ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

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24 【勇者】アリアンロッド・モーナ④

 

 ヴァシリとフィン、アリアの三人生活が始まって五年の歳月が経った。

 

 フィンは変わらず痛めつけられてはいるが、たまに様子を見に行ってハラハラした後治療するくらいのことをアリアも出来るようになったため、当初に比べれば関係性は改善されている。

 

 それに、アリアはフィンに恋をしている。

 アリアが『あ、好きなんだ』となったのは十二歳の頃。

 両親が訪れた際、母に相談した結果それは好きだということだと知らされた。もちろん周りの大人は全員とっくの前に察していたが、大人が言うことでもないかと思い子供が聞いてくるまで待っていたのだ。

 

 まさか数年もの間恋をしている自覚すらないまま過ごすとは、ヴァシリですら考えていなかっただろうが。

 

 恋を自覚してから妙にボディタッチが増えたアリアは幼い頃と変わらない距離感で接した結果、二人の事を見に来たそれぞれの親に何ともいえない顔で見られていたりもした。健全なお付き合いをさせていますと真剣な表情で伝えるヴァシリがいたとかいないとか。

 

 なんとなくこのまま一緒に過ごしてくんだろうなーと思っていたアリアはある日、ヴァシリが食事中に放った一言に衝撃を受ける。

 

『フィン。私達が出て行った後はどうするんだい?』

『王都で冒険者やるつもりだが』

 

(────え?)

 

 ピタ、とフォークが空中で止まった。

 

 行き所を失ったサラダがプラプラと揺れている。

 

『冒険者か。私が推薦すればそれなりの待遇は受けれるが』

『いらない。俺はアリアのおまけだと自覚してる』

『私の見立てだと銀等級くらいにはなれると思うけどね』

『師匠の弟子を名乗る銀等級なんて偽物だろ』

 

 結局、フィンの修行内容が改善することはなかった。

 座学はあるし技術を習得するために型を学ぶことも多かったが、フィンにはアリアのような才能がない。アリアが一を聞いて十を知るのならば、フィンは十を聞いて一を知るのだ。

 

 自分が足踏みしている場所をあっという間にアリアが乗り越えていくのを五年間ずっと見て来た結果、フィンはこういった言動をするようになった。

 

 と言ってもそれが原因で関係が拗れるようなこともなく、あくまで客観的な評価であり、その自己評価が大事だとヴァシリも教えているためフィンからすれば(俺とアリアはまるで天と地ほどの差があるな)程度の認識に過ぎない。

 

 別に卑下しているわけでもなく、ただの現実だと受け入れているだけなのだが──問題はアリアの方だった。

 

 フィンが自分を蔑むような発言をする。

 その度に、アリアは胸が苦しくなる。

 

 決してアリアはフィンのことを〈おまけ〉なんて思っていない。

 

 今では距離を取っている同年代の子供たちと違って、ただ一人自分を恐れず一緒になってくれた男の子なのだ。しかも追い付くために努力も欠かさないし、文字通り血反吐吐いているのに決して弱音を口にしない。

 

 他の誰に出来る?

 誰にだって出来やしない。

 アリアにとってフィンは唯一無二だ。

 

 誰にもおまけなんて言わせない。

 フィン・デビュラは、アリアンロッド・モーナの特別なのだから。 

 

 フィンのこれが、愚痴や文句ではないことはアリアもわかっている。

 

 わかっているうえで、言って欲しくないのだ。

 

 なぜなら、アリアは────フィンが好きだから。

 好きな男の子に、『俺はアリアのおまけだから』と言われて嬉しくなるわけもなく。実力的な観点で見ればおまけも良い所なのだが、アリアは恋する乙女なのでそんな理屈はすっ飛ばしている。

 

 ──いや、フィンはおまけなんかじゃないんだけど。

 ──いや、そもそもなんで王都に行くの?

 ──いや、フィンは私達と一緒に行くんでしょ。

 

『私は別に構わないよ。フィンは紛れもない、大切な弟子だ』

『俺が嫌だ。師匠の弱みになりたくない』

『……ふぅん。言うようになったねぇ、このこの』

『ふががふが』

 

 嬉しそうなヴァシリが手を伸ばしてフィンの頬をつねる。

 

 フィンはそれに対し表情の変化は少ないが、心なしか嬉しそうにしている──ような気がした。

 

 ──なんか距離近くない?

 アリアは額に青筋を浮かべながら、持て余していたサラダを口に放り込み雑に肉へフォークを突き刺した。

 

 ドスンッ!

 

『……なんでフィンが一緒に来ないの?』

『足手まといになりたくない』

『足手まといなんかじゃないッ! フィンは、私と同じだよ!』

『いいや、違う。俺とアリアじゃ、全く違う』

『…………違くないッ!! フィンも一緒じゃないとダメだからっ! ごちそうさま!』

 

 フォークを突き刺した肉を強引に頬張り、フィンと睨み合うのが気恥ずかしくなったアリアは逃亡を選んだ。

 

 速攻で食べ終えたアリアは手際よく皿を片付け、『寝る時はちゃんと帰ってくるんだぞ』というヴァシリの言葉を背中で受けながら走った。

 

 逃亡先は外。

 一人になりたいとき、アリアは森の中に走っていく。

 強さとしては並大抵のモンスターに負けるわけもないし、一夜丸ごと外で過ごすわけでもなく、頭が冷えるまでの短い時間なのでヴァシリも気にしない。

 

 そして、アリアが目指しているのはいつも同じ場所だ。

 

『────……はぁ。またやっちゃった』

 

 フィンの修行場まで走って来たアリアは、切り株に腰を下ろした。

 

『……フィンは、足手まといなんかじゃないのに』

 

 確かに、強さという点ではアリアの方が何倍も強い。

 冒険者基準で言うなら、現時点で金等級冒険者にはなれるよというヴァシリのお墨付きがある。それに対してフィンは『銀等級にはなれると思う』、程度の見立てだ。

 

 その時点で差は歴然だが、恋は盲目と言うか、アリアにとってフィンは最も高い位置にあるので、その現実を認められない。

 

 フィンが足手まといになんてなるわけない。

 そもそも私がいるんだし、そうならないように頑張ればいいだけ。

 師匠が、いて、私がいて、フィンがいる。

 それでいいのに、なにがいやなの?

 

 フィンが居ないなんて嫌だ。

 フィンが居ないなんて考えられない。

 これから先の人生にフィンがいないなんてありえない。

 

『…………フィンが一緒じゃなきゃ、やだなぁ』

 

『見つけた。やっぱりここだったか』

 

『ピッ』

 

 膝を抱きかかえていたアリアはビクッと身体を震わせる。

 

 恐る恐る後ろに振り向けば、そこには、想い人であり現在悩みの種となっているフィンがいた。

 

『隣いいか?』

『どっどうぞ』

 

(──え、聞かれた? 聞かれてた? ほんとに? 聞かれてたの?)

 

 ドックンドックン喧しい鼓動の音。

 恥ずかしさで顔が赤くなっているアリアの様子に気が付くことはなく、フィンはそのまま隣にやってきた。

 

『俺も、許されるなら一緒がいいんだけどな』

『うぇっ……き、聞いてた?』

『俺が一緒が良いってところは』

『聞いてるじゃん……』

 

 ぎゅっと腕に力を籠め、膝に顔を埋めた。

 

 二人きりになるのは珍しいことじゃない。

 

 その度にこう、ヘタれながらもちょっと好意を押し出すようなことをしてきたのだが、フィンには全く通じず。

 

 聞いてはいるけど聞いてない。

 そんな感じの対応をされているので、アリアは何を言えばいいのか迷っていた。

 

『アリア。俺のこと、本当に同じだと思うか?』

『それは、うん。あんなに厳しい修行してる人なんてフィンくらいじゃないの?』

『……人と違うことをしてる自覚はある。でもな、それは別に特別な事じゃないんだ』

『……そんなことない。フィンはすごいよ』

『でも、俺はアリアに勝てない。師匠にもだ』

 

 勝てないどころか、太刀打ちできない。

 

 年齢から考えれば、十分なほどにフィンは成長した。

 

 凡人が積み上げた努力としては規格外もいいところ。

 だからこそヴァシリは弟子を名乗れと言うし、推薦する事だって構わないと言ってのける。アリアは盲目的に信じているが、ヴァシリはヴァシリなりにフィンのことを高く──そう、本当に高く評価している。

 

 だが現実は非情だ。

 フィンはアリアに【聖剣】を使わせることも出来ないし、ヴァシリに傷一つ負わせることも出来ない。

 

『それは……これからもっと、強くなるって』

『これから? 俺が強くなるよりもっと早くアリアは強くなる。無理だ』

 

 ──無理?

 

 フィンは、私に追い付けないの?

 

『……二人の旅にはついていけない。師匠も言ってた。俺がついていっても無駄死にするだけだって』

『そんなっ! そんなことっ……!』

 

 ──フィンが自分に追い付けない。

 

 アリアはそれを、否定することが出来なかった。

 

 フィンの鍛錬を見る度に思う。

 そこで躱して反転すれば、そこで避ければ、そこで右腕を出せば……

 アリアにはヴァシリと組手をしても十分にやりあえる強さとセンスがあった。だからこそ、わかってしまうのだ。

 

 フィンは成長している。

 間違いなく成長している。

 けれど、自分には到底及ばないと。

 

 それでも、それを理解したくなかった。

 

『……やだよ。一緒に、来てよ』

『ダメ。アリアの邪魔はしたくない』

『邪魔じゃない……。来てくれないと、泣く』

『えぇ……』

 

 完全に顔を隠して黙ったアリアに、フィンは困った顔で空を見上げた。

 

 ────空から飛来する何か。

 

 アリアはその気配に気が付かなかった。

 

 フィンはそれを目視した。

 

 そして、すぐに身体が動いた。

 フィンに才能はない。

 ただ愚直に、異常なまでに、恐怖すら覚えるほどに積み上げ続けた実戦経験だけがフィンの武器だ。奇襲だろうが不意打ちだろうが、フィンにとってはなんら障害にはならない。

 

 相手が初手で殺しに来ない限り、彼にとってそれはただの攻撃と大差なかった。

 

『アリアッ』

『え──』 

 

 アリアの前にフィンが躍り出るのと同時に、飛来した何かは上から下へ高速で振り下ろす。

 

 ──ヒュガッッ!!

 

 風が哭く。

 放たれたソレは音の速度に近い速さで飛び、アリアを庇ったフィンを容易く斬りつけんとする。頭と心臓を守るように防御態勢になったフィンは、斬撃を受け止めた。

 

 ──ビシャッ!!

 

 血が噴き出る。

 風の音で異常を感知したアリアは、フィンの背中が視界一杯に映る。

 

『……アリア、怪我は?』

『してな……え、うそ、フィン、大丈夫? 何が……』

『多分モンスター。待ってろ、アリア』

 

 血の滴る腕をギュッと締める。

 空を飛んでいた何かが目の前に着地するのと同時に、フィンは構えた。

 

『俺は、お前には勝てないけど──追い付くことは諦めてないからな』

 

 

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