「…………」
「おかえりなさい、フレデリカさん。少し長かったですね?」
「あ、ああ。ちょっと、場所を探しててな……」
チッ、全く尻尾を出しやがらねえ。
それどころか、フィン・デビュラと【聖撃】の会話以外じゃなんにも怪しい要素が無かった。なんなら無駄に色々ありすぎてどうなってんだとパニくっただけだ。
まあ、なんだ。
こんだけ多くの女とたった一人の男。
別にハーレム作ってようが不思議じゃねえさ。
でもな、けどな、いくらなんでも『聖女』なんて呼ばれてる女に○○○○ってのはよ。フィン・デビュラ。お前、ちょっと性癖が……。
しかもアリシア・ラ・アエラスが協力して隠してんだろ。つまりなんだ。そのド変態行為をコッソリやって愉しんでんのか? 終わってるぞこの一団。男だけじゃなく女もイカれてやがる。
「フレデリカさん? なにかありましたか?」
「んー……いや、なにかあったわけじゃねえよ」
セラフィーヌは勘が良くねえからな。
人が良いからなのかは知らねえけど、そのせいで特務騎士が苦労してるイメージがあるくらいだ。あの特務騎士が言ってたが、時々言葉のニュアンスが絶望的に終わるとか……妙に実感がこもってたから、心の片隅にでも刻んである。
とにかく、セラにあんなこと起きてると思わせるのはダメだ。
こいつ、フィン・デビュラのことを聖人君子だと思ってやがる。そこまで間違いはねえけど、やっぱり裏で色々やってるド変態だってわかっちまった。
……だが。
あいつは私に下卑た目を向けてこなかった。
あの夜、誘いましたが、断られた。至極真っ当な理由でな。だからと言ってそのあとワンチャン狙ってくることもねえ。すっかり紳士だと私も思わされたくらいだ。
あれがデフォルトでセラフィーヌに向けられてるってんなら、それは悪いことじゃねえ。私を性的な目で見れねえけどセラフィーヌを性的な目で見てるって可能性はあるが、アリシア・ラ・アエラスも手中にあるんだろ。
一度、自分の身体を見る。
デケェしくびれてる。
男の目を引くのは胸のデカさと腰の細さ、そして尻と顔だ。剣聖ほど露出出来ねえが、エルフより露骨な格好してる自覚はある。
……対象にならないとは思えねえ。
それともなんだ。
出会ってすぐの女に手を出す程ではねえってことか?
まあそれが一番しっくり来るな。
怪物ババアの弟子だ。いくら愛弟子って言っても、怪物ババアがそんな男を放置するかと言われると、そうは思えないしな。
つまり、フィン・デビュラは【聖撃】にお○舐○させてそれをアリシア・ラ・アエラスに隠蔽させるようなド変態だが、見境なしの手あたり次第好き放題女を狙っては食うクズではねえと。
…………評価に困るだろ……。
「はああ……」
「ため息したら幸せが逃げてしまいますよ?」
「ハッ、私の幸せなんざとっくに裸足で逃げ出してるさ」
「もう……そのような言い方をしてはいけませんよ」
お優しいこって。
私のことはともかく、問題はこの拠点の謎だ。
フィン・デビュラと【聖撃】の倒錯的な行為はまだ理解できる。理解したくねえが、私も同じ穴の狢だ。行為自体を咎めることは出来ねえ。
それより、「闇マリ」と「ルルクス様」とやらだ。
闇マリ……ヤミマリ? ヤミマリって個人名か? でも聖撃にエロい夢を見せる力があって……いやそれ人間か? 聖女でもそんな意味不明な力は聞いたことねえ。
…………。
邪教……?
いや、だが、魔女も居たな。
魔女はウチで邪教徒認定されてるが、どんな力を扱うのかは詳しく残されてねえ。私ひとりじゃどうしようもねえし騒ぐつもりもないが、気になる。
…………いや、エロい夢を他人に見せるのは流石に邪教でいいんじゃねえか?
ていうか普通に悪いことじゃねえか?
いやだが、貴族のそういう倒錯的なプレイだと言われれば、ありえなくはねえ。
ヤミマリとルルクス様。
様付けってのが気になるな。
すくなくともあのジジイは枢機卿として敬われてた筈だ。呼び捨てじゃあなかった。王族にルルクスなんて名前の奴はいねえ。冒険者にもだ。
ここに潜んでるナニカの正体が、わからねえ。
それこそ、そもそも人ですらない何かが………?
──ゾクリとする。
私は今どこにいるんだ?
〈深淵の森〉の手前だ。
人類圏だが人類圏じゃねえ。王国周辺で最も恐ろしいエリア。
そんな場所で主に活動してる冒険者共。
私が逆立ちしたって勝てないようなバケモンが揃って、それでもなお攻略できてねえとんでもねえ場所だ。
何かが潜んでいてもおかしくねえ。
フィン・デビュラと【聖撃】、そしてアリシア・ラ・アエラス。
こいつらを丸め込む、いや、飲み込んじまうような何かが居るのか?
否定できねえ。
だってここは、〈不浄領域〉のすぐそこだ。
魔王軍なんてのが居た大陸だぞ。
見たこともねえモンスターが居ても、おかしくはねえ……!
「……なあ、セラ」
「どうしました?」
「変わった様子はなかったか? ここのメンバーに」
「変わった様子……? いえ、特には」
セラは不思議そうな面で見てくる。
そうかよ。
変わった様子はねえか。
じゃあなんだ?
この嫌な感覚は。
なにか、取り返しのつかねえことが起きてるような気配がしやがる。
【魔弓の射手】が取り込まれる?
怪物ババアにも気が付かれずに?
ありえるのか、そんなことが。
そんなモンスターがいるのってのか?
いるわけがねえ。
そんなのが居たら、聖女なんて肩書は何の役にも立たねえぞ。
私じゃ勝ち目がない数少ない存在だ。
そいつが飲み込まれて、あんな変態行為に勤しんじまうようなナニカ?
…………フィン・デビュラ?
いや、まだ、そうとは限らない。
その裏に何か居るのかもしれねえ。
あの怪物ババアが育てた男だぞ。
そんなド変態な訳がねえ。
そうだ、そこだ。
そもそもそこを勘違いしてる。
私はひでえ勘違いをするところだった。
そうなると、これは怪物ババアに聞くのが一番早いんじゃねえか。
あいつが取り込まれてたら終わりだ。
逆に言えば、どう考えてもアイツは最後に辿り着くだろ。一番強ぇし滅茶苦茶なんだ。
「そうか。いや、参考になった。ちょっくら怪物ババアのところ行って来るわ」
「あ、はい。わかりました。その、本当に何かあったのでは……」
「何も起きてねえよ。ちょっと私なりに考えてた事があったから、怪物ババアに確かめに行くのさ」
嘘は言ってねえ。
悪いな、セラ。
怪物ババアなら大丈夫だと思うが、もしもの時は、私の秘儀を使ってでもセラを連れ出さねえと。
…………ったく。
私は今、なんの中にいるんだ?