュー? 東方DLCまだあるぞ? それってどうい
「──我が使徒? ちょっと……我が使徒!? ねぇ!? フィン!?」
ハッッッ…………!!
な、なんてことだ。
稀に見る闇マリの女神の部分に包まれて昇天するところだった。
五年以上前に死んでるはずのあいつが居た時点で何かおかしいと思ったんだ。危なかった。もう少しで死ぬところだった。
なんか言ってたな。
コンティニューだとかディーエルシーだとか……なんだったんだ?
「は、はああぁぁ……!! お、驚かせないでよ、本当に……!」
「むもがっ」
おっ、おおっ……闇マリの抱擁……。
でもこれマリアンヌの体と同じなんだよな。
つまり今、俺はマリアンヌに抱きしめられているのと一緒。ごめん、マリアンヌ! 俺闇マリでマリアンヌの身体味わっちゃってる……!
「こ、今後の課題ね。我が使徒にもちょっとずつ施していかないと……うっかり消し飛ばしかねないわ……」
闇マリの光の部分が闇みたいなこと言ってる……。
浄化されかねないほど汚いってこと?
哀しすぎて心が泣いちゃったよ。
うっ、うう……♡
「……どちらにせよ、しばらく大人しくしててくれ。セラさんを下手に巻き込みたくない。実験には付き合うが、やるならエヴァのところでやろう」
「……我が使徒がそういうなら、そうしましょ」
少々タイミングが悪い気もするが、ちょうどいいとも言える。
俺は変わると誓ったんだ。
性欲に支配されない立派な紳士になるんだ。
セラさん、見ててくれよ。
俺はきっと真人間に戻ってみせる……!