フレデリカとセラさんがやってきて数日が経った。
言われた通りつい先日まで乱れに乱れていた生活を禁じ童貞だった頃の生活に戻っているのだが、なんというか、俺自身はそこまで負担がない。
お茶を飲みながら、リビングでのんびりする。
不思議な感覚だ。
あれだけ毎日肉欲に満ちた生活をしていたというのに、何もしなくなっても何とかなっている。淫行のしすぎでおかしくなってしまったのか? 童貞だった頃の俺は隙あらばマゾ妄想に浸っていたが、今の俺は寝る前に寝取られマゾ妄想をする程度だ。
やはり、俺はおかしかったんだ。
アリシアさんにマゾバレして以降解き放たれていたと思っていたが、違った。あれは鬱屈した精神が表に出てきていただけなんだ。そうでなければ闇マリに闇を吸い取られたりするものか。これでいいんだ。たくさんの美女を好き放題出来る立場はそれはもう文句のつけようもない程素晴らしいが、そんな欲に負けてはいけないのだ。
『うっふ~ん♡ テイアじゃぞ~♡』
!!!!!!!!!?!?!?!?
突然目の前にエロエロボディのテイアさまが現れて、きわどい下着でエッチな動きをし始めた。
うおっエッロ……! なんじゃそのおっぱいは! 豊穣すぎるだろ!
『この体たらくでよくぞまあそんなこと言えたのう、おぬし』
目の前で美女がくねくねしてたらそりゃあ興奮くらいするだろ。
だけどねテイア様、以前の俺は何もなくても突然興奮してはアリシアさんにドン引きされる日々を送っていたんだ。それと比べれば今の俺がどれだけ理性的か、わかるだろう?
『そりゃおぬしの性欲が暴発せんのは我らがコッショリしているからじゃからの』
エッ!!!?
ね、寝てる間に俺を!?
く、くううっ♡ 身動きが取れなくて意識のない俺を襲って搾り取るだなんて、なんて非道を……♡
『気絶してる女相手に好き放題しとったおぬしが言うことか? というか、おぬしの溜め込んだモノが多すぎてルルクスがぽっこりしておる。もう少し加減したもれ』
ああ、また闇マリぷっくらしてる感じ?
道理で出てこないと思った。
前にそうなった時ぽっちゃり煽りして酷い目にあったからな、俺が。ちょっとぷっくらしてるマリアンヌで可愛かったんだよ。
『おぬし……命知らずじゃのう……』
ううむ……しかしそうなると、俺が妙にスッキリしてるのは闇マリが吸ってるからで、俺の心が正常に戻りつつあるわけではないのか……? いやでも、アリアと一緒に飯作ったりして結構健全に幸せな日々を過ごしてるんだが……。
『…………誰がぽっちゃりよ』
『ぬ。我慢できず出てきおったわ』
おお闇マリ。
確かにちょっとふっくらしてる感じが……でも前より全然じゃない? 毎日見てないと分かんない位だと思う。
『そうでしょうね。我が使徒の心は落ち着いてるわ。少し性欲が溜まっててどうしようもないけど、それはもう我が使徒の特性みたいなものだから仕方ないわね』
全然仕方なくないんだけど。
俺の特性は性欲強いなの? アリシアさんみたいに感情が読める訳でも無ければアリアみたいに聖剣が持てるわけでもなく、ただ性欲が強い? 嫌すぎるだろ。
『それより我が使徒。あなた、我が巫女のことどうにかしなさい』
……ん? マリアンヌのこと?
どうにかって、マリアンヌに何かあったのか?
『あの子、我が使徒よりちょっと多いくらい闇を放出してるわ。このままじゃ病むわよ』
えっ、マリアンヌが?
俺よりちょっと多いくらいの闇を……?
それはもう、ちょっと病んでるのでは? 本当に大丈夫?
『そこまではないわよ。あの子の負の感情は性欲に直結してるから淫夢を見せて何とかしてるわ』
淫夢!? そんな手段があるの!?
だけどまあ、俺の身体をえっちに見ていたマリアンヌだ。確かにちょっとえっちな欲求があるなら、それを夢で解消するのは悪いことじゃないか。俺もやって欲しいくらいだ。
『ええ。見せる度に自己嫌悪抱いてるけど』
なにも解決してねーだろそれは。
でもそれって俺がなんとかできることか? いや、俺ができることならなんでもするけど、性的な欲求と直結した辛さってことだろ。同じ女性の方が気遣えるんじゃない?
『……一般的にはそうかも知れないけど、今回は違うわ。我が使徒じゃないとダメなことよ』
俺じゃなきゃダメ……。
なるほど、同性には言えない、言いたくないことか。
俺がどれだけ力になれるかわからないが、マリアンヌのためだ。一肌脱ごう。
『ええ。頼みましたよ、我が使徒……』
そう言って闇マリは姿を消す。テイア様もいつの間にか消えており、リビングには俺だけが残された。
……しかし、マリアンヌがそんな辛い目に遭っていたなんてな。
闇マリが直接忠告しに来るほどに思い詰めていたと気が付かなかった自分が情けない。あれだけ助けてもらって気をかけてもらったのに、俺は彼女が我慢していることにすら気が付かなかった。
当然か。
なにせ、俺はマリアンヌが俺を性的な目で見ていることすらわからなかった。
俺は彼女のことをわかっているようで、全然わかっていなかったんだ。
禁欲して思い上がっていた。
俺はみんなのことを理解できてないんだ。
たかが性欲と趣味を抑えた程度で、真人間になれるわけもない。
わかってる。
だが、それで落ち込んでばかりはいられない。
アリアに誓ったことだ。カルラに誓ったことだ。いつの日か、闇マリに心配されなくても良くなるために、この苦しさに耐えなくちゃいけない。
──まともになるのって、大変だなぁ。
ため息を吐いてから、腰を上げてマリアンヌの部屋に向かった。
◆
夢を見る。
浅ましい、私の願望が形になったような夢。
大好きなフィンさんと結ばれて、幸せな毎日を過ごす夢。抱きしめられた状態で目を覚まして、一緒にご飯を作って、ゆっくりおうちのことをして、昼下がりから買い物に出掛けて、夕方にご飯を作り始めて、晩御飯を食べて、夜は、夫婦の営みをする。
夢を見ている。
ここ数日、ずっと私は夢を見ている。
フィンさんに抱かれる夢、フィンさんとえっちなことをする夢、フィンさんと……私の浅ましい欲望が形になった悪夢を、ずっと、ずっと。
ごめんなさいフィンさん。
私は卑しい女です。
こんな、フィンさんでこんな妄想をして夢に見てしまうような、淫らな女。
みんなで我慢しようって決まったのに。
私はその、ちょっとの我慢もできないの?
自分自身すら抑制できない、甘ったれた女。フィンさんみたいに苦しんで精神を病んだわけでもなく、ただ自分の性欲に振り回されてる未熟な女。
顔向けできない。
どんな顔でフィンさんに会えばいいの?
えっちして欲しいの?
出来ないのに。
抱いて欲しいの?
今はダメなのに。
短い時間すら我慢できないの?
自分が、醜くて仕方がない。
他のみんなは平然としてる。
バレちゃいけないって、真面目なのに、私だけこんな、性欲に振り回されてるのが、情けない。
私はどうすればいいの?
どうしていいの?
わからない。
わかんない……。
フィンさん。
頼れない。
頼っちゃダメ。
このくらいのことも乗り越えられなくてどうするの。
大丈夫、大丈夫、私は平気。
私は聖女だ。
名ばかりかもしれない。
エヴァンジェリンさんやフレデリカさん、セラフィーヌさんには勝てないかも知れない。女としても聖女としても底が浅い。でも、私は【払暁】のマリアンヌだから。
これくらい、なんともない。
きっと大丈夫。どうにかできる。私はフィンさんの隣に立っていたいから。
毛布を握りしめて、体を丸める。
寝よう。
寝れば、落ち着くから。
その間は、この罪悪感を忘れていられるから。
今度は、夢を見ませんように。