この拠点には化け物しかいねえ。
ヴァシリ・ヴァルバロッサ、アリシア・ラ・アエラス、アリアンロッド・モーナ……カルラ・ツカモトにアストレア・ラ・アエラスとエロ聖女マリアンヌ・ハイレンディーヌ。
ハイエルフの三女なんざ可愛いもんだ。
ここには化け物しか棲んでねぇ。
なんだありゃあ。
人間の持つべきものじゃねぇ。
太さ、長さ、形……何もかもが人間離れしてた。動物? いや、馬だってあれほど強力な形はしてねえ。体の大きさを考えれば、人の体にあんなもんがぶら下がっていていいわけがねえんだ。
これも邪神の力か?
ヴァシリはとんでもねえサイズをしてるなんざ一言も言ってなかった。知らねえはずだ。弟子として一緒に暮らしてたっていうなら裸くらいは見たことあんだろ。つまりガキの頃からありえねえサイズしてたわけじゃねえ……。
だがそもそも体格がいい。
背の高さもそうだが、筋肉のつきかたも想像以上だ。
傷だらけの肉体でバキバキの体、実用的なほんのりとした脂肪もある。鍛え上げられた身体だ。ウチの騎士だってここまで鋼みてえな鍛え方してる奴は少ねえぞ。だけど決して汚くねえ。清潔感がある身体で、そりゃあ、あんなもんに抱かれたら処女じゃイチコロだろうな。
「恥ずかしいところを見せてしまって、申し訳ない」
服を着て殊勝な態度で頭を下げるフィン・デビュラは、少しばかり縮こまってるようにも見える。
……この態度も嘘じゃねえんだろうなぁ。
男の中にはイカれた奴もいて、わざわざ行為中に別の女呼び出して無理やり参加させるような奴もいる。まるで戦利品のように扱われることもあった。聖女になってからぶっ殺してやったが、男のそういう欲望は計り知れねえくらいある。
あれだけのブツを持ってる上にハーレムなんだろ?
フィン・デビュラの性欲とそういう男の本能ってのはきっと、私がこれまで相対してきた中でも一番と言っていいくらい強いはず。
だけどそれを見せようとしねえし恥だとすら思ってる。
調子狂うぜ。
どう対応すりゃいいかわからねえ。
あんな風にマリアンヌ・ハイレンディーヌをぶち犯しておきながらこれだ。どう対応すんのが正解なんだ? ていうかどうやって服に収まってんだ。どう見ても中に入るサイズじゃねえだろ。足か? 尻尾ですらねえよ。あれはもう足だっただろ。一体どうなってやがる。これも神の力か? バカみてえなことに力使うなよ。
関係ねえことに思考が回っちまう。
そんな私の様子を見て怒っていると思ったのか、フィン・デビュラは弁明を始めた。
「マリアンヌは悪くないんだ。俺が彼女のことを思いやれてなかった。もっと彼女と向き合っておかなくちゃいけなかったんだ。自分の感情を抑えられなくて、マリアンヌの想いを汲み取ることができてなかった。だから、彼女が自分だけ置いていかれてると感じていた。そのことがわからなかったんだ」
「お、おう……そうかよ……」
普通、ハーレム作ってるやつってもっと開き直ったりするもんじゃねえか?
なんでこんな真面目にハーレムの女を愛してるみてーな態度取れるんだ。なんなら愛してるとは思えねえ様子だったぞ。ありゃどう見ても陵辱の後だろ。そんでもってハイレンディーヌは幸せそうな顔して気絶したし、アリシアは慣れた様子で運んでったし……こいつら、邪神抜きで狂ってるんじゃねえか。
別にあんなの、何時間されようがただひたすら気持ち悪いだけだけどな。
「フレデリカが、その、男女の関係にかなり思うところがあるのは聞いている。結果的に煽るような形で露見してしまったが、本当に不快にさせるつもりはなかったんだ。すまなかった」
「……あー。もういいよ。わかってるっての」
実際怒りなんざとっくに収まってる。
あんなもんがぶら下がってるの見てキレ続けられるかよ。
私が処女の頃にあれでヤられてたらマジで心が折れてくたばってたかもしれねえ。それくらい、女として警戒するべきだって本能が告げてた。ありゃあ、マジでやばい。人に入れるもんじゃねえ。
衝撃すぎて、思考がそっちにしか回らねえよ。
「なんでしてたのかは気にしねえ。それよりフィン・デビュラ。お前に聞きてえことがある」
「わかった。なんでも聞いてくれ」
「ああ。……お前の事情の大半をヴァシリから聞いた」
そう言うと、ピクリと眉を動かした。
「事情の大半というと、どれくらいだ? 俺がマゾなことか?」
「あー……そうだな。お前がマゾなことを説明するために、めちゃくちゃ遠回りして説明されたんだよ。お前、その……邪神が取り憑いてるんだろ?」
「…………そこまで話したのか」
「ああ。隠しごとするよりかは、説明して納得させたほうがいいって思われたらしいぜ」
目を閉じて、腕を組み何事か考えてから、フィン・デビュラは口を開く。
「事実だ。俺は今から四年前、魔王軍の尖兵を名乗るモンスターに殺されかけた。その時以来、やたら辛辣なマリアンヌの人格が頭の中に現れるようになってな。マゾだし罵倒も心地いいから俺をよく否定してくれる彼女のことを親しみを込めて闇のマリアンヌと呼んでいたんだが、少し前の闇マリが本物の邪神だったことがわかったんだ」
「…………」
なあ、ヴァシリ。
こいつ普通に頭がおかしいんじゃねえか?
殺されかけて平然としてるのはまだわかるぜ。優秀な盾役だ。死の恐怖なんてもんに怯えて動けない、なんてこともないんだろ。
だけどよ、頭の中にやたらと罵倒してくる知人が現れてずっと一人でやりとりしてたってことだろ? 疑問に思わず、誰かに相談することもせず、ひたすら自分の中だけで受け入れてたんだろ? やっぱり邪神とか抜きに狂ってんじゃ……。
「でもな。闇マリは確かに邪神だけど、悪い神じゃないんだ」
「邪悪な神と書いて邪神だろうが」
「そうなんだけどそうじゃない。確かに俺の記憶ごと感情を養分にしたり、頭の中で攻撃したり、俺の首絞めたり、まあ、他人から見たら悪いと見られることもするんだが、俺はそんな彼女がいないととっくに死んでたんだ。それにいま、俺は死なない身体になった。闇マリがそうしてくれたんだ。そのおかげで役立たずの俺が、ようやく特別な力を手に入れられたんだ」
「…………は? 役立たず?」
あまりの物言いに思考が止まる。
こいつは何を言ってるんだ?
役立たず? そんなわけねーだろ。役立たずを迎えにヴァシリがやってくるわけねえだろ。そもそもギルドの記録を見れる分だけ確認したが、お前、ソロでも依頼たくさんこなしてるじゃねえか。【払暁】で一番真面目にギルドの依頼受けてるのお前だぞ。
何が役に立ってないんだ?
マジで、理解ができねえ。
「ああ。俺はずっと役立たずだった。師匠に置いていかれ、アリアには太刀打ちできず、王都に来てからしばらくの間カルラやアストレアに邪魔だって言われてきた。俺はマゾだけど、それ以上に社会的な肩書とか、地位とか、そういうものをちゃんと得たいと思ってる。だから正直効いたよ。かなり辛かった。シンプルに自分が無能なことが、心の底から苛立たしかった」
「……それ、本当に言われてきたのか?」
「ああ。なんならカルラに斬られた傷とか残ってるぞ」
「斬られた? 仲間だろ? なんで斬られてんだ!?」
「俺の動きが悪くて、こう、バッサリと。当時はマリアンヌもそこまで治癒に慣れてなかったから、古傷がたくさん残っちまったんだ」
──絶句する。
もう、本当に、何をどう言えばいいかわからない。
男が女を弄んでる?
冗談じゃねえ。
フィン・デビュラは真逆だ。
こいつの生涯は本当に、ずっと誰かに弄ばれてきたんだ。
ヴァシリに拾われ、置いていかれて、王都にやってきて組んだパーティーメンバーには仲間だってのに斬られて、傷つけられて。
それでも頑張ってやってきて、今に至るんだ。
「だけど、今は違う。カルラもアストレアもマリアンヌも、俺に抱いて欲しいって言ってくれた。俺は嫌われてなかった。むしろ好かれてた。正直全然そう思ってなかったけど、信じられるようになってきたんだ。死なない盾役。弱点もあるけど、前より思い切りよく戦えるようになった。目玉をくり抜かれて埋められたりとか、手足もがれたらやばいけど、胴体はいくらでも損失できる。それに、そのくらいなら慣れっこだからな」
「は……? 慣れっこ……? お前……痛みは、ねえのか……? いくらマゾって言っても、お前、そんな……」
「痛いけど気持ちいいからなぁ」
あっけらかんと言った。
何も言えねえ。
ヴァシリ。
お前の言ってること、理解できた。
全部噛み合っちまったんだ。
フィン・デビュラは才能がなかった。だけどマゾで、それでいて不屈の精神で、お前の教えを守ろうとする気高さもあった。社会的な地位や肩書きが欲しい。自分の趣味よりそっちがいい。だからずっと隠してきた。マゾなのはおかしいと自覚していたから。
なあ、こんな、こんなの、どうすりゃいいんだよ。
どうしようもねえだろ。
その末路が邪神に取り憑かれて、死ななくなったから特別になれたって無邪気に喜ぶイカれた盾役なのか? そりゃあ、いくらなんでも、あんまりだろ……。
口頭で説明なんざ出来るかよ。
こいつは異常だ。
イカれてやがる。
だけど、狂ってるのに、まともであろうとしてるんだ。
どうするんだよ。
一体何をどうすれば、この哀れな男の心を救えるんだ?
なあ、クソッタレな神様。
これがお前の見たかった世界なのか?
お前が求めてる世界なのか?
こんなの、もう……どうしようも、ねえだろ…………。