ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた   作:恒例行事

247 / 247
247 絶望ハイエロフ姉妹

(なんていうか……思ってたより理性のある人ね、フレデリカって)

 

 ヴァシリとフレデリカの会話を盗み聞きしつつ監視しているアリシアは、リビングでぼーっとしながらそんなことを考えていた。

 

(ヴァシリ本人への憧れなのかしら? 丸く収まりそうじゃないの)

 

 素行を知っていたアリシアは最初こそ警戒していたが、話は通じるし無理はしないし懸念していたフィンへのヘイトも低く、ヴァシリとの話し合いが始まってもかなり慎重で穏健的な態度だったためすっかり安堵していた。

 

(ヴァシリの説明もかなりぐちゃぐちゃだけど、ちゃんと聞いてるし理解しようとしてる。いやでも、あれ以上にうまく説明する方法があるのかしら……やっぱりもう目の前でマゾなの見せつけるのが一番手っ取り早いんじゃ……)

 

 アリシアはこれまで口で説明した直後にフィンがどれだけマゾなのかを見せつけるために目の前で痛めつけたりしてきた。もうそれしかないと思ったのだ。

 

(でもあれは……相手がカルラだったのもあるのよね。あの子達、平然と私に殺意向けてきたくらいだもん。言葉で説得できるとは思ってなかったのが大きかったわ)

 

 ちゅ〜、と木の筒でジュースを飲みながら、ソファに寝転がる。

 

(ヴァシリにそれをさせるの無理よねぇ。フィンくんとヤったときも激しくはあったけどお互いイチャイチャラブラブしてたし、私達の時みたいにビシバシ言ってなかった。罵倒も聞こえなかったもの。それなのに目の前でフィンくんを罵ったり叩いたりしてマゾだとわからせるのは、厳しいか)

 

 ヴァシリじゃなくても厳しいのだが、もうすでにおかしくなっているアリシアはそのことに疑問を抱くことはなかった。片手間に聞いているフィンとマリアンヌの情事ですら聞こえてはいけない音がかなりしていて、すっかり感覚が狂っていた。

 

(でもまあ、このままいけばフレデリカは問題なく片付くかしら。そうなるとセラフィーヌちゃんだけど、あの子はフィンくんのお気に入りの一人っぽいし……なにより数年間フィンくんのことを隠して治療に専念してた本物の聖女だから、無理に巻き込むこともないでしょ。誰も望んでないわ。まさか、フィンくんの下の怪物を見てもなお何とも思わないなんて……)

 

 アリシアは心の底からセラフィーヌを尊敬している。

 フィンが仲間に捨てられるからと心の闇を告げてでも隠してくれと言ったことに対して己の身分すら明かさずに徹底して守り抜き、神官と患者としてキッチリ区別をつけて助けて来た。

 特にあの凶悪なブツを見て未だに印象を変えていないのもすごい。

 あんなのをぶら下げている人が居れば印象は全てそれで埋まってしまうだろう。

 もしもフィンが普通の冒険者だったのなら二つ名が決定する程だ。

 

(……ルルクス様の話もどこまで信じていいかわからないけど、世界がこんな有様である以上は否定することもない、か。ほんと冷静ね。凄いわ。私だって、感情が読めなかったら信じられなかったのに)

 

 そしてその評価はフレデリカにも向けられつつある。

 

 彼女は徹底して自分のルールの中で生きている。

 いや、この残酷な世界で必死に自分なりの正しさというものを掲げているのだ。たとえ自分のことを指の一振りで殺せるような相手だろうと変わらない。それで敗北しようが己を貫き通す意思。

 

 今回だって無視しようと思えば出来たはずだ。

 セラフィーヌを連れて逃げることだって出来た。

 だけどそれをしないで、信じられる相手に話を聞いて、隠し事があるとわかってもその場で暴れたりはしなかった。

 

 内心の怯え、恐怖、後悔、それらをアリシアは感知できてしまう。

 

 フレデリカがどんな思いでヴァシリの話を聞いているのかがわかるのだ。

 

 眩しすぎると思った。

 フィンと同じくらい輝かしいと思った。

 どれだけ怖くても、恐れていても、怯えていても、それを態度に出さずに気丈に振る舞う精神性。自分の決めたことを曲げず、理解の及ばないことがあっても自分なりに理解しようとする姿勢。

 

 フレデリカは強い。

 だけどこの強さはきっとフィンと同じだ。

 どれだけ打ちのめされて辛い目にあっても、絶対に折れず立ち上がるところは特に似ている。

 

(…………聖女って、本当に凄いのね)

 

 彼女らは聖女だから崇められるのではない。

 聖女に相応しい力を持っているから聖女なのだ。

 

 他の聖女に関してはそれほど詳しくないが、少なくとも今この拠点に居る三人は、間違いなく聖女と呼ぶべき存在だった。

 

(……ま、まぁ、マリアンヌちゃんは最近ちょっと色ボケしてるけど。色ボケっていうのもなんか違うかしら。どっちかというと好きな男の子が他の女と寝まくってるのに加えて信じ難い現実を突きつけられ続けて精神が崩壊しかけてたって言うか……うん。でもあの子、孤児院の支援とか欠かしてないものね。【払暁】のリーダーとしてもしっかりしてるし、ヴァシリにも怯まないで食って掛かってるし。負けてるけど)

 

 アリシアの耳に聞こえてくる声は中々にこう、進んだもので、ヴァシリやアリアとの何かを確かめ合ってるものと比べるとかなり生々しく、それはどちらかと言えばアリシアにとって馴染みのある声と音だった。

 

 あなたもこっち側に来てしまったのね。

 フィンくんは……あっ、悲しんでないわねこれ。

 マリアンヌちゃんは堂々と性的な目で見てたって伝えてたしそういう影響もあるのかしら。大切に想われてない訳じゃないのにこれが出来るのは一歩リードなんじゃないの?

 

 アリシアもアリシアで精神的に何度か打ちのめされてはいるものの、長年フィンに恋していたわけではないのが作用して着地点を定められていたので平等な視点で行われている激闘を観察できた。

 

(さて。盛り上がってる所に水差すのも悪いし、一旦フレデリカとヴァシリの方に集中して──)

 

 ──もう直接聞きに行くぞ! 直接私が納得するまでデビュラと話す! それならもうこんなぐちゃぐちゃにならねえだろ!?

 

「おぼふっ」

 

 飲んでいたジュースを噴き出す。

 横になっていたために噴き出したジュースが顔にびしゃっとかかった。

 

「げほっげほっ!! ごほっ! ウッ!」

 

 風を操作して気管に入った液体を強引に抽出して呼吸を取り戻してから、アリシアは慌てて起き上がる。

 

(ま、まずいわ! 今はまずいッ! とってもまずいっ……!)

 

「……一人で何してるの?」

「な、なンでもないわよォ……」

「(……こういう時の姉さんって大体何かあるんだけど、まあいっか)」

 

 アストレアは一人でジタバタし始めたアリシアを訝しみつつも放っておくことにした。合流して以降、姉が慌ててる時は大体フィンのことなので、いっそのこと首を突っ込まない方がいいと学んでいたのだ。

 

(ど、どうしましょ……! 取り敢えずフィンくんとマリアンヌちゃんに……いやっ! それをやったら中途半端で終わる! 今ここで中断するのはお互いにとって良くないわ! 私が時間を稼ぐしかないッ!)

 

(…………なにしてんの。もしかして、またフィンが新たな女に手を出したり? ちょっと覗いて……あ。姉さん、固めてるけどここ穴空いて……うわっ。すごっ、えっ!? マリアンヌ!? あ、あんたそんなことまで……!!? カルラですらしてないわよ!?)

 

 ハイエルフの姉妹が険しい表情でソファに佇んでいる。

 

 顔に付着したジュースの成分をサッと外に投げ飛ばしたアリシアと、そんなアリシアの対面のソファで寝っ転がっているアストレア。近寄りがたい雰囲気を出していることには全く気が付いていないハイエルフの姉妹は、そのまま風を読んだ。

 

(そ、そうだ。ここで私が止めればいいんだわ。フレデリカの謎を解決するのにもう少し時間が欲しいって言えばいいの。大丈夫。彼女は理性的な人よ。行為中だって言えば止まってくれる筈……)

 

(うわっ、うわうわっ……マ、マリ、あんた、ええっ!? 飲み込みすぎじゃない!? 胃袋!? そりゃ苦しいでしょ! 顔真っ赤じゃない! フィンあんたも止めなさ──ひっ……!!? わ、笑ってる……!?)

 

 ガタガタ震え出したアストレアを尻目に、アリシアは立ち上がり、扉へと歩いていく。

 

(止めなくちゃ。フレデリカはそういう目に遭ってそれでも不屈でいた人だけど、フィンくんのフィンフィンを相手にして冷静で居られるかはわからない。大丈夫。きっとフィンくんのマゾ欲を適度に満たせるいい関係になれるはず……)

 

 自分が積極的に好きな男に女を差し出していたことは棚に上げて、アリシアは決意した。

 

(これ以上女は増やさせないわ。やっとフィンくんは安定してきたの。アリアと〈聖剣〉がフィンくんの心の器を補強してくれたのよ。だから…………)

 

 聞こえてはいけない野太い喘ぎ声が聞こえてくる。

 風を通して、獣の如き声が彼女の脳に響き渡っていた。

 

(…………うん。普通に見せちゃダメねこれ。フレデリカが素直に説得されてくれると、本当に、ほんっとうに助かるんだけど……)

 

 ため息を吐いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。(作者:菊池 快晴)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ダークウェブソウル通称【DWS】』▼最悪の鬱ゲーにして最高の泣きゲーと名高い、狂気のダークファンタジー。 ▼その世界に、モブ・雑用係のレイとして転生した俺は、ゲーム知識を駆使して最愛の年上ヒロイン」たちと家族のような絆を育んでいた。▼しかし、このゲームには回避不可能な「全滅イベント」が存在する。 ▼シナリオ通りなら、俺の師匠も、先生も、聖女も、みんな魔人に殺…


総合評価:6873/評価:8.76/連載:27話/更新日時:2026年03月07日(土) 10:02 小説情報

【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた(作者:一森 一輝)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女が男を守るべき、みたいな価値観が根付いた世界で、男が身を挺して女を守ろうとしたらどうなるんだろうか?▼旧題:男女の価値観が反転している貞操逆転世界で身を挺して女の子を守ってみた場合▼※カクヨムとマルチ投稿中です▼https://kakuyomu.jp/works/16818792435932689728


総合評価:36014/評価:9.13/連載:120話/更新日時:2026年08月17日(月) 12:03 小説情報

貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る(作者:しば犬部隊)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

死にゲーに転生した主人公(男)が遺伝子的に湿度が高く重い女達に囲われていく話。▼なお、主人公は自分に価値を見出していないので、自分を犠牲にしたりする。▼だが それが逆に重い女の琴線に触れた!▼無自覚にヒロインを沼らせていく、ただ平穏に生きたいだけの男。▼書籍化決定 5月20日 オーバーラップノベルス様より発売! ▼


総合評価:31851/評価:8.9/連載:54話/更新日時:2026年08月25日(火) 12:14 小説情報

【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売しました!▼皆様のおかげです。ありがとうございます!▼書影が公開されました!▼【挿絵表示】▼書籍のページはこちらになります!▼ht…


総合評価:16652/評価:8.89/連載:133話/更新日時:2026年08月28日(金) 22:21 小説情報

全滅エンドを死に物狂いで回避した。パーティが病んだ。(作者:雨糸雀)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 ――だからさ、別に片目片足くらいどうってことないって。俺は平気だから。大丈夫だって見捨てないから。償いとかそういうのもいいから。すべて捧げるとか言われても困るから。重い。重いってば!!▼■カクヨム様とマルチ投稿▼■11/26 コミカライズ連載開始▼■11/29 書籍3巻発売


総合評価:65304/評価:9.14/連載:63話/更新日時:2026年07月08日(水) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>