ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

245 / 245
245 邪神の胎の中で

「今から四年前。魔王軍の尖兵を名乗るモンスターが北方に出現し、銀等級冒険者が犠牲になった。生存者は僅か七名。その内の四名が【払暁】であり、フィンは、蘇生作業が行われるほどの重傷だった」

「……それは知ってる。教団にも履歴が残ってたからな」

 

 かつてセラフィーヌが直々に足を運び行った記録は、信じ難いものだった。

 

 手足の欠損、内臓全ての喪失、心臓すらなく、頭部は欠け脳の一部が砕けていた。

 

 そんな状態で生きていた人間。

 生きていると表現して良いのかすらわからない。

 覚醒したマリアンヌの治癒により強引に生かされたフィンは、治癒のエキスパートであるセラフィーヌによって蘇生された。

 

「正直、ありえねえと思ったぜ。そんな状態の人間が生きれるわけがねえ。どんだけセラフィーヌが優れていようが、死者を蘇らせたことはねえだろ?」

「うん。フィンはあそこで死んだけど、死んでなかったんだ」

「…………どういうことだそりゃ」

 

 怪訝な表情でフレデリカが聞き直す。

 

「死んだけど死んでねえ? さっき言ってた運命とやらが関係してんのか?」

「いや、これは無関係……とは言い難いか。本来定められていた理屈を覆した結果、そうなったと言える。本当だと、私は金等級冒険者で、魔王軍の尖兵に凌辱されて死ぬ定めだった。そこにフィンがねじ込まれてしまったんだ」

 

 ──絶句する。

 言葉を失ったフレデリカ。

 つい先程ヴァシリが言っていた、『歪めた、壊してしまった』という言葉の意味を理解する。

 

(…………そういうことかよ……)

 

 弟子として可愛がっていたが、才能が足りずおいていくしか無くて、置いて行った筈の弟子は王都で独り立ちして厳しい環境でも励んでいたが、自分を殺すはずだった運命を弟子が肩代わりした。

 

(……そりゃあこうもなるか)

 

 フレデリカとて大切だと思う人はいる。

 もしそういう人物自分の代わりに死んでしまった、後悔もするし悲しむだろう。

 

「でも生きてたんだろ? 奇跡とはいえ、それはそれでよかったじゃねえか」

「……そう、だね。でもね、フレデリカ。フィンはあそこで死んだんだ」

「…………意味わかんねーぞ。どういうことだ」

 

 支離滅裂な発言に顔を顰める。

 

「死んでるけど死んだまま生かされたってことか? 【聖撃】がなんとかしたんだろ? それに、あいつは聖女に選ばれるまで修道院からも追い出されちまうような腕だったって聞いてるぜ。エクトルのジジイが言ってたから間違いねぇ。そいつが成長して、フィン・デビュラを生きながらえさせた。悪いことじゃないんじゃねえか?」

「そうじゃない。そうじゃないんだよ」

 

 そこでフレデリカはヴァシリの言葉を待つ。

 かなり丁寧に説明しようとしていることはわかっている。だが内容が複雑な上にヴァシリの感情も交わっているから説明が難しいのだろう、と。

 

(なにせ、世界の運命が決まっていて、予言者なんてのが大真面目に存在するってのが前提なんだ。どんな爆弾が出てくる? ……いやでも、これ全部フィン・デビュラが変態でマゾだってことの説明なんだよな…………。なんか……なんかよ……なんかじゃねえか……?)

 

 頭を悩ませるヴァシリを見て、ふとフレデリカは冷静になった。

 

「…………今から言うことは、本当に理解し難いことだと思う。嘘だと思ってもいいけれど、私の話を最後まで聞いてほしい」

「……フィン・デビュラがマゾであることとか、前提の運命とか、それらよりおかしいのか?」

「うん」

「おかしいのか……」

 

(想像もつかねえよ……なんか、私の人生がちっぽけに見えるくらい世界の真実みたいなもんに触れてるのに、行き着く先はマゾの変態なんだよな……)

 

「ふー……よし、わかった。取り乱さねえと誓う」

「ありがとう。フィンは魔王軍の尖兵に殺されたと言っていい。けれど、あの子は死ななかった。マリアンヌくんの治癒でもなく、セラフィーヌくんの力でもなく、そもそもその状態で生きていたんだ」

「…………四肢がなくて、脳みそまでかけてて、心臓含めて丸ごと内臓がない人間が?」

「そうだ」

「……ありえねえだろ。化け物か? モンスターより化け物じゃねえか」

 

 呆れてため息でも吐きたくなるのに、語られる内容は真実である。

 

 嘘だと思ってもいいから最後まで聞いてくれ。

 ヴァシリに事前に言われてなければ笑い飛ばしていたかもしれない。なぜならそれくらいありえないことだ。同じ状態になった百人中百人が死ぬと断言できる。

 

 弟子のことを想うあまり頭がおかしくなったのかとすら思った。

 

 それでもフレデリカは、ヴァシリ・ヴァルバロッサという傑物への信用をとった。

 

「…………それで?」

「死ななかった理由は、邪神が取り憑いたから。魔王軍の尖兵を使徒に選んでいた邪神が、フィンのことを使徒に選んだんだ。マリアンヌくんは巫女に選ばれ、その力で持って覚醒し、尖兵を打ち倒した」

「……………………は?」

 

 今度こそ本当に、息が止まるかと思った。

 

「…………」

 

 フレデリカの脳がヴァシリの言葉を咀嚼する。

 死ななかった理由。

 邪神が憑りついた。

 その邪神は魔王軍の尖兵を使徒としており、フィンに乗り換えた。

 マリアンヌは邪神の巫女に選ばれ、その力を使い【聖女】として認定された。

 

「…………………あー……邪神? 神がこの世界に実在するってのか?」

「ああ。女神エスペランサとは別物の神だ。本人も邪神を自称しているよ」

「……一応、私は邪教の調査って名目で来てるわけだが……もしそれが本当なら、放っておけねえぞ? 邪神? いや、いや……待てよ。邪神が自分を邪神って名乗ったのか? ならエスペランサは? 世界を救いもしねえくそったれな女神はどこにいやがるんだ?」

 

 気が付かぬ間に早口で問いかけている。

 

「魔王軍の尖兵ってのを使徒にしてたんだろ? フィン・デビュラを選んだってんなら、もうあいつは人間じゃねえのか? モンスターなのか? だから壊れてんのか? あいつは演じてるだけなんじゃねえのか? つうか…………邪神? 邪神に使徒に選ばれて生きていた? 使徒ってのはなんだ? なあ、おい……」

 

(……だが、信じられねえとは言い難い。フィン・デビュラが奇跡で生存したってことよりも、よほどあり得る。いや、どっちもありえねえんだ。だけど現実としてフィン・デビュラが生きている。だから何かあったんだ。ならその、何かあった事ってのは……)

 

 神が居る?

 それだけで衝撃的なのに、更に邪神に憑りつかれた?

 それで生きていた?

 使徒に選ばれた?

 巫女とはなんだ。

 いや、そもそも、どうして神が選んだのなら治療しない?

 神がその程度の力もないわけない。

 エスペランサの経典には、女神エスペランサは世界を照らした太陽の化身だと記されている。神とはそういう存在だ。それが人間一人治せないわけがない。

 

(邪神……? 使徒…………だけど、これまで私が活動してきた中で、聖女として触れた資料で神の存在は一度も記されてねえ。なんだ? 本命はモンスターだったのか? いや、そこじゃねえ。なんでフィン・デビュラを治さなかった。そんな状態で死なさねえなら、さっさと治しちまえばいいのに────)

 

 そこまで考えて、フレデリカは気が付く。

 

「…………治せなかったんじゃなくて、治さなかった?」

 

 ヴァシリは目を見開く。

 限られた情報、邪神という単語からどんな存在に囚われたのかを探り当てた。

 

「フィン・デビュラがおかしくなったのは……邪神に憑りつかれたからか?」

 

 そして辿り着く。

 フレデリカは、どうしてこんな混沌とした状況にあるのかを理解した。

 

(──そういうことか。フィン・デビュラは邪神に魅入られて狂った。【聖撃】もそうだろ? 邪神の巫女なんて存在になっちまってんなら変態行為に付き合うのは当たり前だ。アリシア・ラ・アエラスが協力してたのは、そもそもヴァシリが邪神に対して対抗できねえからか! とすると、つまり、ここは……)

 

 ──私は今、なんの中にいるんだ?

 

 ゾクッッッ……!!

 

 先日の疑問が頭をよぎった。

 瞬間、全身を巡る悪寒。

 今の自分がどんな状況にあるのかを理解し、ヴァシリの昏い瞳を見て、確信する。邪神だ。邪神の存在こそが、全てを狂わせた。

 

「…………ヴァシリ。あんた、まだ正気か?」

 

 思わず、拳を握る。

 武器は落とした。

 届かない。

 拾うまでに無力化される。

 邪神の下で隙だらけ。

 やばい。

 まずい。

 脳が全力で警告を発している。

 

「……フレデリカ。君に一つ、伝えなければいけないことがある」

「っっ…………!!」

 

 反射的に武器を取り、即座に反転。

 それだけで滝のように汗が流れ落ちた。

 既にここは戦地。

 いや、死地だ。

 死ぬことが確定している。

 人の生き死にを自由に弄ぶ邪神の懐にもぐりこんだ以上、逃れるすべはない。

 

 そして、ぎゅううっ、と素人の様に武器を握り締めるフレデリカに、ヴァシリは目を伏せて悲し気に言った。

 

「フィンがおかしくなったのは、邪神の所為じゃないんだ…………」

「……………………。…………は?」

「フィンは……初めから、マゾだったんだよ……」

「…………え?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。(作者:菊池 快晴)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ダークウェブソウル通称【DWS】』▼最悪の鬱ゲーにして最高の泣きゲーと名高い、狂気のダークファンタジー。 ▼その世界に、モブ・雑用係のレイとして転生した俺は、ゲーム知識を駆使して最愛の年上ヒロイン」たちと家族のような絆を育んでいた。▼しかし、このゲームには回避不可能な「全滅イベント」が存在する。 ▼シナリオ通りなら、俺の師匠も、先生も、聖女も、みんな魔人に殺…


総合評価:6869/評価:8.76/連載:27話/更新日時:2026年03月07日(土) 10:02 小説情報

【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた(作者:一森 一輝)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女が男を守るべき、みたいな価値観が根付いた世界で、男が身を挺して女を守ろうとしたらどうなるんだろうか?▼旧題:男女の価値観が反転している貞操逆転世界で身を挺して女の子を守ってみた場合▼※カクヨムとマルチ投稿中です▼https://kakuyomu.jp/works/16818792435932689728


総合評価:36012/評価:9.13/連載:120話/更新日時:2026年08月17日(月) 12:03 小説情報

貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る(作者:しば犬部隊)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

死にゲーに転生した主人公(男)が遺伝子的に湿度が高く重い女達に囲われていく話。▼なお、主人公は自分に価値を見出していないので、自分を犠牲にしたりする。▼だが それが逆に重い女の琴線に触れた!▼無自覚にヒロインを沼らせていく、ただ平穏に生きたいだけの男。▼書籍化決定 5月20日 オーバーラップノベルス様より発売! ▼


総合評価:31848/評価:8.9/連載:54話/更新日時:2026年08月25日(火) 12:14 小説情報

【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売しました!▼皆様のおかげです。ありがとうございます!▼書影が公開されました!▼【挿絵表示】▼書籍のページはこちらになります!▼ht…


総合評価:16605/評価:8.89/連載:132話/更新日時:2026年08月20日(木) 19:21 小説情報

全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。(作者:雨糸雀)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 ――だからさ、別に片目片足くらいどうってことないって。俺は平気だから。大丈夫だって見捨てないから。償いとかそういうのもいいから。すべて捧げるとか言われても困るから。重い。重いってば!!▼■カクヨム様とマルチ投稿▼■11/26 コミカライズ連載開始▼■11/29 書籍3巻発売


総合評価:65301/評価:9.14/連載:63話/更新日時:2026年07月08日(水) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>