ったく、バカバカしい話もあるもんだ。
あんだけ壮大な話しといて最終的に落ち着くのが『フィン・デビュラがマゾヒスト』だってよ。バカバカしいとしか言いようがねえ。
世界の真実。
運命とやらに予言者。
そんでもって神の存在。
これを差し置いてマゾがどうとか言われてもわけわかんねーっての。
私の読み通りモテモテだったみてえだが、肉体関係を結ぶようになったのはつい最近のこと。アリシア・ラ・アエラスが感情を読めるからそこで初めて発覚したと。まあ、そこは嘘じゃねえんだろうな。私が誘ってもピクリとも反応しなかった野郎だ。あれで内心ド変態なこと考えてたかもしれねえって言われても、わかんねえよ。
そんで中身がわかんねえまま紳士的に対応された連中が絆されてとっくの昔に惚れちまってたのが、実はマゾだったってわかってわけわかんなくなったのか?
いや、他の連中のフィン・デビュラへの温度感がわからねえ。
ヴァシリ・ヴァルバロッサは弟子だからってのもあってかなり気負ってた。だから納得できた。けど、普通はどうだ? ただの仲間がそういう奴だってわかってどう思う? 信頼関係が崩れたりすんのか? ああ、違うか。ぶっ壊れてるのも同時にわかったのか? それとも素のまま全員惚れさせてたのか? セラフィーヌだって悪い印象は抱いてねえ。ならありえる。
……やっぱりわけわからん。
本人に直接聞いた方がずっと早ぇ。
いや、本人に聞いたところで理解が出来るとはわかんねえけどさ。それでもアイツなら納得できるまで話してくれるだろって程度には、まともな奴だ。
だからこそ余計こんがらがってる。
こんなの全て完全に把握するのなんざ、無理な話だ。
「あら、どこに行くのかしら?」
……出やがったな。
ハイエルフの三姉妹の長女。
アリシア・ラ・アエラス。
魔王軍との戦争で最も活躍したうちの一人。
格上だと素直に認めざるを得なかった化け物の一人だ。
もしも、こいつが敵だったら。
いや、ヴァシリが言ってただろ。邪神はいるが洗脳されてるわけじゃねえ。邪神でもあり女神でもある。わけのわからねえ言葉だが、こんな世界の神だ。クソだろう。だけどヴァシリが逆らわなくていいと判断する程度には問題ない筈だ。
だから敵なわけがねえ。
「そんなに怯えなくていいのよ。危害を加えにきたわけじゃないもの」
「……っっ!!」
──背筋が凍る。
怯える?
私が?
そうだ、忘れてた。
こいつは読めるって言ってたじゃねえか。
「ごめんなさいね。読みたくて読んでる訳じゃないんだけど、見えちゃうのよ」
「ハッ……。気にしてねえよ。それで? 何の用だ?」
あの強さで感情が読めるなんざ、ふざけた話だ。
そりゃあこいつらに弱点がねえわけだよ。
強さは全員が持っていて、政治力はヴァシリが持っていて、裏を読む能力をアリシアが持ってる。勇者はそういう腹黒さとは無縁だが聖剣の力が絶対的だ。誰がこいつらをハメれる? 無理だろそんなの。
「ふふ。ちょっと話したいことがあるの。今からフィンくんの所に行くんでしょ?」
「…………は?」
なんで知ってやがる。
聞かれてた?
どうやって?
部屋の前にでもいたのか?
いや、そんなデカい声で……話してたな。まあ、聞かれてても不思議じゃねえか。つーか、もうこんなことで驚いてもしょうもねえよな。それより驚くべきことがありすぎるだろ。
「あー、そうだ。ヴァシリに色々説明されたけどわけわからなくてよ。いっそのこと本人に聞きに行くことにした。ヴァシリも反対はしなかったぜ」
「ええ、聞いてたわ。私も反対はしないけど……」
「……その言い方だと、止めたい事情があるみてえだな」
もうそろそろ慣れてきたぞ。
どうせまた厄介な何かがあるんだろ。
無遠慮にフィン・デビュラに近寄ったら邪神に目を付けられるとかか? もしそうなら私はもう手遅れだな。
「取り敢えず教えろ。考えるから」
「……あなた、本当に理解が早いわね」
「理解してんじゃなくて諦めてんだよ」
「うん……そうするのが一番よね……」
妙に達観した様子で言いやがる。
……ああ、そういうことか。
感情が読めるから一番被害に遭ってんのか?
フィン・デビュラは邪神が宿ってて常に苦痛に塗れていて、その苦痛で悦びつつも苦痛は苦痛で受け取っていて……うげぇ、想像もしたくねえ。
「なんつーか、お前も苦労してんだな……」
「……まあ、私が始めちゃったから。それにフィンくんもおかしなところはあるけど、そういう所を除いたら本当に完璧な男の子なのよ。困ったことにね」
「どういうタイミングで気が付いたんだ? いくら何でも常日頃からそんな風に狂ってる訳じゃねえだろ」
「……………………」
「…………嘘だろ……?」
アリシアは顔を逸らしやがった。
常日頃からずっと狂ってるって言うのか?
それなのにあんな雰囲気でずっと過ごしてたのか?
「そうね。最初は、ちょっとおかしいなと思うくらいで……まさかマゾだなんて思わなかったの。自己評価が低くて周りの女性と比べて知名度も低い。フィンくんは自分を卑下していて、身を呈して仲間を助けることで快楽を覚えているのだと思ったわ」
「あー、そういう入りだったのか……」
「だけど、ちょっとおかしくてね。食べ物噴き出してかけちゃった時にすごく悦んでて……」
「…………」
でも、それが表には出てねえと。
本人もそれがおかしいことだと自覚していた、と。
「いっそのこと、堂々とした変態だった方が良かったのかもしれねえな……」
フィン・デビュラがちゃんとした奴でいようとし過ぎたのが全てなのかもしれねえ。
まともでいい男であろうとしたことが嚙み合わなかった。
そうは思いたくねえが、そうとしか思えねえよ。
フィン・デビュラが最初から度し難い人間だったらこうはならなかった。
ヴァシリが教育して、その教えを真っ直ぐに受けて育ったからだ。悪いとは、思いたくねぇ。だが…………。
私の言葉を聞いて苦笑しながらアリシアが答える。
「でも、私はそんなフィンくんが好きなの。真面目で、ユーモアもあって、だけど心に闇があって。壊れてもなお、教えを守って立派な人間になりたいって足掻いてるの。あんなに愛おしい人は初めて見たのよ」
そう話す表情は穏やかで、慈しむような感情が現れていた。
「だからきっと、あなたと気が合うと思うわ」
「…………おい。私はマゾでもねえしぶっ壊れてもいねえぞ」
「そ、それはそうなんだけど……」
……まあ、言いてえことはわかる。
だからそれ以上は言わねえし、問わねえ。
チッ、恥ずかしいことを当たり前のように言いやがって。気が合うね。そんな男、この世にいねーよ。理不尽を女に押し付ける男を狙って襲ってる女と気が合う男? バカいうな。
「それで? 私は初めからフィン・デビュラに喧嘩売るつもりはねーぞ。邪神が取り憑いてるってのも聞いてるが、そもそもこんな世界の女神を崇めてるのが私たちエスペランサ教だ。感情を養分にしてるだとか、苦痛を与えてるだとか、邪神らしきことも聞いてる。その上で、敵になるつもりはねえとだけは言っておく」
「そこは心配してないの。どっちかというとフィンの方に問題があって……」
「問題? ここに至るまでの話より厄介な問題なんてもうねえだろ?」
あるわけねえって言ってくれ、頼むから。
だけどアリシアは似合わねえ私の祈りを無慈悲にへし折った。
「……その……。今、ハードなプレイ中で…………」
「……………………あ゛?」
ハードなプレイ?
激し目のセッ○スしてんのか?
マジで舐めさせてんのか?
マゾの悦ぶ終わってるやつ。
客人が来てんのに?
「……へぇ、そうか。そうなんだな? ふーん」
「あ、あの、これにはちょっとね? 本当に事情があるの」
「まあまあ、わかってるさ。私も生娘じゃねえ。大変だなぁ、ハーレムってのは」
「……お、怒ってる?」
怒ってはねえよ。
ただ、その、ハードなプレイとやらで私が止まると思われてんのは、心外だな。
「こっちはきたねぇ脂の塊みてえなおっさんのも咥えて生きてきたんだぞ! 今更その程度のプレイで怯むわけねえだろ! いくぞぉっ!!」
「あ、あー! 困る! 困るわフレデリカ!」
◆
くるしい。
でも気持ちいい。
全身がフィンさんのおもちゃになっちゃった。もう私、元に戻れない。聖女じゃいられない。でも、それが嬉しい。嬉しくて仕方ない。
だって、フィンさんに愛されたかった。
アリアンロッドさんみたいに愛を確かめ合いたかった。フィンさんの心を揺さぶりたかった。ずるい。羨ましい。どうして私じゃないの。私がよかった。あなたの特別を独り占めしたかった。
そんな浅ましい女なんです、私は。
だからこれでいい。
このままゆっくり、目を閉じて、静かに…………。
「……あっ……や、やばい、やりすぎた……闇マリ! どうすればいいと思う!? エッ、ふ、風呂? 今から? いやでも、廊下で他の聖女に見られたら……エッ来てる!? なんで!? 扉の前!?」
「オラアッ!! 審問の時間だコラッ!!」
「オアアアアッ!!?」
「てめえデビュラ! まさか本気でアナ○ほじくらせてたなんて言わな……デッッッッッ!!!? ハァ!!? ば、化け物!? そんなもん入れたら死ぬぞ!!!??」
「え? い、いや、死なないぞ。なんだかんだ入るし……」
「入るわけねえだろ!!!!」
…………う、うるさい……。
ちょっと、眠りたい……。